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燃費40km/Lの実現を目標に開発された新型「プリウス」技術説明会
ハイブリッドはTHS IIの名称を継承するも効率を改善
(2015/10/16 16:42)
- 2015年10月13日開催
トヨタ自動車は10月13日、4代目となる新型「プリウス」の技術内容を発表し、JC08モードの燃費40km/Lを目標とするとした。同日、技術面に関する説明会を開催。新型プリウスは、同社の“もっといいクルマづくり”を具現化するTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)を初めて全面的に採用しており、今後のトヨタ車の基本となるクルマになる。多くの写真とともに、その発表内容を紹介していく。
「かっこいい」「走って楽しい」「燃費がいい」「装備がいい」のが新型プリウス
4代目プリウスについての全体像は、開発を担当したトヨタ自動車 製品企画本部 チーフエンジニア 豊島浩二氏が解説。新型プリウスのもたらす4つのFUNとして「かっこいい」「走って楽しい」「燃費がいい」「装備がいい」を挙げた。
かっこいいは、かっこいいデザイン。新型プリウスのボディーサイズは、4540×1760×1470mm(全長×全幅×全高)で、従来のプリウスと比べ、全長が60mm長く、全幅が15mm広く、全高が20mm低い。ロー&ワイド&ロングになっており、とくにボンネット部分が70mm下げられていることから、より低くなった印象を受ける。
プラットフォームはTNGAによる新しいものとなり、低重心パッケージを実現。重心位置にかかわるパワートレーン配置を10mm下げ、ヒップポイント高さも59mm低下。荷室底面も110mm下がり、重心高の発表はなかったものの、下がっているのは間違いない。最低地上高も、2WD車で10mm、新規に加わった4WD車で5mm低くなっているとのことだ。
ヒップポイントが59mmも下がると運転席からの視界が気になるところだが、インストルメントパネルのカウル高さは62mm低下。ワイパーも視界に入らなくなったほか、Aピラーをスリムにし、Aピラー取り付け部の開口部を変更。先代に比べ視界は改善されている。
後方視界についても、リアゲート部のガラスを幅広にすることで横方向の視界を改善。先代よりも幅広い後方視界が得られているという。
インテリアについても従来より質感の高いものとなり、2トーンカラーのインテリアカラーが用意される。シートについても新しいものとすることで、体圧分布を平均化。より疲れないシートになる。
ボディー骨格の基本性能としては、マルチロードパス構造による荷重分散、日の字環状構造など環境構造の採用による強化、ホットスタンプ材の採用拡大や980MPaのハイテン(高張力鋼板)活用を実施。その溶接には、面接合となるLSW(レーザースクリューウェルディング)の採用拡大が行われている。
リアサスペンションは、トーションビーム式コイルスプリングからダブルウィッシュボーン式に変更。部品点数などが増えるため重量面で不利となるが、走りや乗り心地のために採用したという。そのほか、ハイブリッド車はユーザーから静粛性を期待されるため、ボディーシーラーやフロアサイレンサーの採用拡大を実施している。
先進安全装備も、歩行者検知機能付きプリクラッシュセーフティやレーダークルーズコントロールを実現する「Toyota Safety Sence P」を装備。自動駐車支援である「シンプルインテリジェントパーキングアシスト」、車車間通信・路車間通信を可能とする「ITS Connect」、視距離を2mと遠方にしたカラーヘッドアップディスプレイ、最大1500Wの非常時給電システムなど最先端の装備を用意する。
高効率化と小型軽量化で燃費改善したリダクションギヤ付きTHS II
新型プリウスでは、旧型から大幅に改善された燃費性能に注目が集まるのは必然。一部グレードにおいて、燃費40km/L実現を目標としてハイブリッドシステムに大きな変更が行われている。
新型プリウスで目指したのは、低燃費のほか“エモーショナルな走り”だという。低燃費は高効率化と小型軽量化によって実現し、エモーショナルな走りはTNGAによって得られた骨格や新たな制御によって実現している。
ハイブリッドシステムについては、HVシステム開発統括部 HVシステム開発室 主幹 伏木俊介氏が解説した。新型プリウスでは、燃焼改善・耐ノック改善、2系統冷却システムの採用、低フリクション化により直列4気筒 1.8リッター「2ZR-FXE」エンジンの熱効率を38.5%から40%へと改善。THS IIの特徴でもあるリダクションギヤについても、固定歯車比の遊星歯車から平行軸ギヤ式へと変更。モーターの配置も複軸配置となっている。これらを実現したことで、トランスアクスルとして全長を47mm短縮し、約20%の機械損失を低減している。
この歯車の使い方が変わったことなどで、「新しいハイブリッドシステムの名称は?」という質問があったが、遊星歯車を使う動力分割機構とリダクションギヤ使用というところは変わらず、THS IIのままとのことだ。
出力モーターについては、交流同期式は変わらないものの最高出力を60kW(82PS)から53kW(72PS)へと下げ小型化。トランスアクスルの複軸配置を可能としたほか、機械損失が低減されていることから、実質的な出力は先代と変わらないという。このモーターではセグメントコイル分布巻を新開発。先代プリウスは巻き線モーターだったが、新型プリウスではプレスした板の組み合わせで巻き線を実現。アクアでもプレス板による巻き線だったが、さらに高密度な磁束を実現しているとのことで、別途確認した際には先代プリウスと比べ15%、現行アクアと比べ10%向上しているとのことだ。
PCU(パワーコントロールユニット)についても、体積を12.6Lから8.2Lへ小型化したほか、低損失素子の採用などで20%の損失低減。トヨタは2014年に新素材SiC(Silicon Carbide)による高効率パワー半導体の開発発表、2015年からは実証実験を始めているが、この新型プリウスに搭載されたパワー半導体は、SiCによるものではないとのことだ。
駆動用バッテリーについては、小型化および高性能化を図ったニッケル水素電池(Ni)とリチウムイオン電池(Li)を用意。駆動用バッテリーの配置個所も小型化を図れたことでリアシート下に変更でき、ラゲッジルームの荷室拡大を実現。先代から56L増大した502Lとなった。
先代プリウスの駆動用バッテリーは、ニッケル水素電池のみだったが、新型プリウスでは「プリウスα」と同様、2種類の駆動用バッテリーが用意されている。この使い分けに関しては、新型プリウスに用意される、ラグジュアリーグレード、スポーツグレード、燃費追求グレードの3グレードで適宜使い分けられることになるという。この辺りは価格などとともに正式発表を楽しみに待ちたい。
“お魚フィン”は12個装備
技術説明会では、初代から4代目プリウスまでのパワートレーン展示やPCU展示に加え、TNGAによるホワイトボディーも展示されていた。もちろんプロトタイプながら実車も展示されており、低く迫力のあるシルエットが印象的だ。
この低いシルエットは、低重心化や前面投影面積の削減による空気抵抗低減からもたらされたものだが、明らかにプリウスと分かるデザインながら新しくなっている。
「ICONIC Human-tech(アイコニックヒューマンテック)」と名付けられたデザインコンセプトは、「ICONIC:一目でプリウスと分かるシンボリックなデザイン」「Human-tech:人の記憶や直感で分かる先進機能」を目指したもの。低重心であることも見るだけで分かり、サイドのキャラクターラインも前傾のためアグレッシブな部分を感じることができるだろう。
先代プリウスも空力的にCd値0.25と優れたものだったが、新型プリウスはそれをさらに削減した0.24を実現。従来型からルーフピークを170mm前に出し、リアスポイラーの高さを55mm下げている。
ホイールデザインも空力に配慮したもので、17インチのアルミホイール、15インチのホイールカバーとも回転方向に凸となるようなスポーク造形を持つ。空気をかき回すというより、切り裂くデザインとなっている。このデザインも0.24の実現に貢献しているという。
近年のトヨタ車で顕著となっている「エアロ スタビライジング フィン」の装着は12個所。一部開発陣に“お魚フィン”と呼ばれているこの空力アイテムは、ドアミラー付け根に左右各2個所、リアコンビネーションランプに左右各1個所、シャシー底面のカバー部分の前方2個所、中ほどに2個所、後方に2個所の計12個所に取り付けられている。開発担当者に「お魚も12匹います」と言われたので、シャシー下面のお魚フィンも撮影してみた。
とくにシャシー底面のカバー後方にあるお魚フィンは、マフラーのある右側にはなく、左側に2匹造形されている。このお魚フィンは、ボーテックス(渦)を発生させ、空気の剥離を低減させる空力アイテムだが、この2匹についてはマフラーとの空力バランスが主な役目かもしれない。これについては別の機会に確認してみたい。これら空力改善によるCd値0.24の実現と、前面投影面積の低減により、空気抵抗値(CdA)を改善。燃費40km/Lの目標達成に寄与している。
余談だが、新型プリウスの各部を撮影していた際に開発スタッフから「ぜひ、ドアを閉めてみてください」と声をかけられた。先代となる3代目プリウスは、デビュー時の仕様は燃費を狙ったため、ドアを閉める際の音が「パッカーン」と勢いのよい乾いた音だった。マイナーチェンジにおいて溶接スポット打点変更・追加などにより、それがやや落ち着いた音になったものの、“重厚”とは表現できないものだった(マイナーチェンジ後の3代目プリウスは、プリウスα開発で得られた知見が投入され、初期型とはまったく異なるクルマになっている)。4代目プリウスでは質感にもこだわって開発されており、ドアのゴムシールにクラウンと同様の技術を投入。ドアを閉める際に接触するボディー側の質量を増大させることで従来より遙かに重厚な音を実現したという。実際にドアを閉めてみたが、すぐに改善が分かるポイントだった。
この新型プリウスは、東京モーターショーで公開される。プロトタイプという位置づけだが、量産仕様も大きく変わることはないだろう。その際に注目していただきたいのが、TNGAによって生まれ変わった骨格や質感の高くなったインテリア。“もっといいクルマづくり”の1つの到達点を確認していただきたい。