インプレッション

トヨタ「プリウス プロトタイプ(4代目)」/日下部保雄

 トヨタ自動車の看板モデル、フルモデルチェンジして4代目となる「プリウス」。そのプロトタイプに初めて試乗することができた。プロトタイプと言ってもほぼ発売されるモデルに近い。

 4代目となるプリウスで特に興味を惹かれるのは「TNGA(Toyota New Global Architecture)」と呼ばれる新しい骨格作りの第1号であるという点で、今後のトヨタ車を予想する素材にもなるからだ。TNGAは小型車、FR車も含めて全トヨタ車におよび、プリウスは大切な試金石となる。コストを下げるのも大きな目的だが、目的はそれではない。高剛性ボディーを軽量に効率よく作り、それを土台にして他車種に応用していく。この過程でコストも削れるところは削っていくが、基本にあるのは豊田章男社長がよく口にする「もっといいクルマ作り」に沿ったものだ。

Toyota New Global Architectureを採用したボディー
三角窓が大幅に拡大して斜め前方の視界が向上した

 このTNGAで構築されたプリウスは陽の光で見るとショートノーズとスカットルの低さが際立って見えるが、実際にもドライバーから見たAピラーが細くなったこと、またスカットルが低いので現行型プリウスよりかなり視界が開けている。また三角窓が大幅に拡大されたことで斜め前方の視界も大幅に向上し、交差点の右折などでの不安が少なくなった。キャビンの開放感があるのはサイドラインが下げられていることも大きい。

サイドから見るとショートノーズとスカットルの低さがよく分かる

 後方視界にも触れておくと、これまで以上に左右方向にリアウィンドウーが広がっていることとリアスポイラーの位置が55mmほど下げられたので、こちらもミラーから見える視界が広がった。視界の確保は安全の第一歩で、プリウスの進化ぶりは目覚ましい。

リアスポイラーの位置は55mmほど下げられている

 さてシートだが、厚みが増したのと面圧が均一になっているので、1クラス上のクルマになったようだ。取り付け剛性の大幅なアップもしっかり感の向上につながっており、前席ほどではないが後席もホールド性が上がっている。

シートは、厚みが増したのと面圧が均一になったことで1クラス上のクルマになった印象

 さて、では実際の乗り心地はと言えば、これが驚くほどの進化ぶりだ。現行型プリウスはリアサスがビームアクスルの限界を感じさせるものだったが、新たにリアが独立懸架になり、かつフロントサスの改善と相まって接地性が大幅に上がり、特に段差乗り下げのフラット感は素晴らしい。これまで後席で不満があったパッセンジャーもこの乗り心地なら満足してくれるだろう。

 同時に後席はリアから入るロードノイズがかなり減少している。防音/制振材はもちろんだが、ボディー剛性の向上の寄与が著しく、ゴー音は大幅にカットされている。

 さらにびっくりしたのはハンドリングだ。プリウスには正直、それほど期待していたわけではないが、一般公道を模したコース、そしてショートサーキットでは軽快で粘りのあるフットワークに驚いた。まずハンドル操舵に対しての回頭性が正確でシャープ。それでいて過敏でないのでドライバーには余裕が生まれる。

3代目プリウス

 普通、ターンインではドライバーはアクセルOFFをしてハンドルを切るため、エンジンが一瞬慣性で前に移動して初期のアンダーステアを生む。現行型プリウスではそれが大きかったのに、プロトタイプでは素直に向きを変えるので感激した。

 これはパワートレーン位置を下げ、かつエンジンマウント位置を変えて重いパワートレーンの搖動を押さえていることが大きい。またサスペンションのジオメトリー、そしてパワーステアリングのセッティングを変更して、ストラットマウントの受けベアリングに傾斜をつけることで、スムーズなハンドル操作性を得ている。

 さらに付け加えると応答性だけでなく、ハンドルの切り増し時の追従性が大きく上がっており、この面でのドライバーの負担は少なくなっている。

 触れておきたいのは、コーナリング中のギャップ通過時にも姿勢変化が少なく、リアの粘るようなグリップ力で爽快なドライビングができる点だ。日常的な走行でもこの軽快で安心感の高いハンドリングは、ドライバー、パッセンジャーにとって大きなメリットになるに違いない。私にとって歴代プリウスでハンドリングを楽しめた最初のクルマだ。感激である。

 エンジンパフォーマンスは基本的に変わりがないが、エンジン回転が上がりっぱなしになるCVT感(効率的にはこの方がいいのだが)を少なくして、エンジン回転と加速感がマッチする様にチューニングされている。不足分は電気でアシストされ、これも現行型プリウスではない爽快さだ。

 気持ちのいい動力性能、運動性能ですっかり新型プリウスを堪能したが、ちょっと落ち着いてインテリアを観察する。こちらも質感の向上が目覚ましい。従来のプリウスも未来感があって好ましかったが、インテリアのシボの入れ方、ホワイトコンソールなど、新しいプリウスらしさを演出する。今までちょっと素っ気なかった液晶モニターもカラー化されて見やすくなった。

ホワイトコンソールを採用したインテリア。液晶モニターはカラー化された

 もう1つプリウスユーザーにとっての朗報は、やっと4WDがラインアップされたことだ。「E-FOUR」は後輪をモーターで駆動する電動4WDで、トヨタがエスティマなどで培ってきた技術の転用だ。さらに小型軽量化に成功して、リアシート下に収めたFF車の燃料タンク、HVバッテリーをそのまま使え、キャビン、ラゲッジにも影響は与えない。“プリウス 4WD”の登場で雪国のハイブリット車の普及に拍車がかかるのは間違いないだろう。

 そのHVバッテリーは使い慣れたニッケル水素と「プリウスα」で使われているリチウムがあるが、4WDはニッケル水素オンリーになる。いずれも従来のニッケル水素やリチウムから大幅に改良されており、充電容量が大きくなっている。

室内のリアシート下に搭載されるHVバッテリー

 プリウスと言えば燃費だが、新型では40㎞/L(一部グレードで)を実現しており、そのために電気の活用範囲が広がっており、充電容量、効率の高さの向上は大きな意味を持つ。走行中も回生モードにすぐに入り、貪欲に電気を溜めているのが分かる。

 装着タイヤはグレードに応じて17インチ(215/45 R17)と15インチ(195/65 R15)があるが、個人的には17インチとのバランスが好ましい。上下ダンピングなどがすっきりしており、コーナリングフォースは高く、バランスがいい。

215/45 R17タイヤ
195/65 R15タイヤ

 すっかりビックリのプリウス プロトタイプ。気合いの入ったフルモデルチェンジだった。食わず嫌いの人も、きっと乗ると気に入るに違いない。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会長/12~13年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。

Photo:安田 剛