フリースケール、車載マイコン「Magna V」の新製品を発表
日本市場での売上を10年で3倍に



フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンの社長であるディビット・M・ユーゼ氏。同社社長に就任してまもなく2年になるが、驚くほど日本語が上達していた

 半導体ベンダー米Freescale Semiconductorの日本法人フリースケール・セミコンダクタ・ジャパンは、3月15日に車載向けマイクロコントローラ「Magna V」(マグニ ヴィ)の新製品である「S12ZVM」を発表したが、同日これに関する記者説明会を開催した。

 説明会ではまず、ディビット・ユーゼ社長が「フリースケールの車載向け市場への震災後の緊急対応施策と今後のコミットメント」と題して挨拶。その後、遠藤千里氏より同社の車載向け市場への取り組みを説明。さらに今回発表となったS12ZVMの説明を、同社主任のハニフ・サディック氏が行ったが、ちょっと説明の順番を変えてまずS12ZVMの説明から行いたいと思う。


事業統括本部 車載セグメント・マーケティング担当部長の遠藤千里氏車載マイクロコントローラ製品部 プロダクト・マーケティング主任のハニフ・サディック氏

12Vに対応した車載マイコン「S12 MagniV」
 今回発表されたS12ZVMは、同社の「S12 MagniV」という製品群の第2世代にあたる。このS12V Magniは、同社の車載向け16bit MCUである「S12」の、特に高電圧対応版ということになるが、これでは訳が判らないと思うので、もう少し段階を追って説明する。

 筆者の連載(http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/cew/20110907_475672.html)でもちょっと触れたが、現在の車には実に多様多種のモーターが使われている。パワーウインドーしかり、ワイパーしかり、電動シートしかり、電動パワーステアリングしかり。目に見えないところでも、たとえば燃料ポンプは当然モーターで動いているし、ほかにもいっぱいある。こうしたモーターを制御するのは「ECU」で、このECUの中に「MCU」(Micro Controller Unit)が入っているという話を連載でご紹介している。

 ところで上の連載の中では、「MCUそのものは先も書いたとおり3.3Vなり5Vで駆動される」と紹介したが、このままだとバッテリーからの電源をそのまま接続できないので、一度3.3Vなり5Vにするための電圧変換回路が必要になる。S12V Magniは12Vでそのまま駆動される製品で、この結果として外付けの電圧変換回路が必要なくなっている。

 また単に電源が12Vであるだけではなく、12Vのモーターをそのまま駆動できるような構造になっており、この結果としてモーターのドライバも必要ない。図1(再掲)で、「電源回路」と「ドライバ」が不要になると、大幅に構造が簡単になるのはお分かりいただけよう。

図1

S12ZVMはブラシレスモーターに対応
 これによりECUの小型化や低価格化を実現した、というのがS12 MagniVである。第1世代のMagniVはドアの中に組み込み、ピンチレスパワーウインドー(指を挟んだことを検出し、そこで動作を止める仕組みを組み込んだパワーウインドー)用に開発された製品だが、第2世代である今回のS12ZVMは、もう少し汎用的な用途に向けた製品である。

 この背景には、DCモーターの代わりにBLDC(Brushless DC:ブラシレスDC)モーターを使いたい、という要望が出てきたことがある。

 BLDCモーターとは何ぞや? という説明は、まず通常のDCモーターの説明から入ったほうがいい。図2は、通常のDCモーターを簡単に書いたものだ。タミヤのモーターとかはだいたいこの構図である。

 中央の軸に付属するもの(ローターと呼ぶ)にコイルが構成され(図2の赤い線)、その外側に永久磁石(図2の黒いもの)が配されている。永久磁石だから当然NとSを持っている。ここでコイルに電流を流すと電磁石が構成され、すると電磁石のN極側が永久磁石のS極側に、電磁石のS極側が永久磁石のN極側にそれぞれ吸い寄せられるから、これに応じて軸が回転する。で、ある程度回転したところで電流の向きを反転させると、そのままの勢いでさらに半回転する。ここでさらに向きを電流の向きを反転させて……という具合に電磁石の極を反転させることで回転が続くわけだ。

 この電磁石に電力を供給するのが、図2で青い線で書いたブラシである。要するに軸に沿う形でブラシ状の電極を構成し、ここ経由で電磁石に電流を流すというわけでこの名称がついている。

 さて本題。このDCモーター(ブラシDCモーター)は構造が簡単で、電流さえ流せば回転する反面、ブラシの磨耗が常に問題になる。またブラシ部分は抵抗が大きいからこれによる消費電力増加もある。

 こうした問題を解決するために、最近流行しているのがBLDCモーターである。これは図3の様に、永久磁石と電磁石をひっくり返した構造である。ローターには永久磁石が付き、その外側のケース側に電磁石が配されるものだ。

図2図3

 これにより、ローター側に電力を供給する必要がないので、ブラシを省くことができ(これがBLDCモーターの由来)、磨耗部品が大幅に減るから効率もよいし寿命も長くなる。ただし今度はコイルに流す電流の向きは、モーターの外側で管理してやる必要があるので、このための電力管理機構が必要になり、大体においてブラシDCモーターと比べて価格が上がる欠点がある。

 さて話を戻すと、そんなわけで以前はDCモーターが使われてきてきたが、特に電気自動車(EV)などではバッテリー寿命を延ばすためにも車載モーターの消費電力は少なければ少ないほどよく、このためブラシレスDCモーターへの移行が進みつつある。こうしたマーケットトレンドに対応したのが第2世代のS12 MagnaVというわけだ。第2世代では、このBLDCモーターの制御に必要なだけの演算性能(ローターの位置に合わせて細かく電流制御するために、高い処理性能が必要)や、GDC(Gate Drive Unit)と呼ばれるドライバを内蔵したのが主なポイントである。

 これを実現するために同社が利用しているのが、「LL18UHV」という独特のプロセスである。これはMagniVから採用されたもので、通常のMCUの回路に最大40Vまでに耐えられるアナログ回路を組み合わせて1チップ化することが可能となっている。ちなみにMagniVシリーズは、今後計器パネルやLEDドライバ、汎用向けなどさまざまな用途に展開してゆくと説明されている。

ブラシレスモーターに移行しつつある車載モーター。「ただし値段を上げずに」というのがポイントであるが、最近は多少価格が上がっても省エネを優先という風潮になってきた。ただこれについては後述左側は第1世代のMagniVで達成できていたもので、右側が今回のS12ZVMで実装した新機能ということになるBLDCモーターの適用範囲は非常に広いため、特にパワーウインドー用といったことはなく、車体全般に利用できるとしている
S12 MagniVは「LL18UHV」プロセスで製造する。半導体一般には、製造プロセスは微細なほど先進的である。たとえば一番最新のスマートフォン用のものは28nmプロセスになっており、LL18UHVのように180nmというのは5世代ほど古い計算になる。ところが最近の28nmプロセスで作った製品に12Vをかけたら一瞬で焼けてしまうだろう。こうした高電圧に耐えるための製造プロセスは、PCや携帯向けとはまた別の尺度で考える必要があるLEDはおそらくヘッドライトとかテールランプなどに向けたものと思われる。Instrument Cluster(計器パネル)というのは、こちら(http://car.watch.impress.co.jp/
docs/series/cew/20120111_502248.html
)でもちょっと触れたが、3連アナログメータなんぞの制御には、DCモーターとはまた異なる種類のモーター(ステッピングモーターと呼ばれるものがある)を使うことが多く、制御方法がDCモーターやBLDCモーターと全く異なる

 さて、以下はやや専門的な話になるので、さらっとご紹介。下図左がS12ZVMの主要な特徴である。これは主要な構成であるが、1個のS12ZVMで最大6つのBLDCモーターを制御できる(2相の場合。3相だと最大2つになる)。これにより、従来のBLDCモーター制御基板を、最大半分のサイズに抑えられるというのが同社の試算である。

S12ZVMの主要な特徴。MCUのコアそのものについては後述左上は、さまざまな個別部品を集めてBLDCコントローラを構成した場合、左下は汎用のMCUもしくはDSC(Digital Signal Controller)に、専用の回路を作って構成した場合。こうしたものに比べて大幅に省スペース化と、当然低価格化が図れるとする

 S12Zコアにも大幅に手が入った。S12シリーズは長い歴史を持つ製品だが、最大でも80MHz駆動程度だったし、MagniVの第1世代は(パワーウインドー制御用ということもあって)最大20MHzとかなりのんびりした性能だったのが、今回は100MHzまで引き上げられ、さらに内部構造も大幅に手が入れられた。

 また用途に応じてさまざまな構成を提供することで、開発作業を容易にするといった配慮もなされており、また開発環境も準備されている。

ハーバードアーキテクチャは、携帯やPC向けCPUは当然に採用しているが、性能は上がるものの内部構造が複雑になるなどの関係でMCUでは採用しないケースも少なくない。S12ファミリーで従来最高速だったS12X(80MHz)と比較して、3倍高速になったとしている。右側の話はソフトウェアの作り方に関する部分で、これにより16bit MCUと言いながらも32bit CPUとあまり差がないプログラミング環境が利用できるようになった。最近は車においてもソフトウェア開発がわりと洒落にならない負荷となっており、これを軽減するための方策である車メーカーや車載機器メーカーは、当然複数の用途にこれを使いまわしたいわけで、その際に機能や価格に応じてさまざまなオプションを選べるように配慮している、という話このあたりはまぁ一般的な話。ソフトウェアは、実際の現場では同社製のCodeWarriorとサードパーティーのCosmicの両方が主流なので、両方に対応したとのこと。

フリースケールと自動車業界の関わり
 さてここから、遠藤千里氏による同社と自動車業界の話をご紹介する。同社はかなり早くから自動車業界に関係を持っており、特に米国や欧州では高いシェアを持っており、また自動車に関連したさまざまな組織に多く関係している。

 同社のシェアは現在2位となっているが、実は以前は第1位がフリースケール(やその前身のモトローラ)で、第2位/第3位にNECエレクトロニクスやルネサステクノロジーが入っていた。ところがNECエレクトロニクスとルネサステクノロジーが合併、ルネサスエレクトロニクスになってしまったことで、トータルでの売り上げNo.1の座を奪われた形である。

FlexRayやLINに関しては、そのうち連載でも取り上げる予定。AUTOSARは国際的な自動車のソフトウェアの標準化組織で、JASPARはその日本版と考えればよい車載マイコンのシェアではフリースケールが2位。さすがにこれだけシェアに大差があると、すぐにひっくり返すのは無理であるが、「10年かかるか20年かかるかは分からないが、いつかは再び1位になりたいと思っている」(ユーゼ氏)

 なので、製品ポートフォリオ的には現在No.1であるルネサスエレクトロニクスと大差なく、車載システムにおける3大要素をすべて提供できるベンダーであるとする。現在このマーケットには4種類の製品ラインナップを提供しているが、これはあくまでも現行最新の製品ラインナップであって、これ以前も20年以上に渡って製品を提供してきていると説明した。

車載システムの3大要素を揃えるフリースケール。「たとえばエンジン制御なら、大気圧その他の入力にセンサー、ついでそれに合わせて状況を判断するのにマイコン、最後にそれに合わせていろいろなものを駆動するのにアナログ、と車載制御に必要なものを全て提供できるベンダーはそう多くないと思う」(遠藤氏)フリースケールの車載半導体製品。左下の「i.MX」は電子ブックリーダー(AmazonのKindleにも採用された)や様々なネットワーク関連機器(たとえばシャープの「NetWalker」にはi.MX5シリーズが採用されている)に使われているが、最近のインフォテイメント系はこうした民生機器と近い要求が多く、ここに車載グレード(稼動温度範囲が-40℃~85度)のi.MXを投入してゆくという話
SafeAssure Program(http://www.freescale.co.jp/design_resources/
safety_assure/safeassure.php
)というのは、こうした機能安全は単にフリースケール1社ではできない話で、関係するパートナー企業や顧客などを含めて、一緒に機能安全システムを作ってゆきましょうという取り組みであり、昨年発足したもの

 さて、製品戦略としては大きく4つを掲げている(右図を参照)。

 「Mobility for Everyone」は車をもっと低価格にという話で、これはEVやBRICsを初めとする途上国でこれからモーターライゼーションの要求が高まってゆくマーケットでは、価格を抑えることが重要で、これには「Qorivva」(コリーヴァ)や「S12 MagniV」、「Xtrinsic」(エクストリンシック)などの車両向け汎用ソリューションを利用することで、高性能化を追及する一方でコンポーネントの標準化による価格低減を実現しようという話。

 「Cleaner World」は省エネ化で、これは車体の軽量化とか無駄なエネルギーを減らす(省電力化は、ガソリン車であっても最終的にはエンジン負荷軽減=燃費改善につながる)事が重要で、ここにはS12 MagniVが貢献するという話である。

 「Safety for Everyone」は事故防止、あるいは事故の際の負傷軽減で、途上国向けであればまずはエアバッグシステムの充実だし、先進国向けでは衝突防止のクルーズコントロールとか衝突回避といった機能になる。

 最後の「Everyone Connected」は最近自動車であっても3Gなどで常時ネットワーク接続というものが登場しつつあることへの対応である。

移管後はアリゾナ州とテキサス州の2個所の工場(正確に言うとテキサス州には2種類の設備があるので、これを数えると3個所)で製造されることになる。もっともテキサスのオースチンのほうは本社機能とか技術開発機能なども含んでいるので、量産向けというわけではなく、もっぱらアリゾナ州チャンドラーとテキサス州オークヒルの2個所で生産されることになる

 以上を踏まえたうえで、本来は冒頭に行われたユーゼ社長の話をご紹介する。実は2011年、フリースケールは仙台事業所を閉鎖し、ここで生産していた様々な製品をアメリカの工場に移管している(右図)。

 もっと厳密に言うと、同社は2011年の段階でアメリカの2地域3工場以外に、フランスのトゥールーズと仙台にも前工程(半導体そのものを作る工程)の工場を持っていたが、このトゥールーズと仙台は生産能力がもともと低い工場であり、効率化を進めるために閉鎖の方向性が既に決まっていた。

 ただ東日本大震災がこの仙台工場をも直撃し、結果として仙台工場は前倒しで閉鎖、ということが2011年4月に決定した。当時仙台工場は18のテクノロジーを持ち、1400余りの製品を製造していたが、この多くが車載向け製品でもあった。このため同社はテクノロジーを含む製品ラインの移管を大至急で進め、2011年6月の時点では全てのテクノロジーそのものの移管と最初の品質テストを(トゥールーズのものまで含めて)完了。現時点では、車載向け製品は全量これらの工場で生産されている。

 一応どちらもアメリカではあるが、なにせ距離的には結構あるだけに、天災などで両工場が同時に止まることは考えにくく、なので2個所から製品を供給できる体制を維持しているので、何かあっても製品が全く止まったりはしないというメッセージを強く述べた。

震災を機に日本市場へ
 ところでユーゼ社長の話を最後に持ってきたのは、質疑応答で色々と面白い話が伺えたからでもある。先にもちょっと述べたが、フリースケールは全世界ではかなり大きなマーケットシェアを握っており、特に欧米向けの場合パワートレイン関連では5割ほどのシェアを握っている。この状態からさらにシェアを増やすのはなかなか容易ではない。

 ところがそのフリースケールが今、比較的空白なのが日本とアジアである。日本以外のアジア全般は、特に中国などではこれからマーケットが急速に拡大してゆく状態なので、既にいくつかの自動車メーカーと協業体制に入っている。全く異なるのが日本で、ここはルネサスエレクトロニクスが圧倒的なシェアを握っており、フリースケールはエアバッグシステムその他のマーケットを多少握っているに過ぎない。

 もしここで日本のシェアをある程度取れれば、元が空白なだけにその伸びは非常に大きいことが期待できる。そんなわけで、フリースケール全社的にも日本は攻略すべきNo.1マーケットとして位置づけられていたが、2010年までこれはなかなか果たせなかった。

 これが大きく変わったのは震災の影響である。元々自動車業界は、というか自動車業界に限った話ではないのだが、ある程度大量の製品を出荷するような業種では、1個所の供給元だけから部品を仕入れるということは余りない。かならず「セカンドソース」と呼ばれる、2番目の供給元を確保しておき、最初の供給元に何かあっても生産が維持できるように配慮するという話だ。

 従来国内の自動車メーカーの場合、これをルネサステクノロジとNECエレクトロニクスが担ってきたが、2009年に両社は合併してルネサスエレクトロニクスとなったため、自動車業界は新たなセカンドソース先を探すだろうと期待されていた。ところが実際にはそうならず、国内の自動車メーカーはルネサスエレクトロニクスからの単独供給という、ちょっと異色の事態になっていた。

 東日本大震災で、これが大問題になった。ルネサスエレクトロニクスで自動車向け製品を一手に生産していた那珂工場が被災し、この結果主要自動車メーカーは生産が止まる事態に陥った。まずかったのは、単に自動車メーカーのみならず、2次/3次受けの企業もやはりルネサスエレクトロニクスの部品がないと製造できないという状況に陥って、サプライチェーン全体が麻痺したことだ。

 こうした事を受け、震災後は「全ての自動車メーカーさんとお話をしたし、これまでは話すら聞いてくださらなかったTier 1(1次下請け)の部品メーカーさんが弊社まで来られて話をすることになった」(ユーゼ氏)そうである。これまで12年~15年に渡って全く相手にしてもらえなかったメーカーにまで取引が始まったというから、やはり実際に大災害が起きたことで、供給の複数化の重要性がやっと理解してもらえたという事なのかもしれない。

 まだ明確に売り上げが増えるというレベルではない(なにせ、設計開始から実際に販売まで数年のタイムラグがあるから、今すぐ採用が決まってもそれが売り上げとして計上されるのは数年先になる)が、あるTier 1ベンダーと協力して3カ月で新しいパワートレインを作ったという話も出てきており、東日本大震災が(よくもわるくも)いろいろと同社にとって契機になったのは間違いないようだ。

 もうひとつ影響があるとすると、それは専用システムから汎用システムへの転換である。ルネサスエレクトロニクスの場合、極端に言えば車種ごとにそれぞれちょっとづつ異なる専用チップ(マイコンを含んだ複合的なチップ)を提供していた。

 昔は少品種大量生産が常だったし、開発費がそうかからなかったからこれでよかったのだが、昨今は開発費が高騰するようになり、その一方で多品種少量生産の傾向が出てきたため、なかなか開発費の回収が難しくなってきた。とはいえ自動車メーカーが専用チップを強く求めた結果、ルネサスエレクトロニクスは引き続き専用チップを大量に設計・生産しており、これがゆえに売り上げは立つのに儲けが少ない状況に陥っていた。

 対してフリースケールの場合、そもそも対象にしている自動車メーカーの数も多いため、専用チップを作ることはあまりなく、汎用チップの組み合わせでソリューションを提供するのがポリシーである。これもまた、震災前にはなかなか日本の自動車メーカーに受け入れられにくい理由でもあったのだが、震災後は、こうした専用チップを使うと供給が弱点になるという点がクローズアップされた結果として、日本の自動車メーカーも汎用品をソフトウェアでカスタマイズという方向性に移りつつある。

 こうした点もフリースケールにとっては追い風になるだろうし、おそらくルネサスエレクトロニクスにとっても開発品数を絞って開発費を回収しやすくなるという点では幸いであろう。

 ちなみにユーゼ氏のチームの個人的な目標としては、「10年で売り上げを3倍にする」という数字を掲げているそうである(フリースケールの目標ではなく、あくまでユーゼ氏が自分で掲げている目標だそうだ)。これを実現するためにも、日本の自動車業界の攻略は欠かせないものになるということだろう。

 もっともこの3倍を実現する早道は、S12 MagniVやQorivva/Xtrinsicを売るより、i.MXをたくさん売ることだとか。「i.MX 1個の値段は、MCU 6~7個分に相当する」(ユーゼ氏)というのがその理由である。ただそのi.MXにしても、「これまで他社は$40くらいで提供していたのに、フリースケールが$20くらいで提供したら、他社もこれに追従して来た。これは長い目で見ればユーザーの利益になると思う」ということで、なかなか厳しい世界ではあるようだ。

 またちょっと前は自動車1台あたり$60~$80程度が半導体部品全体の値段だったが、これは今$200~$250になっているとのこと。ただこれは、今はEVとかハイブリッドなどはプレミア価格が許されているからこの程度になっているのであって、今後当たり前になると値段が下がってくるから、もっと半導体部品全体の値段は下がるだろうという見通しであった。

(大原雄介)
2012年 3月 16日