試乗レポート

アウディ「e-tron GT クワトロ」、多くのコンポーネンツを共用するポルシェ「タイカン」との違いとは

ポルシェ「タイカン」とは異なるどっしりとした乗り味

 アウディとしては第二の市販ピュアEVとなる「e-tron GT」。そのコンポーネンツの多くをポルシェ「タイカン」と共用するだけに、何かと両者は比較される立場にあるが、その前にまずアウディがクーペスタイルの4ドアセダン形式を取って来たことに、筆者は面白みを感じた。

 なぜならいまやSUV色の強いアウディも速いワゴン、即ち“アバント”というスタイルこそがその一時代を築いた強烈なアイコンであり、セダンタイプのボディは未だにどちらかといえば、“通な選択”だと言えるからだ。

ベースグレードとなる「e-tron GT クワトロ」のボディサイズは4990×1965×1415mm(全長×全幅×全高)。ホイールベースは2900mm。トレッドはフロントが1710mmでリアが1695mm。車両重量は2280kg。価格は1399万円
2つの電気モーターを搭載し、システム最高出力は350kW(ローンチコントロール使用時は390kW)、最大トルク640Nm。駆動用バッテリの総電圧は723V/総電力量は93.4kWh。一充電走行距離は534km(WLTCモード)
標準装備では5セグメント エアロデザインホイール(フロント8J×19&タイヤサイズ225/55R19、リア10J×19&タイヤサイズ275/45R19)を履くが、撮影車両はオプションの5スポーク エアロモジュールブラックホイール(フロント9J×20&タイヤサイズ245/45R20、リア11J×20&タイヤサイズ285/40R20)を装着
ナンバープレートの下にはカメラやセンサー類を装備
特徴的なデザインのLEDリアコンビネーションライトを採用。また、流れるような動きで視認性の高いダイナミックターンインディケーター(ウィンカー)も搭載する
スリムなシルエットに加え、リアセクション下部はディフューザー形状が用いられCd値(空気抵抗係数)は0.24を実現している

 しかし、こうした理由も少し考えれば察しがつく。すでにアウディはe-tronシリーズでSUVボディを先行発売しており、さらにコンパクトSUVにおいても「Q4 e-tron」をデビューさせている。つまり実用性能としてアウディは、ワゴンよりもSUVを選んだことになる。さらにこのSUVには、スポーツバックという選択もある。

 かたやポルシェはタイカンを、形式的にはセダン形状ながら、コンセプトとしては「EVスポーツカー」としてデビューさせた。そしてその後に「クロスツーリズモ」として、クロスオーバー的なワゴン・ボディ“CUV”(クロスオーバー・ユーティリティ・ビークル)を付け加えた。

 今後アウディも十八番であるアバント仕様のe-tronを出すかもしれないが、とりあえず現状はお互いのバッティングを、上手に回避していると言うことができるのだろう。

ドライバーの操作性を徹底的に考慮し包み込むようにデザインされたコックピット
ゆとりのあるリアシートなど快適性と静粛性をバランスさせた室内。レザーを使用せずに、人工皮革とリサイクル素材から抽出したポリエステル繊維などをシートや車内各部に採用するレザーフリーパッケージも設定している
前席から後部席パノラマサンルーフを採用。スペシャルオプションの「カーボンパッケージ」を選択するとルーフは10kg軽いカーボン製となる
フロントトランクも完備
トランク容量は405L(VDA値)
200Vの普通充電で8kWまで、急速充電CHAdeMOでは150kWまで対応。90kWの急速充電では30分で250km以上の走行が可能という

 そんなe-tron GTは、ひとこと「美しい」という言葉が合う4ドアクーペに仕上がっていた。5mをわずかに切る全長、そのスケールを伸びやかに使い切ったデザインには、ホイールベースがやや長いこと以外ほとんど無理がなく、20インチ40扁平の大きくボリューミーなタイヤをさらりと履きこなしている。

5m近い全長を活かした美しいデザインに仕上がっている4ドアクーペだ

乗り味的にも、タイカンとはうまく差別化を図っている。

 e-tron GTには現状「e-tron GT クワトロ」と「RS e-tron GT」の2種類があり、今回試乗したのは前者。駆動方式は4WDのみで、クワトロ/RS共にフロントに350kW/640Nm(ローンチコントロール使用時は390kW)、リアに440kW/830Nm(同475kW)のモーターを備え、これを機械式クワトロシステムに対して5倍の速さで反応する、電気式クワトロによって制御する。

 バッテリシステムは総容量が93.4kwhで、タイカンでいう「パフォーマンスバッテリ」と同等。しかしその航続距離は同じ4輪駆動のタイカン4S(463km)に対して、534kmとかなり長い(RSも同様)。

車両前後に配置された2基のモーターがそれぞれ前輪と後輪を駆動する、新世代の電動4WDシステム「エレクトリック クワトロ」を搭載。さまざまな走行状況に応じて予測的に前後のトルク配分を100:0から0:100まで連続的かつ完全可変的に変化させ、あらゆる路面状況で最適な走りを実現。その反応速度は機械式のクワトロシステムの約5倍の速さという

 オーバーブースト時530PS/640Nmのパワー&トルクをフラットアウトした印象はしかし、驚き慌てるほどの加速力ではなかった。4輪のモーターがその出力を最善の効率で路面に伝えている制御のおかげもあるだろうが、ここには2tを超える車重が大きく影響しているように感じられた。0-100km/h加速4.1秒という数字通りの印象で、エキゾチックな加速を求めるなら646PS/830Nmの「RS」を選ぶ方がよさそうである。

 とはいえ日常的な走りではこれが十分パワフルであり、アクセル操作に対するリニアな反応と速さを、4WDを軸とした制御で隙なく安全に提供してくれるその走りは、次世代の高級感を先取りしている。

 試乗車は金属スプリングと可変ダンパーの組み合わせだが(RSはエアサス)、その乗り味はタイカンの軽やかさに比べてどっしりと重厚で、重心の低さをキャラクターとしてはっきりと訴えてくる。

10.1インチのMMIナビゲーション。タッチディスプレイで車両のセッティングやインフォテイメントを直感的に操作できるほか、精度の高いボイスコントロールも搭載していて、目的地の入力やエアコンの温度設定などが容易に行なえる
高解像度12.3インチカラー液晶フルデジタルディスプレイの「バーチャルコクピット」は、ドライバーに必要な情報を常に表示。MMIナビゲーションとは異なる縮尺の地図を表示することも可能。デザインは「クラシック」「e-tron」「スポーツ」の3つから選べる

 ちなみに筆者はこのGTを富士スピードウェイで走らせた経験があるのだが、超高速領域下においてもそのキャラクターは一環していた。タイカンの狙い澄ますかのような操舵応答性の高さに対して、e-tron GTはタイヤがぺったりと路面をつかんで、しなやかなロールと共に高い速度を保ちながら旋回して行く。速度を高めるほどにそのどっしり感が、しなやかさへと転じて行く質感の高さが秀逸である。

 e-tron GTのステアリングにはパドルが存在し、高速巡航における車間調整もイージーに行なえる。また下り坂を利用すればその航続距離を、徐々にだが増やすこともできる。この回生力の高さも、e-tron GTの魅力である。

回生システムは2基の電気モーターを使用したブレーキコントロールシステムを活用。最大0.3Gまでの減速には通常のブレーキは使用せず、電気モーターだけでエネルギーを回生する

 とはいえ内燃機関、特にディーゼル・ターボやPHEVの強烈な航続距離の長さと比べてしまうと、まだまだ長距離移動に対する自由度は低い。エアコンのオン/オフだけで20km以上も航続距離が変わるし、高速巡航でもアップダウンが激しいステージでは、行きと帰りでバッテリ消費量の違いが如実に出てくる。実走行距離およそ7割(370kmほど)と考えれば、休憩がてらの充電で十分遠出も可能だが、場所によっては充電器側のキャパシティが小さく、30分の急速充電では大幅なチャージを期待できない場合もあり、こまめな充電を心理的に迫られることも少なくない。

 本来高級車とは、こうしたわずらわしさがないことが1つの魅力であった。しかし現状EVはインフラなどの理由から、スマホやナビを計画的に使いこなす賢さが求められる。だから筆者のようなずぼらなドライバーには、大きなバッテリを搭載したe-tron GTでさえ、まだまだ少しハードルが高い。

 逆を言えば、こうしたEV黎明期におけるインフラの整わなさに対し、おおらかに対応できる時間に余裕のある人にこそ、時代を先取りする権利があるのかもしれない。

山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身
A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。

自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。
編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してSUPER GTなどのレースレポートや、ドライビングスクールでの講師活動も行なう。

Photo:高橋 学