トピック
レイズに聞く、高性能ホイールに秘められたレース用ホイールの技術(前編)
高性能アルミ鍛造ホイール「TE37」誕生の秘密とその進化
- 提供:
- 株式会社レイズ
2020年6月16日 00:00
クルマ好きな人達にはおなじみのアルミホイールメーカー、レイズ。中でも鍛造によって軽さと高剛性を両立する「VOLK RACING」ブランドは、カスタマイズ好きやスポーツ走行派など、パーツ選びにシビアな目を持つユーザーに支持されるホイールになっている。
モータースポーツシーンでも、アマチュアレースはもちろんのこと、日本で最も人気のあるSUPER GTや、さらにF1やWECにおいてもレイズのホイールは使われている。今回はそんなレイズの新作紹介と、創業以来こだわり続けている「モノづくり」の姿勢について紹介していきたい。
「モノづくりのまち」に本社を構えるレイズ
レイズは「モノづくりのまち」である大阪府東大阪市に本社を構える。阪神高速道路に面しているので、関西方面にお住まいの方なら本社の看板を見たことがあるかもしれない。その本社ビルで我々を迎えてくれたのは、VOLK RACINGシリーズの企画開発部の部長も務め、同時にモータースポーツデビジョンのリーダーでもある山口浩司氏だ。
アルミホイールメーカーのレイズは1973年に創業。当時から市販用ホイールはもちろん、レース用ホイールの製造も手がけ、その2つを両輪として事業を進めてきた。レース用のような特殊なものは外部に出すといった企業も多いが、難易度が高いものであっても自社の人材と機材のみで行なうスタイルを貫いてきたのは、さすが「モノづくりのまち」の企業。この理由について山口氏は「高い技術で作られた高品質なアルミホイールを、多くのユーザーにとって身近な価格に設定するためにやってきたこと」だと説明する。
この「すべての行程が自社で行なえる」のはレース用ホイールの製造でも同様。作る工程やかかる時間には差があるが、基本的には同じ工場、同じ機械、同じスタッフが製造を行なう。レース用ホイールというものはホイールの強度や軽さなどなど、性能面での要求値が非常に高いため、ホイール製作時、各工程の横のつながりが重要になるが、それも常日頃から同じスタッフで仕事をしていればこその連携があるし、そこで得た経験がまた市販用ホイールにも生かされる財産となる。
ただしデメリットがないわけでもない、と山口氏が語ってくれたのがマツダがル・マン24時間レースに参戦していたころの話。当時マツダにレース用ホイール供給をしていたレイズであったが、レース直前になってホイールの仕様を変更する必要が出たというのだ。レース用ホイールは作る数こそ少ないが、1本製造するのに必要な時間は市販品とは別物。それでも市販ホイールラインをすべて止めて全社で対応することでこれに対応したという。自社生産にこだわってきたからこそできたことではあるが、「一般のお客さんを待たせることになってしまった」と山口氏は苦笑する。
そんな苦労があったのは初耳だが、後にマツダが日本メーカーとしてル・マン24時間初優勝を遂げた787Bの足下を支えていたのはレイズのホイールであった。ちなみにトヨタ自動車がル・マンで優勝したときもレイズのホイールである。
こうしてレースシーンにおいて見事にその実力を発揮したレイズであったが、市販ホイールにおいて、レイズ、そしてボルクレーシングの名を不動のものにしたのは、やはり「TE37」の登場だろう。
TE37が登場したのは1996年のこと。当時レースシーンでは使われることのあった鍛造ホイールだが、その製造は非常に難しく、とても一般に販売できる価格で製造することは難しかったという。そうした中、レイズでは独自の「RM8000回転鍛造機」を開発。ディスク面は1万t鍛造プレス機で鍛造し、リム部分は回転鍛造で作ることによってそれまで難しかった鍛造ホイールの量産化を実現した。こうして市販できる鍛造ホイールとして生まれたのがTE37だ。ちなみにTE37の名前の由来は、15インチ6Jモデル1本の重さが3.7kgであったため。さらに価格も1本3万7000円にしたというのは大阪商人らしいところ。
話はそれたが、その鍛造製法により当時「規格外の軽さ」、そして6本のスポークと、そのスポーク間に生まれる正三角形が応力の分散性に優れ、スポーツホイールにふさわしい剛性も持ち合わせていたことで、スポーツモデルに乗るユーザーなら誰もが憧れ、大いに支持されたホイールとなった。きっと読者の中にもTE37を買った人や憧れた人は少なくないだろう。そしてその人気は今もなお続いている。
レイズが手がけたスペシャルなホイール
山口氏は特別なホイールを見せてくれた、それがWECに参戦したトヨタTS050に装着されていたマグネシウムホイールだ。床に置いてあったホイールをテーブルの上に軽々と持ち上げ「TS050は3台しか作っていないレーシングカーで、このホイールは他のマシンとの共用がないその3台のための専用品です。そこで我々は持てる技術のすべてをつぎ込んで、WECというレースを戦えるだけの強さ、軽さ、高剛性はもちろん、クルマにあわせた空力の要素まで作り込んでます」と解説してくれた。
続いて見せてくれたのが2020年のSUPER GT GT500クラスのマシン用に用意した鍛造ホイール。山口氏によれば、2020年シーズンを戦う車両としては、GT500で日産の3台、そしてホンダR&DやトヨタTRD開発車両にこのホイールを供給しているとのことだ。
SUPER GTはツーリングカーレースなので、市販車のイメージを持ったカウルを付けている。そこでのホイールも市販車のイメージを持たせるため、フラグシップモデルである「TE37」をオマージュしたデザインになっているとのことだった。
さて、こうした特別なホイールを見ていると「各所のこだわりの作りが速さに繋がるのか」と思うところであった。そこでレースにおけるホイールの効果を伺ってみたところ、山口氏は「レースにおいてホイールがいいからタイムが上がることはありません。ラップタイムを向上させるために必要なものといえば、エンジンパワーや車両重量の軽さ、ダウンフォースの強さにタイヤのグリップ力です。それらの要素をドライバーが上手に操うことでラップタイムは縮まるのですよ」との答え。
では、優れたホイールはどんな仕事をしているのか? と質問を変えてみると答えてくれたのが「タイヤのトレッド面をキチンと路面に当てること」だという。
GT500ではフロントで315mm、リアで335mmのタイヤ幅があるがその幅があってもタイヤとホイールが接触しているのはタイヤのビード部だけ。片側約1.6cmくらいの幅が2本(イン側とアウト側)グルリと1周接しているのだけなので、実はタイヤからホイールにかかる荷重はかなりスポット的なものとなる。
それでいて走行中には、荷重方向だけでなく、加減速時には回転方向に、コーナリングでは横方向にも大きな入力がかかる。特にホイールはその構造上、ディスク面とは逆のリム(ホイールのイン側、インナーリム)には支えがない。そのためホイールの剛性が足りていない状態では、イン側のビードから来る力により瞬間的にリムが変形してしまい、タイヤのトレッド面を路面に均等に押しつけることができなくなってしまうのだ。
そこでレイズではリム形状の設計を徹底的に見直して、インナーリムに歪みが出ない剛性を持たせた。こうすることでレイズのホイールと組み合わせたタイヤは、例えば激しいブレーキングからのターンイン、といったシチュエーションにおいても、トレッド面を路面にキチンと押しつけることができるようになり、その結果、マシンのエンジニアが設定した空力やサスセッティングの効果が有効に使えるだけでなく、グリップフィールが安定することでドライバーがより正確にクルマを操れるようになるのだという。
レースシーンでは、とくにトップカテゴリーになるに従って、要求される要件が細かくなっていくのだという。例えば回転方向にどれくらい、横方向にどれくらいの入力があるのか、そうした条件を満たしつつ重量はここまでと。しかしそうした高いハードルが結果的にレイズ自体の技術力を向上させることにつながり、レース用ホイールも市販ホイールも同じスタッフが開発を行なうレイズにおいて、そうした技術は市販ホイールにも受け継がれる。
そう、長年レイズの市販ホイールの顔となっているTE37についても同様で、一見すれば昔ながらのTE37に見えて、実はこれまで何度か設計からやり直していて、性能面では大きな進化を遂げていたのだ。
ひと目でTE37と分かるデザイン、だが中身は別もの!?
VOLK RACINGのブランドサイトには数多くのTE37が掲載されている。それらは対象とするクルマに合わせサイズやスポークの太さやリムのデザインがそれぞれで違っているのだが、それでもひと目見てTE37と判別できるのだ。
6本スポークだから当たり前、と思うかもしれないが、実は軽自動車サイズから20インチサイズ、クロカン用など、さまざまなサイズに対応させながらも、一貫したTE37らしさを表現するためには、デザイン上の工夫がある。
例えばハイエース用。ハイエースはスタッドボルトが6本で、センターホールの直径も大きくなるため、従来の4穴や5穴用にデザインしたスポークの太さではTE37らしさが薄れてしまうのだ。そこでハイエース用のTE37では、スポークの太さをセンターホールの直径に合わせるなどの対策を盛りこんでデザインをしている。それゆえにセンターホールが大きいにもかかわらず、全体のイメージは自然にTE37だと感じられるデザインになっているのだ。
しかしデザインでは同じように見せつつも、その中身はさまざまな車種に合わせて最適化がされている。たとえば軽自動車サイズの「TE37 KCR」の場合、軽自動車ではそれほど大きなブレーキがないので、リムを絞り込む形状とすることでインナーリムの剛性を確保している。インナーリムの剛性の重要性はレースシーンから得られた知見だ。また、まもなく発売を予定しているハイパワーSUV&4×4向けの「TE37 Ultra LARGE TOURER」では、裏側からもプレスすることで、スポークの裏が肉抜きされたようなコの字断面になっている。これにより軽量化と高剛性を両立できる。こうしたことができるようになったのも、日々鍛造の技術が向上しているからだという。
また、レイズは塗装も自社でやっているので、カラーリングという面でも進化を遂げる。例えば「TE37SB REDOT」に塗られた「マットガンブラック」。これはつや消し黒とガンメタリックの両方の質感を持つ色合いになっているので、似たデザインのホイールを作ったとしても質感はまるで違う単調なものになってしまうという。
さらに向上した切削技術はデザインにも生かされる。たとえばかつてはカラーリングだったVOLK RACINGのロゴも、レイズの特許技術である「A.M.T.(Advanced Machining Technology)」によって、色あせることのない切削で刻まれる。また、デザインとしての彫り込み加工を施しているのだが、ただ、アルミ地を出すのではなく、あらかじめリムの一部に赤い色を塗っておき、その周辺を切削するという切削と塗装を組み合わせた工法「REDOT」という凝った仕上げにしている。山口氏いわく「簡単そうに見えますが我々と同じクオリティでこの仕上げができるところはないと思います」とのこと。
TE37 Ultra LARGE TOURER
ということで、レイズの歴史やホイール製造時のこだわり、そしてレースホイールから市販ホイールのフラグシップであるTE37と盛りだくさん紹介させてもらったが、いくらTE37が不動の人気とはいえ、それだけで満足しているレイズではない。そこで次回は新世代の鍛造スポーツホイールである「Gシリーズ」と「ZE40」の製造に用いられる最新技術とデザインの話を紹介したい。