トピック

モデューロのリアスポイラーを製造するタイセイプラスを見てきました

タイセイプラスのタイ子会社となるタイセイプラスタイランドの工場

 ホンダアクセスは、本田技研工業が販売する市販車の純正オプションパーツを開発、販売するホンダ子会社だ。ホンダ車のユーザーであれば、ホンダ車のカタログなどで目にする「Modulo(モデューロ)」ブランドで展開するカスタマイズパーツの開発・販売も手がけている。

 そうしたホンダアクセスが手がける純正オプションパーツの中でも、カスタマイズパーツとして人気があるのがリアスポイラーだ。リアスポイラーは一見するとF1やSUPER GTのマシンが装着するリアウイングのような印象もあるので、見た目の格好よさをアップするパーツとしても人気を集めている。

 今回、ホンダアクセスがタイで「シビック」用に販売しているリアスポイラーを協力工場で製造する過程を見ることができたので、その模様をお届けしたい。ホンダアクセスが製造を委託しているのは愛知県清須市に本社を構えるタイセイプラスのタイ子会社となるタイセイプラスタイランドで、同社のタイのチョンブリー県チョンブリー工業団地に構えている工場内で製造されている。

地産地消を自動車で行なっているタイの日系メーカー、88%の市場シェアを誇る

 タイでは、地場の自動車メーカーというのが存在しないため、国内を走るクルマのほぼすべてが外資系のメーカーのクルマとなっている。ただし、タイも加盟しているASEAN域外からの輸入車にかけられる関税が本体価格とほぼ同じとなるため、各メーカーは現地生産に踏み切っている。その中でも日系メーカーのシェアは88%(2013年時点、経産省発表)と高く、ホンダ、トヨタ自動車、日産自動車といった日本の大手メーカーも現地に工場を構えて生産を行なっている。車種に関しても、日本とは市場のニーズも異なるため、日本では販売されていない車両も含まれている。その代表は日本では「Type-R」モデルしか販売されていない「シビック」も含まれており、昨年欧米で販売が開始されたFC型のシビックは、タイでも人気を集めている。

 このため、その純正パーツを販売するホンダアクセスもタイへ進出しており、現地車用のパーツは現地で行なっている。これは、自動車用の完成商品の関税がやはり高いためで、ホンダアクセスの現地法人はホンダアクセス アジア&オセアニア(HAC-AO)という社名で、タイだけでなくASEAN諸国やオセアニアを管轄しており、パーツなどはタイで生産したものがASEAN各国に輸出する形で対応しているという。

タイセイプラスタイランドで製造されたリアスポイラー

 そうしたホンダアクセスがタイで販売しているホンダ車用の純正品パーツの中でも、人気を集めているのが純正リアスポイラーだ。自動車におけるスポイラーとはクルマの周辺につける空力的付加物のことで、特にリアスポイラーという場合には、一般的にはリアウイングの形状をしたスポイラーのことを指す。

 レーシングカーにおけるリアウイングとは自動車を下に押しつける力(それをダウンフォースと呼ぶ)を増して、コーナーを高速に旋回できるようにするデバイスになる。しかし、市販車の場合には、もちろんダウンフォースが増すという効果はない訳ではないが、ダウンフォースがかかるほどのスピードでコーナーを回るということは希であることを考えると、どちらかと言えば、ドレスアップ効果を狙うパーツだと言える。

 特にタイではより派手な外装や内装を好まれているようで、実際路上を走っているクルマを見ると、驚くほどリアスポイラーを始めとしたスポイラーを装着した車両が多い。それだけに、純正パーツを販売するホンダアクセスにとってはリアスポイラーは重要な製品だということだ。このため、品質には非常に気を使っており、日本と同じクオリティで生産できることを重要視しているのだと、ホンダアクセスの関係者は説明した。品質に確実さを期待できる、日本で完成品を作って輸出すると高い関税がかかるし、何よりスポイラーのような大型のパーツは船便で送ったとしても輸送費が高くついてしまう。

 このため、現地生産することを模索したそうだが、現地でも同じ日本と同じクオリティで製造できる工場と言えば、やはり日系企業ということで、愛知県清須市に本社を構えるタイセイプラスが候補として上がり、同社がタイのチョンブリー県チョンブリー工業団地に構えている工場で生産することになったのだ。

愛知県清須市に本社を構えるタイセイプラスの概要

ブロー成形を得意とするタイセイプラスのタイ工場で生産されているホンダアクセスのスポイラー

 タイセイプラスは愛知県清洲市に本社を構える自動車部品メーカー。特にブロー成形と呼ばれる部品の成型方法を得意としているメーカーになる。

 一般的に何らかの部品を作る場合には、素材と金型と呼ばれる型に、加熱して流動性がある状態にした素材を押し込んで圧力をかけるなどして成形する。この時に型と型を押しつけあう形で一体成形する方式を射出成形と呼び、型に入れた後に風船を膨らますような形で空気を入れて中を空洞にする形で成形する方式をブロー成形と呼んでいる。成形した後、バリと呼ばれる余分な部品がでるのでそれはカットし、リサイクルしてまた利用するという形で成形が行なわれる。

ブロー成形の工程を示した図
タイセイプラスタイランド 社長 後藤登志雄氏

 ブロー成形でスポイラーを製造するメリットは、大きく言うと2つある。1つは金型のコストが、射出成形に比べて安いことだ。タイセイプラスタイランド 社長 後藤登志雄氏によれば「射出成形の場合は精密な金型が必要になるのに対して、ブロー成形ではそこまで精密な金型は必要としない。完全に同じ金型は作ったことがないので分からないが、概ね8~10倍は違う」とのことで、金型のコストが大きく違ってくる。金型のコストは、最終的に製品に跳ね返ることになる、この点は無視できない。

 2つめのメリットは、素材を入れた後に風船を膨らます理屈で金型の中に空気を送り込むため、製品の中は中空になる。言うまでもないが、自動車にとってスポイラーのような部品は、空力的に効果があったとしても、重量物になることは否定できない。重量が増えれば増えるほど燃費などの性能は悪化するので、できれば軽い方がいいのは言うまでもないだろう。射出成形でスポイラーを作った場合、内部にも素材がつまってしまうことになるので、重量は大幅に増える。であれば、ブロー成形で、素材の量をできるだけ少なくすれば、重量を抑えることができるし、コスト削減にもつながる。

 後藤氏によれば、タイセイプラスとホンダアクセスの関係は、タイでのみ販売されていた「シティ」や「シビック」といったセダン用のスポイラー、「アコード」「ジャズ(日本ではフィット)」「CR-V」といったスポイラーやフロントグリルなどの生産を請け負ってきたのだという。

タイセイプラスが生産を請け負うスポイラーなどの製品事例

ブロー成形、バリ取り、研磨という工程を経て塗装工場へ出荷されていく

ブロー成形を行なう機械

 タイセイプラスがタイのチョンブリー県にあるチョンブリー工業団地に構えている工場は、タイの首都であるバンコクから約130km。渋滞していなければクルマで2時間弱といった場所にある。近くには、スマートフォンのメーカーとして知られるHUAWEIのバッテリー工場があったりと、自動車だけでなくデジタル機器の工場などもある工業団地の一角に同社の工場はある。

 実際に工場に行ってみると、取材時にはホンダがタイで販売しているシビック向けのリアスポイラーを生産中だった。ブロー成形を行なう機械の前に立ってみると、まずは金型が開いて素材を受け入れる準備をする。それが終わると、上から材料となるABS樹脂がニュルッと降りてくる。ちょうど、歯磨き粉をチューブから押し出したようなイメージで素材がニュルッとでてくるのだ。但し、この素材は円筒形となっていて後工程で空気を入れやすくしている。

材料となるABS樹脂がニュルッと降りてくる
その後金型が閉じられる
金型に入りきらなかった素材がプクッと膨らんでいる

 その後金型が閉じられる。閉じられた後、金型の中に空気が入れられ、金型に入りきらなかった素材がプクッと膨らむ様子が確認できる。空気が今入れられているのだと分かる。その後成形が終了とすると、作業員がスポイラーを金型から外し、バリを取る工程へ移動する。

スポイラー以外の余分な部分を取り除く
スポイラーのカタチとなって取り出される
金型の合せ目にできるバリを取る工程

 バリ取りをした後、次には穴開けが行なわれる。この穴は内部に溜まった水などを逃がしたりするもので、これがないとスポイラーが壊れてしまうからだという。もちろん取り付け用の穴も、この段階で空けられる。バリなどが一通り取られた後、最後に寸法が規定どおりになっているかをチェックする工程になり、そこで規定どおりであることが確認出来れば、ブロー成形のブースでの作業は終了になる。

バリ取りをした後、次には穴開けが行なわれる
最後に寸法が規定どおりになっているかをチェック

 次にスポイラーが送られるのは、研磨作業だ。研磨作業ではやすりを利用して、細かな部分のバリ取りが行なわれる。製造の工程ではバリ取りはある程度の部分にとどまっているので、製品として出荷する品質に達するには、この研磨作業は必要になるのだ。

手作業で1つ1つ研磨作業が進められる
研磨した塵が飛び散らないように作業のブースが池のような所に浮いている

 ユニークなのは研磨する作業のブースが、池のような所に浮いているところ。これは、研磨した塵が飛び散らないようにする工夫で、落ちた塵は水に沈むことで、回収が容易になるのだ。最終的に下水として放出する前にきちんとフィルタリングするので、環境にわるい影響を及ぼさないように配慮されているのは言うまでもない。最後に熟練の作業員の目により問題がないかがチェックされ、包装されて次の工程となる塗装工場に納品されていくということだった。

 このように、今回スポイラーを製造する現場というのを初めて見たが、印象的だったのは、1つ1つ日本の工場と同じように丁寧に磨いたりしていることだった。タイは親日国と言われているが、そういうところもモノ作りの哲学のようなものが工場で働く工員の方にもシェアされているのだなと感じた。その意味では、日本人としては不思議な体験だったが、嬉しくもあったとしてこの記事のまとめとしたい。

協力:株式会社ホンダアクセス