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無限、マン島TT 2014仕様の電動バイク「神電 参」を初披露

東京モーターサイクルショー会場で開発ライダーの宮城光氏らがトークセッション

マン島TTに参戦するTEAM 無限の電動バイク「神電 参」
2014年3月30日開催

 M-TEC(無限)は3月30日、東京モーターサイクルショーが開催された東京ビッグサイトのアトリウム特設ステージで、「TEAM 無限」としてマン島TT 2014の電動バイク部門への参戦体制を発表。前年からさらに進化したレースマシン「神電 参」も初公開した。

 マン島TTは、英国王室属領のマン島で毎年開催されている、バイクおよびサイドカーによる公道レース。1周約60kmという長距離コースを舞台とし、107年もの歴史がある。世界でも数少ない公道レースということもあり、世界中から数多くのファンが観戦に訪れる。

 無限が「神電 参」で参戦する「TT Zero Challenge」クラスは、エンジンではなく、電動モーターなど排ガスを出さないパワーユニットによるバイクを用いたレースで、コース1周のタイムを競う。初挑戦の2012年と2013年は惜しくもクラス2位だったが、3回目の参戦となる2014年は大部分を改良した新しいパッケージのレーシングマシンで優勝を狙う。なお、2014年のマン島TTの開催スケジュールは現地時間の5月24日〜6月6日。そのうち「神電 参」が出走する「TT Zero Challenge」クラスの決勝レースは6月4日に予定されている。

TEAM 無限チーム代表の勝間田氏と開発ライダーの宮城氏らが「神電 参」を前にトークを繰り広げた

宮城氏はレースにおける電動バイクのメリットを強調

 当日の東京はあいにくの強風と激しい雨に見舞われたが、東京モーターサイクルショーの最終日とあって、無限の発表会が行われたステージ前は大勢の来場客が取り囲んだ。

TEAM 無限チーム代表の勝間田聡氏
「神電 参」の開発ライダーを務めた宮城光氏

 発表会は、MotoGP世界選手権のテレビ中継の実況を担当している日本テレビアナウンサー 寺島淳司氏が司会進行役として、「TEAM 無限」のチーム代表である勝間田聡氏と、ホンダの元ワークスライダーで「神電 参」の開発ライダーを務めた宮城光氏に話を聞く形で進行した。

 初めに勝間田氏から参戦体制についての発表があった。参戦車両は2台の「神電 参」。スペックは2012年の「神電 弐」が最高出力122PSだったところ、「神電 参」は134PSとパワーアップ。モーター、バッテリー、制御システム、エアロパッケージを一新してまったく新しいバイクになったというこの新型マシンを、マン島TTで20勝を挙げ、TEAM 無限の参戦初年度から「神電」を駆るジョン・マクギネス選手と、同じくマン島TTで9勝しているブルース・アンスティ選手が走らせる。

マン島TTで20勝の実績を誇るジョン・マクギネス選手
マン島TTで9勝しているブルース・アンスティ選手
「神電 参」の大まかなスペック

 宮城氏は、「神電 参」の乗車フィーリングについて、「ものすごくスムーズ。モーターの回転だけで0km/hから最高速の250km/hまで一気に達する。振動がなく、レシプロエンジンのダイナミックな鼓動感を取り除いたシンプルな乗り物」と表現した。

 モーターのためシフトチェンジはなく、リアブレーキも一般的なスクーターや自転車と同様にハンドル左側にあるレバーで操作する。したがって、両足を乗せるステップの前にブレーキペダルやシフトペダルはない。この点についても、宮城氏は電動バイクのメリットだと強調した。通常のバイクレースでは右側にバンクした時にリアブレーキペダルを踏みにくくなるが、ペダル類のない電動バイクでは「極限状態でのコーナリングの時に、ライダーのフットワークの使い勝手に幅が出てくる」という。

 また、「神電 参」の車重は240kgほどあり、レースマシンは言うに及ばず、市販のスポーツモデルのバイクと比べても重い方だ。この重さはネックになりそうに思えるが、「エンジンは載っていない」ことがポイントという。レシプロエンジンは内部でさまざまな部品が回転しており、大きなジャイロ効果が生まれバイクが直立するよう安定させる。これにより転倒しにくくなるので主に低速走行時はメリットとなるが、高速でコーナリングしたいレースマシンにとっては逆にデメリットになる部分もある。

 一方、電動バイクはこのジャイロ効果が限りなく小さい。宮城氏によれば、「バイクを倒した時に無理矢理立たせようとする力がほとんどない。240kgあるが、コーナーのターンインは極めてニュートラルで、軽く向きが変わっていく」という。さらに、「同じ時間乗っても、6速トランスミッションのレシプロエンジンのバイクだと汗をかくところが、このバイクだと汗をかかない」とも語った。

「神電 参」のアンベールが行われた

目標は優勝と平均時速115mph突破

 勝間田氏は、マン島TTへ参戦することにした理由として、「ゼロエミッションのテクノロジー研究という先進性、オール自社開発という独自性をレースを通じて世界に発信する」ことと「若手エンジニアの育成」を挙げたが、「無限として新しいこと、一番過酷なものに挑戦しようというチャレンジ精神」が根底にあると話した。

 「神電 参」はやりたい人が手を挙げて開発に参加しているそうだが、多くのスタッフがスーパーフォーミュラなどの4輪GTレースをメインに担当しているため兼任となる。しかし、忙しい中でも「時間を作って自主的に開発するところに無限らしさが出ているのではないか」と述べ、関係スタッフ全員が大型バイクの免許を取ったことも明かした。

 無限は4輪のレーシングエンジン製作を得意としており、当然ながらバイクメーカーではない。そのため「神電」をゼロから作るのに非常に苦心したと話し、特にバッテリー、モーターの制御に難しい部分があったという。「短時間で高出力を発揮して最後まで使い切り、なおかつブレーキングによる回生エネルギーも使うなど、コントロールは難しく、スタッフはゼロから勉強した」と苦労話を語った。

カウルを外した状態の「神電 弐」も登場

 「神電 参」の開発ライダーとしての立場から、宮城氏も「モーターに電源が入った瞬間にドーンと(パワーが)出てしまう可能性がある」と制御の難しさについて同調した。「オートバイは、(アクセルの)全閉から1%、2%スロットルを開けていく時のフィーリングが大変重要。これが4輪とは決定的に違う」とし、開発においても制御系の調整について頻繁にリクエストしたという。

 また、宮城氏は「ガソリンを入れればすぐに再スタートできるレシプロエンジンのバイクと異なり、電動バイクはいったんバッテリーが切れるとバッテリーを乗せ替えるか再充電しないとスタートできない。限られた時間の中でバイクを作っていくのは手間のかかる作業だった」と、テスト走行時の苦労話についても触れた。

 2014年のマン島TTにおける目標について、勝間田氏は「必勝(の気持ち)で臨む」と宣言したが、もう1つの目標は平均スピード115mph(約184km/h)の達成だ。この速度はマン島TTにおける現在の600ccクラスの記録と同等。しかし、「電動バイクはモーターの電力消費と、バッテリーの電力供給のバランスのせめぎ合い。そこでエンジニアたちがうまいマッピングを作れるかどうかが重要」と宮城氏は語った。

「神電 弐」(写真左)と「神電 参」(写真右)
「神電 参」のボディー各部に採用されるカーボンパーツも無限が得意とするところ

 現在の仕様でマン島TTのコース(60km)を完走できるような電圧設定にすると、最高速は250km/h強。この最高速を下げれば200km以上の距離を走行できるとのことだが、レースでは可能な限り速いスピードを出しながら、きっちり完走できるバッテリー消費にセッティングすることが不可欠だ。

 勝間田氏は、「ゴールのフィニッシュラインを越えた時にバッテリー残量がゼロになるようセッティングします。それくらいギリギリを攻めないと、おそらく115mphは突破できない」と、気持ちを引き締める。限られた時間の中でセッティングを見つけ、1ラップしかない決勝レースに臨むという電動バイクならではの難しさを克服し、悲願の優勝を果たせるかが注目される。

(日沼諭史)