インプレッション

フォルクスワーゲン「ゴルフ」

 フォルクスワーゲン「ゴルフ」が誕生したのは1974年。40年近くに渡り存続するモデルでありながら、常にコンパクトカーとしての王道を進む驚異的なモデルだ。しかも2WD(FF)/2BOXのそのスタイルは今も変わることはなく、FFハッチバックのベンチマークでもある。モデルチェンジごとに誰もが注目するゴルフ。その7世代目がいよいよ日本に上陸してきた。今年は輸入コンパクトの当たり年。後出しじゃんけん? いやいや、ついにやってきた“真打ゴルフ”の出来を確かめてみようと思うのだ。

 試乗会場は裾野カントリー。ああ、なるほどゴルフにかけたのね、と思いながら東名高速道路を御殿場方面に飛ばした。しかし、裾野カントリーは名門コースでジーンズでは入場お断り。カジュアルなゴルフには似合わないなぁ、とひとり言を言いながらも実車を眺めてなるほどと思った。これまでの子供っぽさというか、遊び感覚がかなり抑えられて都会的な高級感を感じさせる。基本、ゴルフというイメージがあるからエクステリアに違和感なく、一目見て「ゴルフですね」とすぐ分かるのは当たり前なのだが、ゴルフを知れば知るほど何か新しいものを感じさせる外観に進化している。ヘッドライトレンズカバー越しに見える四角い目が何かを物語っているようだ。そう、その何かを確かめにきたのだ。

ゴルフIV並みの車重

 ではまずディメンションはと言うと、4265×1800×1460mm(全長×全幅×全高)。先代ゴルフVIに比べると全長で55mm、全幅で10mm、全高は25mm大きくなっている。これはユーロNCAP 5つ星の衝突安全性能を見据えての拡大ととれるが、室内ユーティリティ確保の目的も大きい。実際室内の広さは明らかで、後席足下と頭上の余裕もかなりのもの。ホイールベースが60mm長くなり2635mmとなったことで、室内空間はかなりリッチになった。そしてラゲッジスペースも30L増加して380Lの容量。6:4分割の背もたれを倒せば1270Lの大きなスペースに早変わりする。

 さて、フルモデルチェンジしたゴルフVIIの注目は軽量化だ。最大100sにも及ぶ軽量化が行われており、この軽量化の目的はズバリ燃費なのだ。燃料消費の約1/4がクルマの重量に起因するとフォルクスワーゲンは言っている。そこで、まず軽量化はエンジンから行われた。シリンダーブロックを最大18%小型化し、最大28%の軽量化を実現しているのだ。

 今回導入されるのは直列4気筒DOHC 1.2リッターターボエンジンを搭載した「TSIトレンドライン」と「TSIコンフォートライン」、そして直列4気筒DOHC 1.4リッターターボエンジンの「TSIハイライン」の3車種。つまりエンジン的には1.2リッターターボと1.4リッターターボの2本立てということになる。

 サスペンションはフロントのストラット式は共通で、リアには1.2リッターモデルが左右輪が繋がったトーションバー式、1.4リッターモデルがマルチリンク式と区別されている。マルチリンク式の方がレベルの高いサスペンション形式だが、トーションバー式はマルチリンク式に比べて後輪サスペンションユニットだけで10kg以上軽量に仕上がっている。フォルクスワーゲンでは、1.2リッターエンジンレベルの出力ではリアはトーションバーで十分という答えを出しているのだ。つまりこのグレードでは軽量化を優先しているのである。

ボディーサイズはすべて4265×1800×1460mm(全長×全幅×全高)。TSIトレンドラインとTSIコンフォートラインが搭載する直列4気筒 DOHC1.2リッター ターボエンジンは最高出力77kW(105PS)/4500-5500rpm、最大トルク175Nm(17.8kgm)1400-4000rpmを発生
TSIコンフォートラインのインテリア

 今回試乗したのは1.2リッターのコンフォートラインと1.4リッターのハイラインの2車種。トレンドラインの試乗車はまだ用意できていないとのことだった。ハイラインでは可変ダンパーのDCCを装備したモデルと、通常のサスペンションを装備したモデルの両方に試乗することができた。DCCはハイラインにのみ設定されたオプション装備なのである。

 コネクトされるトランスミッションはどちらも7速DSGで、早めにシフトアップして効率のよい低回転域を有効に使い燃費を節約するプログラムは共通。トルクカーブを参照すれば、1.2リッターは175Nmの最大トルクを1400-4000rpm、1.4リッターは250Nmを1500-3500rpmという低回転域で発生するから、DSGトランスミッションとのプログラミングがマッチするのだ。ちなみに車重は1.2リッターモデルが1240kg、1.4リッターモデルが1320kg。この数値から見れば1.4リッターモデルの加速性能が楽しみになってくる。また1.4リッターモデルには低負荷時に4気筒のうち2気筒の燃焼を間引く気筒休止システムが採用されていて燃費を節約する。

TSIハイラインは気筒休止機能を備える直列4気筒DOHC 1.4リッターターボエンジンを搭載。最高出力は103kW(140PS)/4500-6000rpm、最大トルクは250Nm(25.5kgm)/1500-3500rpm
TSIハイラインのインテリア

万人受けするステアリングフィールのコンフォートライン

 まずはコンフォートラインからの試乗。16インチのミシュラン「エナジーセーバー」(タイヤサイズ:205/55 R16)が装着されている。助手席にライター業を営む自称80kgの正田氏とボクの合計140kg前後が乗車。

 走り出してから、基本それほどのフラストレーションを感じないスムーズなストップ&ゴーを体感できる。アイドリングストップもよく働き、始動時のストレスも少ない。サスペンションは比較的しなやかな動きだ。

 直進時のニュートラル域はU字型。これは直進時のステアリングフィールの表現方法で、明らかにニュートラルが固定されたような感触で直進性が高く、ステアリングを切り始めた瞬間からフロントタイヤが応答するものをV字型と呼んでいる。今回のゴルフはU字型だから、切り初めの応答はやや鈍いという印象。しかし、フロントタイヤが応答し始めてからはしっかりとよく曲がり込むセッティングだ。コンフォートなので万人受けするステアリングフィールと言えるだろう。初期応答はここ最近のコンパクトカークラスの中では比較的穏やかで、応答が始まるとゲインは速くなるというタイプだ。

 足は締まっているが乗り心地はよい。凸凹路面通過時の初期のサスペンションの動きがよく、連続した凸凹路面でもコンパクトカーの中では間違いなく上位レベルだ。1.2リッターモデルのリアサスペンションはトーションバーだが、リアの突き上げ感も小さく、コーナーリングではリアがしっかりとしていて、どちらかと言うとフロントがロールして曲がる。リアの剛性感は高いがコーナーでのリアサスペンションの動きはフロントに対して小さくなる感覚だ。また室内の静粛性は高く、エンジンのカムやトランスミッション系のノイズがフロント床下から聞こえてくる。つまり、ロードノイズがよく抑え込まれているのだ。

DCC付きのハイラインが最強!?

 では注目のハイラインだ。こちらは17インチのピレリ「チンチュラート」(タイヤサイズ:225/45 R17)を装着している。1.4リッターターボエンジンはやはり力強い。出だしは過去のツインチャージャーエンジンほどの感動はないが、もしかしてターボに換えてスーパーチャージャーのみにしたのでは? と思うくらいに力強い。もちろん隣には約80kgが、いやいや正田氏が同乗していて、先ほどのコンフォートモデルのときと同条件だ。

 日本に導入されるボルボ「V40」もメルセデス・ベンツ「Aクラス」もフォード「フォーカス」も、すべてがサスペンションは欧州でいうスポーツ仕様。その中でもよりスポーティでシャープなのがV40だが、V40に比べると初期応答時のヨー(ステアリングを切り始めたときの横方向へのクルマの動き)の発生が穏やかで、その分まずロール方向に分散させているのでハンドリングの溜めがまず感じられる。その後は急速にコーナーリングパワーが立ち上がる感じだ。

 V40は、初期応答に対してその後のコーナーリングパワーは比較的落ち着いてくる。V40とハイラインの中間がフォーカスだろう。Aクラスはランフラットタイヤを採用していてサスペンションの締まりが強くどちらにも属さない。コーナーリングではコンフォートモデルに比べて4輪全体の動きを感じる。このあたりがリアサスペンション形式の違いなのか、硬さの差はこちらの方が硬いが、それほど大きな差ではなく動きの差の方が大きいのだ。スポーティな走りをしたときの差ではあるのだが。ただ、室内静粛性はコンフォートモデルの方が高く感じられる。

 前述したハイラインは通常のサスペンションのものだが、これから乗るのは可変減衰力ダンパーDCCを装備したモデルだ。DCCモデルに乗るとそのサスペンションの高級感に驚かされる。まず、ハイラインで気になったフロントセクション・トーボードからのロードノイズがほとんど感じられない。おそらく可変ダンパーユニットが遮音に貢献しているものと思われる。60km/hレベルでの走行中にエアコンをON/OFFしてみると、送風音有無の差をはっきり感じ取れる。DCCなしのハイラインではこの差が感じ取れない。面白いことにコンフォートラインではこの差が感じ取れるのだが、これはタイヤそのもののロードノイズによる違いだろう。

 DCCにはエコ、コンフォート、ノーマル、スポーツの4種類の設定があり、その他に例えばステアリングはノーマルでサスペンションはスポーツというように、それぞれの好みをピックアップして組み合わせる個別モードがある。DCCはステアリングのフィーリングがよりしっかりしたものとなり、先ほどのU字型/V字型のちょうど中間のしっかりとした安心感の高い保舵感だ。サスペンションは同じハイラインのノーマルサスペンションのものよりも柔らかく感じられ、動きにフリクションがない。スポーツモードをチョイスしても凸凹路面通過初期の乗り心地がかなりよい。はっきり言ってDCC付きモデルに乗ると、ほかのグレードには乗りたくなくなるほどだ。

 ボディーの軽量化と剛性アップにも目を見張るものがある。これはよく観察するとフロアセンタートンネルが大きくなったり、フロアサイドシルの折り返しが高くなっていたりと、細かいところに苦心の跡が見えるのだ。

 さて、DCCのモードチョイスはセンターダッシュのモニタースクリーンをタッチして行うのだが、今のところここにはカーナビは反映されない。ただし、冬ごろにはインストールするとのことで、日本でも使えるようになると聞いている。オーディオの操作などもiPadのような操作感で使いやすい。ただし、走行中は変更の度にモニターに集中しなければならなくて、ベンツやBMW、レクサスのようにジョグスティックはなく直接スクリーンをタッチしなくてはならないので、より集中度が高くなるという不安もある。

 しかし、そんなことは吹き飛ばすかのような安全対策がてんこ盛りだ。コーナーリング中に個別のタイヤに軽くブレーキを掛けてハンドリングを安定させる、いわゆるトルクベクタリング機能がその1つ。意地悪してわざとアンダーステアを出してみたが、驚くほど収まりが速い。up!にも採用されている低速域追突回避・軽減ブレーキ「シティエマージェンシーブレーキ」はさらにグレードアップされ、「フロントアシストプラス」として全車に標準装備された。さらに、追突された場合に4輪にブレーキを掛け、玉突きなどを防止・抑制する「マルチコリジョンブレーキシステム」も全車標準。これは停止状態だけではなく走行中に追突されても作動し、例えばコーナーリング中の対向車線への進入を防止する狙いもある。

 走行性、安全性、燃費。すべての部分でゴルフはまた進化していると感じた。

松田秀士

高知県出身・大阪育ち。INDY500やニュル24時間など海外レースの経験が豊富で、SUPER GTでは100戦以上の出場経験者に与えられるグレーテッドドライバー。現在60歳で現役プロレーサー最高齢。自身が提唱する「スローエイジング」によってドライビングとメカニズムへの分析能力は進化し続けている。この経験を生かしスポーツカーからEVまで幅広い知識を元に、ドライビングに至るまで分かりやすい文章表現を目指している。日本カーオブザイヤー/ワールドカーオブザイヤー選考委員。レースカードライバー。僧侶

http://www.matsuda-hideshi.com/

Photo:中野英幸