トピック

太田哲也はどう見る? ボルボの新型「XC60」、その魅力に迫る

ボルボブランドのイメージチェンジ

 これまでの私の中のボルボのイメージは、率直に言うと、質実剛健、家族が大事、実直で学校の先生が乗るイメージ、それと安全。日本の輸入車市場の中では、メルセデス・ベンツやBMWと比べると安価でリーズナブル。スポーティではないけれど操縦安定性は高い。高級車ではないけれど安全でコストパフォーマンスが高い。賢い人が選ぶ賢いクルマ、そんな印象だった。ところが今回、新型「XC60」に接してみて、ボルボというブランドが大きく変わろうとしていることを実感した。

 初見で「これまでのボルボとは違う!」と思った箇所は、まずはフロントノーズの長さだ。そもそもボルボはエンジン横置きで、ノーズを長くする意味はない。ところが、XC60は前輪を前に突き出したロングノーズ・デザインで、それは我々が感じる高級車のカタチである。

 全体的にも塊感があり、まるで金塊を彫刻刀でえぐったような大胆なラインが新鮮だ。最近の日本車は、例えば「プリウス」などはとげとげとした面構成で折り紙のような複雑な形態が流行りだ。プリウスに限らずキャラクターを無理やり出そうと細々としたラインを交錯させたクルマが増えてきた。だからかえってXC60のシンプルな塊感が個性的に見えてくる。

 さらにXC60はヘッドライト形状やリアクォーターの張り出しなどが独特で、凡庸ではない高級車らしさを感じさせられる。こうしたデザイン・チャレンジが、これからボルボが進む道が質実剛健や実直ではなく、プレステージなのだと主張している。

10月に日本で発売された新型プレミアム・ミッドサイズSUV「XC60」。パワートレーンは直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジンを土台に「T5」(ガソリン)と「D4」(ディーゼル)、スーパーチャージャーを組み合わせた「T6」、スーパーチャージャーと電気モーターを組み合わせたPHV(プラグインハイブリッド)仕様の「T8」と、幅広いラインアップから選択できるのが魅力。全車8速ATを組み合わせ、4輪を駆動する。今回試乗したのは「XC60 T5 AWD Inscription」(679万円)で、ボディサイズは4690×1900×1660mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2865mm
フロントまわりでは「トールハンマー」と呼ばれるLEDデイタイム・ランニング・ライトが特徴的。LEDヘッドライトを含めて全車標準装備。フロントグリルはInscription専用デザイン
足下はダイヤモンドカット/ブラックの10スポーク19インチアルミホイールにミシュランのスポーツSUVタイヤ「LATITUDE Sport 3」(235/55 R19)の組み合わせ
サイドステップに「Inscription」のロゴがあしらわれる
太田氏が特徴的と語るリアまわりのデザイン。ボディパネルの面はシャープで凝ったものとなっており、縦型のフルLEDリアコンビネーションランプもボルボ伝統のデザイン
パワートレーン、グレード、駆動方式を示すバッヂ

ドイツでもなくイタリアでもない独自の内装デザイン

シートカラーはアンバー、インテリアカラーはチャコール/チャコール

 乗り込んでみて思わず笑みがこぼれたのは、内装が素晴らしかったからだ。そもそも伝統的なドイツの高級車のあり方は、高品質な革やウッドを多用し、パネルの精度を高め、色調も黒または濃茶で抑えることで素材の質感を出す。

 一方、イタリア車は、細かいスイッチ類にまで凝ったデザインを造形することで、平凡から抜け出す。内装革も明るい色を多用して華やかな高級感だ。

 ではXC60はどうだろう。乗り込むとまず目が引かれるのは、柔らかくラウンドしたウッドパネルだ。これがドイツ車ならクリアをたっぷりのせてピカピカに黒光りさせるところだが、XC60のそれは微妙な色調のウッドにつや消しのクリアを吹いている。スウェーデンの海岸に流れ着く流木をイメージした素材感らしい。デザイン性はラテン系同様に高いのだが、ラテン系のコテコテ感ではなく、すっきりしたテイストだ。

XC60のインテリアでは不必要に物理スイッチを増やさず、シンプルな佇まいのなかに上質さが感じられるデザインに仕上げられている。Inscriptionのインパネには、木目が美しい流木からデザインコンセプトを取り入れたという「ドリフト・ウッド・パネル」を採用
エンジンのON/OFFとドライブモードを切り替えるスイッチには、上位機種「XC90」でも採用されるダイヤモンド型の刻みが施される
シート素材には上質なパーフォレーテッド・ファインナッパレザー(フロントシートはベンチレーション機能付き)を採用
自動防眩機能付きのルームミラーも枠のないデザイン性に優れたもの
室内にはさりげなくスウェーデン国旗の加飾が与えられているのもボルボならでは。XC60ではインパネの上部にウッド、中央にメタル、下部にプラスチックと3つの異なる素材を使っている。それぞれ膨張係数が異なることからメタル部分にスウェーデン国旗を入れ、この国旗部分で膨張係数の違いを吸収するという凝った造りになっている
走行モードによって12.3インチのデジタル液晶ディスプレイの表示を変更可能
Inscriptionはフロントガラス投影式のヘッドアップ・ティスプレイを標準装備
6:4分割可倒式の後席を倒せば広大なスペースが出現。ラゲッジフロアと後席シートバックの間にすき間などがなく、フラットに使えるのもマル
インパネ中央には、9インチの縦型センターディスプレイ(赤外線方式のタッチパネル式)を用いたインフォテイメントシステム「SENSUS(センサス)」を搭載。Apple CarPlayやGoogle Android Autoに対応するほか、画面では地図や360°ビューカメラの表示をはじめ、エアコン設定など多彩な操作が行なえる

 ところで私は愛車を選ぶ要素として、内装をとても重視する。というのは内装は毎日乗るたびに見るからだ。デザインの優れた空間にいる時間が増えると、生活が楽しくなる。

 XC60の室内は、デザイン性は高いが華美な装飾を廃してスイッチ類も少なくすっきりとまとめられている。黒基調のオフィスを離れて疲れて帰宅する際、とてもリラックスできそうな気がする。

キーケースも内装色に合わせたもので、質感の高さを感じられるアイテム

乗り心地と操縦安定性のバランス

 足まわりに関しては大径の19インチタイヤが設定される。19インチだと確かに見た目はかっこよいが、本来は乗り心地がゴツゴツと硬くなって足がドタドタした感じになりがちだ。乗り心地と走りのバランスを取るのが難しいのだ。しかもSUVは車高が高いので、姿勢安定性を高めるには足を引き締めなければならない宿命にある。

 このハンデを、XC60はエアサスを採用することで解消を図った。硬くはないけれど、決してフカフカではない。もともと私は、エアサスのような電子制御のサスペンションは路面からのインフォメーションが断たれてしまうので好まないのだが、XC60はこの二律背反のバランスをうまくセッティングしていた。

 ただし運転好きの人には、やはり通常のサス仕様の方が路面状況がよく伝わってきて、その点では運転しやすいし、ダイレクト感が楽しいと感じるかもしれない。一方、エアサス仕様は「重厚感」ともいうべき高級車の乗り味で、XC60が目指すプレステージのキャラクターによく合っていると思った。状況に応じて車高調整も可能なので、総合的に判断すると私ならエアサスを選ぶな。

 ステアリングに関して、最近は高級車であってもクイックに仕立てたクルマが増えてきた。それに比べるとスローである。クイックなステアリングは運転者は楽しい。ただし、繊細なステアリングワークをしてくれないと同乗者は急ハンドルに閉口することになりがちで、きっとその点を踏まえたうえであえてスローなセッティングにしたのであろう。

 そしてエンジンについて。ターボ車であっても低回転からの「ツキ」がよい。ハイブリッド車に関しては、「プリウス」や「アクア」のようなエコのためではなく、ターボ的要素としてさらにパワーを付加するいわゆる“パワーハイブリッド”の性格を帯びる。モーターの特性から素早く加速を得られ、市街地でも扱いやすかった。

 戸惑ったことも述べておくのがフェアであろう。ナビや温度調節などの操作に迷った。そもそもスイッチがないのだ。多くの操作はモニター上で行なう。オーナーになってみれば慣れてしまうのかもしれないが、短い試乗だと「あれ、どうするんだっけ? 記憶力が弱ったのかな」と思うことがよくあった。

 ただスイッチ類を減らしたことで、見た目がすっきりした「北欧デザイン」のテイストが生まれているのは確かだ。

XC60 T5 AWD Inscriptionが搭載する直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジンは最高出力187kW(254PS)/5500rpm、最大トルク350Nm(35.7kgm)/1500-4800rpmを発生。JC08モード燃費は12.6km/L

安全への信頼度

XC60では16種類以上の先進安全・運転支援機能「IntelliSafe(インテリセーフ)」を標準装備したのもトピックの1つ。全車速追従機能付ACC(アダプティブクルーズコントロール)、衝突回避・軽減フルオートブレーキシステムなどはもとより、新たに「ステアリング・サポート(衝突回避支援機能)」「オンカミング・レーン・ミティゲーション(対向車線衝突回避支援機能)」「ステアリングアシスト付BLIS(後車衝突回避支援機能付BLIS)」という3つのステアリング・サポート機能が標準搭載された

 最後にボルボと言えばやはり安全性について述べなくてはならないだろう。

 新型XC60には16種類以上の安全装備がつく。正面衝突を防ぐ新しい発想の対向車線衝突回避支援機構もある。でも、こうした万が一のときの安全装置の性能に関しては、幸か不幸か(当然だが)今回の試乗では確認できなかった。昨今は各自動車メーカーがさまざまな安全装置や自動運転車(本来は運転補助装置と呼ぶべきなのだが)を出してきている。これについては我々自動車評論の専門家であっても、走行性能と違ってテストできないので、メーカーに任せるしかない。

 私見としては、「安全装置がついているから安全だ」と訴える自動車メーカーは信頼できない。あくまで安全装置は補助装置であって、主体は人の意識なのだから。

 事故原因の9割は漫然運転や緊急回避不能などのヒューマンエラーが原因と言われている。であるから補助装置がつけば本来は事故が減るはずだが、そこは人間が人間である以上怠けるので、補助装置が付いて安心すると意識も薄れがちだ。実際に高速道路でスマホ操作や居眠りが増えたという報告もある。

 この点に関しては、ボルボは長らく実際の事故現場に立ち会い、実地事故調査を行なってきた。だからこそ、決して装置だけでは安全は担保できないと考えているメーカーであるはずだ。運転者の行動や道路環境にまで踏み込んで、事故の真実を明かそうとしてきた姿勢に対する信頼度の高さは、XC60においても大きなマージンだろう。

提供:ボルボ・カー・ジャパン株式会社