F1カメラマン熱田護の「気合いで撮る!」

第100回:雨で大荒れだったサンパウロGPはフェルスタッペン選手が優勝! いろいろトラブルもあったけど、なんだか憎めない国、ブラジル

 ブラジル、サンパウロGP。3連戦の最後のグランプリは、雨のレース。

 フェルスタッペン選手の優勝!

 予選のタイムアタックがうまくいかず、なんと12位。さらにペナルティで5グリッドダウンして、17番グリッドからのレースでした。

 何周目に何番手まで上がったとかは僕は把握してませんが、とにかくものすごい勢いをもってガンガン前に来ているのがフェルスタッペン選手でした。

 雨が味方になっていたんだと思います。ドライでレースできたスプリント予選とスプリントレースでは4位でしたからね。

 雨であれば速く走れるセットアップが出ていたマシンという要素も若干はあるのかもしれませんが、僕はフェルスタッペン選手のドライビングが恐ろしく発揮されたレースだったのではないかと思います。

 なぜならば、1コーナーの入り口にあるカメラマン用のエリアで撮影していたのですが、そこでの追い抜きを何度か撮影しているときに、ラインの変え方、そのスピードの鋭さが他の選手の追い抜きとは全く違うと感じたから。

 もうそりゃ、うへ~~~!ってくらい素晴らしい。

 だって、ここでレースしているドライバーは、運転がみんな上手。その中で明らかに違う動きをしてスパッと抜けるスキルってどういうことなのか。

 しかも並びかけてその後にしっかりと曲がっていくんですもの、破綻してない。

 いやもう、改めてフェルスタッペン選手の本領発揮というレースでした。

 恵みの雨、それを味方につけて怒涛の追い上げの結果の優勝。パルクフェルメ&表彰台の喜びの表情からはその達成感を感じました。

 チャンピオン確定の瞬間よりうれしかったんじゃないかと思うほどでした。

 いや、さすがです。本当に素晴らしいレースを見せてもらいました。雨のインテルラゴスでこの勝ち方、そして豪雨の中ということもあって1993年のセナ選手の優勝と僕の場合どうしたって重なってしまいます。

 赤旗後の再スタート。ステイアウトしていたオコン選手がトップ、2位にフェルスタッペン選手という展開。

 アルピーヌが雨で絶好調、オコン選手は日曜日の早朝に行われた予選で4位でした。

 誰が今シーズンのアルピーヌがダブル表彰台に上がると予想したでしょう。

 アルピーヌというチームの用意したクルマがこのコース特性&雨の中で最高のパフォーマンスを発揮できて、チームの作戦と何よりオコン選手、ガスリー選手が完璧なレースを成し遂げたということなんでしょうね。

 そこには若干の運もあったのでしょう。運を味方につけるのも実力とよく言われますけど、僕もそう思います。

 運がなかったと思ってしまう、例えばノリス選手にしても逆な立場に立てばそのときの気持ちは逆になると思うものだと思います。

 うれしそうなドライバー3人の表彰式は見ていて実に気持ちのいい時間でした。

 これでコンストラクターズポイントが一気に6位49ポイント。ハースが7位46ポイント、RBが8位で44ポイント。

 残り3戦です。面白いです!

 F1って面白い!

 木曜日にガレージ裏を歩いていたら角田選手。「どうですか調子は?」って聞かれて、「いやいや、どうなのそっちは?」って聞いたら、「僕はいつも調子いいですから、問題ないです」って答え。

 前向きでいるって大事です。

 このデイパックは売り出すのかな? プロモーションの撮影をしている感じでした。

 日曜日の朝の予選、Q3であらぬ方向からコースに戻ってくる角田選手。

 運も持っていたわけですね。

 これが、Q3のアタックラップ。場所はエス・ド・セナコーナーを抜けてストレート後の左コーナー立ち上がり。

 ほんの少しカウンターで縁石に出ることなくギリギリのいい感じ。3位という過去1番の予選順位を獲得。

 グリッドでレース前に打ち合わせ。

 レースは前半3位を走行していました。

 赤旗で中断したときにはタイヤ交換を済ませていたので順位が下がってしまって、せっかくの豪雨の中レインタイヤ装着というメリットを最大限活かすことができなかったということになってしまいましたけど、7位で6ポイント獲得。

 もっと上のリザルトもいけたのにという思いもあるでしょう。でも、ここで流れは変わったのかもしれません。

 因縁の対決はローソン選手の勝ち。9位で2ポイント獲得。ローソン選手の負けん気も素晴らしいです!

 ペレス選手、外から見ているだけですけど復調の兆しが見えません。メンタルな部分だと思います。11位ノーポイント。

 ハース。マグヌッセン選手が体調不良で急遽ベアマン選手が出場になりました。

 そのベアマン選手がFP1ですけれど堂々の3位。

 スプリント予選では失敗もありましたけれどQ3まで残って10位。ヒュルケンベルグ選手が12位。

 スプリントレースではベアマン選手が14位、ヒュルケンベルグ選手がギアボックストラブルでリタイア。

 レースのペースは今ひとつ上がってきませんでした。

 ヒュルケンベルグ選手は1コーナーでコースアウトしてマーシャルさんたちに押してもらってコース復帰したことによって失格。

 ベアマン選手が12位でノーポイント。

 あと3戦でアルピーヌ、ハース、RBの三つ巴の選手権6位争いとなりますよ!

 精彩を欠いたのはアストンマーティンでした。序盤の活躍はどこへ行ったのでしょうね。

 アロンソ選手、Q3には行けていたんですけど、クラッシュで9位。レースではペース上がらずでした。

 ウイリアムズは今回何度もマシンを壊してしまいましたね。

 コラピント選手、地元アルゼンチンから多くのファンがサンパウロに来ていました。国を挙げての応援になりつつあると思います。

 僕の私見ですけど、コラピント選手の運転はものすごくアグレッシブです。カウンターで立ち上がっていくのをよく見かけます。

 写真を撮る側からだけだとすごくいいのですけれど、条件が厳しい状況だとコースアウトにつながってしまうこともあるのではと思います。

 サンパウロには火曜日の深夜に到着。水曜日のランチを小松さんと日本食レストランに行ってきました。

 小松さんは天ぷらうどんと焼き鳥、僕はカツ丼。取材をさせていただいたのにおごっていただくという……ごちそうさまでした。

 チーム代表となると、本当に忙しい、そんな中時間を作ってもらって感謝です。電話で打ち合わせなど多いです。

 帰り際に、このTシャツの絵を見て「龍と武士どっちが勝っていると思う?」と聞かれました。

 さあ、皆さんどちらですか?

 僕は龍と答えました。

「そう、でも、たとえ負けそうだというときでも、逆境を打ち負かせば勝てる。そう僕は思うんです」

 なるほど。

 小松さんとのランチのあと、僕はセナさんの眠るモルンビー墓地に向かいました。インテルラゴスサーキットから、クルマで3~40分くらいの場所。まわりは高級住宅街の小高い場所にあります。

 門をくぐると広大な墓地。進んでいくと円錐形の墓地の中心に木があって、そのそばにセナさんの墓標があります。

 火曜日にはホンダの皆さんがお墓参りに行かれたそうです。

 写真向かって左から、

中村浩一 RAB(レーシングブルズ) PU メンテナンスメカニック
小野祐士朗 RBR(レッドブルレーシング) PUメンテナンスメカニック
法原淳 RAB(レーシングブルズ) PUチーフメカニック
吉野誠 RBR(レッドブルレーシング) PUチーフメカニック
久保哲宏 RAB(レーシングブルズ) PUシステムエンジニア Car30リアム車担当、山本涼太 RAB(レーシングブルズ) PUメカニック Car30リアム車担当

 吉野さんから写真をお借りしました。

 ホンダにとって、若い人たちにとってもセナさんの存在は今でも大きいと吉野さんが教えてくれました。

 これまで4、5回来ていますが、全部晴れの日です。緑の芝生がとてもきれいで整備された場所です。

 もし、サンパウロに行かれる方がいらっしゃれば、ぜひ行ってみてください。

 今年はセナさんが亡くなって30年目です。セナさんのゆかりの場所、インテルラゴスサーキットではマクラーレンとホンダ、セナブランドが協力してセナさんのクルマ、マクラーレンMP4/5Bを走らせることになりました。

 ゼッケン27番のマシンは1990年に走ったマシンです。

 エンジンは、ホンダV10。美しい、かっこいい。

 シャーシはカーボンですけど、面をつなぎ合わせた構造。

 もちろんギヤはマニュアルです。このシフトノブの形状を見て思ったんですけど、Type Rのシフトノブと似てませんか?

 シャーシナンバーはMP4/5B/7でした。

 コクピット内には鈴鹿の車検証。

 ということは、鈴鹿の1コーナーでプロスト選手とぶつかった車体。それを修復した跡が残っていました。由緒正しい車体です。

 ペダルもカッコいい。

 今回のこのイベントにためにホンダからエンジン担当で2名現地に来ていました。

 左側が石原毅チーフエンジニア、吉野さんと同期。右側が川畑久アシスタントチーフエンジニア。お2人にお話をうかがいました。

「このエンジンはシーズンが終わったあとに、ホンダでリビルトしてマクラーレンにお渡ししたレースで使ったエンジンだと思います。1990年以降このエンジンがグッドウッドなどで走ってはいるのですが、どれくらい走行しているかは把握していません。これまでメンテナンスをした記録はありませんが、マクラーレンが管理しているもので電装系も当時のオリジナルで、状態も事前にマクラーレンに行ってチェックしましたが非常にいい状態です」

熱田:では、今回の走行は問題なさそうですね?

「そうですね。でも懸念しているのはやはり古い電装系の断線や接触不良ということです。電装系のスペアは日本にあるホンダ所有のMP4/5から取り外したり、倉庫からスペアをかき集めたりして持ってきました」

熱田:4/5Bと4/5というのはエンジンの仕様が違うんですか?

「エンジンで言うと、吸気系が全く違います」

熱田:エンジン回転数は、何回転まで回すのでしょうか?

「今日、ハミルトン選手には1万1000回転と伝えました」

熱田:当時のレブリミットは何回転なんですか?

「1万3000回転です。ただ、コンディションを保ち大事に使う車両なので、回転は抑えてマクラーレンも使っているようです」

熱田:でもその2000回転で音が違いますよね、個人的にはそこを聞きたいと思ってしまいますが……。

「僕らも聴きたいのですが、大事な車両ですし、車体も古いですしギアボックス側の心配も出てきますからどうしても制限した走行になってしまいますね。マクラーレンの人たちは、とにかくオリジナルを大切にしようということなので、絶対壊したくないですからね」

 お2人とも第3期のF1メンバーだそうです。お話ありがとうございました!

 日曜日の予選のあと、ハミルトン選手が雨の中、無事に走行しました。大成功のイベントになったのではないでしょうか。

 吉野さんからプレゼントをいただきました。

 ロンドンのイベントのときに買って、ブラジルまで持ってきてくれて渡していただきました。

 そんな気遣いに、本当に感謝しかないです。ありがとうございます!

 バーニーさんのお姿。雰囲気は現役当時と変わりませんね。

 土曜日の予選直前から大雨、ものすごい勢い。これでは走れないですよね。

 そして、予選は日曜日の7時30分から開始。レースも前倒しして12時30分開始となりました。ですから日曜日は朝4時起きでサーキットに向かいました。

 今回のレンタカー。フィアットです。ヨーロッパでは見ない車種。とっても、古い乗り心地……。

 サンパウロで目立ちたくはないんですけどね。

 サンパウロ名物、渋滞。

 ブラジルに来て思うこと。空港に着いて入国審査に1時間、荷物を受け取って税関を抜けるのに30分、レンタカーのシャトルを見つけるのに30分以上うろうろ、今年からシャトルで事務所に行くのではなくなって隣のビルで受け取れるようになったというオチ。その事務所に着くとコンピュータがダウンしているので、立ったまま1時間半待ち……。空港に着いたのが20時くらいだったんですけど、ホテルに到着が夜中の2時半……もう疲れ果ててましたね。

 レンタカーはホテルのバレットパーキングに預けるのですが、1泊33レアル、870円毎朝クレジットカードで支払うのです。

 土曜日の朝もお兄さんにお願いして、会計のときに、なぜか57レアルだと言うのです。なんでやねん! となるわけです。2泊分だと言うのです。66レアルじゃないのも不思議なんだけど、埒が開かない。

 前の日の領収書を見せてもダメ。ホテルの受付のお兄さんに言ってもらってやっと渋々納得。そんなこんなで30分押しで出発。途中、クルマのインジケーターに何やらアラートが出る。信号で止まると必ず出る。ポルトガル語だから全く分からない。サーキットまで5分の4くらいまで来たところで……ん? キー? キーがないやんけ!

 まじか、渋滞していてもう着くのに……。

 戻ったらスプリントレースに間に合わないかも……でもエンジンを止めてしまったらキーがない……どうする!

 クソ~~~~~~!

 で、Uターン。速度カメラがあちこちにあるので飛ばせないし混んでるし……。

 無事キーを受け取り、ホテルの人が一言「ソーリー……」。

 ソーリーじゃね~~~。

 とって返して、渋滞がますますひどくなっている、F1の取材を始めてから30年以上、このサンパウロで救急車に乗ったときに金曜日1日行かなかったことはあるけれど、1回も遅刻はない。

 その初めての遅刻になりそう……。

 ピットレーンオープンの15分前に到着して、ダッシュしてグリッド着。

 全く本当にいろいろあるブラジル。

 でも、フルーツはホテルの朝食のでもおいしいし、人も明るくていいところもある。

 ホテルの朝食会場のテレビにニュースではちゃんとF1の報道もある。

 おっかないし危ないし、いい加減だし、遠いし、危ないし、おっかない国だけど、憎めない感じの国ブラジル。

 さあ、これから帰国ですよ、ようやく帰れます。無事に帰りたい。まじで、もう何事もなく飛行機に乗りたい。

 次戦はラスベガスです。

熱田 護

(あつた まもる)1963年、三重県鈴鹿市生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1985年ヴェガ インターナショナルに入社。坪内隆直氏に師事し、2輪世界GPを転戦。1992年よりフリーランスとしてF1をはじめとするモータースポーツや市販車の撮影を行なう。 広告のほか、「デジタルカメラマガジン」などで作品を発表。2019年にF1取材500戦をまとめた写真集「500GP」を、2022年にF1写真集「Champion」をインプレスから発行。日本レース写真家協会(JRPA)会員、日本スポーツ写真協会(JSPA)会員。