トピック

日下部保雄の三菱自動車「エクリプス クロス PHEV」で雪上&氷上の実力を徹底チェック!

S-AWCの各モードの違いを定常円旋回と高速ハンドリングコースで比較してみた

ラリー経験が豊富なモータージャーナリストの日下部保雄氏が、デビュー間もない三菱自動車工業の新型「エクリプス クロス PHEV」の実力を雪上&氷上で試した

エクリプス クロス PHEVで雪上&氷上走行

 2020年の暮れに「エクリプス クロス」のPHEV(プラグインハイブリッド車)のオンロード試乗会が行なわれ、山道で走り回ってそのスポーティな性格に瞠目したが、今回は少し遠方に雪を求めて出かけた。三菱自動車工業が培ってきたPHEVとS-AWCの実力を、条件のわるいコースで試してみたいと思ったからだ。

 エクリプス クロス PHEVについておさらいしておこう。2020年にマイナーチェンジしたボディは全長が140mm伸びて4545mmとなった。その主な目的はラゲッジルームの拡大とリアデザインのリファインだ。リアエンドが断ち切られていたようなデザインだったものが伸びやかになっている。フロントエンドもダイナミックシールドデザインを進化させたものになり、クーペSUVとしてのまとまりはかなり向上している。

今回雪上&氷上ドライブに連れ出したのは2020年12月4日に大幅改良して発売されたクロスオーバーSUVの新型「エクリプス クロス PHEV」。写真は最上級グレードの「P」(447万7000円)で、ボディサイズは4545×1805×1685mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2670mm
大幅改良によって顔まわりの各種ランプレイアウトの変更などを実施するとともに、リアまわりでは従来モデルで採用していたダブルガラスをシングルガラスに変更してよりスタイリッシュなフォルムを実現。Pグレードは18インチアルミホイール(切削光輝仕上げ)を装着し、今回の試乗車はブリヂストンのスタッドレスタイヤ「BLIZZAK VRX2」(225/55R18)を組み合わせる
PHEVモデルのパワーユニットは、前後1基ずつの高出力モーター、直列4気筒DOHC 2.4リッターのMIVECエンジンなどで構成するツインモーター4WD方式のPHEVシステムを搭載。エンジンの最高出力は94kW(128PS)/4500rpm、最大トルクは199Nm(20.3kgfm)/4500rpmで、「S61」型フロントモーターは60kW(82PS)/137Nmを、「Y61」型リアモーターは70kW(95PS)/195Nmをそれぞれ発生。ハイブリッド燃料消費率(WLTCモード)は16.4km/L、EV航続距離は57.3km(WLTCモード)

 PHEVシステムは「アウトランダーPHEV」で培ったノウハウを投入してエクリプス クロスに置き換えたものだが、同じSUVでも性格の違うアウトランダーとエクリプス クロスでは設定が異なっている。SUVのPHEVとして岩盤なアウトランダーとSUVクーペルックのエクリプス クロスでは後者はスポーティな性格を強く打ち出しており、4輪の統合制御技術であるS-AWCもそれに見合ったチューニングが施される。

 パワートレーンは2.4リッターのMIVECエンジンと前後に持つモーター、駆動用のバッテリーで構成される4WDだ。PHEVではEVとして走る部分、エンジンで発電して走るシリーズハイブリットの性格、そして高速クルージングや追い越しなどではガソリンエンジンが主役の三菱自動車独自の技術となる。

 ドライブモードについては、エクリプス クロスでは「ECO」「NORMAL」「SNOW」「GRAVEL」「TARMAC」、アウトランダーでは「ECO」「NORMAL」「SNOW」「LOCK」「SPORT」になる。

インテリアではブラックを基調色とし、エンボス加工のスエード調素材と合成皮革のコンビネーションシートを上級グレードに採用。また、スマートフォン連携ナビゲーションになり、画面も8インチへと進化
メーカーオプションの本革シートは写真のブラックに加えてライトグレーも新たに設定されている
エクリプス クロス PHEVは100V AC電源(1500W)からの給電が可能で、ラゲッジルームにコンセントを設置

 今回の試乗車はブリヂストンのスタッドレスタイヤ「BLIZZAK VRX2」(225/55R18)を履く。市街地での運転はヒップポイントが高いこともあって視界がよく車幅感覚も分かりやすい。取り回しもステアリングの保舵力も妥当で、肩に力が入らないクルマだ。

 この自然なドライブ感覚は高速道路でのクルージングでも変わりなくストレスがない。夜間ではヘッドライトの光軸が上下するので多少のピッチングがあるのは分かるが、どっしりした乗り心地は乗員にそれと感じさせない仕上がりで、三菱自動車のSUVらしい腰のあるものだ。重量はガソリン車の1550kgに対して1990kg(車両重量1920kg+オプション70kg)ほどあるが、その重さに負けない腰の強さが安定した乗り心地をもたらしている。

高速道路での平均燃費は?

 せっかくのPHEVなので、急速充電器で13.8kWhのバッテリーを80%充電にしてから高速道路に入る。ほぼ空の状態から約30分で充電できた。市街地ではほぼバッテリーだけで走るのでエンジンがかかることはなく、ストップ&ゴーは静かで滑らかだ。

 さらに高速道路に入ってもしばらくはバッテリー走行が続く。バッテリーだけで走っているとガソリン消費はないのでメーターの燃費計は999.9Km/Lという凄い表示を出し驚かされる。バッテリー残量がわずかになるとエンジンが始動して、充電とエンジン駆動を行なうので燃費はWLTCモード(高速)の16.5km/Lに近づく。

 また、エンジンで走っている時でも回生を繰り返して充電しているので、想定よりも電気で走っているパートは大きい。高速道路でもEVでの走行率は50%以上の表示が出ていた。ちなみに高速道路のロングドライブではECOモードを選択し、平均燃費は19.7km/Lだった。

高速道路を198.1km走行し、平均燃費は19.7km/Lを示した。そのうち57%をEV走行するという結果に

 山道でのドライブモードはNORMALを選択。基本的にFF優先で、アクセルレスポンスなども穏かで乗りやすく、場面によって4WDになるので突然の路面変化にも対応できる。

 また、エンジンが始動する場面でもよく制御されているので振動やノイズは最小限だ。2019年モデルから採用されたアウトランダーPHEVのノウハウが受け継がれており、エクリプス クロス PHEVではガッチリしたボディで静粛性や振動はさらに向上している。

 そのボディではバッテリーを搭載する関係で車体剛性がガソリン車よりもさらに高くなっており、基本的な構造は変えていないとのことだが、ガッチリした安定感には磨きがかかっている。

 ハンドリングではS-AWCはヨーコントロールを4輪にフィードバックして曲がりやすく、さらに重心高はアウトランダーPHEVよりも10mm、エクリプス クロスのガソリン車よりも30mm低くなっており、コーナーでのロールも小さい。

定常円旋回での各モードの違いは?

新型エクリプス クロス PHEV 雪上&氷上試乗(14分19秒)

 待望の積雪路面に会えたのは本州では久しぶりだ。目的地の女神湖周辺は数日来の雨が雪に変わり、湖も水が溜まっている場所が至るところにあった。

 さて、雪道でSNOWモードにするとアクセルのゲインが低くなり、NORMALより後輪へのトルク配分が増える。モーター駆動なので前後の駆動力を変えるのは容易だ。このモードでは挙動が穏やかでのんびりと走れる。日常の安定性を重視しており、機敏なエクリプス クロス PHEVの性格を抑えて、余分な挙動をさせないのが好ましい。

 氷上に降りて走り出すとさすがにスタビリティコントロールがビシビシと入り、機能が姿勢を安定させようとする。定常円旋回では制御が入り、ドライバーの意思で曲げるのは厄介だが、機械に任せておけば勝手に車速を落としてS-AWCが旋回力を確保して回り込もうしてくれる。

 それにもともとエクリプス クロス PHEVの旋回力の高さが、極端に滑りやすい氷の上でも予想以上の走りやすさを実現し、氷上ではグリップ力の高いBLIZZAKとのコンビでグイグイ曲がる。

 それではと、スタビリティコントロールをOFFにしてみると車両姿勢を作りやすくなったがアンダーが強くなった。予測どおりだが、こうなるともう少し欲が出てアクセルレスポンスがもっと欲しくなる。

 GRAVELモードを選択する。前後駆動力が50:50に近くなり、ドライバーの意思により忠実に反応し、自分にとっては走りやすく気にいっているモードだ。オンロードのワインディングでも走りやすかったのが印象に残っている。トラクションも各モードの中でももっとも大きくなり、アンダーでもオーバーでも姿勢変化が一定なのでコントロールしやすい。

 S-AWCはターンインの姿勢も作りやすく、スーとノーズをINに向けられるので、アクセルコントロールがしやすいのだ。小さな円をグルグルと面白く回っていられる。アクセルコントロールで円旋回の大きさを変えたりしながら4輪の制御を観察する。4輪にトラクションがかかり、IN側のタイヤに制御が入って旋回しやすくなっているが、トルク配分が常に駆動力重視になるためにコントロールしやすく感じられる。

 一方、TARMACモードでは後輪にトルクが多くかかるので、感覚的には滑りやすい氷上ではターンインで後輪駆動のような後ろから押し出されるようになる。もちろん、きちんと4輪を駆動しているので安定性は2輪駆動とは桁違いだが、ターンイン時の姿勢を作るのがGRAVELモードよりも慎重に行なう必要があった。曲がり始めてアクセルONのタイミングが早いとリアが流れるので少しだけ忙しい。いずれのモードもそれぞれのキャラクターが明確で、進化したS-AWCの実力を理解することができて面白かった。

エクリプス クロス PHEVの実力は氷、雪の上でも本物

 この後、もっとスピードの出るハンドリングコースで走ることができた。極端に滑りやすい水が出ている部分を回避しながらの走行だったが、直線からのブレーキで4ウェイフラッシャーが点灯するほどの強い減速Gを発揮した。過信は禁物だが、ABSの能力とBLLIZAKのポテンシャルも改めて確認できた。

 SNOWモードでのドライビングは操作に対して反応が穏やかで、スタビリティコントロールと組み合わせると安定して走れることを再確認した。機敏な反応が起きないので、滑りやすい路面でも安定志向の高いモードだ。

 続いてGRAVELモード。機能確認のためにスタビリティコントロールはOFFにする。氷の上ではステアリングを小刻みに切ってタイヤのグリップ範囲内で姿勢を変える。グイグイと曲がりながらアクセルゲインの高さを活かし加速すると、トラクションのかかり方が見違えるように高い。S字ではリアが流れるの待って修正舵と共に緩くアクセルを踏んで駆動力を掛けるが、エクリプス クロス PHEVは「ランサーエボリューション」の再来のようにコーナーをキレイにクリアする。

 さらにTARMACモードではアクセルを踏むタイミングや、ステアリングでの姿勢コントロールがGRAVELとは変わってくる。ターンインのタイミングを待ってアクセルを踏むとリアの動きが早く、前後にトルクが変わるのが分かる。氷上では前後トルク変動が起こるとアクセルやステアリングワークを微妙に変えなくてはいけない。

 いずれにしても、これらのモード確認はクローズドされた特殊な環境の中でのもの。いわば非日常の世界だ。それぞれのモードを確認した後、雪道での公道試乗を行なったが、SNOWモードはやはりすべてが穏やかで4輪に駆動力がかかり圧雪でも安心して走れる。

 一方、山道になるとアクセルのレスポンスと駆動力がもっと欲しくなり、GRAVELモードを選択してみた。ここでも氷上で経験した通り、駆動力を前後に安定して供給してくれるために姿勢を把握しやすく、クルマが曲がりやすくなり安定性も高い。タイヤの性格上、雪に乗りやすく曲がりにくいケースもあるが、そんな場面でもステアリングとアクセル操作に気をつけるとグンと曲がってくれる。

 オンロードで舌を巻いたエクリプス クロス PHEVの実力は氷、雪の上でも本物だった。S-AWCの進化も素晴らしい。オンロードから氷上まで、そして高速道路から山道までさりげない安心感があり、楽しく走れた心に残ったスポーツSUVだった。