試乗レポート
アウディ「e-tron GT クワトロ」、多くのコンポーネンツを共用するポルシェ「タイカン」との違いとは
2022年3月4日 07:00
ポルシェ「タイカン」とは異なるどっしりとした乗り味
アウディとしては第二の市販ピュアEVとなる「e-tron GT」。そのコンポーネンツの多くをポルシェ「タイカン」と共用するだけに、何かと両者は比較される立場にあるが、その前にまずアウディがクーペスタイルの4ドアセダン形式を取って来たことに、筆者は面白みを感じた。
なぜならいまやSUV色の強いアウディも速いワゴン、即ち“アバント”というスタイルこそがその一時代を築いた強烈なアイコンであり、セダンタイプのボディは未だにどちらかといえば、“通な選択”だと言えるからだ。
しかし、こうした理由も少し考えれば察しがつく。すでにアウディはe-tronシリーズでSUVボディを先行発売しており、さらにコンパクトSUVにおいても「Q4 e-tron」をデビューさせている。つまり実用性能としてアウディは、ワゴンよりもSUVを選んだことになる。さらにこのSUVには、スポーツバックという選択もある。
かたやポルシェはタイカンを、形式的にはセダン形状ながら、コンセプトとしては「EVスポーツカー」としてデビューさせた。そしてその後に「クロスツーリズモ」として、クロスオーバー的なワゴン・ボディ“CUV”(クロスオーバー・ユーティリティ・ビークル)を付け加えた。
今後アウディも十八番であるアバント仕様のe-tronを出すかもしれないが、とりあえず現状はお互いのバッティングを、上手に回避していると言うことができるのだろう。
そんなe-tron GTは、ひとこと「美しい」という言葉が合う4ドアクーペに仕上がっていた。5mをわずかに切る全長、そのスケールを伸びやかに使い切ったデザインには、ホイールベースがやや長いこと以外ほとんど無理がなく、20インチ40扁平の大きくボリューミーなタイヤをさらりと履きこなしている。
乗り味的にも、タイカンとはうまく差別化を図っている。
e-tron GTには現状「e-tron GT クワトロ」と「RS e-tron GT」の2種類があり、今回試乗したのは前者。駆動方式は4WDのみで、クワトロ/RS共にフロントに350kW/640Nm(ローンチコントロール使用時は390kW)、リアに440kW/830Nm(同475kW)のモーターを備え、これを機械式クワトロシステムに対して5倍の速さで反応する、電気式クワトロによって制御する。
バッテリシステムは総容量が93.4kwhで、タイカンでいう「パフォーマンスバッテリ」と同等。しかしその航続距離は同じ4輪駆動のタイカン4S(463km)に対して、534kmとかなり長い(RSも同様)。
オーバーブースト時530PS/640Nmのパワー&トルクをフラットアウトした印象はしかし、驚き慌てるほどの加速力ではなかった。4輪のモーターがその出力を最善の効率で路面に伝えている制御のおかげもあるだろうが、ここには2tを超える車重が大きく影響しているように感じられた。0-100km/h加速4.1秒という数字通りの印象で、エキゾチックな加速を求めるなら646PS/830Nmの「RS」を選ぶ方がよさそうである。
とはいえ日常的な走りではこれが十分パワフルであり、アクセル操作に対するリニアな反応と速さを、4WDを軸とした制御で隙なく安全に提供してくれるその走りは、次世代の高級感を先取りしている。
試乗車は金属スプリングと可変ダンパーの組み合わせだが(RSはエアサス)、その乗り味はタイカンの軽やかさに比べてどっしりと重厚で、重心の低さをキャラクターとしてはっきりと訴えてくる。
ちなみに筆者はこのGTを富士スピードウェイで走らせた経験があるのだが、超高速領域下においてもそのキャラクターは一環していた。タイカンの狙い澄ますかのような操舵応答性の高さに対して、e-tron GTはタイヤがぺったりと路面をつかんで、しなやかなロールと共に高い速度を保ちながら旋回して行く。速度を高めるほどにそのどっしり感が、しなやかさへと転じて行く質感の高さが秀逸である。
e-tron GTのステアリングにはパドルが存在し、高速巡航における車間調整もイージーに行なえる。また下り坂を利用すればその航続距離を、徐々にだが増やすこともできる。この回生力の高さも、e-tron GTの魅力である。
とはいえ内燃機関、特にディーゼル・ターボやPHEVの強烈な航続距離の長さと比べてしまうと、まだまだ長距離移動に対する自由度は低い。エアコンのオン/オフだけで20km以上も航続距離が変わるし、高速巡航でもアップダウンが激しいステージでは、行きと帰りでバッテリ消費量の違いが如実に出てくる。実走行距離およそ7割(370kmほど)と考えれば、休憩がてらの充電で十分遠出も可能だが、場所によっては充電器側のキャパシティが小さく、30分の急速充電では大幅なチャージを期待できない場合もあり、こまめな充電を心理的に迫られることも少なくない。
本来高級車とは、こうしたわずらわしさがないことが1つの魅力であった。しかし現状EVはインフラなどの理由から、スマホやナビを計画的に使いこなす賢さが求められる。だから筆者のようなずぼらなドライバーには、大きなバッテリを搭載したe-tron GTでさえ、まだまだ少しハードルが高い。
逆を言えば、こうしたEV黎明期におけるインフラの整わなさに対し、おおらかに対応できる時間に余裕のある人にこそ、時代を先取りする権利があるのかもしれない。