インプレッション
スバル「フォレスター」(2015年改良モデル)
Text by 岡本幸一郎(2015/11/16 00:00)
内外装がより見栄えよくなった
「乗用車進化型SUV」として1997年に誕生したスバル(富士重工業)「フォレスター」は、今ほどSUVが主流ではなかった中でも安定した人気を獲得し、一躍スバルにとって主力の1台となった。続く2002年に登場した2代目はキープコンセプト。ところが2007年発売の3代目では一気に車高が高められ、よりSUVらしいクルマへと生まれ変わった。
そして2012年にモデルチェンジした現行の4代目は、基本パッケージは3代目を踏襲しつつ、「SUVとしての本質的な価値の実現」をテーマに開発された。現状、スバルはラインアップ数があまり多くない中で、「アウトバック」「フォレスター」「XV」という3モデルのSUVを展開しており、その中でも中間サイズのフォレスターがもっとも本格的なSUVに位置づけられている。
そんな現行フォレスターの登場から3年が経過した今回の大幅改良は、デザインの刷新、走りの進化、安全性能の向上という3点がポイントだ。
エクステリアは、もともと眼力の強いヘッドランプや大型のヘキサゴングリルなど、最近のスバル車に共通するデザインモチーフが盛り込まれていたフロントフェイスが今回さらにリフレッシュされ、より個性が際立ったように映る。DITを積む「XT」には、より印象の強いフェイスが与えられているのもこれまでどおりだ。
インテリアも質感が大きく向上したことを実感する。また、運転席メモリー機能やリアシートヒーターの設定、パワーリアゲートのスイッチへの照明の追加など、実際に使う上でありがたい装備が充実したのも今回の改良による大きな進化点の1つだ。
フットワークが激変
実際に走ってみても、従来との違いは予想よりも大きかった。まず静粛性が高まっていることを実感する。今回の改良でガラスの板厚UPやシールの強化、パワートレーン系の改良など、各部に施されたことが着実に効いているようだ。
もっとも印象的だったのはハンドンリングの変化だ。従来も軽快な走り味ではあったものの、ステアリングフィールはいささか軽薄な気もして、走りに落ち着きのない印象があった。今回、ステアリングギア比が従来の15.5:1から14.0:1へとクイックにされたので、その傾向が助長されるのではと思っていたのだが、実際には逆。キビキビしながらもステアリングの切り始めに適度な“タメ”があり、走りに一体感があるので、クルマの動きがとても分かりやすい。とても上質な走り味になっていたのだ。
むろん、これにはサスペンションのバネ定数や減衰力の最適化も効いていることに違いない。従来はやや突っ張った印象があったところ、ロール感はより素直になっている。フォレスターのように重心の高いクルマであればなおのこと、改良後の味付けのほうが修正舵が少なくて済むし、同乗者を不快に感じさせる挙動が出にくいはずだ。
乗り心地も従来からわるくなかったと思うが、フラット感が増している。2.0i-Lのほうが当たりがソフトで万人向け。2.0XTは、2.0i-Lに比べるとやや硬さを感じるものの、姿勢変化が小さく抑えられていて、スポーツカーのごとく切れ味鋭いコーナリングを楽しめる。それぞれキャラクターに合わせて相応しい味付けが施されている。
より進化したDIT車の変速制御
動力性能について、DITを積む「XT」には大きな変化があった。これまでもSI-DRIVEをS#モードにセットすると、アクセルレスポンスが鋭くなるだけでなく、CVTでもATのような段付き感のある変速フィールとなっていたのだが、そのほかのモードにもオートステップ変速制御が採用された。やはりこちらのほうが人間の感性にマッチしているように思う。
さらにS#モードでは、8段ステップ変速がクロスレシオ化された。瞬発力が増し、ギア比も接近するのだから、積極的に走りを楽しもうというときに、S#モードは大いに期待に応えてくれる。
また、とくに変更は伝えられていないが、従来は極低回転域のピックアップがよろしくなく、低~中速走行時に速度のコントロールがしにくい傾向が見受けられたのだが、心なしかよくなっているように感じられた。なお、自然吸気エンジン車では燃費の向上が図られていることも報告しておきたい。
X-MODEについては、久々に試すことができたのだが、やはりこれがあると悪路で楽に発進できることをあらためて確認できた。エンジン、リニアトロニック、AWD、VDCなどを最適に統合制御して悪路走破性を高めるという機構で、具体的にはまずセンターデフのイニシャルトルクを高めて前後の差回転をなくし、その上で左右のブレーキLSDを強化して左右の差回転をなくして走破性を高めるという動作を行う。
さらに、低めのギアを保持したまま、スリップしないよう初期のトルクを緩やかに立ち上げ、トルコンをスリップさせてロックアップを遅らせるよう制御し、40km/hまで作動する。X-MODEは雪道など条件のわるい路面が不得手なユーザーにとって心強い味方になってくれることだろう。
安全性能の向上については「EyeSight(アイサイト)」の進化が大きい。撮影時は試していないが、操舵支援機能の恩恵や、プリクラッシュブレーキやACCの性能向上は、すでに他モデルで確認済み。さらに、アイサイトのステレオカメラで正確に前方車両を検知し、ハイビームの照射範囲を滑らかに無段階調整する「アダプティブドライビングビーム」や、1灯でハイビームとロービームを切り替えられる「LEDハイ&ロービームランプ」、操舵に合わせて光軸を左右に動かす「ステアリング連動ヘッドランプ」など、灯火類にもスバル車初となる諸機能が設定されたのもポイントだ。いずれも実際に使う上で非常に有益なものであることは間違いない。
このように当初の開発コンセプトである「SUVとしての本質的な価値」に加えて、洗練された走りとデザイン、装備の充実という大きな価値を手に入れた改良後のフォレスターは、より誰にでも薦められるクルマに成長したと思う。