トヨタ、企業のあり方を示す「グローバルビジョン」発表会
新興国での販売比率を高めるほか、環境車に一層の注力

「トヨタ グローバルビジョン」について説明する豊田章男社長

2011年3月9日発表



会場には多くの報道陣が詰めかけた

 トヨタ自動車は3月9日、企業のあり方を社会やユーザーに示す「トヨタ グローバルビジョン」を発表。その新たなビジョンについて、同社の豊田章男社長自らが説明を行った。

 一般的にビジョンというと、売上高や営業利益といった経営目標が語られることが多いが、今回発表されたグローバルビジョンは、同社がどのような企業でありたいか、またどのような価値観を大切にしていくのかといった、企業のあるべき姿を明確化したものとなる。

 このグローバルビジョンは豊田社長のほか日本、北米、欧州、中国、中南米・アフリカ・中近東、アジア・オセアニアの6地域でそれぞれチームを編成し、各チームが議論を重ねた上で作り上げたものとなる。

 グローバルビジョン策定の背景には、2008年のリーマン・ショックの大幅な販売の落ち込みによる赤字転落や、一連のリコール問題への反省がある。そのため、「トヨタで働くすべての人が共有できる夢や目標がどうしても必要だった」(豊田社長)と述べるとともに、リコール問題で豊田氏自ら米国議会やマスコミに説明した経験と反省から、ビジョンの策定につながったと説明する。

 このグローバルビジョンについて考えていた際、「お客様に選ばれる企業でありたい。トヨタを選んでいただいたお客様に笑顔になっていただきたい」という考えに達し、ビジョンの根底にこの考え方があると説明。

 具体的なビジョンは次のとおり。

英文
Toyota will lead the way to the future of mobility, enriching lives around the world with the safest and most responsible ways of moving people.
Through our commitment to quality, constant innovation and respect for the planet, we aim to exceed expectations and be rewarded with a smile.
We will meet challenging goals by engaging the talent and passion of people, who believe there is always a better way.

和文
人々を安全・安心に運び、心までも動かす。
そして、世界中の生活を、社会を、豊かにしていく。
それが、未来のモビリティ社会をリードする、私たちの想いです。
一人ひとりが高い品質を造りこむこと。
常に時代の一歩先のイノベーションを追い求めること。
地球環境に寄り添う意識を持ち続けること。
その先に、期待を常に超え、お客様そして地域の笑顔と幸せに
つながるトヨタがあると信じています。
「今よりもっとよい方法がある」その改善の精神とともに、
トヨタを支えてくださる皆様の声に真摯に耳を傾け、
常に自らを改革しながら、高い目標を実現していきます。


 このグローバルビジョンについて、1文ごとに豊田氏が解説。

 「Toyota will lead the way to the future of mobility」には、パーソナルモビリティなど新しい移動手段や、クルマとスマートグリッドのような、エネルギーと情報技術との融合などを含んでおり、こうした技術革新によって産業をリードしていくとの思いが込められると言う。

 「enriching lives around the world」には、クルマ作りを通じて安全で、信頼できる移動手段という社会のニーズに応え、さらに利益を上げて税金を納める、あるいは雇用を創出して賃金を支払うなど、世界各地で社会を豊かにする手伝いをしたいとの考えを込めたとした。

 「with the safest and most responsible ways of moving people」は、「安全が我々の最優先課題であることを明確化したもの」(豊田氏)で、同社の基本理念であるクリーンで安全な商品づくりを使命とし、あらゆる社会活動を通じて住みよい地球と豊かな社会作りに取り組むことを定めたと言う。

 「Through our commitment to quality, constant innovation」は、「私が社内でよく言う『もっといいクルマを作ろうよ』との意味が込められ、我々のDNA」(豊田氏)と言い、それぞれの地域でそれぞれのニーズに応えるクルマを提供していくためには、常に時代の一歩先を行く技術開発を追求する必要があり、それらを実現するべく設定された一文となる。

 「respect for the planet」は、生産、物流、販売活動における省エネ・CO2削減や、リサイクルなど資源有効利用への取り組みなどを意味し、そのことから「効率的な生産拠点を作っていく」と豊田氏は説明する。

 「We will meet challenging goals by engaging the talent and passion of people」は、常に1段上の目標を定め、それに向かってチャレンジしていくことは、よいクルマを作る上で必要なうえ、1人ひとりの成長につながるとの考えがあるとした。

 結びの「who believe there is always a better way」には、常に今よりよい方法がある、あるいは継続的に改善していくという考えを、改めて同社社員が共有することを確認する意味で使ったと言う。

 そして、「we aim to exceed expectations and be rewarded with a smile」の一文は、「グローバルビジョンの心が凝縮されている」(豊田氏)とし、「我々のこだわりは、私たちのもつお客様に深い感謝の気持ちを示すために、お客様の期待をできるだけ上回ること」で、ユーザーが感動するような商品やおもてなしを提供していきたいとの願いが込められていると説明した。

 最後に、「このビジョンをトヨタで働くすべての人が共有し、いつか必ず実現させるという強い意志をもって心を1つにベクトルを合わせる努力をしていく」「経営陣はそのリーダーシップをとるとともに、従業員が力を発揮できるような環境を整えていく。それがビジョンで経営するということであり、そのためにビジョンは必要不可欠」と述べた。

過去に起きたリコール問題や営業赤字問題が、今回のグローバルビジョン策定につながったグローバルビジョンへの想いグローバルビジョンの作成プロセス
グローバルビジョン(日本語版)トヨタは未来のモビリティ社会をリードしていく地域社会への貢献を行う
安全、環境、感動の観点から人々の心を動かす地球環境に寄り添う意識を持ち続けるグローバルな人材育成に取り組む
グローバルビジョンの心が凝縮されているという一文

2015年のグローバルでの取り組み
 次に、2015年までの中期計画について発表した。

 そのなかで、ハイブリッド(HV)車は2015年までに約10種類の新型車を投入し、ラインアップを拡充していくことを紹介したほか、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)の次世代車は「全方位で並行して開発をすすめ、お客様にこれだと言われたとき、どの引き出しも開けられるようにしたい」(豊田氏)と説明した。

 レクサスについては、これまでどおり「真のグローバルプレミアムブランドの確立に取り組んでいく」としたほか、新興国への展開を強化するとしている。

 同社は2015年までに「環境車」「新興国」をキーワードに定め、積極的に攻める分野としている。新興国ではIMV(Innovative International Multi-purpose Vehicle)や新開発小型車といった現地生産モデルを強化するとしており、これらにより2015年をめどに新興国での販売を伸ばし、2010年に日米欧:60%、新興国40%だった販売比率を、日米欧:50%、新興国:50%とすることで「いずれにも片寄らない、バランスのよい事業構造を実現する」(豊田氏)とした。

 こうした商品戦略とともに、各地における現有の生産能力を有効活用するという供給戦略や、グローバルIT企業との連携などを柱とする新規事業戦略など、各戦略を着実に実行していくために「品質向上」「原価低減」「人材育成」の強化を行うことで、「筋肉質で、安定した収入基盤を確立する」ことを明かした。

 その筋肉質で安定した収入基盤とは、1ドル85円、販売台数750万台という厳しい経営環境でも「連結営業利益率5%(1兆円程度)」「単独営業利益の黒字化」を達成できることを指し、「これらを早期に実現する」「この数字が持続的成長のボトムライン」との強い意志が、豊田氏から述べられた。

商品戦略についてレクサスは真のグローバルプレミアムブランドを確立するとともに、新興国への展開強化を図っていくグローバルな販売比率を2015年に日米欧:50%、新興国:50%とし、地域バランスのよい事業構造を目指す
供給戦略について新規事業戦略について。グローバルIT企業との連携などを柱としている「連結営業利益率5%(1兆円程度)」「単独営業利益の黒字化」を早期に達成させると言う
市場リスク・為替変動への強い耐久力を付けることで、大きな景気後退により台数が2割程度落ち込んでも収益が出せる体質にすると言う持続的に成長するには安定した経営基盤の確立が急務

役員体制の変更
 そのほか、同社の役員体制が4月1日より変更されるとの発表もあった。

 今回の役員体制の変更もまた、リーマン・ショックによる赤字転落や一連のリコール問題があり、こうした経験から、いかに早く正確に経営陣に情報が伝えられ、迅速に経営判断ができるか、またその判断が正確なものだったかチェックできる体制づくりがいかに重要だったかを痛感したと言う。

 こうした観点から、現在27名いる取締役員数を11名に削減するほか、現行の「副社長、本部長、組織担当役員」の3階層の役員体制から、組織担当役員を廃止し、2階層にすると言う。また、より現場に密着し、マネージメントなどを担当する常務理事(従業員身分)を新たに新設する。

 また、海外にある事業体が現地で意志決定できる体制を作るべく、地域本部長を現地に配置するとともに、現地駐在役員を13名から15名に増やす。これにより「各国での現地の声を、今まで以上に生産に結びつけることができる」と豊田氏は言う。

 そのほか、社外からの声を経営に反映する体制を作るとし、北米、欧州、アジアに地域アドバイザリーボードを設置するほか、社外監査役に国際経済学者の和気洋子氏を迎えており、「先生には忌憚のない意見をいただき、それを経営に反映させたい」との考えを明かした。

 なお、2011年3期の見通しではトヨタ、レクサスブランドあわせてグローバルで753万台の販売台数を予想しているが、2015年には両ブランドあわせて900万台を目指すことが明らかになっている。

役員体制変更のねらい取締役数を現在の27名から11名にスリム化する役員意志決定階層の削減により、部長からの情報がスピーディに経営陣に伝達されるようになる
常務理事を新設地域本部長を原則現地に配置する社外からの声を経営に反映する仕組みを構築する
地域アドバイザーの面々。社外監査役には慶応大学教授の和気洋子氏を迎える役員体制は4月1日から変更。役員総数はこれまでの77名体制から60名体制に変更される

(編集部:小林 隆)
2011年 3月 9日