試乗記

メルセデス EQシリーズの新型「EQE」試乗 スポーツバージョン「メルセデス AMG EQE 53 4MATIC+」は圧巻のパフォーマンス

スポーツバージョン「メルセデス AMG EQE 53 4MATIC+」に試乗

未来感のある独特なスタイル

 メルセデス・ベンツはBEV(バッテリ電気自動車)のEQシリーズを着々と充実させている。「EQC」から始まったBEVシリーズは既存のプラットフォームの転用からスタートしたが、2022年の「EQS」を皮切りにいよいよBEV専用設計のプラットフォームを使ったモデルが続々と登場した。ここで紹介するのは「EQE」で、文字通りICEシリーズの中でEクラスに相当するモデルになる。

 プラットフォームはEQSと同じBEV専用をベースにEQEに合わせてホイールベースを90mm短くしているが、それでもタイヤを4隅に置いたBEVならではのレイアウトで3120mmと超ロングホイールベースとなっている。

 ボディサイズは4955×1905×1495mm(全長×全幅×全高)とビッグサイズ。デザインはEQSとの近似性のあるヌッペリとした地を這うような形状でEQシリーズとすぐに分かる。カテゴリーとしてはトランクのある4ドアセダンだが未来感のある独特なスタイルだ。駆動方式はRWDとAWDがあり、試乗車はスポーツバージョンの「メルセデス AMG EQE 53 4MATIC+」。前後にモーターを持つ4WDである。

 BEV専用プラットフォームに組み込まれたバッテリの容量は90.6kWh。航続距離はWLTCモードで549kmとなっている。一方、出力が小さいモーターを持ち、後輪を駆動する「EQE 350+」は同じバッテリで航続距離は624kmと長くなる。

 試乗車はフロントに165kW/346Nm、リアに295kW/609Nmのモーターを積み、2510kgの車両重量がある。これを支えるタイヤはピレリP ZERO。フロントに265/40R20、リアに295/35R20という大径でワイドなサイズだ。

今回試乗したのは2022年9月に受注を開始したメルセデス EQ初のミドルサイズセダン「EQE」。試乗グレードはスポーツバージョンの「メルセデス AMG EQE 53 4MATIC+」(1922万円)で、ボディサイズは4955×1905×1495mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは3120mm。システムの最高出力は460kW、最大トルクは950Nmで、RACE START時は505kW/1000Nmまで向上
EQEのエクステリアデザインは、「ワン・ボウ」(弓)のラインのほかキャブフォワードデザインを取り入れたスポーティなデザインが特徴となっており、「EQS」よりもホイールベースが短く、ボディサイドがより絞り込まれる。足下は20インチホイールにピレリP ZERO(フロント:265/40R20、リア:295/35R20)をセット。なお、日本仕様の特別な機能として、EQEから車外へ電力を供給できる双方向充電を可能にした。EQEは家庭の太陽光発電システムで発電した電気の貯蔵装置となるほか、停電した場合などに電気を家庭に送る予備電源としても利用できるという

 キャビンレイアウトもBEVの特徴を活かして自由自在だ。前後に長くどのシートに座っても足下は広々としている。一方でドライバーズシートからは傾斜の強いフロントウィンドウで切り取られたような景色が広がるが、低いノーズのために閉塞感はない。ただ絞り込まれたルーフデザインでヘッドクリアランスはICEのEクラスほどではなく、ラゲッジルームの容量も小さい。

 MBUXを使いやすくするためにデザインされたようなインターフェースも3つのディスプレイを通して多くの情報を選択できる。これらの選択もメルセデスらしく容易で使い勝手もさらに向上した(オーディオなどのリアルスイッチは残してほしいところだが)。また音声認識に優れており、充電ステーションを探すのも簡単になった。さらに次の充電ステーションまでの地形、気温を予測してどこで充電すべきかの案内もしてくれる。

インテリアデザインではデジタルな要素を取り入れた。EQE 53にオプション設定のMBUXハイパースクリーンはEQEの象徴的な装備の1つで、3枚の高精細パネル(コクピットディスプレイ、有機ELメディアディスプレイ、有機ELフロントディスプレイ[助手席])とダッシュボード全体を1枚のガラスで覆うワイドスクリーンで構成される。そのまわりを細いシルバーのフレーム、エアアウトレットを組み込んだルーバー状のトリムなどが囲む。また、センターコンソールの前部はダッシュボードにつながり、下側は宙に浮いたような構造を採用した

圧倒的な加速と小回り性のよさ

 動力性能では加速は圧倒的だ。ダイナミックパッケージでは1000Nmに及ぶ全力を出すと0-100km/h加速は3.3秒と言われ、非現実的な世界だ。このパフォーマンスを発揮できる場所はクローズド空間しかなさそうだ。

 ドライブモードはComfort、Slippery、Sports、Sports+、Indvidualが選択でき、それぞれ使える出力制限が行なわれる。例えばSlpperyモードでは出力を50%にカットする。ただしドライバーがフルアクセルにするとその意思を反映して100%の出力が開放される。しかしじゃじゃ馬かと言えば全くそのようなことはなく、普段はBEVらしい静かで振動の少ない穏やかな空間の中で市街地をのんびり流せ、リラックスできるクルマだ。

ドライブモードの選択画面

 市街地でのもう1つの利便は小回り性。超ロングホイールベースに対応してリアステアリングを標準装備しており、後輪は最大逆相に3.5度切れ、最小回転半径は5.7m。ミドルサイズセダンよりも小さい。ちなみにRWDのEQE 350+では最大10度の逆相となり、最小回転半径は4.9mでコンパクトカー並みとなる。EQSでも経験したが、市街地でサイズへのストレスが大幅に減少する。

 ただ乗り心地はAMG仕様とあって少し硬めの設定。それでも巨大なタイヤサイズの割にはショックをよく吸収して、路面の凹凸を正直に感じられるが跳ね上げられるような突き上げは小さい。滑らかな乗り心地はEQE 350+に期待した方がよさそうだ。

 ワンサイズ大きいEQSでは標準のRWDとメルセデスAMGの4WDでは乗り味はガラリと変わっており、RWDでは伝統のメルセデスのゆったり滑らかな味が受け継がれて、メルセデスAMGでは大型GTらしい腰の硬いドライブフィールになっていた。EQEでも異なる味付けにされている可能性は大きい。

 ドライブフィールはスポーツカーの機敏さよりもどっしりとした重量級GTらしい味付けになっていた。低中速域でハンドル操作に対して動きが鈍いのだ。もちろん車体センターに低重心で置かれたバッテリ配置による安定性やエアサスの巧妙な制御、4輪の絶妙な駆動力配分など、2.5tの重量級GTにふさわしいポテンシャルの高さを感じ、それはそれでさすがと頷かせるところが多い。しかし一般的な郊外路では、重量とそれを支える大きなタイヤサイズが動きを鈍くさせているようだ。東名高速の山北付近の曲がりくねったコースではこの安定感をもっとも強く感じることができそうだ。

 ADAS系はBEVと親和性が高く、ACC作動時には前車との車間距離を微妙にコントロールするのにも適している。停車した場合も30秒以内なら再スタートを自動的に行なえる。さらにリリースによると先行車とその左右のレーンをカメラとレーダーが認識しており、突然停止している先行車を発見した場合、緊急ブレーキを作動させる。かなり前から前方を監視しており安全へのマージンは大きい。幸いこの機能を試すチャンスはなかったが、歩行者や右左折での前方認識など先進運転支援システムの進化は早く、EQEには最新のシステムが搭載されている。

 充電は6kWまでの交流普通充電と150kWまでの直流急速充電に対応しており、50kW急速充電の30分充電だと約29%の充電量とされる。実際の場面ではすべてディスプレイに表示されるので気温や充電量に応じた状態を知ることができ、BEVの実用性は上がっている。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:堤晋一