【インプレッション・リポート】
メルセデス・ベンツ「Aクラス」

Text by まるも亜希子


 

 メルセデス・ベンツが新世代へ躍動するためのキーとなる1台。そう位置づけられたことで、先代からはガラリと路線変更した新型「Aクラス」と、ついにドライブを共にする日がやってきた。はるばる向かった試乗会場は、アドリア海を挟んでイタリアの対岸、スロベニアの海辺の街。気温はすでに34度にもなり、ビーチは水着姿の老若男女でにぎわっている。

 そんなバカンス気分満点のロケーションでスタートしたプレゼンテーションで、コンパクトカーを統括するルッツ・リューディガー博士は冒頭にこんなエピソードを用いた。シュツットガルトで新型Aクラスをとあるお店の前に停めたところ、店員がこう言ったという。「ちゃんとクルマのロックをしておいてね。でないと(あまりにステキだから)私が盗むわよ」

 このひと言に、メルセデス・ベンツが目指したものと、新型Aクラスが手に入れたものがほとんど集約されていると言っていい。パッとひと目見た瞬間に「欲しい」「乗りたい」と思わせる、エモーショナルなクルマ。それを全身で表現しているのが、新型Aクラスというわけだ。

個性的でエモーショナルなデザイン
 確かに先代Aクラスには、小さくても上品だったり、運転しやすさや使い勝手のよさ、安全性の高さを想像させる要素はあったものの、心がトキめくような美しさ、カッコよさ、クールな魅力というのは控えめだった。

 それはAクラスが登場した1997年当時、コンパクトカーにも機能性が重視されていたから。今、そして2020年を見据えた時にメルセデス・ベンツが出した答えは、個性的でエモーショナルなデザインなのだと、新型Aクラスのプロダクトマネージャー、ゲルト・サイラー氏は語っている。

 ボディーサイズは4292×1780×1433mm(全長×全幅×全高)で、先代より全高が18cmも低く流麗なルーフラインが与えられた。2011年の上海ショーで披露されたコンセプトモデルよりは、ややリアスタイルがふっくらと大人しくなっているものの、ジュエリーのようなフロントグリルや、LEDが連なる切れ長のヘッドライト、セクシーな表情をつくるサイドのキャラクターラインなど、刺激的なパーツが散りばめられている。

 実際、瀟洒なホテルの中庭にたたずむ新型Aクラスを見つめてみると、サイラー氏の言葉どおりだと納得した。なんと私は1秒でも早く乗ってみたくなり、カラカラの喉を潤すシャンパンを断ってまで、特設試乗コースへと出かけてしまったほどだった。

 そして乗り込んでみると、今度はインテリアにも感嘆の声をあげた。航空機からインスピレーションを得たというエアコンルーバーや、浮かぶような液晶ディスプレイ、シートと同素材で贅沢に覆われたダッシュボードやドアライナーにいたるまで、適度なゴージャス感と機能性が調和している。

 インテリアにはスタンダード、スタイル、アーバン、AMGスポーツなどのパッケージが多彩に揃い、マルチメディアシステムやiPhoneとの連動で、インターネットやFacebookなどが自在に楽しめるなど、IT世代にウケそうな先進性もしっかり押さえてある。

 室内空間としては、ヘッドルームはややタイトだが、後席のレッグスペースはBクラスに勝るとも劣らず。収納は小さめながらドアポケットやコンソールボックスなどがあり、ドリンクホルダーもフロントに2つ装備。ただしやや後方にあるので、小柄な女性がシートを前に出して座ると、手を後ろに伸ばす位置になってしまうのが気になった。後席にはB5サイズ程度のドアポケットがあるが、アームレストやドリンクホルダーはない。

 またラゲッジルームはフラットで深さがあり、通常341Lと容量は十分。後席が6:4分割でワンタッチで倒せて、最大1157Lになるので大きな荷物もOKだ。これならカップルはもちろん、3~4人のファミリーユースもこなせるだろう。

 

カッコイイだけじゃない
 グレード構成は、ディーゼルエンジンが1.5リッター+6速MTの「A 180 CDI」、1.8リッター+7速デュアルクラッチAT「7G-DCT」の「A 180 CDI」と「A 200 CDI」(すべてブルーエフィシェンシー)。ガソリンエンジンは、1.6リッターの「A 180」と「A 200」、2リッターの「A 250」(すべてブルーエフィシェンシー)と「A 250 スポーツ」が設定されており、A 180とA 200には6速MTと7G-DCT、A 250には7G-DCTのみの組み合わせだ。

 ただ今回の試乗車は、7G-DCTを積むA 250とA 250スポーツのみで、標準モデルとAMGパッケージ装着車があった。

 違いはA 250が17インチのミシュランタイヤを履き、AMGパッケージが18インチのグッドイヤー(ランフラット)+専用サスペンション、ダイレクトステアシステムなどを採用していること。211HP/350Nmと頼もしいパワーながら、エコモードやアイドリングストップ機構を備え、環境性能も優秀だ。

 手の平にしっとりと吸い付くようなステアリングの感触を確かめながら、まずはエコモードで走りだした。ひと踏み目からスッと伸びるような加速感で、ほどよいガッシリ感とともに安定して速度をあげていく。そのまま高速道路でのクルージングに入っても何の不足もなく、快適だ。

 静かさや乗り心地は前席でも後席でも素晴らしく、これなら後席のロングドライブもまったく苦ではないはずだ。エコモードをオフにして走ってみると、低速での加速感がさらに力強く感じられて、流れの速い幹線道路などでアクセルワークがラクになった。

 そしてAMGパッケージでは、腰下のドッシリとした剛性感とともにステアリングのキレが増した感覚で、スポーツモデルらしい走りが味わえる。高速での追い越し加速も力強く、コンパクトカーであることを忘れそうだ。

 特設試乗コースではパイロンスラロームや高速コーナリングなどが体験できたが、どれもボディーが一体となって駆け抜ける感覚が爽快だった。ただこちらは、後席の乗り心地が80km/hくらいまではフラットでいいのだが、それ以降が硬くなり振動が気になってくるので、ファミリーにはあまり向かないかもしれない。とはいえ全体的には、日本のコンパクトカーがまだまだ及ばない乗り心地を実現しているし、ライバルのBMW「1シリーズ」、アウディ「A3」と比較してもひけを取らない素晴らしさだ。

 このAクラスが完全にリードしているところは、先進の安全装備が惜しげもなく投入されていること。ミリ波レーダーで衝突回避緊急自動ブレーキアシストを行う「コリジョン・プリベンション・アシスト」をはじめ、レーン・キーピング・アシストなど上級クラス譲りの安全性が手に入る。コンパクトカーづくりへの社会的責任など、メルセデス・ベンツならではの思想が込められている部分だ。

 こうして乗れば乗るほど、知れば知るほど“カッコイイだけじゃない”魅力を実感する新型Aクラス。早く日本でも走らせてみたいところだが、導入時期やグレードは今まさに調整中とのこと。本国では2013年の第1期中にも2リッターターボ搭載のトップモデル「A 45 AMG」が登場するというから、合わせて最速での上陸を待ちたいと思う。


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http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 7月 27日