試乗記

スバルの目指すクルマづくりとは? 企画から1年で完成したバッテリEVの試作車に試乗!

開発ステップを半分に短縮した開発試作車に乗れた

「Performance-E STI concept」が現実味を帯びてきた!?

“待ったなし”の環境性能対応を求められながらも、中国や北米の一部を除いて完全なEVシフトは時期尚早という見方が主流になりつつある。欧米自動車メーカーに至っては矢継ぎ早に内燃機関の延命を宣言し、結局は日本メーカーが推進していたハイブリッド化への道を一時しのぎとはいえ歩み出すなど、混沌とした状況になっている現在の自動車マーケット。

 こうした不確実な市場で生き抜くために、スバルは徹底した柔軟性を持って市場に臨むと、2025年11月に発表した「SUBARU 2025方針」でその意志を強く示した。

 そして今回は、その具体的な技術開発と、これによってできあがった試作車の試乗が、栃木県佐野市にある「スバル研究実験センター」で開催された。

 その目玉となったのは、1台のバッテリEVだ。アウトバックをベースにしつつも車高は低く、不格好に広げられたホイールアーチからはダブルウィッシュボーンがのぞいている。タイヤは245/40R20サイズのダンロップ「e.SPORT MAXX」で、5本スポークのホイールの中にはソリッドの2ピースローターと4ポットの対向ピストンキャリパー。車内にはフルバケットシートが2脚付けられた、やる気満々のスポーツEVである。

スバルが自社で開発した「BEV技術検証台車」。試作車ということで「アウトバック」のボディが用いられている

 つまりこれは、2025年のジャパンモビリティショーで公開された「Performance-E STI concept」の“中身”だ。もちろん状況に応じた多様性は検討しているだろうが(たとえば5ドア化など)、そのベースとなる試作車である。

 筆者が群馬の内覧会でこれを見たときは、まだコンセプト然としたそのデザインにまったく現実味を感じなかったが、こうして試作車が存在しているのを見ると、開発は着実に進んでいたのだと実感することができた。

ジャパンモビリティショー2025で世界初公開された「Performance-E STI concept」をまさにコンセプトとして、今回のBEV技術検証台車がつくられた

 スバルの開発戦略にのっとってこのバッテリEVを紹介すれば、その最大のトピックは、従来の約2分の1という短い期間で試作車を作り上げたことだ。

 完成度を縦軸、時間を横軸に取ったイメージグラフを見てみよう。ここで注目するべきは、従来の試作車が開発をして到達する完成度に、デジタル開発で作った試作車が、すでに到達していることだ。

今回試乗したBEV技術検証台車は、これまでより約半分の期間で従来の実車検証とほぼ同等の完成度に達しているという

 アドバンテージが得られた理由は前項でも説明したが、まずCAE(Computer Aided Engineering:コンピューター エイデッド エンジニアリング)技術が発達したことが挙げられる。プラットフォームでいえばエネルギーの伝播状況を可視化し、試作段階で理想の剛性値を盛り込んだ状態まで再現することが可能になった。

 もう1つは自社だけでなく、サプライヤーをもチームとして構成した「大部屋開発」の効果だ。これによって課題が発生してもそれを持ち帰ることなく、その場での対応が可能になった。またサプライヤー同士の連携までもが生まれたという。

 さらにスバルらしいのは、こうして得たアドバンテージを、単なる発売時期の前倒しに使うのではないところだ。具体的には環境の変化に対する対応や、移り気なユーザーの好みへの対応、さらなる車両の作り込みに、その時間が充てられる。

最新の手法で開発されたBEV技術検証台車に試乗できた

つぎはぎな見た目でも走りはかなりのもの

 これから車両適合が行なわれる、味付けなしのまっさらなテスト車両。その見た目から抱いた印象とは裏腹に、走りの完成度はかなりのものだった。

 左側のドアを開け、コクピットに潜り込む。インパネはところどころトリムがはぎ取られているけれど、メーターナセル内に収まる液晶メーターは先進的。かたや緊急用のブレーキボタンも備え付けられるなど、試作車両のムード満点だ。

 徐行時から感じられる、ソリッドな足まわりの剛性感。対してパワステのアシストは、割と軽めだ。

 ドライブモードも用意される運びだが、現状は確認をシンプルにするべくモードを固定。パドルも付いてはいたけれど、回生ブレーキも固定となっていた。

 駆動方式は前後モーターを介した4WDだ。しかし常用している限りはそれを強く意識することもなく、むしろ後輪を主体とした印象。アクセルを踏み込んでもインバーターの作動音は聞こえてこず、ロードノイズの方が大きめだった。

試作車ということで一部の機能は制限されていたものの、走りに影響はない

 テストコースでの速度は直線路で80km/h、カーブで50km/hに制限されていたため、いわゆる高負荷領域での検証はできなかった。

 80km/hまでの全開加速で感じたのは、ピッチングの少なさだ。絶対的な加速感は驚くほどではなかったが、モーターのトルク管理が滑らかで、かつ足まわりも加速Gをしっかり受け止めているため、ヘッドトス(加速で後頭部をヘッドレストに打ち付ける現象)が起こらない。回生ブレーキは弱めだったが、パーシャルスロットルからのトルク追従性もよく、アクセル操作で車体が揺さぶられることもなかった。

全開加速でも完成度の高さを感じる

 感心したのは、ブレーキコントロール性のよさだ。試作車はまだ割と荒削りな制御段階とのことだったが、ソリッドローターを抑えつけるパッドの剛性感が高く、急制動からのリリースが抜群にいい。もしかしたら、ここにも4WDや電子制御の恩恵があるのかもしれない。

 だからターンインでは、高い速度を維持しながら、きれいに旋回態勢に入ることができた。あまりのよさに「市販車でこの質感を維持するのは、コスト的にも難しくないですか?」と意地悪な質問を投げかけてみたが、エンジニア氏いわく「スポーツ用のコンセプトでいけば、可能だと思います」と、前向きに答えてくれた。

 EVならではの低重心さがその運動性能を高めているのはもちろんだが、バンプを乗り上げ、段差を落ちたときに、バッテリのイナーシャを抑え込む足まわりの収束性の高さにはもっと驚かされた。操舵初期のレスポンスはまだ甘く、ロールの過渡特性もまだ安定志向だが、それこそがここから煮詰めるべき課題だ。ほぼCAEモデルそのままに走らせた試作車第1号で、これだけの走りをこなす技術には、ただただ感心させられた。

できたての試作車でも十分にワクワクできた

 実用性、特に航続距離を伸ばすことが目下の大命題であるバッテリEVで、これほど明確に運動性能を表現したものは今のところない。トヨタ自動車「FT-Se」の登場にはまだ時間が必要だろうし、ポルシェは次期型「ケイマン」、アルピーヌも次期型「A110」でスポーツEVを目指しているが、どれもスポーツ色が強い2ドアクーペだ。

 対してこの「パフォーマンス E-STI コンセプト」は(あくまで仮称だが)、ホイールベースの長さからして、より実用的なGTスポーツになるだろう。必要があれば、4ドア化へのスイッチも迅速に対応できるのではないか。

 なにはともあれこのSTIらしい、ソリッドながらも乗り心地のツボを押さえたシャシーを煮詰め、バッテリEVに新しい風を吹き込んでほしい。

これからさらにブラッシュアップされていくのを楽しみにしたい
山田弘樹

1971年6月30日 東京都出身。A.J.A.J.(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。日本カーオブザイヤー選考委員。自動車雑誌「Tipo」の副編集長を経てフリーランスに。編集部在籍時代に参戦した「VW GTi CUP」からレース活動も始め、各種ワンメイクレースを経てスーパーFJ、スーパー耐久にも参戦。この経験を活かし、モータージャーナリストとして執筆活動中。またジャーナリスト活動と並行してレースレポートやイベント活動も行なう。

Photo:高橋 学