インプレッション
ボルボ「S90」「V90」(2017年フルモデルチェンジ)
2017年3月6日 00:00
一見しただけでこのクルマの駆動方式を当てられる人がどれだけいるだろうか? 2月22日から日本市場に投入されたボルボの「S90」「V90」は、全く新しいセダン&ワゴンの形を表現している。プラットフォームは110億ドル(約1兆3000億円)を投入して開発された「SPA(SCALABLE PRODUCT ARCHITECTURE)」を採用。これは2016年のSUV市場を震撼させた「XC90」に続く第2弾製品ということになる。
SPAは軽量化と前後重量配分のバランスの改善のほか、あらゆるパワートレーンの搭載を見込んだ強固なプラットフォームであることが特徴だが、それ以外にもデザインの自由度を向上させる狙いもあったらしい。Aピラーの延長上にフロント車軸を置くことで伸びやかなデザインを実現したこのクルマは、Aピラーから車軸までの距離が同クラスのFR車と同等だという。FFベースにも関わらずこんなディメンションを持っているからこそ、駆動方式が一見しただけでは分からなかったのだ。
インテリアについても新たな流れは続く。12.3インチのドライバーディスプレイ(メーターパネル)と9インチの縦長センターディスプレイを採用していることは、モダンな感覚が際立っていたXC90と同様だが、エアコンのルーバーが縦長のデザインに改められ、木目パネルの面積が拡大されるなどの変更を行なっている。
セダン&ワゴンらしく落ち着いた雰囲気になったこと、そして縦長センターディスプレイと周囲の調和も進んだと感じる。また、リラックスした座り心地と適度なホールド性を実現したナッパレザーを纏うシートや、コンサートホール(ボルボ本社があるスウェーデンのイエーテボリ・コンサートホール)と同等の音質を提供するBowers&Wilkinsプレミアムサウンド・オーディオシステムが生み出す広がり感のあるサウンドもかなり贅沢な演出だ。ボルボが高級路線を歩み始めたことは、見た目だけの話ではないことが伝わってくる。
そんな新たな路線を歩み始めたボルボではあるが、やはり根底にある安全に対する姿勢については変わらない。というより、むしろ常に進化し続けており、XC90から採用が始まった右折時に対向車を検知する「インターセクション・サポート」に加え、「シティ・セーフティ」の追加機能である「大型動物検知機能(夜間含む)」は、同時発売の「V90 クロスカントリー」と3モデルそろって世界初の技術となる。
大型動物検知機能は衝突によりヘラジカが車内に突っ込んでくることを防止することを狙った装備。そこまで考えているとはさすがだ。さらに歩行者・サイクリスト検知機能もきちんと備わっている。また、同じく世界初の装備として道路逸脱事故の回避を支援する「ランオフロードミティゲーション」を採用し、さらに万が一道路を逸脱したとき、乗員に対する縦方向の入力を軽減する「ランオフロードプロテクション」(XC90で世界初採用)も全車に装備。これは先述した豪華なシートの根元に機械的に装備されるもので、付け根が瞬時に折れてシートが下がることで、背骨に対するダメージを大幅にカットできるらしい。まさに高級感だけでなく中身もシッカリ。ボルボらしさが光っている。
“次世代のボルボ”を感じさせる走り
今回は直列4気筒DOHC 2.0リッターエンジンにターボとスーパーチャージャーを搭載することで320PS/400Nmを発生する「S90 T6 AWD Inscription」と「V90 T6 AWD Inscription」の2台に試乗することになった。要はセダンかワゴンかという違いである。
走り出せば低速域からリニアで力強いトルクフルな感覚。スロットルを開ければスポーツカーかと思えるような加速を展開する。だが、あくまでもコンセプトはリラックス&コンフィデンスである。シャシーはいずれのボディもフラットで、優雅さが際立っている印象が強い。対角線上にロールをするいわゆるダイアゴナルロールをさせず、限りなくフラットに走らせてやろうというのが狙いのようだ。
足まわりはフロントにダブルウイッシュボーン、リアにマルチリンクを採用するあたりは一般的だが、リアサスペンションに関してはコイルスプリングを持たず、インテグラル・アクスルと呼ばれるグラスファイバー複合素材を使ったリーフスプリングを採用しているところが特徴的だ。軽量化と高剛性、さらにはNVH低減とラゲッジスペースを拡大できることがメリットだという。今回の試乗車はどちらも走行距離が1000km以下で、足まわりにはまだシブさが残っているようにも感じたが、これも距離を重ねれば改善されるだろう。というのも、実は以前にスウェーデンで乗った本国使用のS90&V90はかなりしなやかだったからだ。
このように、高級さばかりでもなく、安全性だけでもなく、走りにも気を配っているS90&V90は明らかに“次世代のボルボ”を感じさせてくれた。ボルボが世界のトップモデルと肩を並べ、さらに追い越そうとしている勢いを持ったモデルであるように思える。