ニュース

TRD、「Griffon Concept」のノウハウをフィードバックした2台の86コンプリートカー

サーキット向けとストリート向けのコンプリート車両を公開。市販化を検討中

2014年8月3日発表

 TRD(トヨタテクノクラフト)は8月3日、静岡県の富士スピードウェイで行われた「Fuji 86 Style with BRZ 2014」において、「86 TRD Griffon Track Edition Concept」と「86 TRD Griffon Street Edition Concept」の2台のコンプリートカーを発表した。2台は現在市販を検討している段階で、価格や発売時期は未定。

 「Griffon」とは鷹の上半身とライオンの下半身を持つ、伝説上の生物の名前を冠したTRDの研究開発車両で、正式車名は「86 TRD Griffon Concept」。市販車へのフィードバックを前提としているために、「FRレイアウトを踏襲」「エンジンは2.0リッターNAのまま」「ロールバー非装着」という3つの縛りを設けて開発。2013年には筑波サーキット(コース2000)で58秒407という驚異的なタイムをマークし、“究極の86”としてオーナーの間でもすっかりおなじみの存在だ。

2012年12月、筑波サーキットでのシェイクダウンを皮切りに、タイムアタックをスタートしたGriffon Concept。東京オートサロンをはじめとする各種イベントで見かけた人も多いだろう
レギュレーションにとらわれず、TRDの持つノウハウをフルに注入。軽量化のためのカーボンパーツと、機能美を感じさせるエアロデバイスが目をひく
室内もご覧の通りの軽量化ぶり。ロールケージを装着せずに、スポット増し溶接とブレース類の追加のみでボディー剛性を向上させている。エンジンの開発はノーマルでスタートし、現在はTRD製のECUやピストン、コンロッドなどを交換し、230PSを発生

 そのGriffonの名を冠したのが今回発表された2台のコンプリートカー。TRDとしては、86とBRZのワンメイクレース「GAZOO Racing 86/BRZ Race」参戦用車両である「86 Racing」に次ぐ、86コンプリートカーの発表だ。

86 TRD Griffon Track Edition Concept

 Griffon Conceptの異次元コーナリングを一般的なドライバーでも楽しめるように開発されたモデル。当初開発陣はSタイヤの使用を想定していたが、開発が進むにつれ、スリックタイヤの性能を100%使い切るマシンの実現を確信。静的ねじれ剛性試験によりノーマルボディーの弱い所を洗い出し、必要なところに必要な分だけの剛性をプラス。フロントからリアまで限りなく同じ剛性レベルになるように設計されている。

 空力もCFD(数値流体力学)解析や実走テストで、前後のバランスを綿密に調整した上に、ダウンフォースが高められている。現在ブリヂストンと共同で専用タイヤを開発中とのことで、TRDの本気ぶりがうかがえる。

前後バンパーとカーボンルーフが特徴的なTrack Edition。TRDが考える“完全パッケージマシン”で、Griffon Concept譲りの走りを、法規をクリアできる範囲内で可能な限り実現
ストラットタワー部の取り付け部がパネル形状になったブレースバーを装着。バルクヘッド付近で、2本のブレースバーは連結されている。ブレースバーやパネルの厚さは実走テストを行い決定。リアシートの背もたれ部分には剛性アップに貢献するカーボンのパネルを接着。トランク内側にはブレースバーが逆V字状に取り付けられている。剛性アップのために装着されたアイテム数は14
機能を形にした洗練されたエアロパーツ。すでに市販している物とは異なる。フロア下でダウンフォースを稼ぐために、フロントバンパーを約70mm延長。フェンダーも左右合計で45mmワイドになっている。サイドステップも空力を意識した形状
GTウイングはステーがウイング上面に伸びるタイプ。ウイング下面に構造物がないので、ダウンフォース発生に重要なウイング下面の空気をキレイに流す。またディフューザーはGriffonのアイデンティティであるセンターマフラーを収めるようにデザイン。フロント側で発生するダウンフォースとのバランスを取りながら形状を決めている。ルーフは軽さに優れるカーボン製
ホイールは専用の18インチ(8.5幅)マグネシウム鍛造ホイールで、Griffonのエンブレムがセンターキャップに描かれる。ブレーキは新開発のモノブロックキャリパーで、フロント4ピストン、リア2ピストン。ローターはフロントが2ピースで、リアが1ピースの組み合わせ。元々ボディー自体が軽いので、オーバースペック気味とか
コクピットにもTRD流のカスタマイズが施されている。ステアリングは純正より5mm短い360mmの専用品で、より真円度が高められている。専用のコンピュータにより、電動パワステのフィーリングもよりスポーツドライブに適したものへとチューニングされている。シートも専用品で、クッションの形状や縫い目、硬さなどが吟味されている。シフトノブやサイドブレーキのブーツにはGriffon Conceptのオレンジをアクセントとして加えた
写真はリアサスペンションのメンバー取り付け部。メンバーがリジッドになっているのが分かる。サスペンションは専用の車高調を装着。アーム類も強化されている
スカッフプレートやフロアマットも専用品。フロアマットはTRDのロゴ入りで、足下からレーシーな雰囲気を演出

86 TRD Griffon Street Edition Concept

 こちらはStreet Edition。チューニングベースの入門用というコンセプトで、エアロとサスペンション中心のメイキング。ほぼノーマルのままのボディーやインテリアなど、自分で味付けする楽しみを残したモデルだ。

ノーマルベースのバンパーやフェンダーなど、ノーマルの面影を強く残したStreet Edition。リアバンパーはTrack Editionと共通
ノーマルバンパーにフロントスポイラーを装着。さらにボディー下部をなるべくフラットにし、「ひれ」を付けることで多くの制約の中でダウンフォースを稼ぎ出す
GTウイングもTrack Editionと共通。試作品のため取り付け部の形状が2台で異なる
エンジンルームの剛性アップパーツはすべてTRDの市販品
センターマフラー化により、バックランプをバンパー上部に移動(Track Editionと共通)
ホイールのデザインはTrack Editionと共通だが、こちらはアルミ製。リム幅も8.0とサイズダウンされている。前後のブレーキはTrack Editionと共通
ノーマル然としたコクピット。フロアマットとスカッフプレートが専用品。自分でカスタマイズする楽しみを残している

 86を知り尽くしたTRD謹製の2台のコンプリートカー。あくまで市販検討中ということだが、スポーツドライビングを愛する人にとって注目のモデルになるのは間違いない。また、すでに86に乗っているオーナーにとって、パーツの単品販売があるのかないのかも気になるところだろう。これについてTRDに質問してみたが、「現状そのままでの単品販売は考えていない」とのこと。単品で装着しただけでは、狙った効果を発揮できないからだが、単品販売用に見直しをかけて発売する可能性はあるとみた。

 コンプリートカー、パーツ単体、どちらも発売開始のアナウンスを期待して待ちたい。

Griffonプロジェクトの開発陣。前列右から鈴木氏(設計)、清水氏(製品企画)、石橋氏(製品企画)、後列右から長田氏(設計)、相澤氏(評価)、小林氏(評価)

(奥野大志)