インプレッション

トヨタ「プリウス プロトタイプ(4代目)」/まるも亜希子

 18年という月日はエコの概念をがらりと変えるのに十分すぎる時間だ。エコのためだからと辛い思いをしても我慢したり、なにかをあきらめるというのが美徳だった時代はもう終わり。今では、エコでも快適、便利、豊かというのが当たり前になりつつある。

 1997年に初代「プリウス」がこの世に生まれてから、もう18年。そろそろ、“エコカー”ではなく“クルマ”として、いかに私たちを豊かにしてくれるのか。そこを問うときが来ているのではないかと思う。

 そこで今回の4代目プリウスのプロトタイプ試乗では、これまでやや弱点だったポイントを中心にチェックしてみた。

4代目プリウスのプロトタイプモデル。ボディーカラーは新色の「サーモテクトライムグリーン」

 まずは、私の周囲でプリウスに試乗した女性たちが、口を揃えて「運転しにくい」「周りが見えない」と言っていた運転しやすさ&視界から。今回、開発チームもこの点にはかなりこだわったとのこと。というのも、この新型プリウスから本格的に適用された、トヨタ自動車のクルマづくり改革「TNGA(Toyota New Global Architecture)」では、「運転が楽しく、かっこいいクルマ」を目標としている。そのためには、自然で快適なドライビングポジションは必要不可欠な要素というわけだ。

 運転席に座ってみると、これまでのプリウスとはもう根本的な姿勢が違う。ステアリングを抱えるように座るのではなく、足を前に伸ばしてリラックスした姿勢に、ちゃんとステアリングが適切な位置にくるようになっている感覚。新プラットフォームの採用で重心高が約20mm改善され、人間工学の原点からステアリング、ペダル、シフトセレクター、スイッチ類の配置まで見直したというから、この激変ぶりも納得だ。

4代目でもプリウス伝統のセンターメーターを踏襲しつつ、視界の確保や運転しやすさを追究

 また、これまで「見た目はいいけど使いにくい」と言い続けてきたインパネのブリッジ型センターパネルは、ようやく通常のスッキリとしたデザインになった。そこには手が自然に届く場所にドリンクホルダーがあり、シフトセレクターも操作しやすく感じた。しかも、ひとつひとつの手触りにチープさがなく、ドアを閉める時に握ったドアハンドルも指先にソフトな感触があって気持ちいい。聞けば、全ての指に均一に圧力がかかるよう工夫したのだという。ただ、小柄な女性はシート位置をかなり前方に設定するため、そのドアハンドルの配置がちょっと使いにくくなってしまうのが残念なところ。それでも、そんなに細かなところまで気を配っているというのはステキだ。

 そして視界についても、前方と左右の視界はとてもスッキリしていると感じる。現行型になる3代目プリウスと乗り比べて、道幅の狭いカーブの内側に対する見切りが新型はとても良好で、バンパーをぶつけたりしないかと心配しながら曲がらなくていい。後方視界では、相変わらず視界の中央に上下を分割する1本のバーが入ってくるものの、3代目より四隅の見える範囲が広がっていることを確認できた。この日は試せなかったけれど、パーキングアシスト機能もさらに進化しているとのことだし、運転しやすさ&視界は格段に向上していると思う。

新型プリウス(写真 右・中央)は3代目プリウス(写真 右)と比べて見切りが向上し、安心して運転できるようになった

「もっと乗りたい」と思わせるところがこれまでと違う証し

 さて、次に気になるのは、やっぱり運転していて気持ちいいかどうか。そして乗り心地はどうなのか。これまでは、ペダル操作に対するレスポンスがややチグハグだったり、段差などを乗り越えたときの振動が数秒間続くといった気になる点があった。これを試したのは富士スピードウェイのショートコース。路面がかなり濡れていたのでスピードはそれほど出していないものの、4代目はブレーキングからくるりと向きを変え、安定してコーナーに沿ってアクセルONと同時にスムーズに立ち上がってくれる。変な挙動がないから一定のリズムで走りやすく、結果としてとても楽しい、気持ちいい! 手元でシフトチェンジできるパドルシフトがほしくなる。そんなスポーティな走りが味わえた。

 これはボディー剛性が約60%も向上したことや低重心化、そしてリアサスペンションにダブルウィッシュボーンを採用したことが効いているのだと思う。コーナリング中や立ち上がりでリアサスペンションがしなやかに伸縮している感覚で、なんだか運転が上手くなったようにさえ感じる。これなら、高速道路のコーナーや市街地の交差点、もちろんワインディングでも、同じように気持ちよく走れそうだ。

 ショートコースでの試乗は5分×3本(15インチタイヤ、17インチタイヤ、現行型)という短い時間で、「もっと乗りたい」と思わせてくれたことこそ、新しいプリウスがこれまでと違うという証しかもしれない。

 それでは最後に乗り心地をチェック。女性は運転席だけでなく、助手席や後席に座る機会も多いから、ここも大事なところだ。後席は、外から見ているときには「頭上スペースがタイトなのでは?」と思ったが、座ってみればそこはちゃんとゆとりがある。シート表皮によって座り心地には少しずつ違いがあり、私は17インチタイヤを装着したグレードで使われていた、適度な張りのあるクールグレイという合皮のシートがいちばん気に入った。そして富士スピードウェイの構内路を50~60km/h程度で走ってもらったときには、段差を通過した際の振動が一発でピタリと収まった。身体が不必要に揺すられず、なかなかいい感じ。もう少し長時間乗ってみないと確かなことは言えないものの、これは期待できそうだ。

 こうしてチェックしてみて、“エコカー”ではなく“クルマ”として、新型プリウスはしっかり魅力的に進化していると感じる。最初はア然とさせられたデザインも、好き嫌いは別として「新しさ」「個性」を感じさせてくれるもので、とくにインテリアは現行型がかなり古臭く感じるほど。それに、ちょっと攻めすぎじゃないかと思っていたボディーカラーについても、新開発された「サーモテクトライムグリーン」は、実は塗装に遮熱機能が盛り込まれ、直射日光に当たっても熱くなりにくい技術を採用していると聞いて、途端にいい色に見えてくるから、こちらもちょっとゲンキンだ。いろいろと話題満載の新型プリウス。まずはファーストインプレッションとして、とても好きになりました!

新しいプリウスは9色のボディーカラーを設定。新開発された「サーモテクトライムグリーン」は日差しを受けても熱を持ちにくい機能が与えられ、エアコンの稼働を抑えて燃費向上に貢献。ライト類のほか、ボディー全体で「新しさ」や「個性」を表現している

Photo:安田 剛

Photo:堤晋一

まるも亜希子