試乗レポート

マツダ「RX-8」に見るロータリーエンジンの未来

ロータリーエンジンの特性と特異性、将来性を考えた

マツダとロータリーの歴史

「NEW RX-8導入にあたり、RENESISエンジン本体はモデルチェンジにも近いほどの大幅な変更を行いました。 ~中略~ これらは次期ロータリーエンジンの新技術の先取りともいうべきもので、RENESIS(レネシス)の着実な進化を示すものです」(原文ママ)。これは2007年10月に開催された「東京モーターショー」で、当時のマツダ取締役執行委員である金井誠太氏から発せられたコメントだ。

 文中のRENESISとは、1999年の東京モーターショーに出展されたコンセプトカー「RX-EVOLV」が初めて搭載したロータリーエンジンのこと。「新たなるロータリーエンジン(RE)の始まり(Genesis)」を意味し、RENESISの名が与えられた。このRENESISを搭載した初の市販車は、2003年に誕生した観音開きドアが特徴の4ドア4シータースポーツカー「RX-8」だ。

1999年の東京モーターショーに出展されたコンセプトカー「RX-EVOLV」

「13B-MSP」型を名乗るRENESISは、従来の「13B-REW」型(2ドアスポーツカー「RX-7」などが搭載)が採用していたペリフェラル排気ポート方式を改め、排気ポートと吸気ポートの両方をサイドハウジングに配置した革新的な構造を採用。これにより、RX-8のハイパワー版では250PS/216Nm(後に235PS/216Nm)の出力特性と、レッドゾーン9000rpm(オーバーレブ防止ブザーの鳴るストライプゾーンは8500rpm~)を許容するなど高い走行性能を誇った。また、RX-8では低・中速トルク特性を重視した210PS/222Nm(後に215PS/216Nm)のスタンダード版も用意された。

 このRENESISを搭載したRX-8は、2012年3月末時点で19万2094台を生産。2012年4月に追加で限定生産を行なった「SPIRIT R」を最後に2012年6月、静かに幕を閉じた。

RX-8 SPIRIT Rが搭載する2ローターの「13B-MSP」型エンジンは、最高出力173kW(235PS)/8200rpm、最大トルク216Nm(22.0kgfm)/5500rpmを発生。10・15モード燃費は9.4km/Lとアナウンスされていた

 文中には、もう1つ「次期ロータリーエンジンの新技術」という気になる文言がある。これこそ、電気自動車(BEV)である「MX-30」をベースにした距離延長(レンジ・エクステンダー)型BEVが搭載する新型ロータリーエンジンと深く関係しているのではないかと筆者は推察している。

 MX-30は、すでに2020年5月から欧州向けの生産が広島でスタートしていて、2020年度中には日本市場にも導入される新型のBEV。SUVクーペ調の外観(先ごろ発表されたシトロエン新型「C4」と方向性を同じくするデザイン。BEVあり)で、RX-8と同じく観音開きドアを採用する。日本ではまずは直噴ガソリンエンジン「SKYACTIV-G 2.0」に独自の「M HYBRID (エムハイブリッド)」を組み合わせるマイルドハイブリッド仕様が導入され、その後スタンダードのBEV、レンジ・エクステンダー仕様と続く。

マイルドハイブリッド仕様の「MX-30」

 マツダは2007年の時点で、この次期ロータリーエンジンを「次世代RENESIS/ロータリーエンジン16X」として概要を発表。それによると、従来型RENESISとの大きな違いは、熱効率の向上と全回転域でのトルクアップを目指すことを目的に、ローターハウジング幅と厚さを縮小しながらトロコイド外形を拡大したことだ。これにより、排気量は1ローターあたり654ccから800ccへと拡大する。

 加えて次世代RENESISは直噴化される。仮に発表された概要のまま市販化されるとすれば、ガソリンロータリーエンジン初の直噴となる。マツダは長年、水素ガスを直接噴射する「ハイドロジェンロータリーエンジン」の実証実験を世界各国で行なっており、そこで培ってきた設計思想を元にガソリンロータリー直噴は実現した。

 MX-30のレンジ・エクステンダー仕様の存在は明らかだ。このことは筆者が2019年9月13日にCar Watchへ寄稿した「e-TPV試乗レポート」でも述べている。

外観が「CX-30」のプロトタイプEV「e-TPV」

 マツダはMX-30の新型電動プラットフォームを核にして、まずはBEV仕様を欧州市場に導入。その後、前述したM HYBRIDに続いて日本市場でBEV仕様のリース販売を行なう。

 このBEVに続く、レンジ・エクステンダー仕様/プラグインハイブリッド仕様/シリーズハイブリッド仕様では3タイプの電動化ユニットを成立させるため、内燃機関(ICE)であるロータリーエンジンをそれぞれが搭載する。

 3タイプの電動化システムは、ジェネレーター出力/バッテリー容量/ガソリンタンク容量の3要素をそれぞれ可変させながら対応。レンジ・エクステンダー仕様では、ジェネレーター「小」/バッテリー「大」/ガソリンタンク「小」。プラグインハイブリッド仕様では、ジェネレーター「大」/バッテリー「中」/ガソリンタンク「大」。シリーズハイブリッド仕様では、ジェンネレーター「大」/バッテリー「小」/ガソリンタンク「大」といった具合だ。

 ロータリーエンジンと組み合わされる電動化ユニットを搭載したMX-30が日本市場に導入されるまでには相応の時間がかかる。しかしながら、次世代RENESISへの期待は高まる。マツダが過去に市販してきたロータリーエンジン同様に、次世代RENESISも基本的な構造を変えずに多種多様な燃料を燃焼させることができるからだ。これは実質的な持続可能社会に向けた取り組みとしても評価されている。

 ロータリーエンジンでは、ガソリンのほかLPG(液化石油ガス)、CNG(圧縮天然ガス)、H(水素)を燃料として燃焼させることができる。このうちマツダは、水素を燃料として燃焼させる水素ロータリーエンジンに早くから着目していた。理由の1つに、水素を燃焼させ走行した際には二酸化炭素(CO2)の発生がゼロで、さらに窒素酸化物(NOx)にしても発生量が少ないことが挙げられる。さらに水素は単位重量当たりの発熱量がガソリンの約2.7倍(出典:岩谷産業)とも言われている。こうした事実から、水素は燃やしても環境負荷が低く高効率なエネルギーであることが分かる。

 マツダは水素ロータリーエンジンを搭載した第1号車である「HR-X」を1991年に発表。1993年には「HR-X2」に進化させると同時に、初代「ロードスター」に水素ロータリーエンジンを搭載した実験車を開発する。1995年には実証実験も進み、水素ロータリーエンジンを搭載した「カペラカーゴ」(ステーションワゴン)で日本初の公道走行テストを行なっている。

「HR-X」
「HR-X2」
水素ロータリーエンジンを搭載した初代ロードスター(左)とカペラカーゴ(右)

 2003年には、市場導入したばかりのRX-8に水素ロータリーエンジンを搭載して東京モーターショーに出展、翌2004年には同車両での公道走行テストを行なう。2005年にはコンパクトミニバン「プレマシー」に「ハイドロジェンREハイブリッドコンセプト」として、水素ロータリーエンジン&ハイブリッドシステムを完成させ、2006年にはそのコンポーネンツをRX-8に搭載し、「RX-8ハイドロジェンRE」として世界初のリース販売を行なった。このRX-8ハイドロジェンREは、水素だけでなく通常のガソリンを燃料として燃焼させて走る「デュアルフューエルシステム」を採用していた。

プレマシー ハイドロジェンREハイブリッド(岩谷産業向け)
RX-8 ハイドロジェンRE

 こうしたマツダの歩みを見ていると、ロータリーエンジンの開発と市場導入を積極的に行なってきたことが分かる。クーペ、セダン、マイクロバスと搭載車種を増やしていった経緯からも、最適なロータリーエンジン搭載モデルの模索が当時から始まっていたのだ。そう考えると、MX-30のマルチ電動化を支えるICEとしてロータリーエンジンが選ばれたことは自然の成り行きなのだろう。

気持ちのよい加速特性は病みつき

 さらに今回、改めてRX-8の最終限定モデル「SPIRIT R」(235PS/216Nm)に試乗して、ロータリーエンジンの特性と特異性、そして将来性について考えさせられた。

 ロータリーエンジンの特徴はいくつかあるが、その基本的なところは以下の通り。①一般的なレシプロエンジンに不可欠な動弁機構がないため部品点数が少なく軽量。②ローター軸1回転につき出力軸が3回転。③出力軸が1回転で燃焼が1回(ローター軸1回転で燃焼が3回)なので高出力。④ローターの回転には慣性力の不均衡がなく高回転でもスムーズ。⑤燃費数値の改善が難しい。

 これらを踏まえ、現時点での最終ロータリーエンジン搭載車であるRX-8に乗ってみると、構造的な難しさはさておいて、非常にマナーのよい、そして楽しいエンジンであることが分かる。

RX-8の最終限定モデル「SPIRIT R」のボディサイズは4470×1770×1340mm(全長×全幅×全高)で、車両重量は1350kg。ボディカラーはアルミニウムメタリック
撮影車は19インチアルミホイールにブリヂストン「POTENZA RE050A」(225/40R19)を装着
SPIRIT Rのインテリア。トランスミッションは6速MT

 RX-7の13B-REW型ロータリーから約20%軽くなったフライホイールを用いたRX-8の13B-MSP型では、発進時のクラッチミートこそ気を使うものの、そこからはフラットなトルク特性(1500rpmで最大トルクの約70%を発生)と、レッドゾーンまで一直線で伸びる加速特性が味わえ、じつに気持ちがいい。220kmほど試乗して燃費数値はほぼ10km/L。渋滞した一般道路も走行し、高速道路では時折、低速ギヤで8500rpmのストライプゾーンのブザーを鳴らしながら、スムーズなエンジン回転上昇を何度も堪能した割には納得できる数値だ。

 現時点では残念ながら、将来的にMX-30にロータリーエンジンが搭載されても電動化を支える発電用の動力源となるため、RX-8で堪能したように素のままのロータリーエンジンを味わうことができない。ただ、静かで滑らかな回転フィールは発電用となっても美点として残る。

 発電用ともなれば、システムから要求される電流や電圧の値などから常用回転数/出力が決まる。その点ロータリーエンジンは、スムーズなエンジン始動から常用回転域で低く抑えられる振動特性、耳に優しいエンジンの音色(とくに低・中回転域)などから上質さがグンと高まるはずだ。さらに、一定の回転数を保った際の燃費数値はレシプロエンジンと比較してもわるくなく、小型で軽いことから搭載車を選ばない。

 マツダが発表するロータリーレンジ・エクステンダー仕様のプロトタイプ資料には、レシプロ/ロータリーの両エンジン(排気量や出力特性は不明だが同水準と推測)が、それぞれ出力10kWを発生するポイントでの車内音を比較したグラフが掲載されている。それによると、レシプロが2400rpmであるところ、ロータリーは1500rpmで計測され、125Hz~1000Hzに至るまでロータリーエンジンの騒音レベルが低いことが読み取れる。

 このことから、ロータリーレンジ・エクステンダー仕様(プロトタイプ)におけるロータリーエンジンが常用する回転数は1500rpmであり、それはレシプロエンジンと比較して約40%低く、その際のエンジン騒音レベルもレシプロエンジンよりも低いことが分かる。つまり、同じレンジ・エクステンダー仕様でもロータリーエンジン搭載車は、シリンダー数により違いがあるにせよレシプロエンジン搭載車より静かな傾向にある。

 ところで、筆者が2019年に試乗したe-TPV(CX-30のボディをまとった事実上のMX-30)では、シャーシのみの展示であったが、ロータリーレンジ・エクステンダー仕様が実在していた。

 BEVであるe-TPVのボンネットフードを開けると右側がガランとしていたが、レンジ・エクステンダー仕様はロータリーエンジンのハウジングが1ローター分、しっかりと搭載されていた。見た目、従来型RENESISと変わらずコンパクトで、排気マフラーは非常に短いエキゾーストパイプとひょうたん型をした触媒とともにエンジンルーム直下、右前輪タイヤ左後方に設けられていた。考えてみれば、車両後方までエキゾーストパイプを延長する必要がないわけで、じつに合理的。ただ、キャビン直下に配置されるため、車内に透過する排気音のコントロールは大変そうだ。

e-TPV
e-TPVのマフラー部。鏡に映っているもので左右が反転している
右下がロータリーエンジン

 2015年の東京モーターショーではコンセプトカー「MAZDA RX-VISION」が発表された。搭載エンジンは、これまで次世代RENESISと呼ばれていたロータリーエンジンで、「SKYACTIV-R」と新たに命名。国内外のロータリーファンの注目を集めた。100周年を迎えたマツダには、SPCCIエンジンである「SKYACTIV-X」の飛躍とともに、電動化と組み合わせたロータリーエンジンの導入、そしてその先にはSKYACTIV-Rとして真の意味での復活を期待したい。

2015年の東京モーターショーで公開されたコンセプトカー「MAZDA RX-VISION」

西村直人:NAC

1972年東京生まれ。交通コメンテーター。得意分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためWRカーやF1、さらには2輪界のF1であるMotoGPマシンの試乗をこなしつつ、4&2輪の草レースにも参戦。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)理事、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。著書に「2020年、人工知能は車を運転するのか 〜自動運転の現在・過去・未来〜」(インプレス)などがある。

Photo:堤晋一