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【インタビュー】スバル新型「XV」にSUV初採用したSGPのメリットとは?

新型XVの開発を率いたスバル 商品企画本部 井上正彦PGMに聞く

スバルの新プラットフォームであるSGPを採用したSUV第1号となった新型「XV」

 5月24日に発売されたスバルの新型SUV「XV」。この新型XVは、新型「インプレッサ」から採用の始まったスバルの次世代プラットフォーム「SGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)」を採用した初のSUVとなっており、これまでのXVとはクルマづくりの根本から変更されている。

 スバルは1989年の初代「レガシィ」投入時に、それまで使ってきたプラットフォームを刷新。この初代レガシィに投入したプラットフォームを強化・熟成しつつ、同社がシンメトリカルAWDと呼ぶ水平対向エンジン+4WDのシステムを発展させてきた。その実力は優れた安全性やWRC(世界ラリー選手権)を制覇するほどの実力を持っていたのはよく知られているとおりだ。

 初代レガシィ以降、2003年にスバルがカー・オブ・ザ・イヤーを初めて受賞した4代目レガシィでプラットフォームを刷新。性能のレベルアップを着実に図り、シンメトリカルAWDベースの同社のクルマはNASVA(自動車事故対策機構)が実施する予防安全性能アセスメントであるJNCAPにおいても常にトップクラスの安全性能を叩き出している。

 その4代目レガシィ以来刷新されたのが、新型インプレッサから投入されたSGP。安全性や軽量化、もちろん走りの性能などを一から見直し、シンメトリカルAWDというレイアウトでの性能を数段上に引き上げている。

 このSGPの明確な区別点の1つは、歩行者保護エアバッグが標準で装備されていること。しかも、ボンネットを跳ね上げるというような構造を用いずに実現することで大きくコストを抑制している。このようなエアバッグを組み込む空間は、設計の初期段階から要件に入っていないと実現することはできず、安全性を優先した新世代プラットフォームの思想が現われている部分だと思われる。

 また、これまでスバルは初代レガシィ、3代目レガシィと発展させていく過程で、ショートホイールベースのインプレッサ、SUVのフォレスター、7人乗りのミニバンであるエクシーガ、コンパクトSUVのXVなどを生み出してきた。

 とくにコンパクトSUVのXVなどは、時代のトレンドによって生まれてきた車種で、初代レガシィを開発したときにはまったく想定されていない車種だろう。SGPはそういったスバルのラインアップすべての要望、また未来の電動化要件もあらかじめ盛り込んだ形で設計されており、とくにSUV車種で大きなメリットが生まれているという。SUVにおけるSGPのメリット、そしてスバルの安全性に対する思いを、新型XVの開発を担当したスバル 商品企画本部 プロジェクト ゼネラル マネージャー 井上正彦氏(以下、井上PGM)に聞いてみた。

株式会社SUBARU 商品企画本部 プロジェクト ゼネラル マネージャー 井上正彦氏

──新型XVはSGPを搭載したSUVとして第1号車になります。SGPをSUVという車型に適用するにあたって苦労した点などはありますか?

井上PGM:スバル・グローバル・プラットフォームは、このSGPのメリットをSUVで最大化させる、まさにSUVにフォーカスしてきたといってもよいくらいです。今回プラットフォームを変えたことによって、スバルの次世代SUVとして今までできなかったところやりたかったことを改善、実現することができました。

 とくに足まわりの部分を改善できました。重心高の部分、重心高とジオメトリーの関係などです。SUVの場合、どうしても最低地上高が高くなるので、車高を上げた分、ジオメトリーが真っ直ぐ(上に)に行かない部分があります。

 具体的には車高を上げた際、リアのタイヤが少し前に行ってしまったり、ロールの中心が理想の位置からズレてしまうなどです。そこをどうしたかというと、最低地上高(新型XVの日本仕様は200mm)に対応した最適なセッティングができるよう、これまでのプラットフォームではできなかったところを徹底的に理想に近づけました。SGPとなった新型XVの足まわりではその修正をしっかり反映して、SUVでも最適なセッティングを実現しています。

 SGPは車高が上がったクルマにも対応できる初期設計ができていて、今までのプラットフォームではやれなかったこと、やりたかったことが実現できています。結果としてSGPの成果を素直に発揮できているのが、今回のXV(SUV)だと思います。

──先ほど最低地上高を上げると、重心やジオメトリーとの関係が適切でなくなるという話がありました。もともとXVはインプレッサXVというようにインプレッサの派生車種として作られており、素直に作りやすいようにも見えるのですが。やはり最低地上高を上げるというのは、難しいことなのですか?

井上PGM:基本的には、シムなどをサスペンションに噛ませることによって最低地上高は上がります。では、上がった状態で最適なジオメトリーになるのか、サスペンションの動きが路面にしっかり追従するのか、ということをやりきれているのか、となります。

 例えばリアのサスペンションですが、荷重を受けてコイルスプリングはぎゅっと縮んでいきます。今までは、その力の方向を規制しておらず、少なからずロスがあります。極端な話、サスペンションの動き出しの際に、(コイルスプリングが縮んで動く)力の方向がサスペンションの縮む方向と異なっているときは、サスペンションがすぐに動けません。それが新型XVでは、路面の凹凸があった際に微小入力でもきちんと動いてくれる。以前は、路面の凹凸があった際に若干トーが変化するように感じるケースが改善されることになります。

 これは凄く微少な部分かもしれませんが、運転している人が気持ちよいかというと、気持ちよくない部分です。それが(運転を続けることで)ずっと続いたら積算されて、ちょっとストレスになったり、快適ではなかったりみたいな。不要な方向への動きがキャンセルされると、サスペンションがちゃんと動いてくれて、気持ちよく走れるようになります。

 人間は本当にセンシティブなので、そういった不要な動きというのは、長い距離を運転すればするほど積算され、不快に感じると考えています。そうした部分にこだわって、注意を払って作り込んでいます。

 新型インプレッサと新型XV、基本構造は同じですがそれぞれに合わせて、サスペンションまわりなど、形や径を変えてあります。たとえば、スタビライザーは車重が重くなる部分を考慮して径を変えてあります。

 SGPになったことにより、タイヤを路面に押しつける方向に力が働くようにできたので、「SUVなのになんでこんなに走りがよいの?」という出来になっています。また、ステアリング操作にちゃんとボディがついてくるので、ステアリング(設定)もクイックにできています。ちゃんとボディがついこないクルマだとステアリング操作とのずれが出てしまうので、不快に感じ、「やっぱりSUVは」という話になる。すると、ステアリングの反応をなまして、遅くしてボディに合わせようかという話になる。そのようなことをしなくてすむので、本来の運転手の期待の動きに素直に対応する方向で、作りたかったクルマが実現できています。

──それにはボディ剛性が関係してくると思うのですが、SGPによるボディ剛性向上は十分なものですか?

井上PGM:はい、SGPによるボディ剛性向上は十分なものでした。SGPの開発途中ではボディ剛性が上がり過ぎたので、下げた部分もありました。上がり過ぎると振動などの問題も出てきてしまい、共振点をずらすなどの作業をしました。剛性は上がればよいというものでもなくて、クルマとしてのバランスが大切です。

 上がり過ぎた部分を下げることで重量とかコストとかによい面が出ます。SGP自体は、本来は軽い構造を作り上げたかったのですが、軽くした分、必要なところに必要なことをやったので、結局トントンということになっています。代表的なところでは、衝突安全の衝撃吸収、足まわり剛性の部分です。

──SGPの発表会で、歩行者保護エアバッグ開発担当の方が、「この歩行者保護エアバッグが入る空間を作ってもらうのに苦労した」と振り返っていました。SGPのような、根本から構造を変更する機会でもないと、ボンネットを跳ね上げない構造での歩行者保護エアバッグ搭載は実現できないと。そのための空間確保のやり取りを激しくやったと。

井上PGM:プラットフォームを変更する機会でもないと、やはり歩行者保護エアバッグは入らないので。おかげさまで、NASVAから特別賞もいただきました。

──新型XVでは、1.6リッターがラインアップに加わりました。この1.6リッターに関する部分の戦略などはあるのでしょうか?

井上PGM:実はですね、この新しい1.6リッターエンジンは、新型インプレッサ発売のタイミングではなく、新型XVと合わせて導入しようと思っていました。しかし、やはり新しい1.6リッターエンジンは、新しい2.0リッターエンジンとともに新型インプレッサの発売タイミングに合わせた方がよいという話になり、日程が前倒しになりました。ただ、どうしても開発上、2.0リッターと同時にはできず、ちょっとずれた日程での発売となりました(新型インプレッサは2016年10月発売、1.6リッターモデルは12月に発売)。

 逆にXVに関しては、先代と同じく2.0リッターモデルのみで国内投入しようとしていたところがあります。欧州では先代から1.6リッターモデルもあったのですが。ただ、最近の市場の環境変化、特にSUVのBクラスが非常に活況を呈していて、お客さまのニーズが広がっているところで、1.6リッターをラインアップに持つことで、XVの世界をよりリーズナブルにたくさんのお客さまに楽しんでいただけるのではないかという考えに変わり、ラインアップに追加しました。

 欧州では1.6リッターモデルを販売していたものの、それほど数が出ているものではありませんでした。今回1.6リッターモデルを日本市場に投入するにあたっては、走りの面での不安があったのですが、SGPとなって改善した部分、マルチポイントインジェクションでもよくなった部分、軽量化の効果等があり、実際に搭載して走ってみたら「これは結構いけるかも!!」と。適合に関しては、ファイナル(最終減速比)を調整するなど、動的な動力性能に振って1.6リッターとしての性能を成立させました。

──1.6リッターを動力性能に振った結果、燃費に関しては1.6リッターと2.0リッターがそれほど変わりないものとなっています。この点に関しては?

井上PGM:動力性能に振った結果、燃費に関しては若干落とした面があるのですが、それは新型XVの持つ世界観を重視した結果となります。やはり、動力性能を出さないと、クルマを出す意味がないので。燃費の点については、“意外な”ではなく、我々からすると“当然”という結果になっています。

 やはり、1.6リッターに関しても街乗りに関する動力性能を、“安心で愉しい”ものにするような必要がありました。もちろん1.6リッターの燃費をさらによくすることもできましたが、そうするとなかなか走らない、加速しない、気持ちよくないクルマになってしまいます。でしたら、始めからよく走るクルマで、燃費に合うような走行をお客さまにしていただくという方向性で仕上げました。お客さまの走り方次第で燃費は変わる面が大きいので、走りの性能を重視したということになります。

──ターボエンジンを搭載して動力性能を上げるという手段もあったとは思いますが、自然吸気モデルの設定のみにした理由は何ですか?

井上PGM:確かにターボというご要望は出てくるかと思うのですが、新型インプレッサもそうですが、新型XVはスバルの中でエントリーカーとして位置付けています。200万円を切る価格帯(XVは税別で)から用意しておりますので、例えば新社会人の方、生活上4WDが必要という方などに向け、スバルのエントリーカーとしての役割は重要だと思っています。その中では、性能もあるのですが、コストという観点が重要になってきます。XVとしての世界観をお客さまにしっかり伝えていき、需要が増えたところで(ターボモデルについては)はそういった価値の提案もあるかもしれません。

 ターボで動力性能は上がるし、お客さまの要望があれば用意していく必要はあると思うのですが、我々としては、まずエントリーカーとして提供するのであれば、(現在のラインアップや価格帯が)最適だろうと考えています。

 全車EyeSightが標準装着ですし、歩行者保護エアバッグも標準装備しています。新型XVでは全車トルクベクタリング機構もついていますし、国内営業から価格の提案を聞いたときに、200万円そこそこというのは僕もビックリしました(笑)。非常にリーズナブルに提供できていると考えています。

 新型XVについては、よりフィールドを広げるということを目指しています。先代XVはスバルのクルマとしては珍しくデザインで売れました。デザインで売れたスバルのクルマはあんまりないんですよ(笑)。そこをちゃんと活かして、欧州車と見比べても遜色ないですし、都会に止めていただいても遜色のないたたずまいでありながら、本格的なSUVとしてX-MODEも用意しています。

 このX-MODEに関しては、「そのような機能が必要な場面があるの?」とよく言われるのですが、雪道の下り坂などではやっぱりどうしてもある重量があれば加速してしまいますし、ギヤをロー(1速)に入れてもブレーキを踏まなければいけないかもしれないし。X-MODEであれば、プチって押してもらえれば、スススッて静かに下ってくれ、怖くはありません。

 雪道の上りは結構上ってしまうのですが、やはり下りが怖いというのがあります。X-MODEであればそうした初心者や女性にありがちな不安感を解消できます。

 先ほども言いましたが、XVはSUVなのにロングツーリングをすごく気持ちよく走ることができます。1.6リッターモデルでも、高速道路の合流なども楽に入れます。本当にいいよねと思っています。

 ただ、2.0リッターモデルのほうが明らかにトルクがあるので、そこはさらにスムーズに走行できます。2.0リッターは直噴、1.6リッターはマルチポイントインジェクション。その違いもあります。1.6リッター、2.0リッターというイメージの違いは、そのままクルマの違いになって現われています。直噴については、アクセル操作に対するダイレクト感、加速感、エンジンの吹け上がるフィーリングがより強くあります。1.6リッターモデルは加速がリニア立ち上がりますが、2.0リッターの直噴はさらにダーっと立ち上がる感じがあります。

──先代のXVではハイブリッドモデルがありました。発表会でもハイブリッドに関する質問が出ていましたが、改めてハイブリッドモデルについてはどのように考えていますか?

井上PGM:ハイブリッドモデルについては、発表会のときに質問に答えましたが“鋭意検討中”です。当然、先代にあったモデルでありますし、現在もXV ハイブリッドに乗られている方がいるので、その期待には応えたいと思っています。

──XVの世界観という言葉がありましたが、新型XVは発表会で井上PGMも話していたようにメッキを用いていない、黒いグリルが印象的です。これはXVの世界観にとって大切な部分だったのでしょうか?

井上PGM:普通、グリルにはメッキを使いたくなると思います。グリルについてはメッキでなくてもシルバーを使わないのはあり得ないという感じだったのです。先代XVのときは、形は違うけどモチーフが同じという、わざわざ型を起こしていながらもったいない感じだったのです。

 今回は新型XVの世界観をより表現するために、グリルについてもよく表現を考えた方がよい、ということになりました。その中で、通常ならグリルはシルバーやクロームにするところを、あえて黒く、そしてXVらしい、がっちりしたデザインにする。そしてウィングの中にきれいなクロームの部分を作る。G-SHOCKのゴムのプロテクターが中身をしっかり守ってくれているような部分を表現しましょうと。

 グリルの部分についても着せ替えられるようにしようとか。ウィングの部分については(オプション)用品で変えられるのですが。そういったファッショナブルな世界観にもこだわっています。

 ボディカラーのクールグレーカーキについても(開発途中は)それほど評判がよくなかったのですが、だんだん見ているうちに「いいんじゃないか、この色」みたいになってきました。とくに日光の下で見るとさらにいい感じで、(開発途中のため)室内で見ていると青っぽいのですが、日光の下ではきれいな淡い色、やさしいポップな感じの色という雰囲気がします。

 オレンジのほうもタンジェリンオレンジからサンシャインオレンジにして、すごく明るくなりました。先代のタンジェリンオレンジのときにやりたかったのが今のサンシャインオレンジになります。当時はそこまでの明るさを出せませんでした。ただ、実際に(先代XVを)発売するとタンジェリンオレンジが非常に人気となり、さらにその先をとトライした結果が(新型XVの)サンシャインオレンジになります。クールグレーカーキとサンシャインオレンジを新型XVの専用色としています。

──X-MODE部分のスイッチデザインですが、フォレスターに初搭載されたときと比べると、ずいぶん落ち着いたデザインとなっています。今回、新型XVに初搭載となったX-MODEですが、このデザインの意図は?

井上PGM:X-MODEはフォレスターに初搭載された機能ですが、横展開する中でスバルのSUVとしては当然の機能になってくると。あえて、X-MODEがついているぞと、とくに主張するつもりはありませんでした。

──EyeSight ver.3ですが、新型インプレッサに搭載されたものと変化はありますか? 新型インプレッサでは、それまでのver.3よりは曲率の大きなコーナーに対応するなどのアップデートが行なわれていますが、その点なども同じでしょうか?

井上PGM:新型インプレッサとは基本的に同じです。EyeSight ver.3のなかで最新のものを搭載しています。

──車高については、どのような意図で設定していますか?

井上PGM:ルーフレールなしは1550mm、ルーフレールありは1595mmとなっています。また、ルーフレールなしにルーフレールありと同様にシャークフィンアンテナを付けると1575mmとなり立体駐車場に入らないケースが多くなります。そのため、ルーフレールなしはポールアンテナを採用することで1550mmに抑え、多くの立体駐車場に入るSUVとしています。

 この車高1550mm、さらにSUVであるための最低地上高200mmを確保しつつ室内空間を拡大したのが新型XVのパッケージングです。このパッケージングがベストだと思っています。ただ、海外では1550mmという日本の立体駐車場対応という部分が必要なくなるので、最低地上高を220mmとしています。

 このパッケージングは発表会でデモしたように、女性でもルーフレールに取り付けたルーフボックスに届くよう配慮しており、使い勝手のよいものとなっています。ちょっとしたお出かけにも便利に使えるし、荷物を積んでの遠乗りにも便利。クルマは行きたいときに行きたい場所に行けるものであり、新型XVはそれを具現化したものであると思っています。人生のパートナーとして選んでいただけたら期待どおりの活躍をしてくれると思います。