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【Honda Meeting 2017】高速周回路を自動でレーンチェンジするホンダの自律自動運転車

西村直人のホンダ最先端技術レポート 自律自動運転車編

高速周回路で自動レーンチェンジデモを行なったレジェンド

 ホンダの最新技術を体験するイベント「Honda Meeting 2017」が「四輪R&Dセンター」(栃木県)にて開催された。およそ2年に一度のペースで開催されている恒例イベントだが、今年の目玉は自律自動運転だ。ホンダは自動運転の実現に向け、A/クルマ社会の問題解決として、事故に遭わない社会の実現を目指し、B/社会課題への実現として、誰でも自由に移動できるモビリティを提供しながら、C/新たなクルマの魅力として、楽しい移動と自由な移動時間を創り出すといったA~Cの3つのビジョンをもとに開発を進めている。

 試乗した自律自動運転技術を搭載した車両は2台。1台目の「高速道路自動運転車」(以下、レジェンド)は高速道路や自動車専用道路上でSAEにおけるレベル3相当(後述)の自動走行を行なう技術を搭載した車両。そして2台目が一般道路での自動走行実現に向けた「AI搭載一般道自動運転」車両(以下、アコード)だ。2台とも自動走行を目的とした自律自動運転技術が搭載されているが、現時点では研究開発段階としてあえてそれぞれ違ったセンサー群を搭載し、それに伴った制御ロジックを搭載している。今回のレポートでは「2020年に実現させる」と、本田技研工業の代表取締役社長である八郷隆弘氏が明言した高速道路走行をターゲットにしたレジェンドを中心に行ないたい。

高速周回路を自動でレーンチェンジ

高速周回路を自動でレーンチェンジするホンダの自律自動運転車

 試乗したレジェンドには、前述したとおり日本における高速道路や自動車専用道路上での自動走行レベル3を実現する技術が搭載されている。一般的に自動走行を行なうシステムでは、1.自車位置の認識、2.自車周囲の外界認識、3.ドライバーの状態把握の3点が、システムを正しく稼働させる重要な情報源になる。そして1~3の情報を受けた車両が、「どの進路を選択し、どんな速度で走るのか」という行動計画を作り出し、その計画をもとに車両自身がアクセル操作やブレーキ操作、ステアリング操作を司り「車両制御」を行なうのだが、この一連のプロセスのことを総称して「自律自動運転技術」と呼んでいる。

発着所での自律自動運転レジェンド
行ってきます~
高速周回路に出発
高速周回路の走行イメージ

 また、車両制御と同時に車内にいるドライバーには「現在のシステムはこんな状態である」ということが示される。この分野はHMI(ヒューマンマシンインタラクション/ヒューマンマシンインターフェース)と呼ばれる部分で、たとえば普段、スピードメーターなどが表示される「メインディスプレイ」や、簡易的な車両/道路情報をフロントウィンドウ部分に映し出す「ヘッドアップディスプレイ」、さらには「ナビディスプレイ」など使い、その表示や音を大きく変化させながら、人工音声による発話を併用することで意思の疎通が図られる。

 車内にいる人すべてが安心できる、いわばシステムに任せられる自動走行を実現させるには、なによりも1~3の情報精度を高めることが大切だ。レジェンドでは、1としてホンダ独自のデーターサーバー設備を持ちながら、車両との通信をリアルタイムで行ない正確な自車位置を判定する。また、一般的なカーナビ地図が持たない詳細なカーブ曲率情報や路面の勾配情報などを採り入れた「高精度地図」と、GPS情報を含む「GNSS 全球測位衛星システム」を活用することで測定誤差を数十cmレベルにまで抑えた。これに将来、準天頂衛星システムである「みちびき」の情報が加われば測定誤差は数cmレベルにまで向上させることができるだろう。

 2はセンサーごとの特異性を考慮したフェールセーフの観点から、レーダー主体のセンサー群と、レーザー主体のセンサー群のデュアルモードで対応している。レーダー/レーザーともに車両前後に5つ搭載しながら、各々が光学式カメラと組み合わされるセンサーフュージョン方式とした。また、レーダー群/レーザー群それぞれに専用のECUを搭載することで、認識エラーを可能な限り低減させる試みもなされている。市販車の多くに搭載されている先進安全装備群でる「Honda SENSING」は、ミリ波レーダー+光学式カメラのセンサーフュージョン方式を採用するが、これでは自動化レベル3以上で必要な情報が得られないため、こうした新たなシステムがセットアップされている。

 3は「ドライバーモニターカメラ」と「ステアリングセンサー」で対応している。現在、実用化に向けた検討が進んでいる自動化レベル3(Conditional Automation)の自動走行を実現するには必ず人の介在が必要で、交通環境の変化により運転支援や自動走行状態が継続できない場合にはドライバーが運転操作を引き継ぎ手動で運転を行なうことが前提条件になると言われている。つまり、車内にいるドライバーは、いつでもシステムの呼びかけに応じ自ら運転可能な状態を継続しなければならない。よってこれは、製造側である自動車メーカーに機械の精度や情報の信頼度を極限にまで高めることを求めており、一方の利用側である自動車ユーザーには日常的に機械の状態を把握する責務と、予期せぬ緊急時には危険な状態から回避できる能力と状態を持ち合わせていることを求めているのだ。

 ドライバーモニターカメラはドライバーの顔向き/視線を検知しながら、ドライバーが前方を向いていないと判断した場合には、自動走行状態を解除する役割を担う。また、ステアリングセンサーでは、ステアリングを握っているのかどうかをステアリングに加わる操舵トルクで検出し同様の解除を行なう。試乗した限りではこのステアリングセンサーはとても敏感で、たとえば片手で握っているのか、両手なのかを正確に把握することが可能だ。ちなみに、自動走行モード中、運転操作を人が行なうオーバーライドはいつでも可能で、ブレーキペダルに足をのせるか、ステアリングを意図的に操作すると直ちに、自動走行モードは解除され、通常走行モードに切り替る。ブレーキを踏むとシステムが解除されるあたりはACCのシステム解除方法と共通であるため分かりやすい。

 レジェンドでの試乗は高速周回路1周のみだったが、なんと運転席に座ることが許された。これまで筆者は、トヨタ、日産、メルセデス・ベンツの自律自動運転車両の試乗を行なってきたがいずれも助手席などへの同乗のみだった。Daimler TrucksやFreightliner Trucksが発表した大型トラックの自律自動運転車両では運転席での試乗経験はあったものの、乗用車では初! これは大きな収穫だった。

 高速周回路に入り、予め定められたポイントを通過した時点でステアリング右上に配置された「AUTO」ボタンを押すことで自動走行モードに入る。同時にこれまで速度を表示していたセンターディスプレイが、走行車線や周辺車両、そして自車の進路を含めた3D表示画面に切り替った。ちなみに現段階の自動走行システムは目的地をナビなどでセットしている際に機能するもので、今回は周回路をほぼ1周回った先の出口付近が目的地としてセットされている。自動走行状態に入るとすぐさまアクセルが徐々に踏み込まれ設定速度である100km/hを目指す。ボタン操作で設定速度まで加速する一連の流れはACCで慣れ親しんだもの。ただ、この際の加速度は国内ACCでの上限値である0.15Gよりも少しだけ強めの印象で新鮮だ。

 順調に周回路を走行していると、進路上を走行する前走車に追いついた。ACCであれば、予め設定した車間時間に基づいて減速操作が始まるのだが、今回は設定車速である100km/hを保持するために右隣へ車線変更を伴う「追い越し運転」が行なわれた。この時、車両では外界センサーで自車周囲と接近してくる車両がいるかどうかを検出しながら、高精細地図とのマッチングが1秒間に10回ほど行なわれる(10Hz処理)。そして車線変更が可能である(危険な状態にならない)とシステムが判断すると、センターディスプレイには自車が右方向へと車線変更することを連続して右方向へと流れる水色の矢印で表示しながら、「車線変更をして追い越しを行うこと」が人工音声にて車内にいる“乗員”すべてに伝えられ、実際に追い越し運転が行なわれる。

 追い越し開始時の車速は60km/h、ここから追い越しを掛けながら40km/h増速して100km/hを目指すわけだが、ここは高速周回路であり道は緩やかに左へとカーブしている。よって、加速しながら右にステアリングを操舵して前走車をパスし、隣の車線に移ったまま今度は左カーブに対応するために左にステアリングが操舵されるわけだ。

 この時、運転席にいた筆者は非常に違和感を覚えた。なぜなら、前走車をパスした後の左カーブでは加速状態が保たれたまま自動走行が続けられたからだ。細かく見ていくとこうなる。前走車をパスするための車線変更時には増速は行なわれず60km/hが保たれるのだが、車線変更終了後は10km/h/約3秒の割合で増速が行なわれる。ちょうどそのとき、左カーブがきつくなったタイミングと重なったこともあり、このゆっくりとした加速度でも徐々に横方向へと身体が持って行かれる感覚が強くなる。制御は優秀で増速制御も安定しており、またステアリング操作にしても滑らかなで、いわゆる“リニア”な状態なのだが、どうにも加速/横方向の躍度にデジタル風味が強い。これが違和感の原因だ。筆者が行なっている大型観光バスの走行テストでは、乗員の身体の動きが最小限に抑えることをイメージするとともに、“じんわり、やんわり”を乗員に感じてもらえるような加速度の出し方/収束の仕方を心掛けている。ドライバーはステアリングを握っているから身体が保持されやすいが、乗員は基本的に車体の動きに身体を預けているため、“一気に、パキッと”した操作ではクルマ酔いを誘発してしまうからだ。誤解のないように繰り返すと、レジェンドの運転操作は滑らかだ。なかでもステアリング操作はテスラの「オートレーンチェンジ」よりもゆっくりと、そしてメルセデス・ベンツEクラスの「アクティブレーンチェンジングアシスト」を上回る丁寧さがある。

 しかし、今回の試乗だけで判断すればカーブの曲率に対するステアを開始する瞬間の操舵速度がわずかながら早く、また切り足したり、戻したりするステアリングの操舵にしてもコースに対するライントレース性を主軸にしたことが要因となり、車内にいる乗員には、まるで高速エレベーターで移動しているかのような無機質な横方向の加速度だけが加わる。Gセンサーではきれいな曲線が描かれていることは容易に想像がつくのだが、生身の人間が心地よいと感じるために、一瞬でもよいので“ため”が感じられるとさらによいのではないか。たとえばマツダでは自動運転技術ではないが、アクセル操作をした後、およそ0.3秒後に躍度を体感できるよう現在の市販車にセッティングを施している。Hondaにしても、周囲にも不安を与えない走行で使う人への「任せられる信頼感」を大切にしながら、人が運転しているような「心地良い乗車フィーリング」を自動運転技術のコンセプトにしていることから、次なるステップとしてアナログ風味を効かせた車両制御を早々に体感してみたいと感じた。

 周回路のカーブを終え直線路に戻ると、今度は進路上に速度の遅い別の前走車を捉えた。ここでは前走車を自車から約150m先(筆者の目測)に認識した時点で緩やかに減速状態へと移行した。その後、26秒ほど掛けて77km/h減速し、最終的に前走車との車間時間を約6秒(車速は23km/h)に保ったままの追従走行が続く。高速道路上で渋滞に遭遇するといったシーンが再現されているわけだが、自車速度が低いということから、試乗時にはナビ画面を通じたSkypeによる映像通話が楽しめる環境が示された。これは移動時間の有効活用といった観点からくる、Hondaの技術プレゼンテーションだと筆者は理解した。こうした車内エンターテイメントの拡充に対し、筆者はその秘めたる可能性に大いなる期待を寄せる一方で、試乗時はナビ画面の注視や意識が運転操作から遠のくことから、ある種の危うさを実感したのも事実だ。これは筆者が交通事故に対する恐怖感が人一倍強く、それに起因して運転中の安全確認に対する優先順位がことさら高いからこそかもしれないが、たとえば試乗時の映像通話では通信速度が遅かったため、ナビ画面を通じての会話には約2秒にわたるタイムラグが発生しており、そのため、「もしもし~、はい、あ、もしもし~」といったムダなやりとりが発生し、その都度、ナビ画面に意識が吸い寄せられた。

 ではこの問題、通信速度が向上すれば解決するのだろうか? 2020年に向け、移動通信システムは10Gbpsを超えるような超高速通信を実現する「5G世代」へと突入すると言われている。しかし、現在の4G世代であってもそうであるように、5Gとて、どこでも最速レベルが確保されるとは限らない。これが移動体である車内通信環境となれば、電波状況と併せて状況がめまぐるしく変わることは我々の多くが実感していることだろう。また、タラレバの話を持ち出すのは些か尚早だが、「車間時間が約6秒」の時点で急な割り込みや突発的な事象(例:前走車による追突事故や横方向の車両による接触事故)が発生した場合はどうなるのかと、同乗していただいた開発者にうかがったところ、「衝突被害軽減ブレーキで対応しますが、突発的な時間軸には対応しきれないかもしれない場合も想定できる」という。高速道路上で発生する渋滞要因には、豪雨・降雪などの気象条件に加え、路面凍結など滑りやすい路面も原因となり得る。もっともそうした際には、例えばITSの気象情報などと連携し、自動運転モードが起動しないようフェールセーフを働かせればよいのだろうが……。

レジェンドのコクピット
ステアリングまわり
自動運転可能な状況を示すLED
試験車のため特殊なスイッチが並ぶ
画面表示の例
自動レーンチェンジの際の表示。すでにいろいろ作り込まれている

 今回試乗したレジェンドの自律自動運転システムには路面状態を判断する術がない。「路面の摩擦係数をリアルタイムで情報として取得し、それを制御に反映させることは、この先の自動運転技術を開発する上で課題のひとつ」(前出の開発者)という。止まれるはずの速度なのに、止まれない、車両制御が追いつかないといった状況を避けるためにも、こうした車内エンタテイメントの活用は技術的な裏付けが伴う段階的な導入が好ましいのではないだろうか。

一般道の自律自動運転はAI搭載でカメラのみで状況判断

一般道の自律自動運転車

 最後に「AI搭載一般道自動運転」車両であるアコードについても概要を解説したい。一般道路で安全な自動走行を成立させるには、危険な状態に陥る前に回避しながら、他車や歩行者に危険を感じさせず、スムーズに走行することが要であるとホンダは考えている。状況把握には、これまでの「ルールベース制御」という「もし、左から人が飛び出してきたら右にハンドルを15度切ってフルブレーキを掛ける」といった決めごと(ルール)での車両制御に加えて、人工知能のニューラルネットワークを活用した車両制御の併用が必須となる。人工知能と自律自動運転の関係については、拙著である「2020年、人工知能は車を運転するのか」(インプレス刊)をお読みいただきたいのだが、端的に言及すれば、刻一刻と変化する交通環境には人工知能なしでは完全対応が望めないということが示されている。

 同乗試乗(こちらは助手席)したアコードでは、市街地を模した一般道路を4分弱走行した。センサーは左方/前方/右方の3方向に向けられた光学式カメラのみで、そこからの情報のみで進路を決め、アクセル/ブレーキ/ステアリングの各操作を行なうホンダ独自の自動走行システムが搭載されている。

AI搭載一般道自動運転
カメラ
位置を把握するためのGPS受信機など

 アコードのシステムは、1.深層ニューラルネットワーク走路認識、2.先読み操舵制御(モデル予測制御)、3.画像ベース停止制御(AI認識+適応制御)、4.画像ベース速度マネジメントという4つの柱で構成されている。1では、交差点、白線などの道路構造や道路橋の植栽、さらには気象変化による路面の変化(雨や夜間なので白線がみえにくい)などをカメラで認識しながら、右左折経路推定(右左折するタイミングや進路を推定)、停止線/交差点侵入位置推定(停止線の位置や交差点の位置などを推定)を行なう。2では進路上のカーブに対して最適となるようなステアリング操舵を行ない、3では停止位置に対して滑らかなブレーキ制御を行う。4ではカーブの曲がり具合に応じて自車速度を調整しながら、カメラによる外界認識性能が落ちた際にも自車速度を落とすことで安定性を確保する。

AI搭載一般道自動運転のコース図

 アコードでの同乗試乗は限られたエリアで他車や対向車はいなかったものの、左折だけでなく右折も行いながら、その開発過程での制御技術を体感することができた。現在、電子地図に頼らず自車センサーだけで周囲の交通環境を自らが認識し理解する技術開発が進めらえていて、そこではクルマ/バイク/自転車/歩行者といった、種別ごと動作履歴やふるまいに基づき、意図を理解して行動を予測し、安全な自律自動運転を目指していくという。