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ADVANレーシングタイヤで新時代を迎えたスーパーフォーミュラ開幕戦は山本尚貴がポールツーウイン

注目のバンドーンはデビューレースで3位表彰台獲得

2016年4月23日~24日 開催

優勝した山本尚貴選手(14号車 TEAM 無限 SF14)

 全日本スーパーフォーミュラ選手権の開幕戦、「2016 NGKスパークプラグ 鈴鹿2&4レース」が4月23日~24日の2日間にわたって鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で開催された。24日には決勝レースが行なわれ、14号車 TEAM 無限 SF14をドライブする2013年のスーパーフォーミュラチャンピオン山本尚貴選手が優勝した。2位は2号車 P.MU/CERUMO・INGING SF14をドライブする国本雄資選手、3位は41号車 DOCOMO DANDELION M40Y SF14をドライブするストフェル・バンドーン選手で、デビューレースで見事に初表彰台獲得となった。

 土曜日の予選では混乱を演出したと名指しされたADVANレーシングタイヤだが、決勝では一転して安定した性能、寿命を発揮し、上位陣はタイヤ無交換で走りきることが可能となり、結局スタート直後に決まった順位のままゴールする結果となった。

レースはスタートで大枠が決まる。バンドーン選手が3位に

 スーパーフォーミュラでは、今回のレースから新しいワンメイクタイヤとして横浜ゴムのADVANレーシングタイヤを採用した。これまで鈴鹿サーキット、岡山国際コースなどで開幕前テストが行なわれていたが、250kmのフルディスタンスを走るのは開幕戦が初めてということで、その性能や寿命などがどうなるのか、誰も分からない状態でレースをスタートすることになり、各チームともフレキシブルな作戦を採ることになった。

 レースを決定づけた要素は、そのADVANレーシングタイヤのスタートだった。スタートではポールの14号車山本尚貴選手、2位の2号車 国本雄資選手は、危なげなく1コーナーに入っていった。それに対して大きく出遅れることになったのは、3位からスタートした20号車 ITOCHU ENEX TEAM IMPUL SF14をドライブする関口雄飛選手。関口選手はスタート時にホイールスピンをすると、4位から抜群のスタートを決めた41号車 ストフェル・バンドーン選手に抜かれ、4位に後退。さらに後続にも抜かれそうになったが、なんとか4位をキープした。

 しかし、関口選手はフォーメーションラップ開始直前にエンジンストールしてメカニックの手によってエンジン始動したことがスタート手順違反ととられ、10秒間のペナルティピットストップを課せられることに。大きく順位を落とし勝負権を失ってしまった。

 ポールからトップに立った山本選手は、その後2位の国本選手以下を1周に1秒近いペースで引き離していき、10周目には5秒以上を引き離す独走状態に。その背後で2位国本選手、3位バンドーン選手が2位を争うレースとなった。

スタート直後の2コーナーでの様子、山本選手がポールポジションから飛び出す
2周目の状態で2位を1.514秒引き離しており、その後も差を広げていった
2位争いは、2位の国本選手と3位のバンドーン選手。1~2秒程度の差で最終ラップまで続いた

上位陣はタイヤ無交換で給油のみを選択。ピットストップでの上位陣の変動なし

 昨年までのSF14のレースでも、鈴鹿サーキットでは抜けないレースとなっていたため、順位変動があるとすればピットストップにおける作業だと考えられていた。最初に動いたのは予選で下位に沈んだ選手。なかでも注目されたのは予選Q1でスピンアウトして予選17位に沈んでしまった19号車 ITOCHU ENEX TEAM IMPUL SF14のジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ選手。オリベイラ選手は12周目にピットに入りタイヤを交換すると、トップの山本選手に匹敵するようなタイムで追い上げを開始した

 ほかの選手も追随するかと思われたが、上位の選手は追随せず、結局30周過ぎまで上位の車両はピットインすることがなかった。30周前後から上位陣が徐々にピットに入るが、どのチームもタイヤ交換はせず、給油だけを行なう形に。各車とも10秒前後でピット作業を終えてピットアウトしていった。

 このため早めに交換していたオリベイラ選手などは上位と差を詰めることができず、ピット作業を終えても上位陣が順位を維持する結果となった。レース後の記者会見でも、予選後はやや厳しめのコメントをしていたドライバー達も、決勝レースではADVANレーシングタイヤが完璧に動作し、250kmのレースをフルに走りきるポテンシャルを持っていると賞賛していたのが印象的だった。

 結局レースは、ペナルティピットストップで後退した関口選手を除きスタートで決まった順位。1位山本選手、2位国本選手、3位バンドーン選手、4位小暮選手、5位塚越選手でゴールすることになった。

独走で優勝した山本尚貴選手(14号車 TEAM 無限 SF14)
2位に入った国本雄資選手(2号車 P.MU/CERUMO・INGING SF14)
3位に入ったストフェル・バンドーン選手(41号車 DOCOMO DANDELION M40Y SF14)
スーパーフォーミュラ第1戦鈴鹿 決勝結果
順位号車ドライバー車両名エンジン周回数トータルタイム
1位16山本尚貴TEAM 無限 SF14HONDA HR-414E431時間13分59秒415
2位2国本雄資P.MU/CERUMO · INGING SF14TOYOTA RI4A431時間14分11秒125
3位41ストフェル・バンドーンDOCOMO DANDELION M40Y SF14HONDA HR-414E431時間14分12秒609
4位34小暮卓史DRAGO CORSE SF14HONDA HR-414E431時間14分16秒173
5位10塚越広大REAL SF14HONDA HR-414E431時間14分22秒685
6位3ジェームス・ロシターフジ・コーポレーション KONDO SF14TOYOTA RI4A431時間14分24秒614
7位36アンドレ・ロッテラーVANTELIN KOWA TOM'S SF14TOYOTA RI4A431時間14分29秒467
8位65ベルトラン・バゲットNAKAJIMA RACING SF14HONDA HR-414E431時間14分30秒455
9位40野尻智紀DOCOMO DANDELION M40Y SF14HONDA HR-414E431時間14分36秒825
10位19ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラITOCHU ENEX TEAM IMPUL SF14TOYOTA RI4A431時間14分37秒386
11位1石浦宏明P.MU/CERUMO · INGING SF14TOYOTA RI4A431時間14分37秒629
12位37中嶋一貴VANTELIN KOWA TOM'S SF14TOYOTA RI4A431時間14分44秒547
13位18中山雄一KCMG Elyse SF14TOYOTA RI4A431時間15分09秒017
14位20関口雄飛ITOCHU ENEX TEAM IMPUL SF14TOYOTA RI4A431時間15分10秒010
15位4ウィリアム・ブラーフジ・コーポレーション KONDO SF14TOYOTA RI4A431時間15分39秒167
16位8小林可夢偉SUNOCO TEAM LEMANS SF14TOYOTA RI4A411時間14分01秒762
R11伊沢拓也REAL SF14HONDA HR-414E371時間04分51秒530
R64中嶋大祐NAKAJIMA RACING SF14HONDA HR-414E351時間02分26秒355
R7ナレイン・カーティケヤンSUNOCO TEAM LEMANS SF14TOYOTA RI4A2339分44秒776

予選と打って変わって、ADVANレーシングタイヤを賞賛していた上位3選手

 レース終了後には、3位までの選手と優勝チームの監督による記者会見が行なわれた。

――今日のレースの感想を

山本尚貴選手:ようやく1レース制のレースで初優勝できて嬉しい。金曜日の段階ではポテンシャルが劣っていると感じていたが、ホンダやチームが頑張ってくれた結果。ヨコハマタイヤを使う初めてのレースで、その使い方を含めて戦略がうまくいった結果だ。また、九州では震災で大変な思いをされている方がいらっしゃる。そういう方の中にも応援してくださる方がいて、そうした方にも何かをプレゼントできたのではないかと思っている。これからも大変な時が続くかもしれないが、僕も一生懸命頑張ってパワーを与えられるようにしたい。

優勝した山本尚貴選手

無限チーム 手塚監督:こういう結果になったのは嬉しいの一言。昨年の最終戦に、ブリヂストン最後のレースでポールツーウインで勝つことができ、今年はヨコハマ最初のレースでポールツーウインで勝つことができた。記憶と記録に残るレースができて嬉しく思っている。ここまで来るのに全く楽ではなかったので、その苦労したプロセスを大事にして第2戦以降も勝利を目指して頑張りたい。

チーム無限 手塚監督

国本雄資選手:なんとか2位に入れて嬉しい。スタートで抜こうと思ったが、山本選手は速くてあっという間に離されてしまった。その後はミスなく、コントロールするという自分のレースに徹した。ストフェル選手が来ていることは分かっていたけど、大きなミスがなければ抜かれることはないと思っていた。外から見ると、退屈なレースに見えていたと思うが、僕たちは限界ギリギリのところで走っていてかなり厳しいレースだった。ヨコハマタイヤは今回無交換でいけるなど、よいタイヤを用意してくれたと思っている。また、いいクルマを用意してくれたチームにも感謝したい。

2位に入った国本雄資選手

ストフェル・バンドーン選手:スーパーフォーミュラの最初のレースで、非常にいい結果が出せて嬉しい。これまで走ってきたカテゴリーとは完全に違うレースで、冬のテストではまさにアップ&ダウンという状態だったので、トップ10でもスゴイと思っていたら、予選は4位で、決勝では3位になれたのだから。鈴鹿は抜きにくいコースで、スタートが重要だと考えていたので、よいスタートを切れたことがよかった。その後、国本さんに近づいたけど、彼は全然ミスをしなかったので、抜くことは難しかった。今回は非常にいい仕事ができたので、いい年にしたいね。

初のスーパーフォーミュラで3位に入ったストフェル・バンドーン選手

――今朝のフリー走行では中古タイヤで苦労しているとチームは言ってましたが、それは決勝では解決したのか?

山本尚貴選手:細かいことは言えないが、朝走ったときには中古タイヤでは何をやってもダメだった。8分間(筆者注:レコノサンスラップのこと)でチームがセッティングを見直してくれて復活しました。

――(山本選手に)レースでピットストップする直前に周回遅れのクルマに捕まってタイムをロスする場面があったと思いますが、その時の思いを教えてほしい。

山本尚貴選手:テレビにも映っていた(筆者注:山本選手が周回遅れのクルマの後ろでウェービングを繰り返していたこと)と思いますが、もうちょうとルールを理解してほしいと思いました。ブルーフラッグを1周にわたって振られていたのに、それを無視するというのはスポーツマンシップの観点からどうなのかと思う。その後も周回遅れが登場し、ピットインするかどうか迷ったのだが、2位の選手が入ってから1位が入るのが常道なので、入るかどうかチームも自分も葛藤があったが、あのタイミングで入って、クリーンエアで走ることを選んだことが結果的にはよかった。

――(山本選手に)今週はずっと表情が険しかったのはどうしてか?

山本尚貴選手:いろいろな理由がある。僕はレースを勝つためにここにいる。まだ1回勝ったぐらいで大きなことは言えないけど、常に勝ちたいと思ってサーキットに来ている。ポールを獲ることも大事だが、何よりも日曜日に勝つことこそが仕事だと思っている。だから表情が硬く見えたのではないか。

――(バンドーン選手に)F1でもデビューレースを走り、スーパーフォーミュラでもデビューレースを終えたが、2つのシリーズの違いは?

ストフェル・バンドーン選手:どっちも完全に異なるレース。まずタイヤが完全に違っており、スーパーフォーミュラは空力とタイヤが非常に素晴らしい。とくに鈴鹿ではリミットが高いし、予選でもQ1、Q2、Q3と進むごとに性能が上がっていく。それに対して、F1はもっとテクニカル。F1はハンドルに沢山の情報が表示されたり、回生エネルギーを使いこなしたり、燃料セーブが大変。僕はこれまでもF1を目標にやってきたし、望むらくはF1に到達したいね。

――(ドライバー3人と監督に)今回新しく導入されたヨコハマタイヤはどこまで理解できたか?

山本尚貴選手:6割ぐらい

国本雄資選手:タイヤはだいぶ分かってきた。ニュータイヤでグリップがこれぐらい上がるとか。ただ、これまでロングランに不安があったが、今回のレースでだいぶ分かってきたので今後は問題なく戦えると思う。

ストフェル・バンドーン選手:みんな同じだと思うけど、新しいタイヤで最初の年だし、チームの理解も完全ではない。僕の感想としては後半に向けてトラックが改善していくと、デグラデーションが少なくなっていき、タイヤの状態がどんどんよくなっていくことだ。だから最後まで同じタイヤで走ることができたし、ラップタイムの落ちも少なかった。

無限チーム 手塚監督:今回初めてレースとロングランをしたので、未知数だったところが見えてきた。走り終わってみたら、とてもコンスタントに走ることができていた。あとはこれから夏場のレースでヨコハマタイヤで初めて走ることになるので、金曜日にどうまとめていくかが重要になる。

――(山本選手に)どの段階で勝ったと思ったか?

山本尚貴選手:何周だったかは忘れたが後続を4秒離した段階で、何もなければいけると思った。しかし、去年の例(筆者注:山本選手は昨年の開幕戦で最終ラップにエンジンブローでリタイヤ)もあるし、レースにトラブルはつきものなので、最後まで恐かった。ただ、最後の10周ぐらいには、自分の中でも余裕ができ、岡山のレースに向けた取り組みをいろいろ試した。これからを見れば、トヨタ陣営もキャッチアップしてくるだろうし、同じホンダ陣営でもバンドーン選手が3位に入るなど、今後も強力なライバルになっていくと思っている。

――(国本選手とバンドーン選手に)最後の5周ぐらいで、オーバーテイクボタンを試している姿がテレビで確認できたが、実際に追い越しがあり得る状況だったのか?

国本雄資選手:チームからオーバーテイクボタンが残っていると言われたので、万が一バンドーン選手が、それが使えるレンジまで来たらどれぐらい使えるのかを試していた。

ストフェル・バンドーン選手:初めてのレースだったので、オーバーテイクボタンがどんなものなのかを試すために使ってみた。個人的にはあんまり大きな変化がないと感じたので、使い方がよくなかったんだろう、もうちょっと学習しないといけない。

 スーパーフォーミュラ第2戦は、5月28日~29日に岡山国際サーキット(岡山県美作市)で開催される。

(笠原一輝/Photo:奥川浩彦)