レビュー
【タイヤレビュー】ミシュランがこだわる「サステナブルタイヤ」とは? 4製品に乗ってその意味を確認した
2024年7月10日 10:20
ラジアルタイヤ製造の先駆者で、技術の先進性でも注目を集めるミシュランは、また高い信頼性も築き上げている。
そのミシュランがサステナブルをテーマに試乗会を行なった。タイヤは製造工程だけでなく走行中も摩耗することで細かい粉塵を出すことも事実で将来の課題となっている。
一方、環境性能に目を向けると乗用車の販売台数では、ハイブリッドなどの電動車が全体の半数を超えていることから、ユーザーの環境意識も高まっていることが浮かんでくる。また、BEV(バッテリ電気自動車)も増加し続けていることから、タイヤの果たす役割も変わってくると予測されている。
というのも、タイヤに求められる「安全性」「居住性」「経済性」に加えて「環境性」の比重が大きくなっているのだ。具体的には生産時のCO2排出量の削減、走行中の摩耗の低減、そして転がり抵抗の向上などが課題となっている。転がり抵抗性能ではすでにタイヤラベリング制度が始まって久しく、ウェットブレーキ性能との両面標示が行なわれている。
ミシュランではタイヤライフの中で、生産工程では再生可能エネルギーなどでCO2を削減し、使用時には摩耗性を向上させ、初期性能を維持しながらロングライフを目指すことで20~30%のCO2削減を図るとしている。
その後のリサイクルでは高機能素材を抽出して製造工程に戻すというループを作り、これを回すことによって省資源を進める。
製造の工数やコンパウンド種類を減らしても、目的性能を発揮するタイヤを開発するのがミシュランの目標だ。
他メーカーも同様に生産の効率化やタイヤのモジュール化を進めており、世界のタイヤメーカーは環境を軸に動き出している。
ウェット路面での性能を確認してみた
今回は、現在ミシュランのラインアップの中から「パイロット スポーツ 4 SUV」「プライマシー SUV+」「e-プライマシー」、そして「パイロット スポーツ 5」の4種類のタイヤをSUV、セダン、BEVに履いて試乗した。
試乗コースは栃木県にあるGKNドライブラインジャパンのテストコースで、降雨のため条件はすべてウェット。ウェットハンドリングを確認するには絶好の条件だ。
レクサス「RX350h」×「パイロット スポーツ 4 SUV」
最初はレクサス「RX350h」に同じシリーズにあるパフォーマンスモデル、「RX500h F Sport」に純正装着する「パイロット スポーツ 4 SUV」を履きタイヤの適応力をみる。タイヤサイズは同じ235/50R21で、ロードインデックスと速度レンジは101Wとなる。いずれも大径タイヤで最近のトレンドを示しているがRX350hでは別のタイヤを履いている。
ハンドリング路でのウェット性能は高く、速く長いコーナーでもステアリングの修正も必要なく、一定の舵角で駆け抜ける。またタイトコーナーでの舵の効きも素晴らしく、スポーツタイヤのような軽快さだ。総じてタイヤのコーナリングパワーが高く、ボディが大きく背の高いSUVでも一定のリズムで走れたのはタイヤのポテンシャルに負うところも大きい。
一方、変形オーバルの外周路での直進性やレーンチェンジ、そして乗り心地のためのバンプ路では異なった印象を持った。中速から高速での直進性やステアリングに感じる保舵感はミシュランらしく普遍的な安定性がある。
レーンチェンジは長いスパンのWレーンチェンジになっている。少し速い90km/hで通過を行なうと2つ目のレーンチェンジでバネ上の動きが残るため操舵タイミングを微妙に変える必要があった。コーナリングパワーが高くスポーティなタイヤの性格はパワーのあるRX500hではさらに魅力が引き出されるに違いない。ドライバーの好みでよりスポーティなチョイスができる。
路面に置かれたバンプ路は15mm程度だろうか。連続して同スパンで置かれていた。60km/hで通過したがショックを感じることはほとんどなく、スポーティなタイヤだがしなやかさは変わらず快適性は高かった。
メルセデス・ベンツ「A 180」×「e-プライマシー」
続いてFF車のメルセデス・ベンツ「A 180」。装着タイヤは転がり抵抗の小さいエコタイヤ「e-プライマシー」で、装着サイズは225/45ZR18 95XL。
ウェットハンドリングでも背の低いセダンらしく軽快で、なおかつメルセデスのしっとりとした安定感を損なわない。タイヤとしては周剛性が高く感じられ、いかにも転がり抵抗は小さそうだが、ウェット路面でのグリップ力は唐突な変化も小さくコントロールしやすい。
大きい転舵では特有の“シャー”という転舵ノイズが出るが、コーナリングフォースが急激に低下することはなく安心感がある。さらに転舵を大きくしてみるとフロントからずるずると滑り出すが急変しないのが好ましい。
エコタイヤらしい感触もあるものの、ハンドリング路ではタイヤの違いを意識せずにハンドルを握れた。
外周路で90km/hのWレーンチェンジでもタイヤの縦横バランスがよく、滑らかな操舵フィールが印象的だ。さすがにバンプ路60km/h通過ではパンパンという衝撃感があるものの上下収束はよく不快感はない。
レクサス「LBX」×「e-プライマシー」
コンパクトSUVのレクサス「LBX」でも「e-プライマシー」を試したが、こちらは純正装着品でサイズは225/55R18 98Hだ。「A 180」に装着したサイズよりもロードインデックスも速度レンジも低くなっており、日本市場に合わせたタイヤだ。
おりから雨も強くなってきたが、滑らかでクルマとの相性がよい。タイトコーナーで水深の深いところを走ると、ハイドロ気味になる場所もあるものの回復は早い。
外周路でもレーンチェンジ、高速直進性、バンプ路の乗り越しなどバランスがよく、さすがにクルマとのマッチングは優れている。
日産「エクストレイル」×「プライマシー SUV+(新品&2分山)」で急制動
日産「エクストレイル」で使用したのは「プライマシー SUV+」でパターンの細かいSUVらしいタイヤだ。
サイズは235/60R18 103Vとなる。こちらのプログラムでは、2分山まで削ったタイヤと新品タイヤで70km/hからの全力制動を行なった。通常のウェット路面では制動距離に大きな違いはなかったかも知れないが、制動路面では水深がかなりあったために、新品では19.6mで止まれた距離が、摩耗タイヤでは26.6mと大きく伸びた。ブレーキ直後からハイドロを起こし空走感と姿勢が少し乱される挙動があり、速度が落ちて水深も浅くなる場所にいたると急激にABS作動でピッチングをしながらの制動となった。
ちなみにタイヤラベリングは転がり抵抗性能A、ウェットグリップ性能bだが、もはやこれらの水深では溝効果が大きく、ミシュランと言えども摩耗したタイヤで水深のある場所でのフルブレーキは無謀だ。名誉のために路面を変えて50km/hからの制動では、新品が10.7mと2分山が13.7mと差は縮まった。
やはりウェット路面では車間距離をいつもより長くとることが大切だ。
一方、ウェットハンドリングは快適でe-FORCEの制御も手伝って快適なハンドリング性能を楽しめた。コーナリングフォースはそれほど大きくないが運転が楽しめる制御を車両側で行ない、タイヤはその制御を邪魔することなく素直に同調していく。適度に滑る時もジワリとグリップするのでコントロールしやすい。
外周路でのレーンチェンジもステアリングの応答遅れもなく、ヨーの収束も素直。さらにバンプ路での上下動もSUVらしく柔らかく収束する。周剛性はガッシリしているが、入力に対してバランスの取れているのが魅力で、今回の試乗でもっとも感銘を受けたのが「プライマシー SUV+」だった。
テスラ「モデル3」×「パイロット スポーツ 5」
最後はテスラ「モデル3」。装着タイヤは「パイロット スポーツ 5」で、サイズは235/60R18 103V、ラベリングは転がり抵抗性能A、ウェットグリップ性能bだ。
ウェットハンドリング路の旋回力は非常に高く、「パイロット スポーツ 5」のグリップ力の高さを再認識した。ステアリングの応答性、コーナリングフォースの高さともに驚くほどで、低重心のテスラの特性と相まって、ICEのクルマとは感覚が異なり限界点をつかみにくい。
ただ、直進時に比べて高周波の転舵ノイズは少し耳につきやすい。タイヤは非常にしなやかで心地よいドライブフィールだ。バンプ路のあたりは少し強めだが、これは車両側に起因があるようで、タイヤそのものはしなやかだ。それこそ「THE SPORT TIRE」である。
冒頭にも記したように、ミシュランでは生産や部材の効率化を進めながら、すべての性能円を大きくし、低燃費性能(転がり抵抗の小ささ)や摩耗しにくさ、性能の維持、静粛性を上げることを目標としている。
今回の試乗でも転がり抵抗の小ささに重点を置きながら摩耗しにくいタイヤで、かつ走行性能を上げるというタイヤ作りの一端を垣間見ることができた。タイヤのパイオニア、ミシュランの果たす役割は大きい。