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【インタビュー】ミツビシ・モーターズ・タイランド 中原耕治副社長にタイ市場について聞く

「タイの人はクルマに非常に興味を持っていて、クルマに対して夢を持っている」

2015年12月2日~13日(現地時間)開催

三菱自動車工業のタイ法人であるミツビシ・モーターズ・タイランド 中原耕治副社長にタイ市場の魅力や三菱車の販売状況などについて聞いてきた

 12月2日~13日(現地時間)にタイ バンコクで開催されている「タイモーターエキスポ2015」。その会場で、三菱自動車工業のタイ法人であるミツビシ・モーターズ・タイランドで販売部門を取りまとめる中原耕治副社長にインタビューする機会を得た。

 中原氏からは、タイモーターエキスポ2015で発表された新型「ミラージュ」をはじめタイ市場について聞くことができたので、その模様をリポートする。新型ミラージュについては関連記事を参照していただきたい。

【インプレッション】三菱自動車「ミラージュ(2016年型)」/タイ バンコク

http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/20151207_733866.html

【タイモーターエキスポ2015】三菱自動車、2016年型「ミラージュ」を公開。日本で2016年1月中旬から発売

http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20151201_733177.html


“エコカー”初のFCM採用

──新型ミラージュのFCM(Forward Collision Mitigation System)は、タイにおける日本車では初採用になるのでしょうか? またタイでの先進安全装備(自動ブレーキやACCなど)の受け取られ方、普及の度合いについて教えて下さい。
中原氏:“エコカー”初のFCM採用となります。タイでエコカーというのはほぼコンパクトカーのことを指すのですが、エンジン排気量が1.2リッター未満、燃費が20.0km/L以上などいくつか要件があり、タイ政府が認めたものとなります。これまでタイで販売されたエコカーの燃費は20.0km/Lで各社ほぼ横並びの状態だったのですが、ミラージュは22.0km/Lを実現しており、さらに新型では23.8km/L(JC08モード燃費は25.4km/L)まで伸ばしています。

 ただし、ACC(アダプティブクルーズコントロール)は8月に発表した新型「パジェロスポーツ」も含め今回は採用していません。これはスバル(富士重工業)さんもまだのようで、日本車では今のところ見かけません。我々もタイの道路環境やドライバーの走り方を見ていて、ACC装着によってどのようなことが起きるのか慎重に考えているところです。

新型ミラージュ

──ミラージュではどのような装備に人気があるのでしょうか。
中原氏:キーレスオペレーションですね。それからスマホ対応に移りつつありますがカーナビ、次いでオートエアコン。タイでは廉価版のモデルはクーラーのみが装備されているのですが、上級モデルには暖房も可能なエアコンが付きます。タイで暖房は不要ですが、ステータス性が高いのです。さらにリアビューカメラ、レザーシート、DRL(デイタイムランニングライト)もだんだん増えています。最近ではマルチアラウンドビューモニターが人気で、こちらはパジェロスポーツにも付けています。

 他社さんでは電動テールゲート、あとはサンルーフと聞いています。タイで必要なのかと思うところですが、基本的にタバコは喫煙所で吸うもので、クルマの中で吸う人はあまりいないのですが、そのためにあるのではなく「サンルーフが付いているのはいいクルマ」であるという認識からです。

 安全装備については、自動ブレーキはごく一部の欧州製高級車にしか設定がなく、あまり認知されていないので現状では普及していません。そうしたなかで、我々はパジェロスポーツに前方衝突被害軽減ブレーキシステムのFCMを付けたのですが、実はかなり苦労しました。どうやったらお客様に理解してもらえるだろうかと考え、通常のパンフレットではピンとこないと思ったので商品説明ビデオを作りました。それを多くの方にYouTubeなどでご覧いただけまして、お客様が理解したうえでディーラーに足を運んでもらえました。この商品説明ビデオを上手く使うことができたおかげもあって、予約受注をたくさんいただくことができたと思っています。

──タイではミラージュに日本で設定のないバージョンがあると聞きました。
中原氏:スポーツモデルを設定しているわけではなく、エアロパーツなどをディーラーオプションでいくつか用意しています。タイではクルマに装飾を施すのが人気で、なかには驚くほどコテコテにする方もいらっしゃいます。外観にこだわるのがお好きなようですね。

タイ市場の特徴

──タイ市場のよいところを教えてください。
中原氏:クルマに関して非常に興味を持ってくれることです。スタイリングについては日本人とは違う繊細な目を持っていて面白いですね。細部に対していい意味でデザイナー泣かせというか、デザイナーの意図を汲み取ってくれるのです。グループインタビューなどを実施しても皆さんよく話されるのが特徴です。自動車に対して夢を持ってくれていますので、コミニュケーションする際にただカタログ的な要素を伝えるのではなく、興味を持っていただいたクルマの魅力をどう伝えていくかが問われます。

 また、タイではエモーショナルなTV-CMが好まれる傾向にあります。泣かせるTV-CMもけっこうあって、そういったものを織り交ぜながら、いかにそのクルマのよさを伝えるかというのは苦労するところです。ちなみにミラージュでは6割ぐらいが女性ユーザーになるのですが、女性の感性に訴えられるように女性の意見をかなり採り入れました。色彩感覚も日本と違うので、パンフレットの色使いも変えました。

 ちなみにタイでもインターネットやLINE(ライン)が活用されています。大きなインターネット掲示板もあって、さまざまな情報が飛び交っているのですが、口コミの評判は重要なので我々もどう言われているか意識しています。

──日本ではユーザーから高い燃費性能が求められますが、これはタイでも同様なのでしょうか。
中原氏:燃費についてはかなり気にされますね。とくにピックアップを純粋に商用で使う人は、検討の際の大きなカギになるようです。

 ところで燃費について、これまで燃料1Lで何km走れるといった指標がなかったのですが、2016年1月以降、2015年10月以降に生産されたクルマはすべてその数値を記したラベルを貼らなければならなくなっています。

──世界的にSUVの人気は上昇していますが、タイではいかがでしょうか。
中原氏:タイではSUVというとモノコックボディの乗用車的なシティユース主体のモデルを指し、女性がSUVを選ぶ傾向にあります。一方、パジェロスポーツのようにフレームを持つクルマはカテゴリーが異なり、「PPV(パッセンジャー・ピックアップ・ビークル)」と呼ばれています。そこの棲み分けができていて、現在どちらも伸びています。全需要におけるセグメントシェアは、SUVでは2013年に3%、2014年に5%、2015年に7%。PPVでは2015年にニューモデルが相次いでリリースされたので、同5%、5%、10%と一気に倍増しました。

8月に発表された新型パジェロスポーツ

──タイの年収と自動車の関係について教えて下さい。
中原氏:タイ統計局によると全体の世帯平均月収は2万7545バーツ。年収にすると約33万バーツで、日本円に換算すると約112万円です。しかし、これは都市部のバンコクと地方で事情が異なり、バンコクでの平均月収は4万4719バーツになりますが、農村の多い北部では1万9301バーツと極端に落ちます。ミラージュのようなエコカーも高額な買い物となるのですが、平均して5~6000台/年を販売しています。

──タイにおける三菱車の販売状況は?
中原氏:主力車種の「トライトン」が月販で2000台弱、次いで8月に新型を出したばかりのパジェロスポーツが直近で月販1000台弱。3位は「アトラージュ」という「ミラージュ」の兄弟車で、月販700台あまり。4位はミラージュで、月販400台程度となっています。パジェロスポーツは事前予約を受け付け、10月からデリバリーをはじめ、現在はバックオーダー分を納車している最中です。

 ちなみにタイで一番売れているのはトヨタ自動車の「ハイラックス」で、今は「レボ」と改名しましたが、それが約9600台。続いていすゞ自動車の「ビーマックス」が約9000台。以下、「ヤリス」「ヴィオス」「シティ」「フォーチュナー」「HR-V」と続いて、我々のトライトンが8位に入っています。

──三菱自動車のタイでのシェアはどのくらいでしょうか?
中原氏:マーケット全体で7%あまり、商用車で8%、乗用車が6%です。順位ではトヨタ、いすゞ、本田技研工業に続いて三菱自動車で、5位も日産自動車と、タイでは圧倒的に日本のブランドが強いです。

 一部アメリカンブランドのファンもいて、最近元気がいいのはフォードです。BMWやメルセデス・ベンツなどはタイでも高級車として憧れの対象となっています。経済状況の変動があっても富裕層が買い求めるので、一定のシェアを維持しています。我々は新型パジェロスポーツに8速ATを付けたのですが、「まるで欧州の高級車のようだ」と言われるという感じです。

──タイでの三菱車の評価点を教えてください
中原:我々がピックアップで認められているのは足まわりのよさ。走行性能を評価いただいているのはありがたいことです。安心で安全性が高い、と言っていただいています。パジェロスポーツについては外観も気に入ってもらっています。価格戦略についてもリーズナブルなプライスを付けていて、いろいろと装備をつけても値段を抑えることで評価いただいています。

──三菱自動車は電気自動車(EV)「i-MiEV」、プラグインハイブリッド(PHEV)「アウトランダーPHEV」といった電動モデルをラインアップしていますが、タイでの電動モデルのニーズをはじめ、充電設備の普及状況を教えてください。
中原氏:ハイブリッド(HV)やEVはあまり普及していません。過去に三菱自動車でも電力会社等にi-MiEVを数台テストで供給したことがあるのですが、充電設備は全国でせいぜい20カ所しかありません。ところが今、政府が自動車産業を高度化するという動きがあり、そのなかの1つとしてEVもしくはPHEVをどうするかについて着目していて、三菱自動車としても情報交換をしているところです。

アウトランダーPHEV

──タイの三菱ディーラーではどのような販促の取り組みを行なっているでしょうか?
中原氏:販売店の数はタイで223店舗。バンコクに53店舗、それ以外の地域に170店舗あります。そのほかデパートで展示会を開いたりもしていて、そこでかなり成約いただいています。また、納車したお客様をお招きするサンキューパーティー、あるいはプロスペクト(見込み客)パーティといったイベントも行なっています。

 現在取り組んでいるのはエリアマーケティングを細かく行なうことです。地方の集落をドアノックして回る、日本でいう訪問販売を強化してほしいと要望を伝えています。

──サプライヤー、部品調達の状況、現地生産化について教えて下さい。
中原氏:ミラージュを例に挙げると、一部のエンジン部品やボルト、ナットといった日本調達の共用品を除き、9割以上の部品をタイで調達しています。部品はほぼ現地調達できている状況にあります。結果として、日本でも取引のある日系部品サプライヤーとの取り引きが多くなっていますが、タイのローカルサプライヤーとの取り引きもあります。

 日系サプライヤーとタイ資本のサプライヤーとはとくに意識区別はしておらず、品質、コスト、納入、開発力などを評価してサプライヤーを決定しています。いずれにしても、生産準備段階からすり合わせを行なうことによって品質コストを作り込んでいくという日本の自動車メーカーのやり方をよく理解していただいたうえで、取り引きを行なっています。

──商習慣で日本との違いはありますか?
中原氏:タイではイベントに来てクルマの購入を決める人が非常に多いです。それに合わせて販社もイベントだけの契約者向けの特典を用意しています。あとは基本は割賦販売の割合が多いことです。ピックアップだと9割以上にも上ります。

 ただし、家計債務が世帯収入の8割になっているのが普通になっていて、それはタイで問題になっています。日本よりも収入に対してクルマは高価なのです。だから非常にクルマを大事にする傾向にありますね。リセールバリューは日本よりも高くて、5~6年乗ってもおよそ60%残ります。購入直後にやや大きく落ち込み、やがて横ばいになっていくのですが、それが高い水準で維持されるのが特徴です。

──タイで働かれるタイ人の方の印象を教えて下さい。
中原氏:我々の工場の人間に聞いたところでは、非常に素直でかつ親日の傾向にあり、日本人との連携姿勢は良好です。日本のものづくり姿勢を素直に受け入れてくれているので、品質の作り込みに対する体制や工法、考え方は日本と同じものを生産プロセスに取り込むことができています。若いスタッフは学ぶことに真摯であり、何でも積極的に吸収しようとしてくれるので、業務の習得も早いと感じています。

 一方で、優秀な人材はキャリアアップを目指して短年で転職していくことが多くあり、ベテランの確保とともに業務の継承に苦労しています。

──都市部のピックアップ比率はいかがでしょうか?
中原氏:バンコクでのピュアなピックアップ比率は2000年で43%、現在で31~33%と10ポイントも落ちていますが、近年は横ばいで、ピックアップ需要は安定していると見ています。都市部では乗用車のシェアが上がってきていますが、農村部で使い勝手がいいのはピックアップなので、今後もタイの大きな需要として残っていくことでしょう。

──タイで好まれるトランスミッションは?
中原氏:やはりMTは安いので、単に値段で選ぶならMTが求められます。ただし、人気が高いのはCVTで、CVTという響きだけで好まれるのです。これが4速ATだとがっかりされます。

 ピックアップユーザーはMTは燃費がよくて、ATはよくないという認識が強く、ピックアップでは圧倒的にMTを選ぶ人が多い一方で、ミラージュやアトラージュなど乗用車系になるとAT/CVT比率が上がる傾向にあります。

(岡本幸一郎)