レビュー

【タイヤレビュー】ダンロップの次世代オールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」初試乗 雪上&氷上におけるアクティブトレッドの効果はいかに?

2024年7月22日 発表

ダンロップが開発を進めていたアクティブトレッドを搭載した新オールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」を雪上&氷上で試す機会を得た

商品コンセプトは「あらゆる天気・路面にシンクロするタイヤ」

 世界のタイヤメーカーはバッテリEV(電気自動車)によるタイヤ摩耗の問題や、生産工程でのカーボンニュートラルを見据えて活発な動きをしている。その流れの中でダンロップが「アクティブトレッド」を発表したのは2023年のことだ。1種類のタイヤの守備範囲を広げることが目的だ。

 従来のオールシーズンタイヤから、さらに一歩踏み出した夏タイヤと冬タイヤの境界を広げる新しいオールシーズンタイヤとなる。

 ポイントは新開発されたトレッドゴム。気温と水をセンシングすることでゴムの特性が変わるというもので、ダンロップではそれぞれの条件によって“分子間のつながりにスイッチが入り、コンパウンドが変化する”と表現している。ダンロップはこれをアクティブトレッドと名付けていて、変化するトレッド面の特性を表したネーミングで分かりやすい。

アクティブトレッドが実現したこと

 新しいオールシーズンタイヤの商品名は「シンクロウェザー(SYNCHRO WEATHER)」で、パターンは現行オールシーズンタイヤ「オールシーズンマックス(ALL SEASON MAXX)AS1」に似たV字型パターンを採用している。世界のタイヤメーカーのオールシーズンはほとんどがV字型パターンをベースにしており、雪上性能やウェット性能を確保する最適なパターンとされ、シンクロウェザーのパターンもその一例になる。

ダンロップの次世代オールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」
トレッドパターンは従来のオールシーズンタイヤに近くV字型が基本となっている
アクティブトレッドは、温度と水分によって硬度が変わりグリップ性能を確保する
アクティブトレッドは、低温でも硬くなりにくい機能を実現している

 タイヤ形状ではタイヤ断面がスクエアな形状をしており、同じサイズでも夏タイヤよりも幅が広い。スタッドレスタイヤ同様に接地幅を広げることでコンパウンドによってグリップすることを目指している。コンパウンド自体は吸水性を持っていないので、最新のスタッドレスタイヤの氷上性にはおよばないが、オンロードから雪上まで全天候型のコンパウンドの性能がこのタイヤの大きなポイントだ。

新たなトレッドパターンを採用

「シンクロウェザー」を雪上・氷上(アイスバーン)で試す

 シンクロウェザーでもっとも注目される雪上とアイスバーンの評価は、2月に旭川にあるダンロップのテストコースと、その周辺路を使って行なわれた。

 初めて見るシンクロウェザーは、少し大きなオールシーズンタイヤといった感じで接地幅が広いために踏ん張り感がある。

テストコース内での試乗車

 試乗車はトヨタのカローラツーリング。タイヤサイズは195/6515。比較用として、エントリー・スタッドレスタイヤの「ウインターマックス(WINTER MAXX)02」と、現行オールシーズンタイヤのオールシーズンマックス AS1も用意されていた。

 氷上制動からスタートしたが、屋外氷盤コースのために折からの降雪で氷の上に雪が乗るという悪条件になってしまった。できるだけ条件を一定にするために路面を選んで初速30km/hからのフル制動で行なってみた。

まずは完全なアイスバーンでのフル制動から比較試乗。コース脇に置かれたパイロンの位置で制動距離を確認する

 数回トライした結果、オールシーズンマックス AS1は、アイスバーンでは減速感があまりなく速度が落ちてからも制動が伸びてしまった。シンクロウェザーは平均でそれより7~8%ほど短くタイヤが氷でも順応しようとする凝着摩擦が働いているように感じた。劇的な性能差ではないが、パターンとトレッドゴムの効果が明快だ。

 一方エントリースタッドレスタイヤとはいえ、氷上性能に特化したスタッドレスタイヤのウインターマックス 02はさらに制動距離は短い。シンクロウェザーは現行のオールシーズンとスタッドレスの中間に位置している感じだ。

 続いて、雪上制動は初速50km/hから試みた。圧雪というよりも新雪での制動。オールシーズンタイヤの真価を発揮し、オールシーズンマックス AS1とシンクロウェザーとの差は縮まった。制動距離ならそれほどの差はないように感じたが、トレッドが柔軟に雪をつかみ、最後のググッと止まる安心感はシンクロウェザーが少し上だ。

比較試乗に使用したオールシーズンタイヤ「オールシーズンマックス AS1」
同じく比較試乗に使用したスタッドレスタイヤ「ウインターマックス 02」

 これは後述する郊外路の雪上で乗ったメルセデス・ベンツのGLCでも感じ、同じオールシーズンタイヤのカテゴリーでもシンクロウェザーの守備範囲が広がっている印象だ。

 コーナリング性能では、氷盤上で9Rの円旋回を行なった。かなり小さい円旋回でグリップの範囲内で操舵角を一定にして旋回する。シンクロウェザーはオールシーズンマックス AS1より1km/hほど速度域が高く、グリップ限界が若干高い。ウインターマックス 02はさらに1.5km/hほど速度域は高くなるが、その分グリップを失ってからの滑り方は早かった。

 雪上スラロームでは、いずれも大きな違いはなくスタッドレスのコントロール性が少しよいが、シンクロウェザーもハンドル微小域の応答性が優れており、オールシーズンマックス AS1よりもハンドルへの手応え感もある。圧雪ならシンクロウェザーでカバーできそう。

 冬のテストコースでの印象では、オールシーズンとスタッドレスの中間の性能を持っており、アイスバーンやスノーでのマージンも高かった。

 シンクロウェザーは、スタッドレスタイヤよりは溝が少し浅く作られているので排雪性では不利のはずだが、トレッドの柔軟性もあって通常遭遇する圧雪ならカバーできそうだ。

圧雪路であればシンクロウェザーでもカバーできるのではないだろうか

郊外路(一般道)での乗り味もチェック

 郊外路では最新のメルセデス・ベンツのGLCを使用。タイヤサイズは235/60R18の単独試乗になった。路面は圧雪で気温も下がっており快適なスノードライブが楽しめた。時折現れる小規模な雪の轍もGLCの駆動力制御技術と柔軟なシンクロウェザーのコンビで安心感がある。轍が深い場合はプロファイルと溝深さが影響しているのかわずかに方向性が乱されたが許容範囲。夏も走れるオールシーズンタイヤの可能性をさらに広げた。

 なお、シンクロウェザーは「シビアスノーマーク」を持っており、高速道路のスノータイヤ規制でも走れる。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。