ジヤトコ、AT/CVTの歴史が学べる「ヘリテージコーナー」開設

静岡県富士市の富士第1地区の工場敷地内に設置されたウエルカムセンター

2012年10月24日



 AT専門メーカーであるジヤトコ株式会社、AT/CVTの40年以上の進化の歴史を保存・伝承するために、静岡県富士市の同社ウエルカムセンター内に「JATCO Heritage Corner(ジヤトコ・ヘリテージコーナー)-AT/CVTの進化-」を開設、24日にオープニングセレモニーが開催された。

 「これだけの技術があるのを公開しないのは、もったいないじゃないかと思ったんですよ」と同社の社長・秦孝之氏は開設のきっかけを説明する。秦氏が同社の社長になったのは2011年。そこから徐々に会社のことをオープンにしょうという動きがスタートしたという。

テープカットを行うのは、左から薄葉洋副社長、秦孝之社長、日産自動車の廣瀬淳取締役ウエルカムセンター内の1階に設置された「ジヤトコ・ヘリテージコーナー」。現在の展示は17台だが、今後は規模を拡大することを検討中だという
工場見学は「Jatco CVT7」を生産する富士第1地区の工場で行われる。熱処理、加工、組み立ての工程を見ることができる

 実際にウエルカムセンターがジヤトコの富士第1地区にオープンしたのは2012年春。そこから団体を中心に工場見学の受け入れをスタートし、すでに500人ほどの見学者が同工場を訪れたという。また10月以降にもすでに700人もの予約が入っているという。

 そして、これからは設置された「ジヤトコ・ヘリテージコーナー」と工場見学のセットで受け入れを行う。

 展示は17台ものAT/CVTのカットミッションだ。内訳はATが9台、CVTが8台。17台中8台が世界初の商品となる。もっとも古い展示品は世界初のCVTとなる1958年製のDAF製ゴムベルト式CVT「Variomatic」。それ以外は、すべてジヤトコの製品となる。

 現状では受け入れ体制が整っていないため、見学は団体単位でのみ受け付けているという。また、申し込みの窓口は同社の富士本社総務部(TEL.0545-51-0374)になっている。

ATコーナー

FR車用3速AT(油圧制御)「JR300H」(1971年)。ジヤトコが最初に開発したステップAT。電子制御ではなくエンジン負圧と遠心力で変速した。日本のイージードライブ化普及の草分け。当時の呼称は「3N71B」(日産向)。1972年にはセミ電子制御化、1980年にはロックアップ機構追加によるトルクコンバータでのエネルギーロス低減が図られた。日産セドリック/グロリア(1972-87)、東洋工業(現マツダ)ルーチェ(1974-86)、フォード・グラナダ(1976-79)などに搭載FR車用4速AT「JR402E」(1986年)。FF4速AT(FO2A)とパワートレーンを極力共有。電子制御を採用し変速性能を向上。高性能・高トルク車用(JR404E、1987年)や商用車用(JR403E、1998年)にラインナップを拡大。日産レパード(1987-1999)、マツダ・センティア(1991-2000)などに搭載FR車用5速AT「JR502E」(1989年)。FR用5速は、これが世界初となる。4速ATをベースにオーバードライブを追加し、高速時の燃費と静粛性を向上。日産セドリック/グロリア(1989-1995)、BMW3シリーズ/5シリーズ(1991-1995)などに搭載
FR車用7速AT「JR710E」(2008年)。ワイドな変速比幅と低フリクション/スリップ、ロックアップ領域の拡大など、最新制御技術により燃費と運転性向上を両立。アイドルニュートラル制御やロックアップ制御を改良。大容量エンジン用「JR711E」で幅広い車両に適用。日産フェアレディ Z(2008~)、日産スカイライン(2008~)、インフィニティG35/G37(1908~)などに搭載FR車用ハイブリッド車用7速AT「JR712E」(2010年)。独自の1モーター2クラッチ方式を採用(FR車用7速ATベース)。トルクコンバータのスペースに、モーターとクラッチを配置し優れた搭載性。日産フーガハイブリッド(2010~)、シーマ(2012~)FF軽自動車用3速AT(セミ電子制御)「JF302E」(1988年)。FF軽自動車用の超小型ATとして初めて開発・量産した油圧制御3速AT(JF301H、1980年生産開始)をベースに電子制御化。スズキ アルト(1988-2009)、マツダ キャロル(1989-2009)、スバル サンバー(1990~)などに搭載
FF中・大型車用4速AT「F04A」(1991年)。1~2リッター車用「FO3A」(1989年)と2~3リッター車用「FO4A」(1991年)は相似設計ユニットとして誕生。FR車用「JR402E」と基本構成を合わせ、20年以上生産の信頼度の高いロングセラー。日産マキシマ(米国)(1991-2008)、日産エクストレイル(2000-2007)などに搭載FF軽・小型車用4速AT「JF405E」(1998年)。展示品はスズキ ツイン・ハイブリッドのアイドルストップ付きエンジンとATのセット。FF軽・小型車用ロングセラー4速AT。軽自動車に1998年、1リッター小型車に1999年搭載。スズキ ワゴンR(1998-2011)、現代アトス(1999~)、韓国GMマチス(1998~)などに搭載FF車用5速AT「F5A5」(1995年)。世界初のFF車用5速AT。車両相互制御付のINVECS II。三菱・ディアマンテ(1995-2005)などに搭載

CVTコーナー

FF中型車用ベルトCVT「F06A」(1997年)。世界初の高強度スチールベルト式2リッタークラスCVT。発進要素にトルクコンバータを採用し、発進加速性を向上。日産プリメーラ(1997-2005)、日産リバティ(1998-2004)などに搭載FFハイブリッド車用CVT(2000年)。ベルトCVT(F06A)と同等のパッケージングで優れた車両搭載性(トルコンの代わりに電磁クラッチとモーターを配置)。走行・回生用モーターと回生専用モーターを搭載。日産ティーノ・ハイブリッド(2000)に搭載FF1.5リッタークラス小型車用ベルトCVT「JF009E」(2002年)。超扁平トルクコンバーター採用でコンパクト車にも搭載可能。変速比の幅を広げ、従来比10%ローギア化し、発進時の動力性能を向上。エンジンとの協調制御や低速ロックアップ制御で燃費向上。日産キューブ(2002~)、日産ティーダ(2005-2010)、ルノー三星SM3(2009~)などに搭載
FF3.5リッタークラス大型車用ベルトCVT「JF010E」(2002年)。3.5リッタークラスまでのFF車のCVT化を世界で初めて実現。軽~高排気量のFF車をカバーするフルラインナップ化。日産ティアナ(2003~)、日産ムラーノ(2002~)、日産アルティマ(2006-2012)などに搭載FF2~2.5リッタークラス中型車用ベルトCVT「JF011E」(2004年)。世界最量販のCVT(2010年時点):累積500万台。燃費と加速性を向上(従来比、変速比幅11%Upなど)。小型・軽量(従来比、全長約10%短縮、約4%軽量化)。日産シルフィ(2005~)、三菱アウトランダー(2005~)ルノー メガーヌ(2008~)、ルノー三星SM5(2009~)、クライスラー キャリバー(2006~)などに搭載FF軽・小型車用CVT(副変速機付)「CVT7」(2009年)。8速ATを超える世界最大クラスの変速比幅(7.3)とフリクション大幅低減(従来比、約30%減)により燃費を大幅向上。従来比重量約11%減の小型・軽量化も実現。日産ジューク(2010~)、日産マーチ(2010~)、スズキ パレット(2009~)などに搭載
FR車用トロイダルCVT「JR006E」(1999年)。起源は1877年に米国で発明されたトロイダル形状変速機構。1920年代に「Toricトランスミッション」をGMが開発するも、市販されなかった。燃費がよく、高級車に適した滑らかでクイックなレスポンスと力強い加速を実現。困難とされてきたトロイダルCVTの量産に、世界で初めて成功。日産セドリック(1999-2004)、日産スカイライン 350GT-8(2002-2005 )などに搭載。DAF製ゴムベルト式CVT「Variomatic」(1958年)。オランダのDAFによる世界初のCVT。2本のゴム材Vベルトで800ccのエンジン出力を伝達。DAF600に搭載され、100万台以上の生産。DAF600(オランダ)に搭載。石神輝男氏による寄贈(2012年3月)

(鈴木ケンイチ)
2012年 10月 25日