インプレッション

トヨタ「プリウス プライム(日本名:プリウス PHV)」

日本での発売遅れはカーボン製テールゲートが原因?

 日本に先駆けて発売されている新型「プリウス PHV」を、カリフォルニアの公道上でテストドライブした。乗ったのは「プリウス プライム」の名で販売されているアメリカ仕様車。3種類が設定されるグレード中で、唯一ヘッドアップディスプレイやブラインドスポット・モニターなどを標準装備する最上級モデルだ。

 ちなみに、日本仕様との主な違いは急速充電に対応しないことや、ソーラーパネルを用いた充電システムが設定されていないことなど。3万3100ドルという価格は、ベースであるプリウスの最上級グレードに対しちょうど5000ドルの上乗せだ。

 前後バンバーなどに専用の造形が採用され、通常のプリウスとひと目で区別が付くのは、日本仕様のプリウス PHVと同様。特にフロントマスクは燃料電池車(FCV)である「ミライ」との関係も連想をさせる仕上がり。リアビューも左右に“垂れ下がった”テールランプのグラフィックがよりオーソドックスなものに改められるなど、どこか奇をてらったように思えるベースのプリウスに対して、個人的にはプリウス プライムの表情の方により強い好感度を抱くことができた。

日本での発売を2月に予定する、外部充電を可能にしたプラグインハイブリッドカー「プリウス プライム(日本名:プリウス PHV)」。日本仕様のボディサイズは4645×1760×1470mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2700mm。乗車定員は4名

 そうしたよりシンプルなリアビューの実現にも貢献しているテールゲートの骨格は、「同デザインのアルミ製に比べた換算値が約40%軽量」と紹介されるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製。このパーツの量販体制が整わなかったことが、日本向けの販売延期に繋がった……と言われるのは皮肉な事柄だが、そもそも大量の電池搭載などで重量のハンデを背負うPHV仕様の場合、ハイブリッド運転状態の燃費がベースのプリウスに逆転されないためにはさらなる軽量化の努力が必要。技術面でもコスト面でもハードルが上がってしまうのは、PHVの1つのウィークポイントとも指摘ができる。

 JC08モード走行時で「60km以上」と紹介される、長いEV走行距離の要となる8.8kWhという駆動用のリチウムイオン電池の総電力量は、従来型のプリウス PHVに対して約2倍。パワーコントロールユニットの昇圧コンバーターの出力も、従来型比で約1.8倍と大幅にアップされている。

インパネ中央にフルHD解像度の11.6インチの縦置き大型ディスプレイを搭載し、カーナビやオーディオ、エアコン、エネルギーモニターなどの表示が可能。上下2分割表示も行なえる

 一方、「最大熱効率40%」を謳う1.8リッターエンジンが発する98PSという最高出力や142Nmという最大トルクのスペックは、ベースのプリウスに積まれるユニットのデータと変わらず。ただし、通常のプリウスでは発電専用として用いるモーター(ジェネレーター)にワンウェイクラッチを付加し、このアイテムが発する出力も駆動力として用いることを可能としたことで、より力強いEV走行を実現させた新採用の“デュアルモータードライブシステム”は、新型プリウス PHVならではの1つの技術的な見どころだ。

 EV走行時を筆頭にエンジンの稼働時間が少なく、その排熱を暖房に利用しにくいために、外気中の熱をくみ上げることで暖房を実現させるガスインジェクション機能付きのヒートポンプ・エアコンを採用したことも、PHVならではのニュース。こうして、単に「バッテリーを大容量化して充電機能を加えただけ」に留まらないのが、このモデルの内容ということになる。

搭載エンジンは直列4気筒DOHC 1.8リッター。エンジンの最高出力&トルクは72kW(98PS)/5200rpm、142Nm(14.5kgm)/3600rpm。これに「1NM」モーター(72PS/163Nm)、「1SM」モーター(31PS/40Nm)を用いてより力強いEV走行を実現する「デュアルモータードライブシステム」を採用。EV走行距離は60km以上(目標値)、EV最高速は135km/h(テストコース等での計測)という数値が発表されている

どんな場面でも“EVらしさ”をたっぷりと味わえる

 ロサンゼルス北東部に位置するパサデナのホテルを基点としたテストドライブでは、EV専用のスペースで充電が完了した“お腹イッパイ”の状態からのスタート。

 ドライバーズシートへと乗り込みスタートボタンを押しても、「暖気のため」といった理由でエンジンが始動をすることはなく、Dレンジを選択してパーキングブレーキを解放すれば無音のままにスルスルと走り始める。

 ホテル駐車場は地下ゆえに、料金所のゲートから地上まではきつい登りのスロープ。だが、そんなシーンで多少アクセルペダルを深く踏み込んでも、通常のプリウスのように「あ、エンジン掛かっちゃった……」と落胆させられることはない。それどころか、地上に出て大通りのクルマの流れに合流するべく一瞬アクセルペダルを床まで踏み込んだくらいでは、エンジンは一切始動しないのだ。

 端的に言って、充電状態に余裕があるこうした状況下では、その走りの第一印象は100%EV(電気自動車)そのものだ。日産自動車「ノート e-POWER」が謳う“電気自動車の新しいカタチ”という台詞は、本来はこのモデルにこそ当てはまるものと実感させられる。

 市街地を抜け、フリーウェイへと乗り入れても”100%EV”のテイストはそのままキープをされる。発表されているEV状態での最高速は135km/h。これをアメリカ流儀の読み方に換算すれば約84mphで、75mphあたりを上限に流れるフリーウェイ上でも十分に「エンジンの助けなしに走れる速さ」であるわけだ。

 ちなみに、コンクリート路盤の継ぎ目が連続するフリーウェイ特有の“チョッピー路”上でも、フラットな姿勢を保ちながら走り続けるさまはなかなかに上質な乗り味。もちろん、エンジン音は皆無という状態が、そうした好印象をより加速させることにもなっていた。

 さらにフリーウェイを離れてワインディング・ロードへと差し掛かると、今度はいかにも低重心感覚に溢れたハンドリング感覚が印象的。アクセル操作に対するトルクの上乗せ感は素晴らしく、レスポンスがシャープで、こうした場面でも“EVらしさ”をたっぷりと味わえることになった。

 このように、いずれのシーンでも走りの高い質感を味わうことができるのは、やはり「TNGA(Toyota New Global Architecture)」と呼ばれる新骨格の威力が大きいことは明らか。一方で、こうしてクルマとしての基礎部分がよくできているがゆえに、時に「モアパワー」を欲したくなる場面があったのもまた事実だった。

 ちなみに、モーターパワーの気持ちよさを堪能しているうちにバッテリーの充電レベルが低下し、ホテルへの帰路はハイブリッドモードへと移行して、エンジン力の助けを借りながらの“普通のプリウス”として走行することに。もちろん、バッテリーをさらに大容量化すればEV走行モードはより延長が可能。だが、当然重量やコストは跳ね上がり、現状でもフロア部分がやや盛り上がることになっているラゲッジスペースへの影響も増すことになるから、現在のスペックはそれなりに上手い「落としどころ」とも受け取れる。

 実はこの先、アメリカでは通常のプリウスはいわゆる“エコカー”としての認定を受けることができず、その主力はプラグ・イン機能が与えられたプリウス プライムへと移行していくことになる。

 ガソリン価格も下落し、再び大型車の人気が蘇りつつあるのが現在のアメリカ市場。そうした中で、プリウス プライムの販売がどれほどの健闘を見せるかが、この国でのエコカーの本気度を占う試金石にもなっていくはずだ。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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Photo:佐藤靖彦