インプレッション

テスラ「モデル S」(ソフトウェア6.0と8.0を乗り比べ)

画期的なワイヤレスアップデート

 過去にも何度かお伝えしているとおり、テスラモーターズは定期的な無料ワイヤレスアップデートを提供している。車両の購入後にも随時その車両をより安全に、賢く、機能的に進化させることができるというテスラならではの画期的な取り組みである。

 日々の企業努力もあってか、これまでテスラに触れる機会があるたび、以前は気になっていたところが次には改善されているなど、アップデートの早さと的確さには感心させられることが多かった。参考まで、2年あまり前のソフトウェア6.0から最新のソフトウェア8.0にいたるまでのアップデートの歴史をさかのぼると、以下のとおりの内容となっている。

ソフトウェア6.0(2014年9月リリース)

カレンダーアプリ
パワーマネジメント オプションの追加
ロケーションベース スマート エアサスペンション

ソフトウェア6.1(2015年1月リリース)

トラフィックアウェア クルーズコントロール
正面衝突警報
オートハイビーム
バックカメラ ガイドライン
カレンダーの改善:ミーティングノート、電話番号

ソフトウェア6.2(2015年3月リリース)

レンジプランナー
自動緊急ブレーキ
ブラインドスポット警報
バレーモード

ソフトウェア7.0(2015年10月リリース)

自動運転機能:オートステアリング、自動車線変更、オートパーキング

ソフトウェア7.1(2016年1月リリース)

自動運転機能の改善
オートパーキング(直角駐車)
サモン(リモート駐車機能)

ソフトウェア8.0(2016年10月リリース)

※別記

ソフトウェア6.0(左)とソフトウェア8.0(右)搭載モデル

 なお、ここでは割愛するがソフトウェアのバージョンがいくつかという呼び方をする以前にも、すでに頻繁にアップデートを繰り返して諸機能の改善を図っていた。

タッチスクリーンや自動運転機能に大改良

 さて、ソフトウェア8.0では多岐にわたる改良が行なわれたなかで、まずは「モデル S」の発売以来もっとも大きな変更が加えられたタッチスクリーンのインターフェイスについて。新しいデザインの採用により、メディアプレーヤーはオーディオエンタテイメントがより使いやすくなっている。

 地図アプリ機能もコントロールバーの位置変更などにより、地図の表示される領域が増えて見やすくなった。運転中はタッチスクリーン上部のステータスバーとアプリアイコンがフェードアウトするが、タップしたり車両を停車させたりすると再度表示される。さらに、設定次第では地図アプリとカメラアプリを上部に常時表示させ、その他のアプリは下部に表示するようにできるし、好みに合わせて配置を自由に変えることもできる。

 また、より検索がしやすくなった。スワイプすることで自宅や勤務先までナビゲートを実行してくれるほか、これまでのスーパーチャージャーやチャデモに加えて、新たにホテルなどに設置されているデスティネーションチャージャー(テスラ専用普通充電スタンド)がマップ上に表示されるようになったのもソフトウェア8.0の進化点だ。

ソフトウェア6.0搭載モデル
ソフトウェア8.0搭載モデル
ソフトウェア8.0搭載モデルでは、ドライバーに手をステアリングに置くよう促すようオートパイロット機能に改良が施された

 自動運転機能についても、以下のとおり多くの改変が行なわれた。

 まず、オートパイロット機能が起動中においても、ドライバーには運転に集中してもらうため常に手をステアリングに置くよう促すなど機能を向上させた。その際、もしもドライバーがシステムからの注意を無視してステアリングから手を離したままだとオートステアリングが無効になり、停車するまで使用できなくなる。

 この場合、再びオートステアリングを使用するには、シフトを1回パーキングに入れなくてはならない。また、トラフィックアウェア クルーズコントロール、またはオートステアリング(ベータ版)が利用可能な状態、もしくは起動中なのかがより分かりやすく表示されるようになった。

 オートパイロットについても、もともとリリース当初より、隣りの車線内に他の車両を検出すると、オートステアリングが自車の走行する車線内で自車の位置を調整していたのだが、今回、カメラからの情報を使用して、もっと早い段階から位置調整を始めるようになった。停止と発進の多い交通状況で自動運転機能の反応がよりよく、スムーズになるという。

 また、インパネに表示される周囲の車両の進行方向がよりわかりやすいよう車両のアイコンに角度をつけたり、目の前にいるクルマをインパネに表示したりするようになった。

 さらに、オートパイロットはレーダーを使用して、前走車のさらに前を走る車両も検知できるようになった。加えて、これまではオートステアリングの起動に失敗してもクルーズコントロールは有効で、意図しない加速によりヒヤッとする状況もありえたところ、無効となるように変更されたので、以降はそのようなこともなくなるはずだ。

わずか2年で大きな進化

 2016年10月。ちょうどソフトウェア8.0のリリースされたタイミングで、富山県富山市を流れる神通川のほとりに位置する「リバーリトリート雅樂倶」に、テスラ専用の充電スタンドが設置された。これを機会に、ソフトウェア8.0と約2年前のソフトウェア6.0を搭載したモデル Sを用意して、2年あまりでどのくらい変わったのかを乗り比べて体感できるという貴重な機会に恵まれた。

 テストということで、どのような違いがあるのかより分かるよう、高速道路だけでなく市街地でもオートパイロットを設定して走ってみた。するとまず、加減速のスムーズさからして違うことが分かる。渋滞時に前走車が進んだときの車間の詰め方も、ソフトウェア8.0のほうが素早く発進し、そして停止するまでの一連の動作がより滑らかだ。

 ブレーキホールドするときにブレーキをかけたり解除したりする際のマナーも、8.0のほうがスムーズで高級車らしい感じがする。また、聞いたところでは、回生ブレーキについてもより効率的に電力を回収できるよう、頻繁に制御を見直しているとのことだった。

 オートパイロットについても、初出から間らまもない頃に試したのに比べて、最新版は動きがよりスムーズになり、修正舵が圧倒的に減っていることを感じた。

 前で述べたカーナビについても、もともと画面が大きくてよいなと思っていたところ、さらに地図の見える範囲が広がったおかげでより見やすくなった。縮尺も瞬時に調整することができるし、画面左端には、交差点の形態や、国道何号、大まかな住所なども表示されるので、より瞬時に情報を把握できる。こうした変更も大歓迎だ。

 ソフトウェア8.0では近づいただけでドアノブがせり出すところも新しい。6.0でもタッチすると出てきたことに当時は画期的と感じたものだが、今あらためて試すと反応が少々鈍いことも気になる。

 このように乗り比べると両者の違いは明白で、かつてはこれでも十分によいと思っていたソフトウェア6.0が、思いのほか古く感じられてしまった。むろんハードウェア自体も将来的なアップデートをある程度は見越したものになっているわけだが、ハードウェアではなくソフトウェアの変更により、こうしてクルマをどんどん進化させることができるというのは、日進月歩の安全への考え方の対応や使い勝手の向上、愛車と長く付き合っても新鮮味を持ち続けられるなど、いろいろな意味で素晴らしいことだと強く感じた次第である。

 一般的な自動車では、そうした発想すらあまりないところだが、やろうと思えばできる面もあるはず。クルマというものの進化の新しい形を考える上で、テスラのアプローチは非常に参考になる面があるように思えるのである。

 なお、テスラではさらに、自車から最長250mまで360度の視野を得られるよう、現在よりも4台増しとなる計8台のサラウンドカメラや、以前のバージョンの約2倍の距離までの物体を検知可能な12個の超音波センサーなど、近い将来の完全自動運転機能に対応するハードウェアを、すべてに対応していくという。こうした先見性も、テスラの素晴らしい一面に違いない。

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。