レビュー

【タイヤレビュー】ミシュラン史上最高の低燃費性能をうたう「e・PRIMACY」、高速周回路やウェットハンドリング路での実力を試す

ミシュラン史上最高の低燃費性能を誇るプレミアムコンフォートタイヤ「e・PRIMACY(イー プライマシー)」に試乗

ミシュランのサスティナブルな取り組み

 日本ミシュランタイヤが主催する「サスティナブル試乗会」に参加してきた。ミシュラングループでは今「Everything will be sustinable」というスローガンを掲げ、2050年までに全てのタイヤを持続可能なタイヤにするというコミットメントを出している。現在のタイヤは主原料の天然ゴムに加え、合成ゴム、金属、繊維、加硫用の硫黄など、200種類以上の素材で製造されているが、今のところは原材料の30%を天然素材もしくはリサイクルされた持続可能な原材料を使用するに留まっている。それを2030年までに40%に引き上げることを目標にしているそうだ。

 この数値は例えばレーシングシーンではさらに高まっている。今年のル・マン24時間レースでは53%、二輪のMotoEではフロントタイヤが33%、リアタイヤが40%に達するという。また、2025年を目処に開発中の市販タイヤのプロトタイプモデルでは、天然ゴムの割合を増加するとともに、カーボンブラック、ひまわり油やバイオ由来樹脂、籾殻性シリカ、再生スチールなどを使用することで、サスティナブル素材を45%にまで引き上げることに成功している。

 持続可能なタイヤへの挑戦は、一方でエアレスタイヤ「ミシュラン アプティス・プロトタイプ」で公道における試験走行を開始。DHL Expressと提携し、シンガポールにおいてラストマイル配送(配送の最終拠点からお客さまへ荷物を届けるまでの区間)を行なっている。2023年末までには約50台のDHL車両が走る予定だ。これは空気圧管理等のメンテナンス負荷軽減、パンクによるダウンタイムの低減、そして廃棄タイヤ大幅抑制による環境負荷低減を狙えるのだとか。世界ではパンクにより早期廃棄になるタイヤが年間2億本(200万t)と推定されるというから、エアレスタイヤもまた持続可能なタイヤとして重要な要素となるのだろう。

 さらにLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)に対しても取り組みを行なっている。原材料調達から使用後それぞれの段階でLCAを考慮。2050年までにCO2排出量ゼロの生産工場、輸送時におけるCO2排出量の削減、省資源でより低転がり抵抗かつ長持ちするタイヤにできるようにと考えているという。ここで印象深かったのは、タイヤを多く売ることを目的とせず、なるべく少ないタイヤで済むようにトライを進めているという言葉だった。

 耐摩耗性を引き上げて交換頻度を減らすと同時に、例えばオールシーズンタイヤの「CROSSCLIMATE(クロスクライメート)」のように雪道でも走れる夏タイヤを開発することでスタッドレスタイヤの必要性を減らし、本数を減らすことはできないか? また、レースシーンではかつて供給していたフォーミュラEにおいて、シーズンを繰り返すごとに持ち込みセット数を少なくするように提案し実行。MotoEではタイヤの特性をあまり特化させず、汎用性をあえて高めることで2種類のコンパウンドのみ提供することで数を少なくするようにしていたという。

ミシュラン史上最高の低燃費性能をうたう「e・PRIMACY」

 そんなミシュランタイヤの現在地はどんな状況なのかを知るために、テストコースにおいて主に電動車向けのタイヤを2種類、あらゆる状況で走ってみることになった。サスティナブルなタイヤであってもきちんと走れるのかは興味深い。まず試乗したのはミシュラン史上最高の低燃費性能を誇るプレミアムコンフォートタイヤの「e・PRIMACY(イー プライマシー)」だ。転がり抵抗性能「AAA」を21サイズで達成(7サイズ取得中)する一方で、静粛性や性能維持力を高めたというものだ。

今回試乗したのは2021年8月に発売となった「e・PRIMACY」。イー プライマシーの頭文字の「e」は、「環境(environment)」「低燃費(Fuel econom)」「電動車(Electrified vehicle)」の3つのeに由来し、転がり抵抗性能「AAA」を達成した低燃費性能、モーター走行時でも快適な優れた静粛性、偏摩耗や急激な排水性能低下を抑え安心が長く続くという特徴を持つ
e・PRIMACYではトレッド部に採用された新開発の高弾性ゴム「エナジー パッシブ コンパウンド」によって、シリカとのカップリングを改善。ゴムの変形によるエネルギーロスを抑え、転がり抵抗を低減する。また、内部構造に採用した「スリムベルト」は、強度と軽さを併せ持つ新素材をスチールベルトに用い、ベルトに求められる耐久性を犠牲にすることなく内部構造のより薄型化を実現したという。転がり抵抗については「プライマシー 4」と比べて18.4%も低減した
内部構造の最適化により、トレッド面のより均一な接地圧分布を実現したことで加速時、ブレーキング時、コーナリング時でも接地面が安定して偏摩耗耗を抑制する「マックスタッチ コンストラクション」を採用。主溝にはU字型のグルーブを採用し、摩耗末期においても排水性能を確保。一般的なV字型のグルーブよりも急激な排水性能の低減を防ぎ、安心感が長く続く特徴を持たせている
こちらは2021年9月に発売されたスポーツEV・スポーツハイブリッド車向け「PILOT SPORT EV(パイロット スポーツ イーブイ)」。スポーツタイヤでありながら転がり抵抗を抑制することで効率的に車両の出力を路面へ的確に伝え、車両が本来持つパフォーマンスを最大化させながら環境負荷の低減にも貢献する製品
トレッドセンター部にフォーミュラEのレース用タイヤ技術を応用した新開発のコンパウンドを採用するとともに、エナジーロスの少ないコンパウンドをショルダー部に配置することで転がり抵抗を低減。サイドウォールデザインはフォーミュラEレース用タイヤのものをフルリング プレミアムタッチで再現

 まず試乗を開始したのはトヨタ「クラウンクロスオーバー」に純正装着されたもの。サイズは225/45R21である。このタイヤはリプレイスメントモデルとは異なり、メーカー技術承認タイヤとして低燃費性能だけでなくNVH(騒音・振動・ハーシュネス)や耐久性、そして外観デザインやプロファイルもチューニングを行ないながら、e・PRIMACY本来のパフォーマンスも落とさないように開発したという。

 試乗した高速周回路でまず感じたことは、ダンピングのよさやクセのないハンドリングだった。現代の流行りとなりつつある超大径ホイールに細めの横幅で低扁平というサイズながらも、相変わらずミシュランらしさが光っているように感じた。微小操舵域のクセのないマイルドな応答が、大操舵角となる領域までリニアにつながり、狙った通りに反応してくれる仕上がりは秀逸。ダブルレーンチェンジ的な入力を与えても危うさを感じることなく、フロントもリアもバランスよく応答してくれる。また、うねりのある路面において入力が一瞬で収められるダンピングのよさも光っているし、静粛性も電動車を意識しただけあって高いと感じた。

 唯一、ハイスピードになると風切り音や、コーナリング中にどうしても出るパターンノイズが目立つようにも感じるが、これはストレートを走る時の静粛性が高まっている証拠と言ってもいい。課題があまたあろうとも、変わらずミシュランしている。

 続いては日産「サクラ」に乗って、おそらくサスティナブルなタイヤが苦手としそうなウエット路面を走ってみる。まず行なったのはウェットフルブレーキだ。ここでは某メーカーの同ジャンルのタイヤと比較しながら走っていく。

 最初に乗ったe・PRIMACYは、初期制動からしっかりとした減速Gの立ち上がりが得られ、しっかりとした制動感が得られていたことが印象的。対する某メーカーのタイヤは荷重が乗り切るまでの間に減速Gの遅れが感じられた。結果として制動距離はおよそクルマ1台半くらい増えることに。ちなみにドライ路面におけるスタンディングスタートではコチラはVDCを解除していないにも関わらず派手目なスキール音を発していた。e・PRIMACYはそんな音を発することもなく、涼しげに加速していたことが印象的だった。

 この比較を、今度は共に溝残量2mmまで減らした状態で試乗する。e・PRIMACYでウェットフル制動を行なうと、さすがにドライほどの減速感が得られていない感覚がある。制動距離は新品時のクルマ1台半ほど伸びる傾向にあった。これが某メーカーのタイヤではさらに減速感がなくなり制動距離はe・PRIMACYが停止した位置からさらにクルマ2台分ほど伸びてしまった。つまり、新品状態から比べれば2台分の伸びだが、冷静に考えれば新品のe・PRIMACYと比べればクルマ3台分も伸びたことになる。e・PRIMACYの新品時の性能の高さはもちろん、落ち幅の少なさが光っていた。これならできるだけ長く使うことも危険なくできるだろう。

 最後はe・PRIMACYを装着するサクラにウェットハンドリング路でも乗った。荷重が乗り切るまでの状況ではややグリップが薄いと感じるシーンもあり、滑り出すこともあったのだが、対してその際のコントロール性も高く扱いやすさがあった。これならペースを若干落とすことで対応することも可能。一般的な使い方であればまず問題なくクリアできるに違いない。

 このように重箱の隅をつつく様に見ると、かつてのタイヤの方が良かったよな、という部分が皆無ではない。けれどもそこは扱いやすさやドライバーの対応次第でどうにでもなるもののようにも感じるし、その環境をミシュランはきちんと提供してくれていることは間違いない。この体制があるのなら、2050年までに全てのタイヤを持続可能なタイヤにするというコミットメントも、あながち夢ではないのかもしれない。

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。2019年に「86/BRZ Race クラブマンEX」でシリーズチャンピオンを獲得するなどドライビング特化型なため、走りの評価はとにかく細かい。最近は先進運転支援システムの仕上がりにも興味を持っている。また、クルマ単体だけでなくタイヤにもうるさい一面を持ち、夏タイヤだけでなく、冬タイヤの乗り比べ経験も豊富。現在の愛車はユーノスロードスター(NA)、ジムニー(JB64W)、MINIクロスオーバー、フェアレディZ(RZ34・納車待ち)。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。