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豊田章男社長、「トヨタの真骨頂は『トヨタ生産方式、TPS』と『原価低減』」

トヨタ、純利益2兆4939億円の決算記者会見。6月に「コネクティッドカーの市販車」お披露目

2018年5月9日 開催

2018年3月期の通期決算説明会でスピーチを行なったトヨタ自動車株式会社 代表取締役社長 豊田章男氏

 トヨタ自動車は5月9日、2018年3月期(2017年4月1日~2018年3月31日)の通期決算内容、ならびに2019年3月期の見通しに関する決算説明会を東京本社で開催。この中でトヨタ自動車 代表取締役社長の豊田章男氏が、会社に対する思いや自身の持つ将来ビジョンなどについてのスピーチを実施した。

 なお、会場の様子はYouTubeの「トヨタグローバルニュースルーム」でライブ配信され、決算説明会とスピーチの2部構成で全内容の動画を公開している。また、豊田氏によるスピーチ内容の全文は、決算発表のニュースリリース内に掲載されており、以下にその全文を掲載する。


本日はお忙しい中、ご足労いただき、誠にありがとうございます。

まず、本年も私どものクルマをご愛顧いただきました世界中のお客様、そして、一人ひとりのお客様に「もっといいクルマ」をお届けするために、懸命にご尽力いただきました、販売店、仕入先の皆様に深く感謝申しあげます。

また、日頃よりトヨタを支えていただいております世界中の株主の皆様、ビジネスパートナーの皆様にも、厚く御礼申しあげます。

先ほど2018年3月期の決算を発表させていただきましたが、私は、昨年のこの場で、2期連続の営業減益の見通しを発表した際に、「連敗は絶対にいけない」と申し上げました。

「高コスト体質」という課題が顕在化した訳ですから、「なぜなぜ」を繰り返して、真因を追求し、対策を講じ、改善を続けていけば、必ず前に進むことができると思うのです。

トヨタの真骨頂は「トヨタ生産方式、TPS」と「原価低減」です。

TPSの基本の1つに「原価主義より原価低減」ということがあります。
「原価に適正利潤を上乗せして販売価格を決める」のではなく、「販売価格は、市場すなわちお客様が決める」という大前提のもと、「我々にできることは原価を下げることだけだ」という考え方です。

「原価」を見ることは「行動」を見ることです。
一人ひとりが「原価意識」と「相場観」をもって、日常の行動の中にある「ムダ」を徹底的に排除する。
かつては、当たり前であったことが、いつのまにか「当たり前でなくなっていた」と気づくことからのスタートでした。

あらゆる職場で、「固定費の抜本的な見直し」を掲げ、日々の業務から、大きなイベント、プロジェクトに至るまで、一つひとつの費用を精査し、自分たちの行動の「何がムダか」を考え、地道な原価低減に徹底的に取り組みはじめました。

特に技術分野では、TNGAが二巡目に入ってまいります。
一巡目で達成した「より良いデザイン」や「性能アップ」を維持しながら、原価を下げる活動に取り組んでおります。

それぞれの地域のお客様に合った仕様・性能の見極めと徹底的な原価の作りこみに加え、開発の現場にも、標準作業や原単位、すなわち1つのアウトプットを出すために必要な時間、コストというTPSの概念を持ち込み、開発のリードタイムを短縮してまいります。

「連敗だけは絶対にしない」という強い決意のもと、トヨタに関わるすべての人が、全員参加で、地道に、泥臭く、徹底的に原価低減活動を積み重ねた結果が決算数値にも少しずつ表れ始めてきたのではないかと思っております。

ゆえに、今期の決算を、私の言葉で総括いたしますと、「たゆまぬ改善という『トヨタらしさ』があらわれはじめた決算」ということになるでしょうか。

いろいろな場面で申し上げておりますとおり、自動車産業は今、「100年に一度」と言われる「大変革の時代」に突入しております。
ライバルも競争のルールも変わり、まさに「未知の世界」での「生死を賭けた闘い」が始まっているのです。

新たなライバルとなるテクノロジーカンパニーは、我々の数倍のスピードで、豊富な資金を背景に、新技術への積極的な投資を続けております。

私どもといたしましても、先ほど申し上げましたように「原価低減」の力に磨きをかけて、「稼ぐ力」を強化し、新技術や新分野への投資を拡大してまいります。
さらに、グループはもちろん、同業他社や他業界も含めたアライアンスを強化してまいります。

私どものアライアンスは、資本による規模の拡大を目的とするのではなく、想いを共有するパートナーとオープンに連携することによって、より良いモビリティ社会の実現を目指すものです。

大切なことは、新技術を一番早く世の中に出すということよりも、全ての人がより自由に、安全に、楽しく移動できるモビリティ社会を実現するために一番役に立つ技術を開発することだと思うのです。

こうした考えに基づき、新たな取り組みを積極的に進めております。

私は、「電動化」、「自動化」、「コネクティッド化」といった新技術が進めば進むほど、クルマの可能性が広がり、トヨタの強みがより活かされる時代になっていくと考えております。

これからの時代に求められることは、お客様のニーズを先取りし、よりパーソナルなモビリティサービスをよりダイレクトにかつリアルタイムにお届けすることです。
すなわち、必要とされるサービスを、必要なときに、必要なだけ提供する世界であり、これは、まさに「TPS」でいうところの「ジャストインタイム」の世界なのです。

「ジャストインタイム・サービス」を実現するためには、単にクルマをネットワークにつなげればよいということではありません。
サービスを提供するメーカー、販売店、アライアンスパートナーのすべてがムダのないリーンなオペレーションでつながっていることが必要となります。

そして、今、販売店をはじめ、トヨタのモビリティサービスに関わる現場では、「TPS」に基づくオペレーションを導入することによって、サービスを提供するリードタイムの大幅な短縮にチャレンジしております。

これまで申し上げてまいりましたようにトヨタの強みは「TPS」と「原価低減」です。
自分たちの競争力であり、お家芸とも言えるこの二つを徹底的に磨くことは、今を生き抜くだけでなく、未来を生き抜くためにこそ必要だと考えているのです。

最後に、未知の世界での闘いに臨むにあたって、私の決意をお話ししたいと思います。

私は、トヨタを「自動車をつくる会社」から、「モビリティ・カンパニー」にモデルチェンジすることを決断いたしました。
「モビリティ・カンパニー」とは、世界中の人々の「移動」に関わるあらゆるサービスを提供する会社です。

これは、「従来の延長線上にある成り行きの未来」と決別し、「自分たちの手で切りひらく未来」を選択したことを意味します。

100年に一度の大変革の時代を、「100年に一度の大チャンス」ととらえ、これまでにないスピードと、これまでにない発想で、自分たちの新しい未来を創造するためのチャレンジをしてまいります。

これまでも、環境変化に柔軟に対応し、持続的に成長していくために、カンパニー制の導入など、新たな仕組みづくりに取り組んでまいりましたが、私の中で、最も大きな力となっておりますのが、本年1月に実施した役員体制の変更です。

私流に言いますと2009年6月に社長に就任してからの8年間はサーキットレースをしていたように思います。
つまり、トヨタという巨大企業のドライバーズシートに一人で乗り込み、自分のセンサーを頼りに、お決まりのコースを速く走らせようとしていた気がするのです。
その中で感じていたことは、成功体験を持つ巨大企業を変革することの難しさです。

競争のルール、ライバルが変わる中で、トヨタの舵取りのやり方も変えなければならないとの思いから、従来は4月に実施する役員体制の変更を前出しし、私と6人の副社長を中心とするマネジメントチームを編成いたしました。

更に、アフリカ担当の役員を豊田通商から、金融担当の役員を三井住友銀行から派遣していただきました。
社外取締役には、前経済産業省の菅原氏、前IPC会長のクレイヴァン氏、三井住友銀行の工藤氏に参画いただく予定です。

年齢、所属、性別、国籍に関係なく、それぞれの専門分野で培ったビジネスの知見、社外から見たトヨタの姿や世間とのギャップなどをトヨタの経営に持ち込み、牽引していただきたいと考えたからです。

いわば、サーキットレースからラリーに走り方を変えるという発想です。
ラリーでは、ドライバーとコドライバーが連携しながら、変化にとんだ実際の道をいかに速く走るかを競います。
ドライバーは、コーナーの先が見えていなくても、コドライバーが読み上げるペースノートを信じて全開でアタックします。
コドライバーは、これまでの経験や専門性を活かし、「ドライバー目線」で状況を判断し、ナビゲートします。
お互いに“命を預けあう”信頼関係がなければ務まらないものです。

つまり、カンパニープレジデントやグループ企業のトップを経験した副社長と各分野のエキスパートである社外取締役や役員が、私のコドライバーとして、「社長目線」で、ナビゲートしながら、より速くゴールを目指すやり方に転換するということです。

本年1月以降、既に、副社長や役員を中心に現場を巻き込んだ様々な活動が動き出しております。これからのトヨタの変化にご期待ください。

今の状況は、80年前と似ていると思います。
豊田喜一郎は、トヨタグループを織機から自動車をつくる企業グループにモデルチェンジすることに挑戦いたしました。

そして、今、私たちもまた、企業グループのモデルチェンジを目指します。
この闘いは自分たちのための闘いではなく、未来のモビリティ社会をつくるための闘いであり、未来の笑顔のための闘いです。

「継承者こそ、挑戦者でなければならない」との覚悟をもって、失敗を恐れず、よいと思うことは何でも挑戦してまいります。
うまくいかないこともあると思います。
むしろ、うまくいかないことの方が多いかもしれません。

是非とも、私どもの新たな挑戦をご支援いただきますようお願い申しあげます。

ありがとうございました。

トヨタ自動車 2018年3月期 決算説明会(II部 社長スピーチ。68分47秒)

2018年3月期は「たゆまぬ改善という『トヨタらしさ』があらわれはじめた決算」と豊田社長

 このスピーチ内で豊田氏は、2017年5月に実施されたトヨタの2017年3月期の通期決算発表会で自身が口にした「連敗は絶対にいけない」との言葉を取り上げ、2期連続の営業減益の見通しを回避するため、課題として顕在化した「高コスト体質」を改善するべく、原因を追及して対策を講じてきたことを説明。実際にはすでに公開(トヨタ、2018年3月期の通期決算発表。当期純利益は2兆4939億円に)されたように、売上高1兆7823億円増、当期純利益6628億円増の増収増益となっているが、この理由について「トヨタの真骨頂は『トヨタ生産方式、TPS』と『原価低減』」と述べた。

 TPSの基本原則の1つにある「原価主義より原価低減」について豊田氏は、原価に適正利潤を上乗せして販売価格を決めるのではなく、販売価格はお客さまが決めることが大前提であり、「われわれにできることは原価を下げることだけだ」との考え方を改めて示した。

 このために各職場で固定費の抜本的な見直しが行なわれ、日々の業務から大型イベント、各プロジェクトなどで1つひとつの費用を精査。自分たちの行動で何が無駄かを考え、原価低減に向けた地道な活動を徹底的実施してきたことを説明。また、2015年12月に発売した新型「プリウス」から全面導入が開始された「TNGA(Toyota New Global Architecture)」についても、これまでの1巡目で実現した「よりよいデザイン」「性能アップ」を維持しつつ、これからの2巡目では原価低減活動に取り組んでいると明かされた。

 今期の決算については、こうした地道で徹底した原価低減活動が少しずつ表面化してきたものであると語り、豊田氏は「たゆまぬ改善という『トヨタらしさ』があらわれはじめた決算」と総括している。

「TPS」と「原価低減」の取り組みにより、決算にも「トヨタらしさ」が現われはじめたという

「コネクティッドカーの市販車」を6月にお披露目

 これまでにも折に触れて説明してきた、自動車業界が直面している「100年に1度と言われる大変革の時代」に対する取り組みでは、ライバルとなる相手や競争のルールが変わったことから、豊田氏は「未知の世界での生死を賭けた闘いが始まっている」と表現。

 新しい競争相手である「テクノロジーカンパニー」はスピード感があり、豊富な資金を積極的に新技術に投資していると分析し、自分たちも新技術や新分野に対する投資を拡大するほか、トヨタグループに加えてマツダ、スズキといった同業他社、他業界まで含めたアライアンスを強化していく方向性を示した。このアライアンスは資本による規模の拡大が目的ではなく、よりよいモビリティ社会の実現を目指すものとしている。

 新技術については「電動化」「自動化」「コネクティッド化」が進むことでクルマの可能性が広がり、“トヨタの強み”がより活かされる時代になっていくと豊田氏は考えているという。

 これからの時代で求められることは、「必要とされるサービスを、必要なときに、必要なだけ提供する世界」と分析し、これはTPSにある「ジャストインタイム」に符合すると豊田氏は説明。ジャストインタイムを実現するためには車両がコネクティッド化されることに加え、「サービスを提供するメーカー、販売店、アライアンスパートナーの全てが無駄のないリーンなオペレーションでつながっていることが必要」と語り、販売店やモビリティサービスの現場でサービスを提供するリードタイムの大幅な短縮にチャレンジしていると紹介した。

 豊田氏は、トヨタの強みはTPSと原価低減の2つで、競争力であり、お家芸とも言えるこの2点を徹底的に磨くことは、日常的な競争を生き抜くだけでなく、未来を生き抜くためにこそ必要だとの考えを示した。

 また、次世代技術に対する取り組みは動画も使って説明され、この最後で「来月にコネクティッドカーの『市販車』をお披露目させていただきます」と予告している。

自身の「稼ぐ力」とアライアンスの強化によって「未知の世界での生死を賭けた闘い」に挑む
TPSと原価低減は「未来を生き抜くためにこそ必要」
6月に「コネクティッドカーの市販車」をお披露目する

サーキットレースからラリーに走り方を変える

 終盤で豊田氏は、「未知の世界での闘いに臨む決意」として、トヨタを「自動車をつくる会社」から「モビリティ・カンパニー」にモデルチェンジする決断をしたとコメント。モビリティ・カンパニーは移動に関わるあらゆるサービスを提供する会社であると位置付け、自動車業界が直面している「100年に1度と言われる大変革の時代」を「100年に1度の大チャンス」と捉え、「『従来の延長線上にある成り行きの未来』と決別し、『自分たちの手で切りひらく未来』を選択したことを意味します」と豊田氏は表現している。

 このモデルチェンジに向けた取り組みとして、トヨタでは2016年4月から「カンパニー制」を導入したほか、豊田氏が「私の中で最も大きな力となっている」というのが1月に実施した新しい役員体制だとコメント。

 2009年6月の社長就任からの8年間について、豊田氏は「サーキットレース」になぞらえて表現。これは「トヨタという巨大企業のドライバーズシートに1人で乗り込み、自分のセンサーを頼りに、お決まりのコースを速く走らせようとしていた気がする」とのことだが、現在の「未知の世界での生死を賭けた闘い」を勝ち抜くため、1月からの新体制では豊田氏と6人の副社長を中心とするマネージメントチームを編成。これを豊田氏は「サーキットレースからラリーに走り方を変えるという発想」と表現している。

 ドライバーとコドライバーが連携し、多彩に変化するコースを駈け抜けるラリーのように、カンパニープレジデントや副社長、各分野のエキスパートである社外取締役や役員がコドライバーとなり、より速くゴールを目指すやり方に転換するという

 最後に豊田氏は、トヨタ自動車の初代社長である豊田喜一郎氏が80年前にトヨタグループを織機からクルマを生産する企業に変化させた当時と現在が似ていると語り、「継承者こそ、挑戦者でなければならない」という覚悟を持って、失敗を恐れず何でも挑戦していくとの意気込みを述べた。

1月から豊田氏と6人の副社長を中心とするマネージメントチームを編成
新体制ではラリーのように、ドライバー(社長)とコドライバー(役員)が連携してゴールを目指す