インプレッション
プジョー「308 GTライン」
Text by 岡本幸一郎(2016/1/4 00:00)
ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤー2014受賞車
2014年3月のジュネーブショーで初公開された、プジョーの「308」としては2世代目となる現行型308は、「ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤー2014」の栄冠に輝いたほか、欧州の自動車メディアからも数々の賞を贈られたという話題作だ。日本市場には2014年秋から導入されている。
スタイリングはこれまでの流れから一変し、「508」に通じるオーソドックスなテイストとなったのは見てのとおり。サイドビューも従来のワンモーション的なフォルムから、いたって常識的なハッチバックスタイルになった。
個人的には現行型はパッと見の高級感はなかなか高いものの、従来の308が持っていた、大きく開いたグリルに象徴される大胆に個性を強調したデザインがけっこう気に入っていたので、ずいぶんアッサリとしてしまったという感もあることを当初は少々残念に思っていた。ところが、2015年7月から新たに追加されたプレミアムなスポーツバージョン「308 GTライン」を目の前にして、ハッ!と感じた。
専用のフロントグリルやブラック・ドアミラー、サイドスカート、18インチアロイホイールなどを装着してスポーティなイメージを引き立てたGTラインのエクステリアは、専用の新色「マグネティック・ブルー」ともあいまってなかなか魅力的に目に映る。
そしてインテリアも、レッドステッチをあしらった革巻きステアリングやテップレザー&アルカンターラシートにより、質感が高くスポーティな雰囲気の空間が構築されていて、これまた魅力的。内外装ともシルバー加飾の使い方も巧い。
安全装備も「ブラインドスポットモニター」や「パークアシスト」を標準装備するなど充実している。それでいて車両価格は314万円(308 SW GTラインは338万8000円)。撮影に同行した、それなりにクルマに詳しいカメラマン氏が「400万円ぐらいするの?」と訊いてきたぐらいに装備とクオリティ感は上々。内容を考えると競争力は高く、非常に買い得感が高いように思える。
独特で斬新なインパネの作り
室内やラゲッジスペースは、ボディサイズからするとこれ以上はないと思えるほどの広さを確保。AピラーやCピラーの角度が起こされたようで、頭まわりの余裕も増している。可能な限り多くの面でフォルクスワーゲン「ゴルフ」を超えることを目指して開発されたことがヒシヒシと伝わってくるが、実際にも広さ感では上まわっている。
後席については前席が非常によいだけに、なおのことやや作り込み不足が感じられた部分があるのは否めない。しかし、居住空間としては十分なスペースが確保されている。
そうした実用車としてのそつなさを追求するなかにも、できるだけ独自性を与えようとしたことが随所に見て取れるのもこのクルマの興味深いところだ。包まれ感のあるシートに収まると、“ヘッドアップを意識した”というインパネの構成はやはり独特。ステアリングの上からメーターを見る「i-Cockpit(アイ・コクピット)」はプジョーの新しいアプローチ。指針が右側から反時計回りに動くタコメーターや風変わりな警報音など、相変わらず少しでもユニークなことをしようとしたことがうかがえる。
さらに現行308では、運転中に必要な機能の大半をインパネ中央に設置したタッチパネルに集約するという手法にチャレンジしており、インパネは異様なまでにスッキリとしている。なぜか、もはやあまり使われることもないであろうCDプレーヤーが残されているのだが、なにか機能を呼び出したい際には、とにかくタッチパネルにアクセスすればいい。実際の使用ではアクションが増えることには違いなく、運転中はとくにワンタッチで操作できないことを煩わしく感じる状況もあるだろうが、とにかく見た目にはとても斬新さを感じさせる。
トルクフルでしなやかな走り味
走って感じるのは軽快さとしなやかさだ。新開発のプラットフォームにより70㎏、サイズダウンにより30㎏、合計で100㎏の軽量化を実現したことが効いて、これまでよりもずっと身軽に感じる。加えて、しなやかさの増したサスペンションセッティングは往年のプジョーに通じる味わいがあり、とても好印象であった。
ボディの剛性感は高く、走りは現代的で一体感があり、フロント側だけで走っている感覚の強かった従来の308とはそこも大きく違う。また、エンジンマウントを低くすることで低重心を図ったというが、それもあってロールなどの姿勢変化も抑えられている。
「インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー2015」を受賞したという1.2リッターの直列3気筒ターボエンジンは、低回転域からトルクフルで力強い加速感が頼もしい。わずか1.2リッターの排気量とはとても思えないほどで、性能的には期待以上のものがあった。
ただし、サウンドがいかにも3気筒っぽいことは否めない。そこで現行308の目玉装備の1つである「ドライバースポーツパック」を試す。ボタンを長押しすると「ダイナミック」モードに切り替わり、トルクの立ち上がりが早くなるとともにシフトタイミングも変わる。サウンドもオーディオスピーカーが発するサンプリングしたエンジン音が加わり、1.2リッターの3気筒エンジンとは思えない野太い音質となる。さらに、メーターのバックライトが赤くなり、マルチファンクションディスプレイの表示も走りを意識させるモードとなる。こうした面白い仕掛けがあるのも現行308の特徴だ。
第3世代となった6速ATはフィーリングがよく、シフトチェンジも俊敏でとくに欠点は見当たらない。トランスミッションのことではなにかと注文のつけられることの多かったプジョーだが、これなら目の肥えた日本のユーザーにも受け入れられることだろう。
ところで、記憶では従来の308までワイパーは左ハンドル仕様のままだったが、現行308ではちゃんと右ハンドル仕様に合わせて設定されているのもありがたい。その一方でブレーキブースターは左側のままで、相変わらずロッドを介して動かしている。そのわりにはブレーキフィールは思ったほどわるくなかったが、クルマの完成度は非常に高いのに、こういうところがドイツ車に対して残念な部分であると感じずにいられない。これは小さくて大きな差だと思う。
ハッチバックの308と、別の機会に試乗したステーションワゴンの308 SWを比べると、全長や車両重量だけでなくホイールベースまで違うため、走った印象はそれなりに異なる。しなやかな乗り心地は共通だが、ハッチバックの308のほうがより軽快で、俊敏なハンドリングを楽しめるのに対し、ワゴンの308 SWは安定感が高く、高速道路を使って遠くまで旅行する人にも向きそうな味付けだ。
全体としては非常によくできたクルマであることをあらためて確認できた。さすがは欧州COTYに輝いただけのことはあると思うし、商品力は極めてハイレベルだ。ドイツ車の人気が根強い日本の輸入車Cセグメント市場に一矢報いる、目を向けるべき価値のある1台だと思う。
なお、308シリーズは2015年10月にラインアップが見直されてシンプルな構成になり、既存グレードの「アリュール」の価格が310万1000円から279万円へと大幅に引き下げられたことも合わせてお伝えしておきたい。
【お詫びと訂正】記事初出時、ワイパーに関する表現が一部間違っておりました。お詫びして訂正させていただきます。