【インプレッション・リポート】 アウディ「A4」 |
2008年にデビューしたアウディ「A4」シリーズは、4年目を迎えた今年、大規模なマイナーチェンジを受けることになった。
1972年に誕生したアウディ製ミドルサルーンの開祖である初代「80」以来、4代にわたって大ヒットを収めてきた歴代80シリーズ。あるいは1996年に現代アウディの先駆けとして誕生したA4も、同じく4世代にわたり大きな成功を収めてきた。
そして総計8世代の累計生産台数は、80シリーズ時代から数えると1000万台、A4シリーズに改名した以降に限っても500万台を超え、「A3」や「A1」などのコンパクト・アウディが誕生した現在でも、同社内シェアは25%を誇るという。
つまり、アウディにとっては伝統的な象徴とも言うべきA4シリーズのマイナーチェンジは、単なるフェイスリフトとは一線を画した、重要な意味があると見るべきなのだ。
2.0 TFSIエンジン |
■単なるフェイスリフトに非ず
今回のモデルチェンジにあたっては、従来型のFFバージョンにラインアップされていた1.8 TFSIがフェードアウト。日本仕様におけるA4は、FF/クワトロ(4WD)ともに2リッター4気筒+ターボチャージャーの2.0 TFSIに一本化されることになった。ベーシックなFF版と4WDのクワトロではチューニングが異なり、前者は旧1.8リッターTFSIから20PS/7.1kgmアップとなる180PS/32.6kgm、後者には従来型と同じ211PS/35.7kgmのパワー/トルクが与えられる。
また、高性能バージョンの「S4」用には3リッターV6+スーパーチャージャーを搭載。こちらは333PS/44.9kgmという強大なパワーとトルクのデータを誇る。
これらのTFSIエンジンには、いずれも直噴システムが採用されているほか、スタートストップ・システムとエネルギー回収システム、さらにエンジンへの負荷を抑える電動油圧式パワーステアリングを新たに標準装備することで、より高い環境性能を実現。カタログデータ上の燃費は、FFの2.0 TFSIがJC08モードで13.8km/L、2.0 TFSIクワトロが13.6km/Lと、それぞれ約2割の向上を見たという。
トランスミッションはFFのみCVT「マルチトロニック」で、A4クワトロおよびS4には7速DCT「Sトロニック」が組み合わされる。
またエクステリアは、「A1」以来となるアウディ最新のデザイン言語によってリニューアル。LEDを多用したヘッドライトが形成するフロントマスクでは、シャープかつアグレッシヴなラインを強調する一方、エンジンフードやバンパースポイラー周りは柔らかなラインを描く。
現代アウディのアイコンとして完全に定着した感のあるシングルフレーム・グリルの上部コーナーも、アッパー部分では角を面取りした立体的な意匠となったほか、リアのコンビネーションランプのデザインも変更されている。
一方インテリアでは、スイッチパネル周辺がピアノブラック仕上げとクロームトリムで装飾されることによって、上級の「A6」シリーズにも負けない高級感が演出されることになった。
また、アウディが自慢とするインフォテイメント・システムも、従来型A4シリーズの「MMI 3G」から「MMI 3G Plus」に進化。A6/A8シリーズに装備されるタッチパッドこそ用意されないものの、機能性及び操作性が向上。iPodやiPhoneなどとの整合性も、さらに高められているとのことである。
■上質な軽快感がブラッシュアップ
今回のテストドライブにご提供いただいたのは、A4クワトロのサルーンモデル。また短時間ながら、「S-line」と名付けられたスポーツパッケージを組み込んだA4クワトロにも載せていただくことができた。
アウディ社内の開発コードNo.から「B8」系と呼ばれる従来型A4は、もともとからして素晴らしく洗練された車だったことは、デビュー当時の論評からも明確にうかがわれる。したがって今回のモデルチェンジに関して正直に言ってしまえば、従来型の優れた資質をブラッシュアップさせた正常進化型という印象に終始する。
まず、4気筒2リッター直噴ターボの2.0 TFSIユニットは、チューニングが共通ということもあって従来型と同じフィールを感じる。低回転域からトルクもたっぷりで、気が付いたらスピードが上がっているタイプ。「自然吸気の大排気量エンジンのよう」という、この種の過給エンジンに対するものとしては、今や使い古された賛辞が思い浮かんでくる。
とはいえ、やはりかすかに聞こえてくるのは典型的な4気筒エンジンのサウンドで、大排気量マルチシリンダーのような重厚感までは望めない。しかしダウンサイジング時代の現代においては、ライバルたるメルセデス・ベンツ「Cクラス」やBMW「3シリーズ」ともに、ガソリンモデルの基幹を成すのは4気筒+ターボ。アウディA4でも、4気筒とは思えないほどスムーズな回転マナーを実感してしまえば、もはや6気筒以上にこだわるのは個人の嗜好でしかないことを実感させられてしまうのだ。
一方、既にA1から採用されてきたスタートストップ・システム(アイドリングストップ機構)は、エンジン休止時も再始動時も、ともに極めてナチュラル。また、A4としては初めて採用された電動油圧式のパワーステアリングについても、リニアな感触を巧みに実現しており、かつての電動パワーアシストのような不自然さは皆無である。
ホイールベースは2810mmと長く、ボディサイズもこのクラスとしてはかなり大柄なのだが、ハンドリングは非常に軽快なものとなっている。この軽快だがシュアな、いかにもアウディらしい上質なフィールは非常に好感が持てるものだった。
このように、今回のA4に投入された新機軸は、いずれも近年のアウディ最新モデルで導入されてきたテクノロジーの集大成ゆえに、実に手慣れた印象に終始する。
しかし今回のマイナーチェンジでは、ハッキリと明文化された改良に留まらず、目に見えない部分でのブラッシュアップも図られているようで、例えば従来型ではかなりハードに感じられたS-Lineパッケージのサスペンションが、タイやいとの相性の違いなのか、若干ながら当たりの柔らかいものとなっていた。
また7速Sトロニックについても、変速マナーがよりスムーズとなった上に、坂道の微速発進やスタートストップ機構との連携など、すべての不得意課目が自然に作動し、もはやトルクコンバータ式ATと変わらない洗練ぶりを見せてくれる。
Cクラスなどのライバルが、依然として重厚さを根強く主張してくるのに対して、これまでA4シリーズは現代アウディの特質である、シルクのシャツのような上質な軽快感を身上としてきた。今回のマイナーチェンジでは、持ち前の軽妙なキャラクターにさらなる磨きがかけられていたのである。
アウトウニオン 1000 |
■ドイツ車の本分を遵守
つい先日のこと。筆者はさる自動車専門誌の取材で、アウディの前身であるアウトウニオンが1950年代に生産していた「アウトウニオン 1000」というクラシックモデルに触れるチャンスを得た。
それはアウトウニオンの一部門であるDKWが、第2次大戦後初めて生産した乗用モデル「DKWマイスタークラッセ」の最終進化形で、もともとは第2次大戦前に設計されたものを、度重なる改良によって最終的には1965年まで延命させた小型車なのだが、実際に乗ってみると、基本設計が60年以上も昔にまで遡るとは思えないほどの完成度に驚かされることになったのである。
アウトウニオン1000の素晴らしさは、基本設計の確かさに加えて、たゆまぬ改良を重ねることによって、常にアップデートが施されていたことの証と言えるだろう。そして同じことは、最新のA4クワトロについても言えると感じたのだ。
元より極めて高い完成度を誇り、マーケットでの評価も高かったB8系A4シリーズならば、何らの改良を施すことなく、一定のモデルレンジを全うすることだって可能だったに違いないと思われる。しかし、世界に冠たる技術集団でもあるアウディとその技術陣は、いかにもドイツのメーカーらしい不断の努力をもって、現時点で考えられる最高のA4を提供してきたのだ。
今や飛ぶ鳥を落とす勢いで、やることなすことがスマートに見えるアウディは、コンテンポラリーでモダニズム的な車創りでは、間違いなく現代の自動車業界の指針となっているメーカーと言えるだろう。しかしその一方で、ドイツ車が長らく美風としてきた伝統をも守り続ける姿を見ると、もはや「アウディに死角なし」とさえ感じてしまうのである。
A4(左)とS4 |
■インプレッション・リポート バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/
2012年 6月 8日