インプレッション

アウディ「A5」「S5」(2017年フルモデルチェンジ)

A5シリーズの主役は?

 クーペは9年ぶり、カブリオレは8年ぶり、スポーツバックは7年ぶりのフルモデルチェンジ――従来型のデビュー時期がボディタイプごとに異なったために、全ボディタイプが一斉にローンチされた今回は、こう紹介することになるのが新型A5シリーズ。

 A4のメカニカル・コンポーネンツを最大限に利用したクーペと、そこから派生のオープンモデルというシリーズのアウトラインは、従来型の場合と同様。スポーツバックが大型のテールゲートを備えた4ドアクーペを示すのも、従来と変わりない。

 偶数名称が与えられる基幹モデルに対して、それらとは一線を画したより強い個性や特徴を売り物とするのが、名称内に奇数を用いたアウディ車。A5シリーズの場合、その見どころはベースのA4を大きく凌駕する流麗なスタイリング。実用性を重視するA4に比べれば、クーペやそこから派生したオープンボディならではのより魅惑的なルックスこそが、大きなセールスポイントというわけだ。

 実際、後席用ドアを廃したことでより高いデザインの自由度を手に入れた2ドアクーペはもちろん、4枚ドアを備えたスポーツバックも、プロポーションの流麗さはA4シリーズの比ではない。ガレージに佇む姿を眺めているだけでも気分が高揚してくる。そんなエクステリアのデザインこそが、まずはA5シリーズ最大の特徴であり、魅力というわけだ。

 よりスポーツカー的要素の強い“2+2”の「TT」とは異なる、アウディでは久々のフル4シーターパッケージングの持ち主として、まず2ドアのクーペ版が2007年に誕生したのがA5の歴史の始まり。その後に“スポーツバック”が追加されると、日本でのA5シリーズの販売の主役はこちらへと移行。最終的には「総台数の85%ほどがスポーツバックで売れることになった」という。

 そんな人気の高さの理由は、まず当然ながら「ドア数の違い」による使い勝手のよさにあるはず。シリーズ内でもスポーツバックがより大きなボリュームゾーンを獲得するのは、半ば自明とも言えるだろう。加えれば、独立したトランクルームを用いる2ドアクーペに対し、大型テールゲートを採用するこちらはより高いユーティリティ性を実現。半ば「ステーションワゴンのよう」にも使える点が、さらなる売り物としてクローズアップされることにもなるわけだ。

今回試乗したのは、高性能版の直列4気筒2.0リッター直噴ターボエンジン(252PS/370Nm)を搭載するスポーツバックの「2.0TFSI クワトロ sport」(757万円)。ボディサイズは4760×1845×1390mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2825mm。「S lineスポーツパッケージ」装着車で、エクステリアではマトリクスLEDヘッドライト&LEDリアコンビネーションランプ、専用の前後バンパー、アルミホイール5ツインスポークスターデザイン(8.5J×18)などを装備
エクステリアデザインでは長くなったホイールベース、短い前後オーバーハング、パワードームを備えた長いボンネットを特徴としたほか、シングルフレームグリルは初代に比べ平たく、幅広いものになった。足下は18インチアルミホイールにピレリ「CINTURATO」(245/40 R18)の組み合わせ
「2.0TFSI クワトロ sport」は最高出力185kW(252PS)/5000-6000rpm、最大トルク370Nm(37.7kgm)/1600-4500rpmを発生する直列4気筒2.0リッター直噴ターボエンジンを搭載。JC08モード燃費は16.5km/L

 一方で、そうは言ってもこちらもクーペ。フロントのパッセンジャー上部を頂点に後方で落ち込むルーフラインが開口部の天地方向に制約を加えてしまうため、後席への乗降時には特に上半身にA4よりもアクロバティックな姿勢が要求されるのも間違いのない事柄。

 今回そんなスポーツバックは、最高出力252PSを発する直列4気筒2.0リッター直噴ターボエンジンを搭載する4WD仕様の「2.0TFSI クワトロsport」でテストドライブを行なった。

「2.0TFSI クワトロ sport」のインテリア。先代モデルに比べ室内長は17mm、前席ショルダールームは26mm、前席ヘッドルームは12mm、後席ニ―ルームは23mm拡大。ラゲッジスペースは486Lだが、40:20:40の3分割可倒式リアシートを倒すと1300Lまで拡大できる
多機能ディスプレイ「アウディ バーチャルコックピット」の表示例

絶対的な動力性能は文句ナシ

 同じ2.0TFSIでも、より高出力を発する心臓を搭載するのが最後に“スポーツ”の文字が加えられるグレード。252PS/370Nmという最高出力と最大トルクのスペックは、1.6t少々という車両重量に対しては十二分だ。

 4WDは必須だけれど特にスピード性能は求めない、というユーザーにはいささか過剰とも思えるほどに、絶対的な動力性能は文句ナシの水準。アクセル操作に対するリニアリティにはもう一歩の自然さを求めたくなる場面があるものの、少なくとも「加速力に不満が残る」という人は皆無に違いない。

 リニアテリティという点に関しては、ステアリングのフィーリングにも多少の不満を抱かされた。“ドライブセレクト”でパワーアシスト制御の変更が可能であるものの、いずれのモードを選択しても路面とのコンタクト感は今ひとつ。どこか人工的な印象を感じさせられることになったためだ。

 今回のテスト車は、オプション設定の「ダンピングコントロール付きスポーツサスペンション」を採用。その効果もあってか、全体的なフラット感はまずまず。ただし、その乗り味は「飛び切りしなやか」という好印象にまでは到達しなかった。

 ちなみにそんなA5 スポーツバックには、実は欧州であれば2.0リッターの4気筒に加えて、飛び切り高性能な3.0リッターの6気筒という2種類のターボ付きディーゼルエンジンも設定される。これらの魅力的な心臓がいまだ日本で選べないのは、何とも残念だ。

A5シリーズのトップグレードもテストドライブ

2ドアクーペの「S5」

 一方、同時にテストドライブを行なったのが、より正統的な2ドアクーペのボディに身を包んだ「S5」。独立した名称であるものの、同一カタログ内で扱われるなど実質的には「A5シリーズのトップグレード」がこのモデル。そして、そんなS5の走りのテイストが、単に加速力に優れるのみならず、質感すべてが他のグレードよりも圧倒的に高く感じられるというのは、実はA4に対する「S4」で経験した印象とまったく同様だった。

 搭載されるのは354PSの最高出力と500Nmの最大トルクを発する、ガソリン仕様のV型6気筒3.0リッターターボエンジン。ただし、いざスタートするとその強力さよりも「何とも静かで滑らかな加速感」こそが、まずは印象に残るものだった。

V型6気筒3.0リッターターボエンジンを搭載する「S5 クーペ」(913万円)。ボディサイズは4705×1845×1365mm(全長×全幅×全高)
エクステリアではマトリクスLEDヘッドライトを標準装備するとともに、シングルフレームグリルはマットアルミシルバーのダブルストラットを配したSモデル専用のデザインが与えられた。加えてSスポーツバンパー、マットチタニウムブラック仕上げのハニカムグリル、その上を通る垂直のブレードを備えたサイドエアインレット、シングルフレームグリルと同色になるマットトワイライトグレイを採用したリアディフューザーインサート、4本出しとなるクロームのオーバル型テールパイプなどを装備。ホイールは19インチを装着
新開発となるV型6気筒3.0リッターTFSIエンジンは最高出力260kW(354PS)/5400-6400rpm、最大トルク500Nm(51.0kgm)/1370-4500rpmを発生。0-100km/h加速は4.7秒、JC08モード燃費は12.7km/Lとアナウンスされている

 もちろん、他のA5シリーズとはエンジンそのものが異なるが、同時に組み合わされるトランスミッションがまったく異なるアイテムである点も、そんな好印象に大きく影響している模様。実は、S5が採用するのは他のモデルが採用する7速DCTとは異なり、8速のステップAT。これがより上質なスタートの演出に大きく寄与しているように感じられた。

 さらにその先速度が高まっても、細かく刻まれたギヤ比を素早く、しかしすこぶるスムーズに変速して行く様が、このモデルの走りの質感全般を大きく高めている。さらに素早い加速が必要となってアクセルペダルを深く踏み込めば、DCTに見劣りしない素早さとダイレクトな駆動力の伝達感を提供してくれることになる。

インテリアカラーはローターグレー。オプション設定の「バーチャルコックピット」「Bang & Olufsen 3Dアドバンストサウンドシステム」「ヘッドアップディスプレイ」などを装着

 テストドライブを行なったモデルは、オプションの「リヤスポーツデファレンシャル」付き。“ブレーキ片効き”の効果ではなく、増速機構を用いることで加速時にも積極的なベクタリング制御を行なうこのアイテムは、特にタイトコーナーからの脱出時にハンドリングの自在度を高める装備として、明確な威力を味わわせてくれた。

 19インチのシューズを履くゆえ、決してソフトとは言えないものの、サスペンションの動きのしなやかさはむしろ他グレードを上回る印象。

 美しさと速さ、そして上質な乗り味を兼ね備えたこのモデルは、まさに審美眼に富んだ人を満足させる“大人のクーペ”としての資質がたっぷりだ。

河村康彦

自動車専門誌編集部員を“中退”後、1985年からフリーランス活動をスタート。面白そうな自動車ネタを追っ掛けて東奔西走の日々は、ブログにて(気が向いたときに)随時公開中。現在の愛車は2013年8月末納車の981型ケイマンSに、2002年式のオリジナル型が“旧車増税”に至ったのを機に入れ替えを決断した、2009年式中古スマート……。

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Photo:高橋 学