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“もっといいクルマづくり”の具現化、TNGA全面採用の新型「プリウス」ホワイトボディーを見る
「Google Cardboard」などで没入体験可能な360度パノラマホワイトボディー掲載
(2015/11/19 13:42)
“もっといいクルマづくり”、近年の試乗会や撮影会などでトヨタ自動車の開発者と語らうと必ず出てくるキーワードだ。
これは、トヨタが2011年3月9日に発表した、企業のあり方を社会やユーザーに示す「トヨタ グローバルビジョン」を具現化する1つの言葉になっている。詳細は関連記事を参照していただきたいが、同社が発表したトヨタ グローバルビジョンは下記に再掲する。
英文
Toyota will lead the way to the future of mobility, enriching lives around the world with the safest and most responsible ways of moving people.
Through our commitment to quality, constant innovation and respect for the planet, we aim to exceed expectations and be rewarded with a smile.
We will meet challenging goals by engaging the talent and passion of people, who believe there is always a better way.
和文
人々を安全・安心に運び、心までも動かす。
そして、世界中の生活を、社会を、豊かにしていく。
それが、未来のモビリティ社会をリードする、私たちの想いです。
一人ひとりが高い品質を造りこむこと。
常に時代の一歩先のイノベーションを追い求めること。
地球環境に寄り添う意識を持ち続けること。
その先に、期待を常に超え、お客様そして地域の笑顔と幸せに
つながるトヨタがあると信じています。
「今よりもっとよい方法がある」その改善の精神とともに、
トヨタを支えてくださる皆様の声に真摯に耳を傾け、
常に自らを改革しながら、高い目標を実現していきます。
トヨタ、企業のあり方を示す「グローバルビジョン」発表会
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20110309_432248.html
この発表会において豊田章男社長は、「『Through our commitment to quality, constant innovation』は、『私が社内でよく言う“もっといいクルマを作ろうよ”との意味が込められ、我々のDNA』と語り、「それぞれの地域でそれぞれのニーズに応えるクルマを提供していくためには、常に時代の一歩先を行く技術開発を追求する必要があり、それらを実現するべく設定された一文となる」と述べている。
2013年3月には、このトヨタ グローバルビジョンに基づいたクルマづくりの方針であるTNGA(Toyota New Global Architecture)の詳細を発表。以下の5つの項目に関する進捗状況を示し、2015年に発売する新型車より導入するとしていた。
1.商品力の向上
2.グルーピング開発による「もっといいクルマづくり」と開発効率化
3.ものづくり改革
4.グローバル標準への取り組み
5.TNGAと連動した調達戦略
トヨタ、「もっといいクルマづくり」に向けての「TNGA」取り組み状況
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20130327_593312.html
この2015年に発売する新型車が4代目となる新型「プリウス」で、TNGAを全面的に採用した1号車になる。新型プリウスの試乗会に、溶接ポイントなどが明示されたホワイトボディーが展示されていたので、本記事ではTNGAの骨格となるこのボディーを紹介していく。
このホワイトボディーは、TNGAとしてミドルサイズのプラットフォームになるという。今後このサイズのクルマは新型「カローラ」などが想定され、グローバル市場における最重要の骨格になっていく。
クルマのボディーは一般的にプレスを行って各部品を作りだし、スポット溶接などの溶接手段で組み立てていく。スポット溶接は2枚の鋼板の両面に電極を点で構成。大電流を流すことで2枚の鋼板が溶融し、丸い点状の溶接面が形成される。その際、火花が飛ぶことがあり、自動車の組立工場の映像などではおなじみの光景となっている。手軽に鋼板を接続できるスポット溶接だが、その仕組み上両側から鋼板を挟む必要があるほか、あまりに近い間隔でスポット溶接をした場合、電気が逃げてしまい大電流による溶融が難しくなることだ。
このTNGAプラットフォームでは、ボディー剛性向上を図るためにスポット溶接に加え、LSW(レーザースクリューウェルディング)を大幅に導入。LSWであれば溶接打点の密度を上げることができるほか、スポット溶接と異なり片側からの作業でよくなるため、溶接用の逃げを鋼板に作る(つまり溶接機が入る穴を開ける)必要もなくなるという。
また、各部に1500MPaの「Hot Stamp(ホットスタンプ)」材を積極採用。これは、鋼板をプレス時に温め、プレス下死点で急冷することで強化したもので、プレス時に焼き入れをした強化鋼板と思えば間違いないだろう。一般に強化鋼板というと高張力鋼板(ハイテン)などが思い浮かぶが、ハイテン材はハイテンだけにプレス加工が難しく、箱状のものを作るのが大変になる。ホットスタンプ材であれば、加工時に熱を加えるために加工の自由度が高く、さらに急冷過程において強化もされるわけだ。
TNGAのプリウスでは、Bピラー内部などホットスタンプ材(赤い部分)を力の加わる部分に積極的に採用。これも剛性の向上に寄与している。
細かな部分からの説明となってしまったが、新規プラットフォームとなるTNGAプリウスは、力のかかる方向を配慮し、従来の車種とは根本的に別物となっている。
ホワイトボディーをパッと見て気がつくのは、主たる入力となるフロントまわりがきちんと整理・強化されていること。黄色く塗られた部材で示されるように、衝突などに対しては複数系統の構造で受け止める「マルチロードパス」デザインがなされているほか、その上部構造部材がAピラー下部と接続する個所も重なり合う面積を拡大(ラップ領域を拡大)。より幅広い面積で力を受け止めている。
強い入力が入ってくるフロントのマクファーソンストラットは、サスペンションの入力をAピラー下部で流れるように受け止めるデザインがなされており、日の字構造をしたボディー中央部全体で入力を支えていこうとする意図が見える。ストラット上部も左右を折り曲げ処理がされた構造部材でストレートに結んでおり、力を逃がすことなく受け止め、素直に処理していくデザインになっている。
とくに担当者が力を入れて説明してくれたのがボンネットの低さ。ハイブリッド車であるプリウスは、エンジンのほか様々な補機類がボンネット内に収まるが、それらを収めた上で低いボンネット高を実現しているという。近年、衝突時歩行者頭部保護の観点から、歩行者衝突時のボンネットとエンジン補機類の空間はしっかり確保する必要がある。確保できないクルマは、衝突時にボンネット後部を跳ね上げるなどして、その空間を作り出しているわけだ。
プリウスでは低いボンネット高を実現しながら、補機類との空間もしっかり確保。結果、余分な機構など用いずに保護空間を作り出すことに成功しており、高いデザイン自由度とコストダウンの両立を図れていることになる。
TNGAプリウスは環状構造の骨格やLSW、構造用ボディー接着剤の採用などによりボディー剛性を従来型から約60%アップと発表されているが、力の受け止め方などがより素直に、そしてシンプルになっていることから、低重心などの数値的な要素以外に走りの質感を高めているのだろう。別途、日下部保雄氏、まるも亜希子氏、岡本幸一郎氏のインプレを掲載しているが、このホワイトボディー構造と合わせて読んでいただければ、走りの質感にどう繋がったのか感じられる部分もあるはずだ。
最後に別途掲載した360度パノラマのインテリア写真と同様、パノラマ写真家である蔭山一広氏によるホワイトボディーの360度パノラマ写真を掲載しておく。この写真の撮影には、リコーの全天球カメラ「THETA S」を使用しており、ホワイトボディーを内部から360度見ることができるほか、スマートフォンであれば加速度センサーを使用してのブラウジングができるようにしている。また、スマートフォンでは右下のゴーグルマークをクリックすることで「Google Cardboard」「ハコスコ」などを使って没入感の高いVRブラウズもできる。インプレスのTHETAムック「RICOH THETA パーフェクトガイド」にはVRスコープが付録するため、リコーの全天球カメラ「THETA S」を知るとともに、手軽に同様の体験を楽しめるだろう。
技術説明会の記事と合わせ、TNGAボディーを内部から楽しんでもらえれば幸いだ。