トピック
実力派モータージャーナリスト橋本洋平氏、PCを自作しeモータースポーツデビュー! どハマりを密着レポ!
インテル最新CPU採用のeモータースポーツ向けPCの作り方
- 提供:
- インテル株式会社
2021年6月30日 00:00
本誌の読者には、ドライビング好き、愛車のカスタマイズ、チューニング好きという方が多いことだろう。そんな、自動車愛好家やプロドライバーの間で注目を集めているのが“eモータースポーツ”。インターネットでつながったパソコンやゲーム機の上でレーシングシミュレータを動かして、世界中のドライバーと自宅にいながらレースで競い合う、と聞けば、普段レースゲームをやらない方でも興味が湧いてくるのではなかろうか。
本物さながら、シチュエーションによっては本物以上の体験を味わえる高性能パソコンでのeモータースポーツに、腕の立つドライバーが挑戦したらどう感じるのか? 今回はそんな思いから、Car Watchのインプレッションなどでおなじみのモータージャーナリスト橋本洋平氏にディープなeモータースポーツの入り口を体験していただくことにした。
高性能なパソコンを自作して、ハイレベルなレーシングシミュレータを動かす
さて、“ディープな”というのは、今回橋本氏には「レーシングシミュレータを動作させるパソコンの自作」から取り組んでいただくからである。自動車と全然関係ないじゃないかと言われそうだが、実はそうでもない。レーシングシミュレータはPCの性能が高くなると、画面の動きが滑らかになったり、精密な描画を行なえたりするようになる。そのため、PCの性能を上げるための部品交換、設定変更が欠かせない。これをトコトン突き詰めると、自分のコダワリのパーツで1台組み上げる“自作PC”となる。つまり、カスタムカーのような世界なのだ。実際のところ、自作したパソコンでゲームやeスポーツを楽しむプレイヤーは数多く存在している。
橋本洋平氏は、原稿執筆のかたわら、レーシングドライバーとしても活動している。2013年~2019年にはGAZOO Racing 86/BRZ Raceに参戦し、2019年には「クラブマンシリーズエキスパートクラス」においてシリーズチャンピオンを獲得するなどの実績も残している“実力派”だ。
橋本氏は「若いころにサーキットで遭遇した事故ではいろいろな意味で痛い思いをした。修理費を捻出するためにアルバイトをかけ持ちするなど大変な思いをしたことを今でも覚えている。しかし、eモータースポーツなら実車よりも低コストで環境を整えることができる。自分の若いころにこんなツールがあればと思うぐらいだ」と、実車に比べ低コストかつ安全に運転スキルを鍛えるツールとしてeモータースポーツに注目していると語る。
「自分たちが若いころ(1980年代~1990年代)にはサーキットを意識した運転を覚えるのに適した素直なクルマが低価格で手に入ったが、今ではそうした車両を買おうとすると100万円からとなっている。しかし、eモータースポーツであればクルマは超高級車を含めて選びたい放題だし、実際のレースなら1回で10万円以上のコストがかかるタイヤも無料で使うことができる。若い人の学習環境にマッチしている」(橋本氏)とのことで、自作PC一式が十万~数十万円かかることを加味しても、eモータースポーツは高い価値があると指摘した。
“事故”すら含めて経験できてしまうのがバーチャルの強み。お金のハードルも下げてくれる
橋本氏のこれまでのeモータースポーツへのかかわりは、ゲームコンソールがメイン。
「最初はゲームパッドで楽しむレベルだったのが、だんだん本格化して妻に怒られながらフレームとハンドルを導入して本格的に使うようになった。実際GAZOO Racing 86/BRZ Raceに参戦していたころも、九州のサーキットを初めて走るとき、事前にeモータースポーツでコースや走り方を勉強していた」とのこと。しかし、より本格的な、パソコンでのeモータースポーツへの挑戦は今回が初めてだという。
橋本氏がゲーミングPCでのeモータースポーツに期待していることは、ゲーム機では難しい多様なカスタマイズだという。今回橋本氏に試していただいたeモータースポーツのタイトルは「Assetto Corsa Competizione」(アセット・コルサ・コンペンティツィオーネ)なのだが、その前身となる「Assetto Corsa」(アセット・コルサ)では、公式なコンテンツとして用意されているサーキットや車両以外に、プレイヤーの有志が作成したMod(モッド)と呼ばれる追加車両や追加コースを利用することが可能だ。
ゲーム機で動く多くのタイトルでは、そうした自由度の高いユーザー作成データをインストールすることは許されていないが、PCでは世界中の有志が公開しているModを導入すると、さまざまなサーキット、果ては首都高速などの公道までをも仮想世界で走ることが可能になるのだ。
橋本氏は、クルマが好き、走るのが好き、機材選びが好きというだけに、本格的なPC環境の構築に興味津々。パソコン組み立ての当日にいたる前に、編集部がeモータースポーツの未経験の読者の参考になるようにと、エントリーレベルのレーシングコントローラを用意しておいたのだが、「主旨は賛同しますが、ハンドルにはこだわりたいので自腹でもう一つ調達させてください!」との言葉が……。いきなり仕事の域を超えたのめり込みぶりだった。
ここからは橋本氏がeモータースポーツを楽しむための高性能なパソコンを組み立ててゆく様子をレポートしてゆく。読者のみなさんも同じパーツを揃えれば基本的に同じPCを作ることができるはずだ。ぜひ参考にしてほしい。
意外と簡単、パソコンはこうやって作る!
今回、PCを作るために用意したパーツは、表のとおり。ゲーミングPCは10万円以下でも作ることはできるが、今回は比較的高性能なパーツを選択している。各パーツの役目は組み立て手順とともに解説してゆく。
PCパーツ | メーカー | 製品名( )は仕様 | 参考価格(円) |
---|---|---|---|
CPU | Intel | Core i7-11700K(8コア/16スレッド) | 50,000 |
マザーボード | ASRock | Z590 Phantom Gaming 4/ac+ | 22,000 |
メモリ | CFD販売 | W4U3200CM-8GR(DDR4 PC4-3200 8GB×2) | 11,000 |
ビデオカード | Parit | NE62060018J9-1160A-1(NVIDIA GeForce RTX 2060搭載) | 65,000 |
SSD | Intel | SSD 670p SSDPEKNU512GZX1 | 9,000 |
CPUクーラー | Thermaltake | TH240 ARGB Sync | 10,000 |
電源 | FSP | HS-750(750W、80PLUS Silver) | 8,500 |
PCケース | NZXT | H510i | 12,000 |
OS | Microsoft | Windows 10 Home | 15,000 |
合計 | 202,500 |
その他の周辺機器 | メーカー | 製品名 | 参考価格(円) |
---|---|---|---|
液晶ディスプレイ | LG | UltraGear 24GN650-B | 25,000 |
ハンドルコントローラ | Hori | Racing Wheel OverDrive for Xbox Series X|S AB04-001 | 12,000 |
合計 | 37,000 |
事前準備
1.用意するもの
PCを作ることにハードルの高さを感じるかもしれないが、工具はドライバーだけで十分だ。ただ、できればドライバーは複数用意しておきたい。とくに長くて磁化されているドライバーがあると重宝する。ケースの隙間などにネジを落としてしまっても磁化されているドライバーがあれば簡単に拾い上げることができるからだ。
・プラスドライバー(柄の長いものと短いものがあると作業が楽になる)
・精密ドライバー(SSDの取り付けに必要)
・ニッパー(なくてもよいが、結束バンドの余り部分の切断に便利)
2.パーツの確認
購入したパーツを確認。PCに必要なパーツがちゃんと揃っているかを見る。購入前に必要なパーツリストを作っておくと、確認作業が楽になる。中身を出して、目に見える破損があった場合は購入店舗やメーカーに交換してもらう。
3.どこから手を付ければ?
組み立てる順番を確認(読者のみなさんが組み立てる場合は、この記事をもう一度読んでいただきたい)。組み立て手順は前後しても構わないが、効率的に組み立てるためにおおよその作業手順をおさらいしておく。意外と重要なのが作業スペース。ケースの大きさに依存することになるが、できるだけ広い作業スペースがあると便利だ。机が狭ければ、床の上で作業しよう。
パーツ一式を目にした橋本氏は「初心者がこんなにたくさんのパーツをいきなり揃えろって言われても無理じゃないですか?」。そんなときはパソコン専門店や家電量販店のパーツ売り場の店員さんに“こんな用途で使いたい”、“こんなPCがほしい”、“予算はこれくらい”とアバウト伝えれば、具体的な答えが返ってきます!
組み立て
1.マザーボードにCPUを固定する
(1)まずはCPUをマザーボードに取り付ける。マザーボード上にあるCPUソケットのレバーを横にずらしてから上に上げると、CPUソケットのカバーが持ち上がる。カバーにかぶさっている黒いプラスチックはそのままにしておく。次にCPUをCPUソケットの上に置く(写真)。取り付けられる向きは決まっているので、ムリに押し込まないように注意。ソケットの突起とCPU横のへこみ部分を合わせる
(2)CPUをソケットに置いたら、レバーを少し横に下げてカバーを固定する。このとき、黒いプラスチック製カバーが自動的に外れる
CPUとは、まさにPCの頭脳に相当し、ソフトウェアを起動し、各種の演算を行ない、ユーザーがこのPCは速いな、遅いなと感じる大部分を左右するパーツだ。今回はIntel社の最新製品「第11世代インテル Core プロセッサー」の中から、高い性能を持ちながらもコストパフォーマンスにも優れるモデル「Core i7-11700K」を選んだ
2.マザーボードにメモリを装着する
(1)メモリを取り付けるメモリスロットが4本あるが、マニュアルに記載されているとおり、今回は写真上から見て2番目と4番目(CPUソケットのから見てもっとも外側)のスロットにメモリを取り付ける
(2)メモリスロットのロックを押し込んで外す
(3)メモリスロットにメモリを挿し込む。このとき、メモリスロットの突起部分とメモリの切り欠き部分の位置を確認し、ムリに挿し込まないようにする
(4)メモリを上側から押し込む。正しく挿し込まれると、メモリスロットのロックが「カチッ」とかかる。目視でも、ロックされていることを確認
3.M.2 SSDを取り付ける
(1)3個あるM.2スロットのどれを使っても構わないが、今回はCPUソケット横のM.2スロットに取り付ける。M.2 SSDの端子部分を斜めにしながら、M.2スロットに挿し込む
(2)M.2スロットに挿し込んだら、マザーボードと水平になるように倒し、マザーボード付属のネジで固定する。このネジを締めるために精密ドライバーが必要となる
4.水冷CPUクーラーの土台を取り付ける
(1)水冷CPUクーラーの土台となるパーツを準備する。説明書をよく読んで、Intel用の取り付けパーツを取り出す。
(2)水冷クーラーのベースプレートに、LGA1200用のパーツを取り付ける
(3)CPUソケットの裏側からベースプレートを挿し込む
(4)表側から固定パーツを取り付ければ土台が完成
5.ケースに電源ユニットを取り付ける
(1)ケースにパーツを取り付けるため、ケースの両側版とフロントパネルを外す
(2)中にネジ類の入った箱があるので、取っておく
(3)電源ユニットを、ケースの電源ユニット取り付け部に取り付ける
(4)背面側から電源ユニット付属のインチネジで固定する
(5)EPS12VとATX12V電源ケーブルを天板付近の穴に通しておく
(6)ATXメイン電源とPCI Express補助電源ケーブルをマザーボード後ろの穴に通しておく
(7)使わないケーブルは、電源ユニット付属の面テープでまとめてケース下部に収納
ケースは各パーツを収納、保護するもので、大型の拡張カードやCPUクーラーは大型のケースでなければ収めることができない。またケース内の熱気をケースの付属ファンで排出するため、冷却の面からも重要だ。たくさんファンが付いているケースはパーツを冷やしやすいが、その分ファンの音がうるさくなりがち。PCの色や形、サイズといった外観もこれでほぼ決まるので、スペックだけで選ぶわけにはいかないのが難しい
6.ケースにマザーボードを取り付ける
(1)バックパネルシールドを取り付ける。鋭利なのでケガをしないように注意
(2)マザーボードをスペーサの上に置く。中央のスペーサは突起状となっているので、この突起がマザーボードの穴に通るように設置
(3)あらかじめ天板付近の穴から通しておいた、ATX12VとEPS12Vをマザーボードに取り付ける
(4)ケースに付属する「インチネジ」を使用し、マザーボードをスペーサのネジ穴に固定する
7.ケースに水冷クーラーを取り付ける
(1)ケースから水冷クーラーのラジエータを取り付けるためのベースを取り外す
(2)ベースにラジエータとファンを取り付ける。ベースを挟んでファンが前側、ラジエータが後ろ側になるように組み付け
(3)ベースをもとに戻し、ケーブル類は裏側に通しておく。水冷ヘッドがマザーボードにぶつからないように気を付ける
(4)CPUにCPUクーラー付属のグリスを塗る。量は写真程度でよい。塗り伸ばさなくても後の行程で自然と広がる
(5)水冷ヘッドをCPUソケットにかぶせる
(6)専用のネジを使って締め付けて作業終了
今回は水冷クーラー(CPUが発生する熱を、水を利用してラジエータに伝導して、ラジエータを冷やす仕組のこと)を利用しているため、こうした手順が必要になっているが、通常の空冷クーラーだけの場合にはファンを取り付けるだけでよい
8.各種ケーブルを接続する
(1)ATX24ピンメイン電源コネクタ
(2)USB 3.1ピンヘッダ
(3)USB 3.0ピンヘッダ
(4)フロントサウンド用ピンヘッダ
(5)電源スイッチなどのフロントパネル用ピンヘッダ
(6)トップ、リアファン用コネクタ
(7)水冷クーラー用の電源とARGBコネクタ。とくに水冷クーラーの配線が多いので、一通り接続したら針金などで仮まとめしておく
9.ビデオカードを取り付ける
(1)スロットカバーを外すために、スロットカバーを覆うフタを上にずらす
(2)背面の拡張スロットカバーを外す。外すのはバックパネル側から2番目と3番目
(3)ビデオカードをPCI Express x16スロットに挿す
(4)拡張スロットカバーを外したときのネジを使って固定する
(5)引き出しておいたPCI Express補助電源ケーブルをビデオカードのコネクタに挿し込む。コネクタは2個あるが、使うのは1個だけ
10.起動確認
(1)電源ケーブルをPCとコンセントに差し込み、キーボードとマウス、ディスプレイを接続する
(2)電源ボタンを押して、PCを起動する
(3)初回起動では起動後にUEFIが表示される。表示されない場合は、起動中に「DEL」キーを数回押す
(4)UEFIの設定画面が表示される
(5)左上から「CPU名」、「DRAM Information」、「Strage Configuration」の項目を確認。CPU名にIntel Core i7-11700K、DRAM Informationで製品メーカーとメモリの容量、速度、Storage ConfigurationのM2_1にSSDの製品名が正しく出ているかを確認
(6)CPUの温度もチェック。何も操作をしていない状況で、50℃以上の温度が続くようであれば、クーラーの取り付けに異常があると考えられるので、クーラーが正しく装着されているかを確認
(7)問題なければ起動確認は終了。電源ボタンを押してPCをOFFにする
電源投入後、OSが起動する前に、OSが動作できるように各パーツを設定するソフトウェアがUEFIだ。これはマザーボード上に搭載されている。昔はBIOS(バイオス)と呼ばれていた。そのセットアップ画面ではかなり細かな設定を行えるが、パソコン自作の初心者が設定項目の意味をいきなり理解するのは難しい。しかし、今回のパーツ構成では特に設定しなくとも動作するのでご安心を
11.ケーブルの整理
起動を確認したら、ケーブルを整理する。このとき、ケーブルを引っ張り過ぎてコネクタが外れないように注意する。
(1)メイン電源ケーブルやPCI Express補助電源、ピンヘッダケーブルは中央でまとめる
(2)水冷クーラーのケーブルは結束バンドを使ってまとめる
(3)側板をもとに戻して組み込み作業は終了
12.Windows 10のインストール
インストールUSBメモリの作成の流れ
(1)Windows 10のインストールメディア作成ソフトを以下よりダウンロードする
Windows 10 のダウンロード
https://www.microsoft.com/ja-jp/software-download/windows10
(2)作成ツールを起動して、「別のPCのインストールメディアを作成する」を選択
(3)エディションを選択。今回はHOME
(4)インストールメディアを選択する。今回はUSBメモリを選ぶ。容量は8GB以上必要だ
OS(Windows 10)のインストールは、以前は光学ドライブを利用してDVDメディアから行なうのが一般的だった。しかし、現在ではOSのインストールもデータをダウンロードしてから、USBメモリにそのデータを展開して、そこからインストールを行うという流れが一般的になってきている。インストールメディアの作成には別のPCが必要になるので、ノートPCなどを別途用意しておくと作業が早い
(1)インストールメディア作成ソフトで作ったUSBメモリをUSBポートに挿し込んで、電源を入れる
(2)自動的にセットアッププログラムが開始される
「インストールする言語」に日本語が表示されていることを確認して、“次へ”を押す
(3)プロダクトIDを入力する。今回はショップで購入したインストールDVDに付属しているプロダクトIDを使う。
(4)インストールの種類は、「カスタム:Windowsのみをインストールする」を選ぶ
(5)Windowsのインストール場所は、今回の構成であれば「ドライブ0」を選ぶ。
(6)地域などを設定
13.ドライバのインストール
(1)ASRockのWebサイトから「APP Shop」というツールをダウンロード
(2)「APP Shop」を使って最新版のドライバをインストール
(3)NVIDIAからビデオカードのドライバをダウンロードしてインストール
(5)デバイスマネージャーを確認して「!」マークがないことを確認
(6)Windows Updateを実行
デバイスドライバは、そのデバイスが本来持つ性能を発揮するために必要なソフト。多くのデバイスのドライバはWindows 10が標準で搭載しており、利用時に自動的に導入されるが、一部のデバイスのドライバはユーザーがインストールする必要がある。とくにゲーミングPCでは、GPUのドライバが性能に大きな影響を与えるので、NVIDIA社のWebサイトなどから最新のデバイスドライバをインストールしておくことを強くお勧めしたい
橋本さん、PC自作の感想は?
完成したPCを利用して実際に橋本氏に、Assetto Corsa Competizioneをドライブしてもらった。まず橋本氏が驚いたのは、OS(基本ソフトウェア)の起動時間の速さだ。橋本氏が現在使っているというノートPCに比べて圧倒的に起動が高速だということを実感していただいた。
今回、自作してもらったPCでは、CPUにはIntel社の最新プロセッサー「Core i7-11700K」、SSDもIntelの最新製品である「Intel 670p」を採用しており、性能と価格のバランスが取れた製品になっている。そうした最新の半導体技術の組み合わせにより、OSやゲームタイトルなどを高速に起動することが可能になっているのだ。
もう一つ橋本氏が感心したのは、PCの自作が思ったほど難しくなかったということ。当初抱いていた「壊したりしたらどうしよう」という懸念は組み立てを進めるうちになくなっていったと言う。「確かに最初は基板にケーブルを挿すのとかが本当にこれ入れちゃって大丈夫?みたいな懸念があったが、そのうち“規格が合っているパーツ同士でなければ接続することができないようになっている”ことに気が付いてからは、どんどん不安がなくなった。そして何よりもハンダ付けのような難しい作業ではなく、ドライバー1本で簡単にできてしまうことに感心した」(橋本氏)とのこと。
実際作成したPCは一発で起動して、OSをインストールするだけで利用できる環境を簡単に整えることができた。
無論、初めてPCの自作をするユーザーであれば、知っておくべきことはいろいろあるので、身近にそうした自作PCに慣れている友人・知人などがいない場合には、専門誌やムックなどを読んで情報収集をお勧めしたい。また、PC専門店で組み立て代行サービスを利用するのも手だ。
DOS/V POWER REPORTのWebサイト
最新PCで動くレーシングシミュレータのリアルさに圧倒される
自作PCで動くAssetto Corsa Competizioneについて橋本氏は「とてもリアルになっている。Assetto Corsa Competizioneに含まれる鈴鹿サーキット(筆者注:別売りのコンテンツパックを導入すると選択できるようになる)をドライブしてみると、逆バンクが逆バンクになっているのを感じることもできるし、左右のハンドルの違いも分かるほどだ。サーキットには路面のアンジュレーション(起伏)があるがそれも感じることができた。とくに鈴鹿サーキットは1カ月以内に実際に走ってきたが、リアルと変わらない感覚を得ることができると実感した」と、こうしたソフトウェアが従来の「ゲーム」という領域を超えて「シミュレーション」に近い領域に近付いており、モータージャーナリストから見てもそのリアルさに驚かされるとコメントしてくれた。
今回はPCと合わせて、秒間144回の画面書き換え(144Hz)に対応したゲーミング液晶モニタも用意した。一般的なPCモニタやテレビでは秒間60回の書き換えしかできない。書き換えが高速だと、画面の動きが滑らかになって状況が掴みやすくなったり、プレイヤーの操作への追従性が上がったりすることで、有利になる。一方で、高速な画面書き換えを行うために、PCの処理能力も高いものが求められる。
自作したPCでは、画質設定を高画質にしても144Hz近い速度を実現できており、ゲーミングモニタの性能も余すことなく引き出していることを確認できた。
また、今回は二つのレーシングコントローラを橋本氏に試してもらった。一つはHORI社の「Racing Wheel OverDrive for Xbox Series X|S」、もう一つは橋本氏が最近知人から譲ってもらった「ロジクールG29 Driving Forceステアリングホイール&ペダル」という製品だ。前者は1万円台前半で購入できるエントリー向けで、後者は4万円弱のメインストリーム向けのレーシングコントローラとなる。
二つを触ってみた橋本氏によれば、エントリークラスの製品でもドライビングをするという基本機能は変わらないが、メインストリーム向けの製品では「フォースフィードバック」と呼ばれるハンドルの重さをモーターで表現する機構があり、“震え”動作などと合わせてより実車に近い感覚を得られるとのこと。結果として高い没入感を感じたとのことだ。
レーシングコントローラにはさらに上があり、プロ向けには佐藤琢磨選手が2020年のINDYCAR iRacing Challenge参戦時に利用していたFanatec製の数十万円するモデルまで存在する。こうしたユーザーのレベルに合わせたコントローラ選びができるのもゲーミングPCの利点、楽しさと言える。
さて、完成したPCで走る橋本氏を見ていたが、レーシングコントローラがロジクール製に変わって、その操作感を確かめているうちに、橋本氏の目つきが変わってきた。明らかに真剣さの度合いが上がっている。橋本氏曰く、「フォースフィードバックによるハンドルの重さがあるので、実車のように全身で車体をコントロールしなければいけない感覚。実際腕も体も疲れてくるほどリアル」とのことだった。筆者の取材が終わっても「もうちょっと走らせてもらっていいですか」と、いきなりのハマりっぷりである。
さらに、立ち会ったCar Watch編集長、副編集長、そして筆者も参戦。みんな最初はリアルな画面に驚くのだが、次いでリアルな挙動に驚き、次第に自分のドライビングテクニックをヴァーチャルのサーキットで確認したくなってくる。そして、さっきのコーナーはちょっと突っ込みすぎだよ、とかやっぱり橋本さんは鈴鹿に慣れてるな~、僕は縁石に乗らないようにするだけで精一杯っすとか言いながらみんなで盛り上がった。この辺りは友達の部屋でゲームを楽しむ、あの感覚である。そして誰もが感じたのが、各自がシミュレータを使って勝負したらどれだけ熱くなるのか、ということ。その先には、知らない誰かとのネット上での勝負が待っている。想像するだけでもエキサイティングだ。
先日の脇阪寿一氏のハイグレードなeモータースポーツ環境の取材、今回の橋本氏のPCでのeモータースポーツデビュー取材の両方を通じて筆者が感じたのは、現在のPCにおけるレーシングシミュレータは、リアルなレースの深淵を知っているドライバー達も引き付けるほどの魅力を秘めているということ。さらに、リアルとバーチャルの境界線がかなりあいまいになってきているということだ。リアルレースで結果を出すためにバーチャルで走り込む。バーチャルで走るほどに、また実車に乗りたくなる。そんなエコシステムが出来上がりつつあることを実感できた。
撮影:
若林直樹