インプレッション
日産「GT-R 2017年モデル」(ベルギー/松田秀士)
2016年6月9日 20:43
スパとアウトバーンで2017年モデルを体感
GT-Rにサーキット試乗は付きものだ。2007年のデビュー時、愛知県蒲郡市にあるスパ西浦モーターパークでこれでもか!? というほどにアクセルを床まで踏みつけたことが昨日のことのよう。振り回そうが何をしようがすぐに安定性を取り戻し、4輪が路面を掴んでけたたましい勢いで加速する。GT-Rは年改といって毎年進化していった。そうポルシェのように。
そして、その進化を検証する場が我々ジャーナリストに試乗会という形で提供され、それはほとんどの場合サーキットだった。今でも記憶に残っているのが2011年に宮城県のスポーツランドSUGOで行なわれた2012年モデルの試乗会。GT-R生みの親である水野和敏氏のプレゼンテーションはいつも業界では有名だった。しかし、その時のプレゼンは特別だった。その筋の人間(クルママニア)が思わず涙を流すような専門用語と饒舌な話術。そのプレゼンでの印象的な言葉が2つある。「今や欧州スポーツカーの教科書にGT-Rはなっている」「簡単に300km/hが出せてしまうんです」。もちろんサーキットはSUGOだったので300km/hは出せなかったが、0-100km/h加速3.0秒を切る加速力とトラクションには舌を巻いた。そしてコーナリングではいとも簡単にオーバーステアが作り出せ、ハンドリングの自由度はドライビングレベルが上がるほどにファンなものだった。
時が過ぎ、水野氏が日産自動車を去り、変わって日産スポーツカーのスペシャリストともいえる田村宏志氏がバトンを受けたのが2014年。筆者の記憶では、この時からGT-Rの方向性が変わり始めたと感じる。それまで“性能一直線”だったGT-Rに、乗り味とか高級志向が盛り込まれた。それ以前にも、先の2012年モデルから高級感を出すというトライは行なわれてはいたものの、GT-Rが本腰を入れて欧州スーパースポーツと同じ質感を求め始めたのは2015年モデルからだ。
そこで今回の2017年モデル試乗会。ステージは「オールージュ」という世界的にも肝試しコーナーで有名なスパ・フランコルシャン(ベルギー)。そして、わざわざデュッセルドルフ空港(ドイツ)に降り、そこからスパの往復を2017年モデルで走る。なぜデュッセルドルフ空港なのか? それはもちろん速度無制限区間のあるアウトバーンを走るためだったのだ。
GT-Rも大人になった
いきなりスパの話から始めよう。実は筆者、1980年代後半から1990年代にかけてこのサーキットで年に1度開催されていた24時間耐久レースに5度出場している。グループAという車両規定で行なわれていたころだ。あのころとは多少コースレイアウトが変更されてはいるものの、大まかには同じ。コースインから全開で走行したことは言うまでもない。しかし、当日はあいにくの雨。オールージュを全開で攻めるぞ(ウソだけど)と決めていたのに残念!
オールージュは、F1 GPでは第1コーナーとなるラ・ソースを立ち上がり、急な下り勾配のストレートエンドにたちはだかる複合S字コーナー。しかし、進入は下りコーナーだがそのあと壁のような登りのS字コーナーとなり、コーナリングしながら登り切ったところでやっと行き先が見えるという恐ろしいブラインドコーナー。上り切ったところでジャンプするかのようにクルマがバランスを失う。だが、ここの脱出速度が速ければ、このあと延々と続く緩い上り坂の長いストレートの速度が伸びる。だからオールージュの脱出スピード次第ではラップタイムを大幅に短縮できるのだ。デンジャラスだが成功すれば得るものは大きい。ハイリスク・ハイリターンの典型とも言えるコーナーなのだ。
で、そのオールージュ。雨だから気を付けなくてはいけない。しかし、周を重ねるごとに速度を上げていく(といっても3周×2回)。すると出口でパワーオーバーステアになるが、とてもコントロールがしやすい。Rモードのスタビリティコントロールも、早い時点でのステアリング修正があれば介入したのかしなかったのか分からないほどで、これまでにあったおせっかいな制御ではない。これはイイ! と各コーナーでちょっと頑張る。ヘアピンに近いラ・ソースでは簡単にパワーオーバーステアを起こし、リアタイヤが暴れてGT-Rは進行方向に大きく角度をつける(つまり横を向いている)。ステアリング操作が忙しい。しかし楽しい。安心感がある。このような状況では適切にスタビリティコントロールが介入して、クルマを立て直すお手伝いをしてくれる。RモードをONにしているならここが大切。お手伝いなのだ。お手伝いだから、あくまで主体はドライバーなのだ。クルマを信用できるので、このようなコンディションでもトライしようという攻めの気持ちになれる。2017年モデルでは技術的に新しいトライがいろいろあるけれど、筆者は一番にこの「やる気モード」にさせるという部分をハイライトに挙げたい。
じゃあ、それは具体的に何なの? という疑問が出てくるだろう。簡単に言うと、コンフォート性が上がったのだ。例えば乗り心地。路面の凹凸をつぶさに拾い、常にタイヤが路面を捉え接地している。そのため、これまでのGT-Rよりもコーナリング初期のロール感がある。S字コーナーなどでは、右・左とクルマの上物が左右へのステアリングワークに連動して傾く。しかも、それがとてもコントロールされた動き。そして、どのような状況でもバタつかない。ただ、ブレーキングでABSが介入した時に若干のブレが発生したが、試乗モデルは欧州仕様であり、日本仕様の発売までには修正されることだろう。
ステアリング固定に変更されたパドルシフトは、コーナリング中にもシフト操作が容易にでき使いやすい。例えばコーナー進入は2速で入り、立ち上がりはトラクションオーバーにならないように3速にシフトアップして脱出する、といった小技が使いやすいのだ。雨のスパではこの操作がとても役に立つ。そして、トランスミッションのギヤ同士のバックラッシュが皆無なのでは、と思わせるほどにスムーズで繋がりに安っぽさがない。メカニカルながさつさが影を潜めた。
NISMO仕様の気筒別点火時期制御を採用することで、約20PSアップの570PSを発生するエンジン。中速域のトルクが厚くなったように感じる。そして、リアエンドの太鼓の中の取り回しを変更して短くなったチタン合金製デュアルマフラーが奏でるエキゾーストサウンドがとてもレーシー。耳障りではないのは、BOSEのアクティブ・ノイズ・コントロールも合わせてチューニングされているから。また、マフラーには電子制御バルブが組み込まれ、2800rpm以上で開くようにセットされている。しかし、RモードをONにすればアイドリングから開く。周囲への配慮の現れ、GT-Rも大人になった。
最高速チャレンジ
翌日の天候はスパウェザーから打って変わって晴天。まずはワインディングを走る。サスペンションの動きがとても心地よく、必要以上にロールさせていないところがよい。サスペンションをRモードにすることでステアリング操作に対するダイレクト感が出る。しかし、若干タイヤのヨレが気になる。乗り心地や静粛性はタイヤとともに進化させたのだろう。ボディ振動を含めて、荒れた路面でも気をわるくしてしまうような乗り心地がまったくない。そして、限界までほど遠い、低い速度でのコーナリングも楽しいのだ。
さあ、では高速道路を走ろう。もちろんアウトバーンの速度無制限区域。全Rモードを選択し、ATモードのままアクセル全開にすると、排気サウンドのトーンが鼓膜に心地よい。トップエンドの7000rpmまでイッキに回り、6速DCT(デュアルクラッチ)が次々にシフトアップ。速度はどんどんワープする。記録した最高速は298km/hだ! まだ余裕があるが周囲の交通状況を考慮してこの辺で心にストップをかける。ブレーキを踏み込むと、予想したとおりの減速Gが発生し、速やかに速度が落ちてゆく。左手パドルを引くと瞬時にシフトダウン、このとき一瞬高まるブリッピングサウンドが心地よい。298km/hという超高速でも安定感がある。
ただし、サスペンションはRモードにするよりもノーマルモードの方が安定していた。サーキットと違い、高速道路は路面が荒れているからRモードは路面のアンジュレーションにダイレクトに反応して上下動が大きくなる。それに比べるとノーマルモードは実にフラットライドだ。
冒頭に挙げた「簡単に300km/hが出せる」は本当だった。おそらくこのころよりももっと簡単に、安心して300km/hが出せるスーパースポーツにGT-Rは進化している。インテリアなど、変更点はほかにもあるのだが、筆者のリポートは走りに絞って書かせていただいたことをお許し願いたい。