トピック
レイズに聞く、高性能ホイールに秘められたレース用ホイールの技術(後編)
TE37を超えるホイールの開発に挑む
- 提供:
- 株式会社レイズ
2020年6月30日 00:00
クルマ趣味を持つ人やモータースポーツファンにおなじみのアルミホイールメーカーであるレイズ。前編ではレイズとレースとの関わりや同社を代表する鍛造アルミホイールの「TE37」の話を伺った。今回はその後編として、そんなTE37の技術をベースにさまざまな形で進化した、新たなボルクレーシングの顔となるホイール群を紹介をしていきたい。引き続きお話を伺ったのは、レイズの山口浩司氏だ。
日本を代表するアルミホイールメーカー、レイズ
レイズは設計から製造までグループ企業内で一貫して完結できる世界的にも珍しいホイールメーカー。お店で売っている市販アルミホイールはもちろん、日産自動車「GT-R」など自動車メーカーに納める純正ホイールや、F1、WEC、SUPER GTといったレース用ホイールも供給。トヨタのル・マン24時間優勝の足下を支えたのもレイズのホイールであり、まさに日本を代表するアルミホイールメーカーと言える。
アルミホイールを作る場合、一般的なのは「鋳造」と呼ばれる、熱で溶かしたアルミ合金を金型に流し込んで成型する製法。レイズでも鋳造を使ったアルミホイールの製造をするが、同社が最も得意とするのは「鍛造」という製法だ。
鍛造を簡単に説明すると、アルミの塊を金型にセットし、巨大なプレス機で押しつぶしてホイールの形に成型していくというもの。こうすることでアルミに粘り強さをもたらす「鍛流線」が金型の形状に沿って高密度で切れ目なく伸びてくれ、これが鋳造にはない強さをもたらす。
しかし金型の隅々まで均等に素材を行き届かせるのは非常に難しく、鍛造ホイールを作れるメーカーは世界でも数えられるほどしか存在しない。どのような金型を使い、どのようにプレスしていくのかにレイズの企業秘密が詰まっているという話だった。ちなみにレイズの工場にある機材は最大加圧力1万tの鍛造プレス機である。
鍛造ホイールの製法は約30~40年前から続く技術だが、意外なことにかなり長い期間、技術面での大きな進化はほぼなかったという。
しかし常に市販、レース用ホイールとも、ユーザーからの高い要求を受けていたレイズは、回転させながら造形部の仕上げとリム部のスピニング成型を行なうRM8000回転鍛造という製法を開発。これにより1996年に同社初の市販向け鍛造ホイールTE37が登場したというのは前編でも語ったとおり。しかしTE37によって圧倒的な人気を集めたレイズも、そこでとどまることはなく、さらなる技術の向上を目指していった。
たとえばTE37が出た当時、言われていたのは「鍛造では凝ったデザインのホイールは作れない」ということ。液体にしたアルミを流し込む鋳造と違って、固体のままのアルミで細かいディテールを作るのが難しいというのは想像に難くないだろう。TE37も太めの6本スポークでシンプルなデザインと言える。
しかしレイズはそこで開発をやめることはなく、特に鍛造の金型の面において大きな進化を遂げたという。新しい技術で作られた金型は企業秘密の塊なので見せてもらうことはできなかったが、その代わりに製法についてはコメントをいただけた。それによると、1つのホイールに対して使う金型は最大4種類あり、それらを段階的に使い分けていくことでアルミ素材の流動性を詳細にコントロールすることが可能になったという。さらに表からだけでなく裏からも金型で押すことによって、より複雑な造形を作ることも可能となったそうだ。
そしてレイズは、ボルクレーシングブランド40周年となる2014年、TE37を越えるための存在として鍛造ホイール「ZE40」をデビューさせた。
TE37を超える剛性を持つ鍛造ホイール、ZE40の登場
ZE40はTE37同様にハイグリップタイヤを履くユーザーに向けたものであり、特徴は10スポーク形状を採用したところ。TE37の6本スポークはホイール外周のなかに応力に対して有効な形状である正三角形(に近い形)を作ることによって、軽さと剛性を両立するというコンセプトに基づいていた。しかし、ZE40はレイズにおける新しい剛性の考え方として10本スポークを採用した。
これは、TE37が登場した時代では15インチが主流だったところ、ZE40が登場するころは17インチや18インチの5穴が主流。さらにクルマのパワーも上がり、タイヤのグリップも向上。要求される剛性のレベルも上がっていた。そこで5穴に最適な形として10本スポークを選択することとなった。ちなみにZE40は「この先10年はこのホイールを超える剛性を持つホイールは出ないだろう」という自信から、進化の最終形イメージとして、アルファベット最後の文字である「Z」を名前に採用したとのことだ。
TE37を超える存在として走り好きの間では知られた存在のZE40だが、2020年仕様の新作が登場している。それが「ZE40 TIME ATTACK II」である。特徴はリム部に入れられた「タイムアタックライン」だが、これは前編で紹介した「TE037 REDOT 2020」と同じく、特許技術の「REDOT(アールイードット)」のカラーリングとマシニング切削を組み合わせた技術を使ってラインを彫り込んだもの。ZE40 TIME ATTACK IIのREDOTでは、持てる技術をすべて注ぎこむことで、非常に凝ったデザインを実現した。ラインや差し色を4パターンに分けたブロックパターンデザイン(ストロボラインとも言う)とし、適度な速度で回転していると長さの異なるブロックパターンによってストロボの点滅のような独特の見え方をするようにした。REDOTは非常に精度の求められる切削技術で、見た目においてもレイズにしか作れない性能を持ったホイールだと言える。
ちなみに、TE37を超える存在として開発され、この先10年は超えるホイールが登場しないと発売したZE40だったが、そのわずか3年後には、ZE40と同等の剛性を持った「TE37 SAGA(サーガ)」が登場することになる。技術を出し惜しみできないのがレイズなのである。
TE37を卒業した人に向けた「Gシリーズ」
TE37、ZE40で磨き上げた鍛造の技術は、さらに新しいホイールを生み出すことにつながった。それが「Gシリーズ」だ。その繊細なデザインを目にすれば、鍛造では複雑な造形はできないといった常識が、もはや過去のものになったと認識を改めざるをえないだろう。
そのデザインの方向性は、TE37の骨太で力強さを感じるものとは違い、きれいさとシャープさを感じさせるものになっているが、この細身のスポークで構成されたGシリーズも、ボルクレーシングブランドを冠するに値する性能を持ったホイールなのだ。
TE37やZE40とは違った方向性を持ったGシリーズを開発した理由について山口氏に伺ったところ「若いころにTE37を使ってくれていた方も、歳を重ねていくと家庭を持ったり、仕事での立場もできたりすると思います。するとおのずと乗るクルマも変わってくる。それでもクルマが好きな人であれば、大きな改造はせずともホイールがノーマルのままでは不満を感じることもあるでしょう。しかし、若くはないのでスポーティ過ぎるTE37は履きにくいかもしれない。そこで車格が高いクルマに合うデザインにしたのがGシリーズで、ネーミングのGとはGRADUATION(卒業)の頭文字、つまりGシリーズはTE37を卒業した方に向けたホイールという位置づけなのです」と解説した。
さて、そのGシリーズからは2モデルをピックアップしたい。まずはドレスアップ向けのデザインホイールにも見えるほどきれいなデザインである「G16」。このデザインにはレース用ホイールの製造でも使われる、応力の分散性に優れた「ノンストレスライン」という技術が用いられている。すなわち、プレミアムカーと組み合わせても遜色ないデザインでありながら、実は魅せることだけに軸足を置いたデザインではなく、TE37やZE40と同じくレース技術がフィードバックされたホイールなのだ。細身でリム外周まで伸びた8支点のクロススポークは、Gシリーズのコンセプトどおり、走りが好きな大人向けの雰囲気を出していて、スポーツカーはもちろんのこと、アウディやBMWのハイパフォーマンスモデルに合わせてもマッチするものである。
次に紹介するのはボルクレーシング「G025」だ。このホイールでとくに目を惹くのが、ハイパフォーマンスカー用ホイールとしては驚異の薄さといえる5.5mm幅のスポークだろう。この細さを実現できたのは、高さ方向に厚くできたから。そうしたことができたのも鍛造技術の進化ゆえだという。
さらにスポークの付け根部分や、ボルトホール横に開けられた軽量化のための穴も特徴。実は前編で紹介した「TE037」でも切削による軽量化が行なわれていたが、つまり名前に「0」が付いたモデルが、レイズの持つ技術力が集約されたモデルということなのである。
一見すればきゃしゃにさえ見えかねないG025だが、そこにはレース用ホイールをはじめとして、数多くの高性能ホイールを作ってきたレイズの技術力が盛り込まれている。
G025はG16同様、最新のシミュレーション技術でホイールにかかる各種の力と、その伝わり方を解析して設計されている。走行中にかかった力がどのスポークを通ってどのように伝わっていくのかを解析し、その上で必要のない「ムダな肉」を高性能な5軸の加工機材を使用して削り落としていくのだ。
こうして完成したG025のデザインは特にディスク面の開口面積が大きく、ブレンボなどの大きなブレーキシステムを持ったプレミアムスポーツカーと組み合わせることで、より存在感をアピールできるだろう。逆に言えば普通のクルマには似合わない、ホイールがクルマを選ぶ、そんな特別な存在とも言えそうだ。
デザインにおける次の一手、「見える性能」
現在、G16とG025ともに限定モデルが発売されている。それが「G16 BC/C」と「G025 DB/C」である。これらはともに色に特徴があり、G16 BC/Cはディスク面を切削したアルミ地の上にブラッククリアが吹いてあり、G025 DB/Cはアルミ地の上にダークブルークリアが吹いてあるというものだが、ポイントはクリア塗装にあった。
クリアは光の当たり具合によって色目が変わるので、その「透け具合」を楽しむものでもある。それだけにクリアを吹く段階ではとくに「塗膜の厚みがどの部分も一定であること」が大事になってくる。
しかし立体的な造形であるホイールのディスク面に対して塗膜を一定に塗ることは非常に難易度が高い。そこでレイズでは塗料ガンの位置調整や吹く塗料の量、時間を詳細に設定できる塗装ブースを導入することで「どの面の塗膜も一定の厚みで塗る」ことを実現した。ゆえにG16 BC/CとG025 DB/Cは角度やまわりの明るさに合わせて「必ず均一できれいに透ける」見え方になっているのだ。
そしてもう1つ、最近のレイズはホイールにブランドロゴや製品名だけでなく、鍛造であることや日本製であることなどの「情報」を載せているが、これは「デザインは進化しなければいけない」という独自の理論から行なっていることだった。
これは各種の文字情報をデザインの一部にするということだが、ここで文字をプリントしたステッカーを貼ったり鍛造時に文字も打ち出すのではなくて、REDOTのような機械加工によって文字情報やアクセントを入れているのがポイント。つまりこれらのデザインは加飾のためにやっているだけではなく、レイズの技術力そのものをアピールするためのものであった。
数多くのクルマメディアがあるなかで、Car Watchを読んでくれている方はおそらくクルマの技術の面で評価することに長けているのではないかと思う。もしそうだとすると、そういった人がアルミホイールを交換しようと考えた際にはデザインや価格だけでなく工業製品として「どんなものであるのか?」を見たいはずだ。
そこでレイズのホイールである。今回は2回にわたってレイズホイールの紹介を行なってきたが、どちらの記事もありがちな抽象的な表現での解説はほぼなく、ほとんどがリアルな技術に裏打ちされた話だったと思う。ということはつまり、Car Watch読者の方にとってレイズ製ホイールは評価しがいがあるものと言えるのではないだろうか。
今回の取材中、雑談の中ではあるが「レイズは世界一安い鍛造ホイールメーカーだ」と言われるという話が上がった。つまり、鍛造ホイールはその製造の難しさゆえに、安く作るのが難しいのだ。そうした課題を克服できたのは、前編でもお伝えした、設計から製造まで、市販用からレース用まで、すべてをインハウスで行なうレイズだからこそであろう。そして山口氏が語ってくれたその理由、「高い技術で作られた高品質なアルミホイールを、多くのユーザーにとって身近な価格に設定するためにやってきたこと」という言葉に集約されるのではないだろうか。