スバル レガシィの注目機能、新型EyeSight 「ぶつからないクルマ?」「ついていくクルマ?」を映像でも紹介 |
新型EyeSight搭載車は、B4、ツーリングワゴン、アウトバックのすべてのボディータイプに用意される |
5月18日に年次改良のマイナーチェンジを行ったスバル(富士重工業)の「レガシィ」。このマイナーチェンジでの話題は、新型「EyeSight(ver.2):(アイサイト バージョン2)」を搭載するグレードが設定されたことだろう。先代のレガシィに搭載されていたEyeSightと動作原理は変わらないものの、各部の制御を進化させている。また、プリクラッシュブレーキ機能は、自車と先行車の速度差が30km/h以下である場合は、自動ブレーキによって衝突を軽減できるだけでなく、回避することも条件によっては可能となった。
全車速追従機能付きクルーズコントロールも、これまでは停止時にブレーキが解除されていたが、ブレーキ状態を保持できるようになり、渋滞時の使い勝手が大幅に向上している。
●新型EyeSightの機能一覧
機能 | 制御名 | 進化点 |
衝突回避・衝突被害軽減機能 | AT誤発進抑制制御 | 発進抑制力を向上 |
プリクラッシュブレーキ | 速度差30km/h以下で衝突回避、 あるいは衝突被害軽減。 30km/h以上で衝突被害軽減 | |
プリクラッシュブレーキアシスト | 新採用 小さい踏力でも、 クルマが最大の制動力を発揮 | |
運転負荷軽減機能 | 全車速追従機能付きクルーズコントロール | 停止保持機能追加 |
先行車発進のお知らせ | 制御を緻密化 | |
予防安全機能 | 車間距離警報 | 制御を緻密化 |
車線逸脱警報 | 制御を緻密化 | |
ふらつき警報 | 制御を緻密化 |
富士重工業 スバル技術本部 電子技術部担当部長 野沢良昭氏 |
その新型EyeSightに関する疑問を、富士重工業 スバル技術本部 電子技術部担当部長 野沢良昭氏にうかがった。スバルでは、これまでステレオカメラを用いてクルーズコントロールやプリクラッシュブレーキなどを実現してきた。EyeSight(ver.2)もハードウェアの変更はなく、ステレオカメラを用いたものとなっている。これに関して野沢氏は「スバルはステレオカメラをずっとやり続けて来て、進化をさせ続けている。先代レガシィに搭載されていたEyeSightの評判もよかった。ただ、先代レガシィはモデル末期となっていたこともあり、売れ行きとしては月に100台ちょっととなっていた。価格に関しては、先代レガシィ搭載のEyeSightでは約20万円ちょっとの価格差。今回のEyeSight(ver.2)ではおよそ半額となる10万円ほどの価格差で装着車を購入できるようにした」と言う。
実際、レガシィ ツーリングワゴン 2.5i L Package(279万3000円)と、2.5i EyeSight(289万8000円)の価格差は10万5000円。EyeSightを除けば装着車とベースとなったL Packageの装備内容は変わらない。これから購入するユーザーは、EyeSight(ver.2)装着車を購入すればよいが、すでに新型レガシィを購入した人、先代レガシィのEyeSight装着車を購入した人などは、後から取り付けたり、バージョンアップしたりすることなどは可能なのだろうか。これに関しては「残念ながらバージョンアップはできません。ブレーキ制御などとも密接にかかわっており、不可能となっています。また、現行レガシィ購入者が、車両購入後取り付けることもできません。理由としては、先ほどと同様で、エンジン、トランスミッション、ブレーキなどと複雑な協調制御を行っており、工場のラインでの装着となるためです」(野沢氏)と言う。クルマにとっての基本性能とも言える、エンジンやブレーキとかかわるため、仕方のないことなのだろう。
また野沢氏は新型レガシィに最初から搭載しなかった理由として「EyeSightは制御上かなり作り込まないといけないシステムです。エンジン、ブレーキ、ミッションの制御をしている関係で、そちらが仕上がらないと制御を詰めていくことができません。そのため、開発に時間を要しました」と語る。今後EyeSightを搭載する車種が出る場合は、開発ノウハウが蓄積されて来ているので、期間を短縮するようにしていくと言う。
実際、今回マイナーチェンジしたレガシィでも、2.5i L Packageに、EyeSight(ver.2)を加えた2.5i EyeSightというグレードはあるが、2.5i S PackageではEyeSight装着車は設定されていない。これはタイヤサイズの違いが影響しており、L Packageの215/50 R17に対して、S Packageは225/45 R18となり、タイヤ外径が異なることから制御も変わるため、まずは販売の中心となるグレードである、L Packageに設定されることになった。
これは、新型EyeSightに限らずEyeSight装着車では、タイヤ外径を変更すると所定の性能が発揮されなくなるということ。グリップ力の異なる純正品以外のタイヤを装着する場合も同様で、価格が安価だからといってノーブランドの安売りタイヤなどは履かないほうがよい。タイヤ外径やタイヤの銘柄による性能差に対する冗長性をEyeSightは持っているが、純正品以外のタイヤの場合、EyeSightの性能が低下する場合もある。
■衝突軽減だけでなく回避も可能になった、EyeSight(ver.2)
EyeSight(ver.2)の大きな特徴は、自車と先行車の速度差が30km/h以下であれば、衝突被害を軽減できるだけでなく、回避することも可能なプリクラッシュブレーキ機能を持ったこと。
この機能は、30km/hからの自動ブレーキ時は、約20m手前で車間距離警報をメーターパネル内に出し、約13m手前で1次ブレーキをかける。それでもドライバーがブレーキ操作をしない場合は、約7m手前で強い2次ブレーキをかけて停止する。時間にすると、約3秒前、約2秒前、約1秒前という段階で制御が行われる。もちろん路面状況などによっては止まりきれないこともあるが、衝突被害の軽減には寄与するものとなっている。
30km/hからのプリクラッシュブレーキ動作写真。強い減速Gが発生するため、フロントは大きく沈み込む。最後は1m以内に止まった |
新型EyeSightの認識例。人や車などを認識するほか、白線などを認識することで車線逸脱警報機能を実現している |
この衝突予測は、距離情報をステレオカメラが監視していて、現在の速度などからどのような動作をするべきか常に計算を行っている。EyeSight(ver.2)も、旧EyeSightもステレオカメラ部の仕様は同じで、30万画素のCCD撮像素子を35cmの間隔で配置しており、基線長35cmの測距機で三角測量を行っている訳だ。この35cmという数字は、認識要件と車内への搭載要件から決まったものだと野沢氏は言う。「基線長は長くなればなるほど距離の認識がしやすくなります。しかしながら、車内に設置することを考えると、長くすると片側のカメラがドライバーの頭の上に来るなど、いろいろな不都合が生じてきます。また、基線長を長くすると製造上の精度を保つのが難しくなり、コストが上がってしまいます。さまざまな実験を繰り返すことで最適解を求めたところ、35cmという基線長になりました。この基線長で最大約90m先の対象物を計測できます」とのこと。
確かにEyeSightのユニットは筐体が一体成型のダイキャストで作られており、歪みなどを防ぐ構造になっているように見える。素人考えだと、ある程度の精度だけを出して、あとはデジタルで補正すればよいようにも思うのだが、強度を保った構造によって物理的な精度を確保することが必要なのだろう。
実際に撮影などのため、何度もプリクラッシュブレーキ機能を体験してみたが、30km/h走行からであればすべて1m以内に停止した。これだけギリギリに停止するのは、運転者がプリクラッシュブレーキに頼って運転しないためのものであり、あくまでも運転を支援するための装置であるからだ。
正直、30km/hとはいえノーブレーキで障害物に向かっていくのは勇気がいる。テストだからこそできることで、最初は思わずブレーキを踏んでしまった。ドライ路面かつフラットな路面状態では止まることを実感できたものの、プリクラッシュブレーキ機能はあくまでも万が一のための機能と言える。
プリクラッシュブレーキ |
エクシーガを追従走行中の、レガシィ アウトバック 2.5i EyeSight |
■実用性が大幅に向上した全車速追従機能付きクルーズコントロール
EyeSight(ver.2)は「ぶつからないクルマ?」とプリクラッシュブレーキ機能をメインに訴求しているが、普段使いにおいて恩恵を受けるのが「ついていくクルマ?」と訴求されている全車速追従機能付きクルーズコントロール機能。
以前のEyeSightでは、クルーズコントロール走行時に渋滞時のノロノロ運転には対応するものの、前走車が停止してしまった際に、自動でブレーキをコントロールし停止状態となるが、その後すぐにブレーキは解除された。EyeSight(ver.2)では、停止状態を2分間維持するようになり、2分を超える場合は新型レガシィから搭載された電動パーキングブレーキがかかる。これにより、断続的に停止状態が現れる渋滞時の使い勝手が大幅に向上している。これら、プリクラッシュブレーキ、全車速追従機能付きクルーズコントロール以外についても制御の緻密化が図られており、ソフトウェア面での改良が行われていると言う。
クルーズコントロールのON/OFFはステアリング右側のスイッチで行う。速度設定などを行うRES/SETスイッチは、旧EyeSightと比べ使いやすいよう凸型になった | 先行車を認識するとメーターパネル中央部のモニターに車のマークが表示される |
以下の2本の映像は、全車速追従機能付きクルーズコントロールの動作映像になる。1本目が渋滞時を想定した走行映像で前走車のエクシーガがノロノロ運転。後半は速度を上げ、40km/h以上で動作する車線逸脱警告を動作させている。2本目は80km/hで前走車のエクシーガを追従中にインプレッサが割り込み、追従車を自動で変更する模様を撮影。その後、インプレッサを追い越して元の車線に復帰し、再度エクシーガを追従車に設定するまでを紹介する。いずれの場合もスムーズに加減速し、これまでのEyeSightから制御が向上していた。
全車速追従機能付きクルーズコントロール 渋滞時走行 |
全車速追従機能付きクルーズコントロール 自動追従走行 |
ここまで紹介したように、EyeSightはステレオカメラ機能を使うために、レーダー式では実現不可能な車線逸脱警報も1ユニットで実現している。常に映像を監視する機構を持っているため、以前からドライブレコーダー機能を付けてほしいという要望はユーザーの間で上がっていた。
この機能に関して野沢氏は、「ドライブレコーダーをEyeSightに搭載してほしいという要望も寄せられています。ただ、ドライブレコーダー機能は処理能力を必要とするため、安全にかかわる部分を司るEyeSightでは、持てる処理能力を本来の機能にできるだけ配分したいのです。また、最近はドライブレコーダー製品の値段も下がっており、価格的にも対抗するのが難しいのです」と言い、もしドライブレコーダーを欲しい場合は、別途用意するしかないようだ。
すでにEyeSight(ver.2)搭載レガシィは発売されているため、多くのスバルディーラーではEyeSight搭載試乗車を用意している。ぜひ、試乗を行ってみて、EyeSight(ver.2)の便利さを体感してほしい。
(編集部:谷川 潔)
2010年 6月 4日