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2014年10月17日

【インプレッション・リポート】
スズキ「スイフト RS」

Text by 河村康彦



 2010年秋に発売された現行「スイフト」のXGグレードをベースにしながら、欧州仕様のチューニングを施した足回りと、エアロスタイルを採用した特別仕様車――すわ「スイフト・スポーツを上回る硬派なモデルが誕生か!?」と一瞬そうも勘違いをしそうになる、「RS」なる勇ましいグレード名を与えられた2011年11月に発売のこのモデルは、そんなアウトラインの持ち主だ。

 実は、国内生産される日本仕様のスイフトは、ハンガリー工場製の欧州向け仕様に比べると、わずかながらも快適性をより重視した足のセッティングが与えられているという。それゆえ、スイフト・スポーツとほぼ同タイミングでリリースされたこのRSは、いわば「スイフトというモデルがそもそも狙っていたフットワークのテイストを再現したモデル」と言ってもよさそうだ。

 開発陣が半ば“執念”で国内デビューさせたそんなこのモデルが、いかなる走りの実力の持ち主であるかをじっくりチェックした。

非力だけど楽しい
 フロントフード下に搭載されるのは、当初から現行スイフトに使われてきたものと同様の1.2リッターDOHCエンジン。今回テストドライブを行ったのはFF仕様車で、5速MTとCVTが選択可能なうちの前者。ちなみに、4WD仕様にはCVTのみがラインナップされることになる。

 初めて目にしたRSは、「軽くドレスアップされた“普通のスイフト”だナ」という第一印象を抱かされるルックスの持ち主だった。今回用意されたのが、このグレードのみに特別設定される「プレミアム・シルバーメタリック」なる比較的地味なカラーだったことも影響をしていようが、これならば逆に、エアロパーツ類など一切装着せず「とことんベーシックなスイフト・ルックで乗りたい」という人も現れそうにも思う。

 一方で、レッドパールやブルーパールなど、より鮮やかなボディカラーに惹かれる人にとっては、今度はシルバーとブラックの2トーンでまとめられたシートが「地味過ぎる」という声もあがるかもしれない。ならばいっそのこと、インテリアはブラック1色のみに……というのはスポーティなモデルではありがちなパターンだが、できれば数種類のバリエーションから選択できるようにするのがやはりベストの策ではあるだろう。

 日本車としてはちょっと珍しい、面圧が低く“低反発感”が強いシートに腰を降ろし、ドライビング・ポジションを決める。クラッチペダルの踏力は小さく、シフトレバーの操作に必要な力も同様に軽めの設定。が、だからと言っていずれも“空振り感”を抱くほどではなく、「日本仕様よりもやや重めの操舵力とした」という電動パワーステアリングとのバランスは良好だ。

 1速ギアを選択し、クラッチをエンゲージしてスタート。

 欲を言えば、アイドリング+α付近の回転数でのトルクには、もう少しの厚み感が欲しい。現状では、ある程度回転数を高めてからクラッチミートをしないと、トルクの“溜め”が小さく、どうしてもストール気味となってしまうからだ。

 かと言って、それを嫌うと今度は“吹かし過ぎ”となりがちで、結果、ベストなエンジン回転数からの滑らかなスタートが難しい。むろん、1.2リッターという排気量ゆえ、特に太いトルクが期待薄なのは理解できるが、例えばフライホイール・マスをもう少し増やすなどで、この部分のフィーリングにはまだある程度の改善の余地があるようにも思う。

 一方で、1度スタートを切ってしまえば、もはや動力性能面での不満は殆ど感じないのもまた事実だ。約1tの車両重量に対して最高出力は91PSに過ぎないから、絶対的な加速力そのものはたかが知れている。しかし、そうした限られたパワーの中で、「シフトとアクセルワークを駆使して必要な加速力を探りながら走る」という感覚は、MTのみに許された、なかなかの快感でもある。

 加えて、このクラスのモデルとしてはエンジン透過音が小さく、それゆえ高回転域まで引っ張るにもさほどの抵抗感が無いので、“エンジンを回しきるよろこび”を躊躇無く味わえることにも繋がっている。

 丁寧なドライビングを心掛ければそれに応えるように走りがスムーズになり、逆に雑なドライビングを行うと走りもギクシャクしてしまう……と、そんなドライバーの操作に対して走りの挙動が素直に現れる点にも好感が持てる。例えば、走行速度を考慮しつつエンジンの回転合わせをトレーニングする、といった場面では、何とも最適な1台と思えるのがこのモデルでもあるのだ。

出色の走りの質感
 さらに、そうした「非力だけれど素直で楽しい」動力性能面に輪を掛けるように秀逸だったのが、そのフットワークだ。

 前述の、パワーステアリングの専用設定に加え、「減衰力を高めて硬め設定としたダンパー」と、「素材構成を変更して旋回時の応答性を高めたタイヤ」の新採用は、端的に言って「スイフトすべてを、この仕様にしてしまえばよいのに」と思わせる、爽快で素直なハンドリング性能と、どんな走りのシーンでも文句のないしなやかさを実現。さらには、クルージング・シーンでの素晴らしいフラット感をも見事に両立させた、世界のコンパクトカーの中にあってもトップクラスの、ゴキゲンなフットワーク・テイストを味わわせてくれる結果となっていた。

 さらにスイフト全体に共通をする装備である、大きくて見やすいメーターパネル内のセンターディスプレイや、そこに冬季の路面凍結の可能性を予測させる“安全装備”でもある外気温が常時表示される点。そして、レーンチェンジ時に便利な、レバーへのワンタッチで3回点滅の動作が行われるウインカーの採用などにも、好感を覚えたもの。

 すなわち、ここまで挙げて来たことを総括すれば、このモデルの走りの質感はこうしたカテゴリーのモデルとしては出色のでき栄えであるということがお分かりいただけよう。

 特に、同様のカテゴリーに属する日産「マーチ」やトヨタ「ヴィッツ」などのそれが、「もはや、低コストだけを追い求めた安っぽさ」を隠せないものであるという点を踏まえれば、スイフト RSのこの仕上がりぶりは、もはや「驚異的」と言ってもよいほどの高さとさえ評したくもなるものなのだ。

ESC付きが本来の姿
 しかしながら、「それでは!」とその購入に前向きな気持ちになった人に対しては、ここでは敢えて「もう少し待つべき」とアドバイスをしたい。それは、欧州仕様のスペックをフォローしたはずのこのモデルが、あろうことか彼の地に向けては標準とする安全装備であるスタビリティ・コントロール・システム(ESC:スズキ名「ESP」)をリストから落とし、そこにオプション選択の余地も残していない点にある。

 走行挙動が乱れた際に“人間技”では到底不可能な4輪個別の制御を行い、言うなれば「ブレーキの片効き力」を利用して挙動をコンピューター制御するスタビリティ・コントロール・システムは、ドライバーが制御できなくなった段階での走行安定性確保のための、いわば“特効薬”だ。それを採用する姿こそが本来であるのに、敢えて外してしまうというのは、もはや「自分は安全運転をするからシートベルトは必要ない」という旧態依然のエクスキューズを語っているのにも等しく、これでは日本のユーザーの安全性を軽んじていると受け取られても仕方が無い事柄だ。

 実はこのアイテムは、遅まきながら日本でもその装着が法的に義務付けとなる時期が近付いている。具体的には、すでに発売済みのスイフトのような“継続生産車”に関しては、「2014年10月1日以降に型式指定を受けるもの」がその対象だ。

 となれば、それを現時点で用意しないのは、実の事情はそうではなくても「わずかなコスト削減のため安全装備を外している」と見られてもやむをえないだろう。これまで述べて来たように、“走り”に対する見識がことのほか高いと理解できるスイフト RSというモデルだけに、それは一層残念なポイントなのだ。

 加えて、このアイテムの拡張機能を利用をすれば、上り坂発進の際の“後ずさり”を防ぐ「ヒルホルダー」も容易に設定できるだけに、MTが売りのひとつとなるこうしたモデルでは、なおのこと残念に感じられてしまう。

 というわけで、ここでは敢えて「スイフト RSが欲しいのならば、ESCの装着を待つべき」としておきたい。それは、このモデルが目指した本来の姿が、「それを装着した状態」にあるに違いないと確信ができるにほかならないからだ。


インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 4月 23日