トピック
ポルシェと東大先端研による教育プログラム「ラーン ウィズ ポルシェ」、2026年はトラクターのレストアとともにサーキットで最新鋭モデルを体験!
- 提供:
- ポルシェジャパン株式会社
2026年9月4日 08:00
学ぶことに必要な心構えが得られる「LEARN with Porsche」
北海道の雄大な大地に、真っ赤に美しく輝くポルシェトラクター。トラクターのスターターレバーを引くと、ドロロロッと大きな音を立ててエンジンが始動する。だだっ広い平原の地面を踏みしめながら、ゆっくりと進んでいく。その姿は大地を耕し、自然の恵みを得ようとする、働くクルマそのものだ。当初は納屋の中で動かない状態になっていたこのポルシェトラクターも、子どもたちが自らの知恵を絞り、手を動かして直してきたからこそ、ここまで立派に元の姿を取り戻したのだ。
東京大学先端科学技術研究センターとポルシェジャパンが共同して行なっている「LEARN with Porsche」は、子どもたちがこれからの時代を生きていくために、学ぶことに対して必要な心構えを得たり、さらなる夢を抱いたりするためのスカラーシッププログラムだ。プログラムの課題に取り組む際、スマホなどの電子機器の使用は禁止され、自ら考えて悩み、手を動かしながら答えを導き出していくことになる。
もちろん子どもたちだけではなく、このプログラムに欠かせない大人たちがいる。「LEARN with Porsche」を主催している東京大学先端科学技術研究センターの中邑賢龍さんやそのスタッフ、トラクターのスペシャリストである池田猛さん、北海道で森の馬小屋を営んでおり、プログラムの場を提供しながら子どもたちのサポートもする田中次郎さんと祐子さんご夫妻。そして、プログラム全体のスカラーシップを提供し、子どもたちがポルシェの技術に触れるために最新鋭のモデルも用意しているのがポルシェジャパンだ。
「LEARN with Porsche」には2つのプログラムがあり、ポルシェトラクターを修理してきたのは、ものづくりに興味のある子どもたちへ向けたプログラムだ。4年目となるこのプログラムは、今年は「現場で学ぶ ―― マニュアルがない中で、どう修理するか?」と題され、11人の子どもたちが北海道の大地に集まった。
2023年のLEARN with Porsche
2024年のLEARN with Porsche
2025年のLEARN with Porsche
当初はポルシェを修理すると銘打たれていたこともあり、工業系で自動車に興味を持つ子どもたちが多かったが、農業や林業が組み込まれ、特別ゲストとしてロボットクリエイターの高橋智隆さんが顔を出してくれることもあり、自動車だけでなく、農業や農業機械、ロボットや飛行機、宇宙工学などさまざまなものづくりに興味を持つ子どもたちが参加するようになってきている。
今回もこれまでの「LEARN with Porsche」と同じように、参加者同士の自己紹介のときから学校名や学年などを明かさないスタイルをとっている。「ものづくりをするうえで、普段勉強していることや年齢は関係ない」というLEARNの考えからだ。
今回の参加者は11名で、空港で集まって自己紹介してからプログラムが本格的にスタートするころにはもう肩を組むまで仲良くなっていた。正直、こんなチームは初めてだ。これまでのプログラムはピリッとした緊張感のある雰囲気に包まれることが多かったが、今回は良い意味で明るいムードで、かつそれぞれが真剣に課題に向き合っている印象だった。
最初のオリエンテーションを終えて、トラクターの置いてある森の馬小屋へ向かうと、最新鋭のポルシェのモデルである911 ターボ S、タイカン GTSが子どもたちを出迎えた。誰もがおどろきとうれしそうな表情を浮かべてクルマのまわりに集まってくる。どんなクルマなのか興味を持って質問してくる子もいれば、すでにモデルの詳細まで知っていて、他の子どもたちに教えている子も。ポルシェトラクターの時代から現代のモデルまで、技術が脈々と受け継がれて進化してきたことにおどろいたようすだった。
ポルシェトラクターと作業機の整備
1日目は森の馬小屋を営んでいる次郎さんの教えのもとで、トラクターがない時代に畑を耕したり、重いものを運ばせていた生活の相棒だった馬を捕まえる「ホースキャッチ」に挑戦することに。次郎さんの飼育している馬とはいえ、野原で自由に過ごしている馬たちを自分たちの力で捕まえなければならない。
「昔の人は野生の馬に仕事をしてもらうために、命がけで捕まえていたんだと思う。馬は全身で警戒感を表したり、今は近づいても大丈夫という合図を出しているから、それを見逃さずに馬に接するんだ」と次郎さんはいう。子どもたちも最初は、おっかなびっくり近づいたり、離れたりしていたが、馬のようすをしっかり観察することで警戒心を抱かせず少しずつ触れられるようになってきた。中には手綱を引くための無口をつけられず苦戦する組も。なんとか全員が捕まえ終えると、森の馬小屋に戻って水をあげ、声をかけたりブラッシングをする。これで馬が慣れてくれれば鞍をつけ、いよいよ馬に乗ることができる。大きい馬の背にまたがると子どもたちも「高い!」「すごい」と口にしながら馬と一緒に歩みを進めていた。
子どもたちが捕まえた馬の仕事率は、そのまま考えれば1馬力(1馬力は「75kgの重さを1秒間に1m動かす仕事率」なので、実際の馬1頭はもっと馬力がある)。そして、ポルシェトラクターは約30馬力、タイカン GTSは700馬力、911 ターボ Sはなんと711馬力だ。子どもたちも自分たちで馬を捕まえて体感してみたことで、仕事をするうえでトラクターがいかに便利で効率が良かったか、そして最新のポルシェのすさまじいパワーと進化をありありと目の当たりにしたようだった。
2日目からは、いよいよポルシェトラクターと作業機の整備に入ることに。トラクターはフロントの足まわりを分解して、グリスを入れ直してオーバーホールし、電気系統を確認したり、前回のプログラムでつけ忘れたパーツを装着したりする。今回新しく修理するのは、トラクターに装着して使用する作業機だ。表面の土を細かく砕いて整地する「ロータリーハロー」と、刈り取った牧草や麦わらなどを集める「ロータリーレーキ」の2種類。ロータリーハローは2機あり、どちらも何十年も外に放置されていたものらしく、見るからに錆びていて今にも朽ち果てそうな姿をしている。
トラクターのスペシャリストである池田猛さんは、これまでのプログラムで整備してきた内容を振り返りながら、今回の修理内容や心構えについて「ハローとレーキは、修理するためのマニュアルも何にもない。現物だけしかないので、自分たちでそれを分解して動くように組み直してもらいます。その中で、どんな部品が使われているのか、それらの部品はどんな役割をしているのかを、自分たちで見たり触ったり考えたりしながら作業してもらいたいです」と語った。
トラクターとロータリーレーキの修理、2機のロータリーハローのオーバーホールをそれぞれ担当する3班に分かれて作業を開始。まずは、その辺に置かれていたロータリーハローを作業しやすい場所に移すところから。実はこれが思ったよりも大変。子どもたちがロータリーハローにベルトをかけて2人がかりで引っ張ってもビクともしない。うんうんうなっていると、次郎さんがやってきて「モノの重心って考えたことある? ベルトの位置そんな高いところにつけてたら動かないよ」と教えてくれた。ベルトの位置を下に付け替えて、声を合わせて思い切り引っ張ってみると、ようやく重いロータリーハローがズリズリと動き出した。
やっと動かせたものの、次はほとんど錆びついている部品たちをバラバラにしなければならない。工具の使い方を知らない子も多く、次郎さんはそんな子どもたちに「今回整備している間に、ボルトをパッと見て『これは何インチ(ロータリーハローのメーカーのハワードはイギリスに本社があったため、規格がインチサイズ)のスパナが使えるな』って分かるようになってほしい」と伝えた。その他にも「ボルトを緩めるときには、いきなり力を入れないで、少しずつ力をかけるんだぞ。錆びたボルトだったら開けたり閉めたりして錆びを取りながら緩めると外れやすい。どの部品も折れたり壊れたりしたらスペアパーツはないからな」と釘を刺しながら教えてくれた。トラクターの足まわりを外すのにも苦戦し、池田さんが工具と体の使い方について実演しながら教えてくれた。どのボルトも規定トルクが分からないため、池田さんは「つけてみてガタが出たらやり直し」と、こともなげにいう。力を入れすぎたらボルトが切れてしまうので、子どもたちは自分の感覚を研ぎ澄ましながら、1つひとつの部品と向き合っていた。
1日目の作業が終わると、1人の参加者がサッと中邑さんに走り寄って何か話をしている。「班の中で何かトラブルがあったのだろうか」と思い2人に話を聞いてみると、「午後になってから自分から仕事を見つけられず、自分のせいで仕事が遅れてしまったのではないか」と感じたのだという。中邑さんは、そんなことを気にしなくていいと砕けた笑顔で語りかけた。「LEARNのプログラムでは、どんなことにチャレンジしてもいいし、それで失敗してもいい。なんならトラクターに穴が開いてもいいんだから。やりたいことを自由にやれ」。これまで学校でも誰かに頼ることなく自分1人で作業をしていたこともあって、彼にはそれがプレッシャーになっていたのかもしれない。翌日からは、グループの子たちとどんな作業をするか相談したりお願いしたりすることで、コミュニケーションが円滑になり、班の動きがとても良くなっていたのが印象的だった。
3日目も続きの作業に取りかかる。ロータリーハローの班は、トラクターの動力を土を掘り起こす作業へと変える部品類をすべて開けて取り出した。開けてみると、スプロケットとチェーンは古いグリスでベッタリと汚れている。これらのグリスをすべて拭き取ったり洗浄したりして、まずはきれいな状態に戻すことが必要だ。
しかし、このスプロケットとチェーンを外す作業もひと苦労。何時間も粘って引っ張り出そうとしたり、てこの原理で外そうと試みたりしたが、結局外れず。そこで池田さんの登場だ。「押しても引いてもダメなのは、少し衝撃を与えるんだ」と、スプロケットの中心に棒を噛ませてハンマーでコンコンと叩いていくと、不思議なことに徐々にスプロケットが浮き始め、なんと外すことができたのだ。池田さんは長年トラクターメーカーに勤めていただけではなく、退職してからもトラクターを収集して自らの手でレストアをしている。池田さんは、あらかじめ分解方法を熟知していたわけではなく、経験を積み重ねてきたことでトラクターにまつわるあらゆる引き出しができ、このような状況でも対応できるようになったのだろう。
ロータリーハロー班では、また新たな問題が巻き起こっていた。ボルトがなぜか1本足りないのだ。ことの発端は、どのボルトも錆びてしまっていたことから、ねじ切りの工具を使ってボルトの山に詰まっている錆びなどを落とし、スムーズに装着するためのボルトの修正を行なったことからだ。この作業中に、逆ねじだったボルトを右ねじにしてしまったのだ。一度ねじ切りしてしまうと、同じボルトを逆ねじに戻すことはできない。これまでねじ切りを経験したことのある参加者が「これまで経験したことがあるので、勢いでやってしまった」と言っていたが、次郎さんは「最初に工具を触るときは、チキンでいい。いきなり勢いよく取りかかるとそれがミスにつながる。ちょっとずつの積み重ねがだんだん自分の経験値になってくる」とアドバイスしてくれたことで、それが大きな学びになったという。ロータリーハローは土を掘り起こす回転方向と逆向きのボルトをつけることで、作業中に外れたりしない仕組みになっている。逆ねじにも意味があると理解できたことで、子どもたちはさらに部品1つひとつと向き合うようになったように感じた。
トラクター担当の班は、ほぼトラクターの整備を終えていたので、次は刈った牧草や麦わらなどを集める、ロータリーレーキの修復に取りかかることになった。ロータリーレーキは明らかにタイヤがパンクしていたので、まずはそれを直すことに。タイヤをどう取り外すかから試行錯誤し、時間はかかったものの、ホイール中央のカバーを取り、なんとかタイヤを外すことには成功。パンクの修理は、まずホイールからタイヤを外して、中からチューブを取り出さなければいけないが、これがとにかく重労働で難しい。タイヤのビードを落とすための器具はあったので、ビードを落とすことはできたのだが、ここからタイヤレバーを使ってホイールから外すのが大変だ。次郎さんに「欲張ると失敗するから、ちょっとずつこじってリムから外すのがポイントだぞ」と教えられ、タイヤレバーをあちこち突っ込みながら時間をかけてなんとか外すことに成功。
しかし、いざチューブを引き出してみると無理やり外そうと工具で力を入れすぎたせいか、チューブにはたくさんの穴が開いてしまっていた。これでは空気を入れても全部漏れてしまう。チューブは新しいものと交換することになったが、新品のチューブは絶対破らないように、タイヤの組み替えを練習することになった。子どもたちも何度も外したり組み直したりすることで、どんどん組み替えるスピードも早くなり丁寧になっていく。これならチューブを傷つけずに組み替えられると自信がついたところで、そこからやっと新品のチューブに取りかかった。左右のタイヤをそれぞれ2人組で担当していたが、どちらの組もチューブを傷つけることなくうまく組み替えることができた。
今回は、トラクターの大きな修理は少なく、ロータリーハローとロータリーレーキの修理が主で、一見すると派手なレストア作業ではなかったかもしれない。しかし、1つひとつの作業はそれぞれ重労働で、ロータリーレーキからスプロケットとチェーンを取り外し、そのグリスを拭き取って洗浄し、すべてをきれいにするだけでもとにかく時間と手間がかかる。錆びついたギヤボックスを開いて、中にたまった水を出し、徹底的に機構を把握して時間をかけて直し切った参加者もいる。錆びた部品を1個1個使えるようにするのも、機械を動かして安全に作業するためには不可欠だ。それぞれみんなが自分で考えて一生懸命取り組んだからこそ、きちんと時間内に仕上がったのだと感じた。
本当は子どもたちが組み上げたマシンを使い、実際に刈った牧草や麦わらを集める予定だったのだが、4日目の朝はあいにくの雨。次郎さんが育てている牧草は一度刈ってから干す作業をしており、干しているときに雨に降られて濡れてしまうと、せっかく作った牧草が台無しになってしまうため、夜通し次郎さんが回収したという。近隣の農家さんと話をして、小麦を刈る体験も考えていたが、やはり小麦も雨の日に刈り取ることはできないので、今回は残念ながら断念することとなった。
しかし、森の馬小屋の馬を歩かせる広場で、ロータリーハローだけは動かせることになった。ポルシェトラクターに子どもたちが直したばかりのロータリーハローを装着。これまでの整備のおかげですっかり快調に動くようになったトラクターは、ドロロロと快音を響かせてしっかりと走っていく。広場でロータリーハローを下ろすと、しっかりと地面に食い込んで回転する刃が土を掘り起こし始めた。池田さんがトラクターをまっすぐ走らせると、あっという間に地面が砕かれ、きれいに整地されていく。そのようすを見て子どもたちから「おおー!」と歓声が上がり自然と拍手が沸き起こった。この作業を、クワなどの手作業で行なったり、馬に器具をつけて耕したりするのは相当な時間と労力がかかるに違いない。改めて自分たちが直した機械が働く姿を見て、ものづくりの発展によって現代の農業が確立され、私たちがたくさんの恵みを得ることができていると感じた子どもたちも多かったようだ。
収穫体験ができなかった代わりに、農機具やトラクターの博物館である「とかち農機具歴史館」を見学させてもらえることになった。約150点の農業機械が展示されており、人が耕して収穫していたころから、牛馬などによる農耕、そしてトラクターへの移り変わりが分かる、まさに農業機械の発展をたどれる歴史館だ。
池田さんが館内を案内し、置いてある農機具の使い方や農業がどのように発展してきたかを教えてくれた。さまざまなトラクターが並んでいる場所では、池田さんの人生を変えたトラクターが展示されているという。みんなでそれがどれなのかを探したが、正解したのは数名だった。池田さんの人生を変えたトラクターは、真っ青なフォード3000だった。このトラクターは、中身が分かるようにさまざまな部品がカットされている。実はこのトラクターのカットモデルを作ったのは池田さんなのだそう。当時トラクターメーカーに勤めていた池田さんは「仕事を辞めたい」と思っていたが、トラクターのカットモデルを作るように言われ、最初は嫌々やっていたのがだんだんおもしろくなってきたという。これを作ったことによって、トラクターのおもしろさを知り、仕事を続けようと思えたそうだ。
十勝スピードウェイで最新のタイカン GTSと911 ターボ Sを体験
さまざまな農機具やトラクターを見て、農業やその発展を学んだあとは、道の駅などに立ち寄って休憩しつつ、そのままみんなで夕食へ……と子どもたちには話していたのだが、ここからは大人たちからのサプライズプレゼントの時間だ。
夕食を食べるお店に行くと思わせて、実は向かっていたのは「十勝スピードウェイ」。ここで最新鋭のポルシェの性能を存分に子どもたちに体感してもらおうというわけだ。十勝スピードウェイに着くと、「え? ここお店じゃないよね」「サーキット!?」とおどろきの声が上がった。中邑さんが「これからみんなにはポルシェに乗ってもらうんだよ」と言うと、子どもたちは大喜び。子どもたちに同乗走行してもらう前に、ポルシェジャパンの黒岩真治さんから、ポルシェとは一体どんな会社で、どんなクルマづくりをしているのか話があった。ポルシェはスポーツカーを単に販売しているだけではなく、体験価値も提供しているという話に感銘を受けた参加者もいたようだった。
そして、いよいよタイカン GTSと911 ターボ Sの同乗走行へ。僭越ながら筆者である私も911 ターボ Sのドライバーを務めさせてもらうことになった。サーキットという場所も初めてという人も多く、クルマに乗り込んでくる子どもたちはみんな目を輝かせている。特にみんながおどろいていたのはその加速力だった。911 ターボ Sの最高出力と最大トルクは711PS/800Nmもあり、電動ターボもついているので、ストレートやコーナリング出口からの加速感はすさまじく、シートに押し付けられるGも強い。誰もがそのパワーやコーナリングスピードにおどろき楽しんでくれていた。
私自身も、子どもたちを乗せて何周も走ったにも関わらず、タイヤがタレ始めてもブレーキ性能に大きな変化がなかったことに感動していた。おかげで子どもたちを乗せて最後まで安心して走ることができた。同乗走行のときに、ポルシェは究極のスポーツカーだと子どもたちに話をしたが、乗り終わったあとのみんなのキラキラした表情を見て、その片鱗を感じてもらえたかなとうれしくなった。
「誰かと協力してものを作ることやコミュニケーションの大切さ」
あっという間にプログラムは終わり、最終日の朝。帰る前にみんなでプログラムの振り返りを行なった。いつもはトラクターの整備を経験したことによって、自分のものづくりに対しての知見が深まったという話をしてくれる子どもたちが多かったが、今回みんなが挙げていたのは、誰かと協力してものを作ることやコミュニケーションの大切さだった。自分の好きなことに情熱を注ぎながらも、まわりに理解者がいなかったり、1人で物事に取り組んでいたりした子どもたちも多く、方向性は違っても今回良い仲間に出会えたことが彼らに大きな成長をもたらしたようだ。
池田さんからは「こういった整備の経験のない人も多かったと思うけれど、それぞれ失敗したこともいろいろあったと思います。ただ、そういった失敗は誰にでもあることなので、これから自分の取り組むことに生かしてもらえたらなと思います。歴史館で僕の人生が変わったというトラクターを見てもらったけど、皆さんが今回参加した『LEARN with Porsche』では、君たちの中で何かが変わったかもしれない。本当に何かのきっかけで人生が変わることがあるので、今回の経験が良いものになってくれるといいなと思います」と話があった。
中邑さんは、十勝スピードウェイでタイカン GTSを運転したが、思っているよりスピードを出せず、次郎さんと「俺たちチキンだね、臆病だね」という話をしたという。次郎さんはそれを受けて、「チキンってとても大事です」とキッパリ言った。「例えば、君たちが初日に触れ合った馬たちも、草食動物だからもちろんチキンです。その馬が『自分はもっといける』と思って暗闇に飛び込んだら、肉食動物に食べられて死んでしまう。今回、馬を捕まえるときにもいきなり投げ縄で捕まえようとする人はいなかったし、工具もおそるおそる扱ってくれたよね。それは言い換えればチキンかもしれないけど、それはとっても良いことです。ただ、チキンじゃなかった場面が1つあって、タイヤ交換をするときに知っている工具があって過信したり、力任せにやったりしたせいで、チューブがボロボロになっちゃった。タイヤ交換を何のためにやっているかを考えたら、タイヤを直してレーキを動かしたいんだよね。目の前の『タイヤを外す』というショートゴールだけを見ているからそうなってしまう。常にロングゴールを考えながら、今のショートゴールを積み重ねていけば、もっと物事はうまくまわっていくと思います」。
中邑さんからは、改めてLEARN with Porscheの意義について話があった。「僕たちは何をやっているかと言ったら教育です。何の教育をするかと言ったら、日本を変える教育をする。今の日本の教育はこれでいいのかってことを研究でやってるわけ。『まぁ、今はそういう世の中だよね』って言って何もせずに、30~40年経ったら日本が滅びちゃうような事態になっていたら嫌じゃない? 『このままじゃ滅びるぞ』っていう大人がいないとやばいよなと思って、それをやっているわけです」。
「問題なのは『僕これが苦手なんです』っていうのを恥ずかしいことだと思って言えない社会になっていること。こういうところから事故が起こっていく。なぜそうなっているかというと、『人は平等だ、同じだ』っていう考え方からだと思う。本当に人は平等か? 遺伝子が違うんだから同じなわけがない。ここにいる人間だってみんな違う。ただ、最近ではその違いを学歴とか学年によって違うんだと思っている節があるよね。『ああ、あの人は有名校を出てるからすごいんだ。自分の学校は有名じゃないからすごくないんだ』って。そんな考え方は捨てちゃおう。みんなもこの話は言葉ではなんとなく理解できるかもしれないけど、実行するのは難しいよね。だからこそ『LEARN with Porsche』はそんな場にしたい。だからみんなの学校も学年も明かしてない。今回、みんなで直したロータリーハローは無事に動いたけど、動かないことだってあるわけだ。でも、『子どもたちが参加するプログラムは絶対成功しなきゃいけない』と思ってる人たちはたくさんいる。次郎さんの提供している乗馬プログラムもそういうことがありますよね」と聞くと、次郎さんもうなずく。
次郎さんの森の馬小屋では、どんな経験者でも馬を捕まえるところからのスタートで、それができた人から乗馬ができる。そのプログラムに対してこのくらいの料金が発生するという話を承知して申し込んでいるはずなのに、納得できない利用者もいるらしい。自分が捕まえるのに2時間半かかったら乗れる時間は30分しかない。やれるかやれないかは自分次第。その先に何か楽しみや喜びがあるはずなのに、乗馬ができなかったことに対する不満をぶつける人もいる。
「それを勘違いしている人が多いよね。そうすると世の中が萎縮していくわけだ。もう分かるよね? みんなの中にも親になる人が出てくるかもしれない。そうなったときのことも考えて社会を作っていこうと思っているわけだ」。
中邑さんがひと息に話をすると、もう帰らなければいけない時間が来てしまった。果たして、この言葉を飲み込めた子どもたちはどのくらいいたのだろうか。ただ確実に、今回のプログラムで1人ひとりが受け取った経験はとても大きいものだったのだろうということが、中邑さんの話を聞く全員の瞳から伺えた。
筆者も4年間、このプログラムを見届けてきたが、最初はがむしゃらにものづくりに取り組んでいたことも、必死に自らの手で農作業や林業に立ち向かったことも、今回のように仲間とのコミュニケーションが新しい可能性を生むことも、すべてが同じ体験ではなく、集まった子どもたちの心の持ちようで変化していくものなのだと実感する。中邑さんが「誰も同じ人はいない」と言ったように、同じプログラムもまた存在しないのだ。
この「LEARN with Porsche」は、大人たちは場を提供しているだけであり、主役は子どもたちだ。どんなストーリーになるか、どんな体験を受け取るかは君たち次第。これからこのプログラムが積み重なるにつれて、それぞれの子どもたちが自分自身に芽吹いたきっかけを、さらに多くの人に届ける人になってほしいと強く実感した4年目のプログラムだった。
Photo:堤晋一







































































