トピック

CAEを駆使して高品質なホイール生産を追求。タイ「YACHIYODA ALLOY WHEEL」本社工場を見学

高品質な「モノ作り」の実現方法は?

YACHIYODAブランドのスポーツホイールとキャンペーンガール

 前回のレポートでは、ホンダ車の純正アクセサリーを提供するホンダアクセスが、タイでどのようなプロモーションを行なっているかなどを紹介した。その第2弾として、ホンダアクセスがタイ向け純正ホイールのOEM(Orinal Equipment Manufacturing)生産を委託している「YACHIYODA ALLOY WHEEL」の本社工場を見学した模様をご紹介する。

「YACHIYODA」という社名を見ると日本企業の現地法人かと思うところだが、YACHIYODAはタイで設立されたタイ資本のメーカーで、設立時に日本企業から社名をライセンスされてこの社名になったという。

 そのYACHIYODAでは、クルマの駆動力をタイヤに伝える役割を果たすホイールを生産している。8万6000個/月の生産キャパシティを持つYACHIYODAの工場でどのような生産が行なわれているのかを紹介していきたい。

日本に由来する社名だが純粋なタイ企業であるYACHIYODA

YACHIYODA ALLOY WHEELの本社工場

 YACHIYODAはタイのバンコク郊外に本社と工場を構えるホイールメーカー。社名を見ると日本企業の現地法人のように感じると思われるが、YACHIYODAはタイの資本で設立されたタイの地場メーカーとなる。なぜ日本メーカーのような社名なのかと言えば、1983年に設立されたときに日本の「八千代田工業」という会社からネーミングライツとホイール生産技術の移転契約を行なったという経緯があり、それ以降「YACHIYODA」の社名を利用しているとのこと。

英語での正式名称はYACHIYODA ALLOY WHEEL。YACHIYODAの名称は1983年の創立時に日本の八千代田工業からネーミングライツを取得して使用している
キャンペーンガールとYACHIYODAのデモカー
タイで工場を見学すると、しばしばこのような歓迎を受けることになる
YACHIYODAブランドのホイール

 YACHIYODAの歴史はその成立の経緯もあって、その後も日本との強いつながりで形成されている。日本のホイールメーカーやタイヤメーカーと協業したり、日本の自動車メーカーに対してホイールをOEM供給したりしながら製造技術を磨いてきて、現在のように高いレベルでホイールを製造できるようになったという。現在では、8万6000個/月の生産キャパシティを誇っており、多くの自動車メーカーなどに対してOEM供給している。

YACHIYODAが生産しているModuloブランドのホンダアクセス向けホイール
ホンダアクセスやホンダ向けにホイールをOEM供給している

 本田技研工業の純正アクセサリーメーカーであるホンダアクセスもその代表的な1社で、東南アジア向けに販売されている「シティ」「シビック」「HR-V」などの車種向けとなる純正オプションホイールの製造を担当しており、これまで1万7000個の納入実績があるという。そのほかにもホンダ向けのホイールを製造しており、「CR-V」向けとして製造、納入しているとのこと。さらにホンダ以外のメーカーで、トヨタ自動車、三菱自動車工業、いすゞ自動車、フォード、現代自動車向けにホイールを製造、納入しているとのこと。これだけの自動車メーカーにOEM供給していることは、そうした自動車メーカーから品質を認められているということの裏返しだ。

ホンダ以外にもトヨタ自動車、フォード、現代自動車、三菱自動車工業、いすゞ自動車などのメーカー向けにホイールを生産している

CAEを利用した設計から、生産、検査まで一気通貫で行なわれているホイール製造

CAEを利用したホイールの開発、設計を行なっている

 そうしたYACHIYODAのホイールは、開発、生産、出荷までを工場内で一気通貫の体制で行なっていることが大きな特徴となる。すべての施設がこの工場内で完結しており、例えば生産過程で問題が発覚した場合には、それがすぐに工場内にある開発部門にフィードバックされ、対処を実施。その対策が生産現場に適用されて品質が向上していくというプロセスが繰り返される。

 開発部門では「CAE(Computer Aided Engineering)」を利用してホイールの開発が行なわれている。CAEというのはコンピューターを利用した開発や設計のことで、「3D CAD」と呼ばれる3次元の物体をコンピューター上で設計できるソフトウェアを利用して、コンピューター上で設計図が作られる。YACHIYODAではその3D CADのソフトウェアとして、Dassault Systemes SOLIDWORKSの「SolidWorks」ないしは、Dassault Systemesの「CATIA(CATIA 3DEXPERIENCE)」などを利用して設計しているという。

 主に自社ブランドの製品に関してはSolidWorksを活用し、自動車メーカー向けのOEM製品にはCATIAを利用しているという。自社ブランドとOEM向けで異なっているのは、自動車メーカーではCADソフトにCATIAを利用するのが一般的(例えばホンダでも一般的にCATIAを利用している)だからだ。

強度解析などにもCAEを利用している
型の製造過程の説明

 このCAEの段階で3Dのホイールや型のモデルが作られ、それが2Dのドローデータに変換され、設計図としてプリンターなどで出力される。それが次の型の工程に渡されて、ホイールを製造するために必要な鋳型が製造される。

 型は「ローワーモールド」「アッパーモールド」「サイドモールド」の3つのパーツから構成されている。それぞれ製品ごとに型が製造され、次の製造ラインに渡される。

ローワーモールド、アッパーモールド、サイドモールドの3つ
ローワーモールド
アッパーモールド
サイドモールド
型の作成過程
型を製造するマシン
型の原料
工場内にはかつての製品で使われていた型が保存されている
製造過程のプロセス

 型ができあがれば、次は実際の製造ラインに進む。まずはホイールの原料となるアルミニウムを溶かして型に流し込む。こうした製造方法は鋳造と呼ばれており、アルミのような素材を利用して製造する場合には一般的な工法になる。原料となるアルミはインゴットと呼ばれる延べ板のような形状で納品され、それを溶鉱炉で690℃前後まで加熱することで液体状にする。この溶けたアルミを型に流し込みホイールに成型する。

 型から外した後はレーザーを利用して必要ない部分をカットし、再び熱入れをして形状の定着を図る。その後、研磨を行なってバリと呼ばれる不要な出っ張りを削り落としていく。この状態でタイヤに空気を入れるためのエアバルブを通すための穴を空けて完成となる。なお、原料となるアルミをしっかり活用するために、カットされた不必要な部分は再び溶かしてインゴットに戻され再利用される。

銀色の延べ板状のようなものがアルミホイールの原料となるアルミニウムのインゴット
鋳造の工程の説明
ロボットアームの先に固定されたバケツの下にあるのがアルミニウムのプール
温度は690℃(±10℃)となっている
鋳造工程の全景
製造ラインをホイールが流れていく。ほとんどのプロセスは自動化されている
研磨とバリ取りのプロセス
製造段階で型からは左のような状態で出てくるが、研磨、バリ取りなどのプロセスを経ていくことできれいな製品に仕上がっていく

 これらの工程はほとんど機械で行なわれており、人間の手はほぼ入っていない。工員はそれぞれの工程がきちんと行なわれているかを確認するためにいる形になっており、問題が発生したときにはそれを開発部門にフィードバックするといった役割を果たすことになる。

 実際に生産過程には抜き取りの検査工程が用意されており、内部構造に問題がないかX線を利用してチェックする検査などが生産ラインに近いところで随時行なわれ、問題が発見された場合はその情報が開発部門に伝えられ、開発部門で対処が行なわれて生産ラインにすぐ戻されるので、迅速に生産を再開できる体制が整えられているという。

鋳造過程の検査工程
鋳造ラインに併設されている検査工程
X線検査システムなどを備えており、問題があればすぐに開発担当者にフィードバックされる

塗装や完成後のQAにも厳しい検査項目が用意され、品質を担保

塗装工程

 こうして作り上げられたホイールは、生産の最終工程になる塗装工程に送られる。塗装前に汚れ落としが行なわれ、下地のコーティング、研磨、汚れ落とし、塗装1回目、研磨、汚れ落とし、塗装2回目の順で進められ、最終塗装が完了する。こうした塗装は品質に大きく影響するためYACHIYODAでも重視しており、1つの工程が終わるたびに抜き取り検査を行なっており、塗装がきちんと定着しているかチェックしているという。

 また、同じように重要なのは、塗装の色が納入先となるメーカーの要求どおりになっているのかという点だ。ホイールは自動車の顔の1つと言えるだけに、それがメーカーの要望と違っていては、納品してもはねられてしまうからだ。このため、色合いの検査は機械を利用して厳密に行なわれているという。

塗装工程の検査
塗装工程の各工程のホイール
塗装完了

 塗装が完了すれば生産過程はひととおり終了だが、ラインの一部の製品は「QA(Quality Assurance)」と呼ばれる工程に回される。実はこのQAこそが高品質なホイールを製造する肝になる。QAでは13度の角度から480kg~873kgのウエイトを落としてリムとスポークが壊れないかを調べる「13度衝撃試験」、タイヤを組み付けて実際に回転させ、走行時の動作状況を再現する「ドラム検査」など複数のストレステストが待っており、この検査を通過しなければ製品として出荷することができない。

 検査員によれば、このテストではホイールにひびが入っていることを確認できたりするなど、生産工程では分からない問題が発覚することも少なくないという。実際、このQAで発見されたひびが入ったホイールも展示されていたが、これはこういったテストを経なければ分からないだろうと感じた。

QA(Quality Assurance)の説明
中央奥が「13度衝撃試験」のテスター
「ドラム検査」のテスター
QAでNGになったサンプル(右)。ナットホールのあたりにひびがあることが確認できる

日本メーカーの厳しい要求にも適合できる開発、生産、検査態勢

 このようなQAも通過すれば、最後にホイールが箱に詰められて出荷される。筆者が見学できたのは、YACHIYODAが自社ブランドとしてタイ国内などに向けて出荷している製品の箱詰めだったが、OEM(自動車メーカー)向けの場合には、各メーカーのニーズによって箱なども異なるとのことだった。

最終的には箱詰めされて出荷される
納品先次第で箱などは変更される

 なお、このYACHIYODAだが、自動車メーカー向けなどのOEM生産が80%、自社ブランドが20%の割合だそうで、自社ブランド製品はタイなどを中心としたアフターマーケット向けに販売されているという。現在はタイや一部は欧州向けなどに出荷しているということで、将来的には日本市場向けに参入していきたいとのことだったが、日本はどちらかといえばハイエンド製品が市場の中心なので、どのような形で参入するかまだ検討中ということだった。

 今回、YACHIYODAの工場を見学して感じたことは、タイの自動車生産でエコシステムのレベルが年々上がっているという点だ。YACHIYODAの工場は、開発、設計、生産、検査まで工場内で一気通貫に行なわれており、生産過程で何かトラブルが発生した時はそれがすぐに開発、設計にフィードバックされる体制が整っていることにはとくに感心させられた。こうした体制が整うことで品質向上までの時間が短縮されて、これなら要求の厳しい日系メーカーの品質要求にも対応できるだろうということが理解できた。

生産過程のほとんどは自動化されていた
しっかりとしたQAをやっているというのが印象的だった