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NASVA(自動車事故対策機構)、平成25年度自動車アセスメント「ファイブスター賞」受賞式を開催、大賞は「クラウン」

軽自動車の「N-WGN」や輸入車の「ゴルフ」が初受賞

JNCAP大賞を受賞したトヨタ自動車「クラウンアスリート/クラウンロイヤル」
2014年5月9日開催

 国土交通省とNASVA(自動車事故対策機構)は5月9日、平成25年度(2013年度)の「JNCAPファイブスター賞」受賞車両を発表し、その受賞式を開催した。今回は軽自動車として初めて本田技研工業の「N-WGN」が受賞したほか、輸入車として初めてフォルクスワーゲン「ゴルフ」が受賞した。

 自動車アセスメントは、1995年度(平成7年度)から実施されている自動車の安全性能を評価する試験。さまざまな衝突試験を実施して、その結果を公表することでユーザーがより安全な自動車を選ぶための参考としてもらうことを目的としているほか、メーカーにもより安全性の高い自動車開発を促すことを目的としている。また、自動車に乗車中の事故よりも、歩行者を巻き込んだ事故が相対的に増加したという背景から、2011年度(平成23年度)からは歩行者保護なども盛り込んだ「新・総合評価」による評価が導入されている。

 2013年度(平成25年度)は前期/後期合わせて14車種が試験を行い、その中で優秀な成績を収めた7車種が「ファイブスター賞」を受賞。会場には試験で使用された実車が展示された。

 ファイブスター賞に選ばれたのは、トヨタ「クラウンアスリート/クラウンロイヤル」、マツダ「アテンザ」、三菱自動車工業「アウトランダーPHEV」、ホンダ「アコード ハイブリッド」「フィット」「N-WGN」、フォルクスワーゲン「ゴルフ」の7車種。

 今回は軽自動車として初めてホンダ「N-WGN」がファイブスター賞を受賞し、同時に「軽自動車部門JNCAP大賞」を獲得。また、フォルクスワーゲン「ゴルフ」は輸入車として初めてファイブスター賞を受賞した。2013年度(平成25年度)通期でもっとも優秀な評価を得たJNCAP大賞にはトヨタ「クラウンアスリート/クラウンロイヤル」が選ばれた。

トヨタ「クラウンアスリート/クラウンロイヤル」
ホンダ「N-WGN」
フォルクスワーゲン「ゴルフ」
マツダ「アテンザ」
三菱自動車「アウトランダーPHEV」
ホンダ「アコード ハイブリッド」
ホンダ「フィット」
国土交通省大臣官房審議官 若林陽介氏

 会場ではまず、国土交通省大臣官房審議官の若林陽介氏が主催者を代表して挨拶し、「平成25年度は交通事故による死亡は4373人で、近年減少傾向にはあるものの依然深刻な事態。政府としては平成27年までに事故死亡者数を3000人以下、平成30年を目処に2500人以下にするのを目標としているが、国交省ではそのための安全対策として、ASVの開発普及促進に加え、安全性能の向上をはかるために自動車アセスメントを実施している。安全性能の比較情報を提供することで、ユーザーがより安全な自動車を選ぶ参考にしてもらうとともに、メーカーにも安全設計を促進できる。自動車アセスメントは今年でちょうど20年となるが、自動車の安全は向上し続けており、今後も関係各所と協力しながらより安全な自動車の普及に努めていきたい」などとコメントした。

国内の事故状況
自動車アセスメントの歴史
相対的に歩行者の事故が増大
試験の様子
平成25年度の14車種試験車一覧
自動車事故対策機構 理事長 鈴木秀夫氏

 引き続き挨拶をした自動車事故対策機構 理事長の鈴木秀夫氏は「平成23年度から始まった新評価により、乗員保護と歩行者保護が統合され、期待値が高くなった。そのため高評価を得るためには相当時間がかかると思われていたが、予想に反して総合得点は毎年更新され、受賞車数も増え続けている。また、今年は受賞困難と思われていた軽自動車についても受賞車両が登場し、輸入車も初めて受賞をすることができた。最高得点が更新され続けているのは、各メーカーの努力の賜。市場では環境性能への要望からハイブリッド自動車など燃費の向上が着目されているが、燃費だけでなく安全性能も両立する車両があり、敬意を表したい。安全なクルマの普及は安全な社会の構築につながる。この後も自動車ユーザーと被害者の視点にたって評価を続けていきたい」などと語った。

受賞式の様子
会場は一般公開され、ショッピングに訪れた人たちが興味深げに試験車両を眺めていた

受賞者らがトークショーを実施

 受賞式後にはホンダ「N-WGN」の開発を担当した本田技術研究所の4輪R&DセンターLPL主任研究員の人見庸平氏と、トヨタの製品企画本部 ZS チーフエンジニアである秋山晃氏によるトークショーも開催。トークショーには車いすバスケットボール日本代表の京谷和幸選手や女優の滝沢沙織さんも参加した。

トークショーの様子
車いすバスケットボール日本代表の京谷和幸選手
女優の滝沢沙織さん
本田技術研究所 4輪R&DセンターLPL主任研究員 人見庸平氏

 まずはホンダの人見氏によってN-WGNの開発コンセプトが語られた。人見氏は「現在では自動車の4割が軽自動車であり、そのうち女性(ドライバー)が6割以上を占め、運転が苦手と思っている人の数も普通自動車より多い。だからこそこの賞を狙うべきだ」と考えたそうだ。軽自動車で「妥協する」ではなく、「軽自動車に乗りたい」と思ってもらえるような車両にしたかったという。そのためには、安全でも価格が高くてはいけない。「軽自動車でどこまで安全が必要か、と考えがちだが、そこで妥協しては安全な自動車は作れない」と考えたそうだ。軽自動車という限られた規格のなかで、運転席からの視界の確保やリアカメラ、後席シートベルトの警告をルームミラーに表示するなどの工夫や、サイドエアバッグを含めた6つのエアバッグの搭載など安全性能の限界に挑戦した。

 特にサイドエアバッグにはこだわったとし、低コスト化を図ったことで従来の高級車では1割程度だったサイドエアバッグの装着率が、N-WGNでは8割に向上したそうだ。

自動車の4割が軽自動車
軽自動車のイメージ
N-WGNの開発コンセプト
N-WGNの先進安全技術
トヨタ 製品企画本部 ZS チーフエンジニア 秋山晃氏

 引き続き、トヨタの秋山氏が「クラウンアスリート/クラウンロイヤル」の開発経緯について解説を行った。今回JNCAP大賞を受賞したのは初代から数えて14代目のクラウンで、発表当時はその斬新なデザインで話題を呼んだ。デザインについては当初社内での評価はほとんどの役員が懐疑的だったが、「皆がよいというデザインは飽きられやすい」ということで、社長からの後押しもあり現在のデザインが採用されたという。

 安全性能としては、ドライバーを疲れさせない工夫として、運転席からの視界の確保を目的にフロントピラーを細くしたり、サイドミラーとAピラーの間に空間を作って視界を確保したりした。ステアリングも重すぎず正確で素直なステアリングが切れるよう調整。ドライバーの疲労を軽減し、安全運転に集中できるようにした。

 クラウンでは「統合安全コンセプト」として、さまざまな運転シーンに対応した支援機能も搭載。パーキング時は駐車支援として障害物が前方にある場合に急発進を抑制する「インテリジェント・クリアランス・ソナー」や、ハイビーム中に対向車がくると、対向車の部分だけを自動的に遮光する「アダプティブ・ハイビーム・システム」、前方車両への衝突被害を軽減する「プリクラッシュセーフティシステム」などさまざまな安全機能を搭載。また、歩行者保護機能として、フロントバンパーに衝撃が加わるとボンネットの後方が瞬時に持ち上がり、衝突した歩行者がエンジンにぶつからないよう保護する「ポップアップフード」機能も備える。

視界を考慮したレイアウト
疲労軽減
統合安全コンセプト
クラウンの駐車支援機能
対向車を検知して遮光する「アダプティブ・ハイビーム・システム」
「ポップアップフード」機能による歩行者保護
自動車アセスメント評価検討会 座長 日本文理大学 特任教授 宇治橋貞幸氏

 秋山氏は次のクラウンについて聞かれると「もっとよいクルマを作ろうと社長はいつも言っている。“もっと”というのは終わりがない。常に上を目指せということ。今回、ホンダさんの軽自動車が受賞をしたというのは技術的に見ても本当にすごいことだと思う。我々もさらに上を目指して頑張りたい」と語っていた。

 20年前に自動車事故で脊髄を損傷し、下半身不随となったゲストの京谷和幸選手は、一通り解説を聞いたあと「自分が事故に遭った当時にこうしたクルマがあったなら大丈夫だったかもしれない」と感慨深げに語っていた。

 最後に、自動車アセスメント評価検討会 座長の日本文理大学 特任教授の宇治橋貞幸氏が今後の方向性について「これまでは事故があったときに被害を軽減することが主だったが、今後は事故そのものを起こさない技術、予防安全技術を促進しながら、さまざまな視点を入れて評価をしていきたい」などと語り、トークショーは終了した。

(清宮信志)