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住友ゴム工業、研究拠点「住友ゴム イノベーションベース・仙台」を開所 タイヤや充電池材料の開発に活用してアクティブトレッド技術をさらに進化

2024年5月16日 開所

研究拠点「住友ゴム イノベーションベース・仙台」が入り、ナノテラスの監視室もあるアーバンネット仙台中央ビル

 住友ゴム工業は5月16日、仙台市において研究拠点「住友ゴム イノベーションベース・仙台」を開所した。同日には4月から利用が開始された3GeV高輝度放射光施設「NanoTerasu(ナノテラス)」について利活用に関する発表会を行なった。

 ナノテラスを使うことで、ゴムの内部構造を可視化し、タイヤでは「アクティブトレッド技術」への活用や、今後の活用が期待されるリチウム硫黄電池(LiS電池)の活物質の開発などに利用するという。

ナノテラスはレンズを使わない顕微鏡、10nm未満の分解能を目指す

 ナノテラスは、放射光(X線)を使って物質や材料構造を可視化することを目的とした施設。仙台市青葉区の東北大学青葉山新キャンパスにあり、2024年4月1日から稼働を開始した。さまざまな企業などが使える施設だが、住友ゴム工業は以前より利用を表明していた。

ナノテラスについて説明を行なった東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS)副センター長・教授の高橋幸生氏

 放射光施設は「レンズを使わない顕微鏡」とされ、ゴムならばその内部構造を可視化できる。

ナノテラスと特徴

 放射光施設はすでに兵庫県にある大型放射光施設「Spring-8(スプリングエイト)」など国内にも複数あるが、ナノテラスの特徴は電子ビームが細く、X線の波面の波がそろっている割合が多く、互いに干渉する波の性質コヒーレンスが向上していること。そして、軟X線、テンダーX線の領域の明るさ(輝度)が国内の軟X線向け放射光施設の「あいちシンクロトロン」「九州シンクロトロン」の100倍以上も向上している。

X線の波面の波がそろっている割合が多い
軟X線、テンダーX線の領域の輝度が高く、よく見える

 その結果、住友ゴム工業が行なった含硫黄高分子材料の観察では、Spring-8では分解能が約100nmであったのに対して、ナノテラスでは49.3nmの分解能を記録。今後は、さらに分解能を高め、10nm未満の分解能を達成するよう研究開発を進めていくという。

分解能が向上し細かな構造まで観察できる

ゴムの内部構造をより深く観察できるナノテラス

 住友ゴム工業では、これまで、兵庫県にある大型放射光施設「Spring-8」などを使い、ゴムの開発に役立ててきたが、今後はナノテラスも加え、これまで見ることのできなかったものまで可視化し、開発に役立てる。

住友ゴムにおける先端研究施設の活用

 これまでもゴムの内部構造はSpring-8で確認できていたが、ナノテラスでは劣化状態を可視化して、より詳しく状態を見られる。例えばタイヤの劣化では、これまでは劣化したことが確認できても、何が原因で劣化したかまでは分かりにくかった。オゾン、酸素、熱といった原因があるが、ナノテラスを使うことで、劣化の原因、科学的変化までも確認することが可能になる。

タイヤゴム開発を通じて新たな製品の研究開発へ

 劣化原因が分かるようになれば、気候条件に合わせてそれぞれの国や地域などの環境に応じた劣化しにくいタイヤを作れる。

アクティブトレッド技術をさらに進化させ、グリップの謎も解明へ

 現在、住友ゴム工業では「スマートタイヤコンセプト」を掲げ、2023年に乾いた路面でも濡れた路面でも同じグリップ力を発揮する新技術「アクティブトレッド」を発表。コンセプトタイヤを2023年のジャパンモビリティショーのダンロップブースに出品。市販のタイヤは、2024年に次世代のオールシーズンタイヤ、2027年には次世代EVタイヤを発売することを予告している。

スマートタイヤコンセプトの商品化スケジュール
ナノテラスを活用して、アクティブトレッド技術に必要な分子スイッチングの機能を可視化

 アクティブトレッド技術は、タイヤが雨を検知すると分子がスイッチして性能が変わる技術。それによってウェットでもドライでも同じ性能となり、制動距離も同じになることを目指している。

 その方法としてドライとウェットのスイッチの繰り返しをするためにイオン結合を選択、水がないとプラスとマイナスがくっつき結合し、水があるとその結合が乖離、さらに乾燥すると再び結合が元に戻る。これを実現するために水パスを形成させて機能を実現しているが、本当に水パスを形成しているのかどうかは、愛知県にある小型放射光施設UVSORで機能可視化を行なっていた。

ドライとウェットのスイッチの繰り返し
ゴムに浸透する水パスの形成を軟X線放射光で可視化

 そのため、現時点ではアクティブトレッド技術にはナノテラスの技術は使われていない。今後はタイヤのグリップについてゴムと路面の粘着摩擦についてまだ分かっていない部分の研究に活用する。

ゴムと路面の間には水分子が残っている可能性を発見、粘着摩擦の謎に迫る

 最新の研究成果では、ゴムと路面の間には水分子が残っている可能性を発見、ゴム表面は直接路面に接しているので、水を介して相互作用して粘着摩擦を生み出しているのではないかと考えられるという。

住友ゴム工業株式会社 研究開発本部 先進技術・イノベーション研究センター長 岸本浩通氏

 住友ゴム工業 研究開発本部 先進技術・イノベーション研究センター長の岸本浩通氏は、「次のアクティブトレッド技術を作っていくためのヒントを、ナノテラスを活用して見つけていきたい」としていて、研究を産学連携で進め、「ゴム表面の水に関する研究を推進し、ウェットグリップの謎の解明にチャレンジしていきたい」と語った。

ナノテラスでウェットグリップの謎解明にチャレンジしていく

リチウム硫黄電池(LiS電池)の活物質の開発に活用

 一方、住友ゴム工業ではタイヤだけではなく、ゴム開発を通じて得た知見を他のものにも活用している。今回紹介されたその1つが、リチウム硫黄電池(LiS電池)の材料である硫黄系正極活物質。

ナノテラスの活用について語る住友ゴム工業株式会社 研究開発本部長 上坂憲市氏

 LiS電池は、理論上は重量エネルギー密度が現在主流のリチウムイオン電池や派生する全個体電池よりも高く、外部衝撃による発火危険性が低く安全、レアメタルを使わないなど特徴があり、期待されている電池。

リチウム硫黄電池(LiS電池)が期待される

 4月9日~11日にかけてナノテラスで行なった活物質の観察では、従来の3倍の解像度で詳細に観察することに成功。今後、高性能化する際は、実際に電池を充放電しながら計測する「オペランド計測」で知見を得ることが必要だが、ナノテラスでは充放電状態を詳細に観察できるという。

4月9日~11日にかけてナノテラスで活物質の観察を行なった
LiS電池正極活物質を従来の3倍の解像度で観察することに成功

 これまでの解像度では同一粒子の充放電状態を観察することはできなかったが、ナノテラスでは高解像度観察により、1つ1つの粒子を観察でき、完全に反応が戻る粒子を発見し、充放電特性のよい粒子を特定できれば、活物質開発の重要なヒントになるという。

充放電性能のよい部分の粒子を特定すれば、ヒントが得られる

仙台駅近くのビルに開発拠点のビルはナノテラスと直で結ぶ

 今回開所した「住友ゴム イノベーションベース・仙台」のあるアーバンネット仙台中央ビルにはナノテラスの監視室を用意し、ナノテラスを活用する企業などの入居を想定した施設となっている。

 施設には1名が配属され、ナノテラスへのアクセスや、必要に応じて東北大学へ向かうなどの業務を行なう。また、ナノテラスのある東北大学に籍を置くメンバーもおり、各方面とコミュニケーションをとりながら、研究を進めていくという。

 また、アーバンネット仙台中央ビルは仙台駅から徒歩圏内であるため、神戸の本社から技術者が出張して研究活動する際の滞在拠点としたり、ナノテラスで使う実験装置などを用意したりする場所としても活用するという。