ニュース

デンソー、顔認識にディープラーニングを利用したドライバーステータスモニター「DN-DSM」

居眠り運転等を検知し、バスやトラックに後付け可能

2018年5月15日 発表

ドライバーの居眠り運転等を検知して注意喚起するドライバーステータスモニターで、バスやトラックに後付け可能な「DN-DSM」のデモ

 デンソーは5月15日、トラックやバスなどに後付け可能なドライバーステータスモニター「DN-DSM」を発表した。車齢が長いバスやトラックといった大型の商用車のユーザーをターゲットにしており、価格はオープンプライスで取り付け工賃込みで10万円を想定している。同日より同社の販売チャネルおよびいすゞ自動車、日野自動車から販売が開始される。

 DN-DSMは赤外線カメラと本体から構成されており、カメラでドライバーをモニターし、本体側に内蔵されている半導体装置などを利用してマシンラーニング/ディープラーニングなどを活用しながらドライバーの脇見運転、居眠り運転、運転姿勢などを検出。問題があるときには音声でドライバーに警告することで、注意を喚起する仕組みになっている。また、警告があったときには画像として保存して、あとでPCアプリで確認が可能で、安全運転指導に役立てることが可能になっている。

デンソー、ドライバーステータスモニター「DN-DSM」デモ

車齢が長いバスやトラックなどの大型車向けに後付けできるようにしたシステム

 同日、東京都内の同社オフィスで行なわれた会見で、デンソー 常務役員 武内裕嗣氏は「デンソーは安全安心なクルマ社会を実現する取り組みを続けてきた。これまでは大気汚染や交通渋滞の問題などが課題だったが、情報化やビジネスモデルの変化などモビリティ社会全体でパラダイムシフトが起きている。デンソーとしてはいつもの安心・もしもの安全という2つのコンセプトを掲げて製品作りを行なっており、その中の1つとしてバス、トラックの事故が減らないと言うことで、ドライバーの疲れを検知して警告を出す後付けのドライバーステータスモニターを販売開始する」と述べ、今回のドライバーステータスモニターの販売を開始する背景を説明した。

株式会社デンソー 常務役員 武内裕嗣氏
タイトル
内容
2030年に向けた方針

 武内氏によれば、デンソーは通常時および危険時の「いつもの安心」という意味では、車間距離制御システム、レーンキープアシスト、ドライバーステータスモニター、出会頭衝突警報などの機能を提供しており、衝突前や衝突後の「もしもの安全」という意味では衝突回避ブレーキ、エアバッグ、ポップアップフード、緊急通報システムなどを提供しており、それらを実現する製品としては画像センサー、ミリ波レーダー、メーターなどの複数の製品を提供していると説明した。

デンソーの安心・安全コンセプト
安心・安全の機能例
製品とその役割

 次いで登壇したデンソー コネクティッドサービス事業推進部 部長 稲葉一郎氏が、今回発売したDN-DSMについての詳細を説明した。稲葉氏は「デンソーはこれまで自動車メーカーとの密接な連携で開発を進めてきており、今回発売するドライバーステータスモニターも日野自動車様、いすゞ自動車様、三菱ふそう様などでOEM採用されてきた。それを今回は既販車向けにも販売していく」と述べ、従来は新車装着されていたドライバーステータスモニターを後付けできるようにした製品が今回の製品だと説明した。

株式会社デンソー コネクティッドサービス事業推進部 部長 稲葉一郎氏
安全・安心を実現する製品

 その背景には、バスやトラックといった大型の商用車は、車齢が長く、安心・安全系の機器の装着率が低いということがあるという。近年販売された車両には、ADASやドライバーステータスモニターなどが装着されているが、車齢が長い車両に関してはそもそも装着されていないことがほとんどだ。しかし、近年は交通事故が起こると、それが幅広く報道されるなど社会的な影響も大きく、そうした車両を走らせる事業者にとっても安全、安心を確保することが喫緊の課題となっている。

大型車の事故で多いのは直線等速時

 そうした中で注目されているのが、走行中にドライバーの状態をモニタリングするドライバーステータスモニターのような製品だ。というのも、稲葉氏によれば「大型車の事故で多いのは、直進等速(筆者注:まっすぐな道を同じ速度で走ること)という状態で起きている」とのことで、その状態で起きる事故の原因がドライバーの脇見、閉眼(目を閉じしていること、いわゆる居眠り運転)、眠気、体位(ドライバーの急病や落としたスマートフォンを運転したまま無理に拾おうとするなど)などにあるという。そうした異常な状態をドライバーに警告するデバイスとして、ドライバーステータスモニターが今事業者に注目を集めているというのだ。

ドライバーの顔の動きをディープラーニングを利用して判別して高い精度を実現

 稲葉氏によれば、今回の製品は赤外線カメラと本体の2つのユニットになっているという。「カメラで顔認識を行ない、顔の位置や向き、開眼度などをチェックする。それを本体側で映像を顔認識を行なってドライバーの状況を推定し、異常状態を検知した場合には音声で警報を発する仕組みになっている」とのこと。カメラはメーターフードの上やAピラーなどに設置し、本体はシート下など別の場所に設置することが可能。さらに本体にはSDカードスロットが用意されており、異常事態が発生した時に静止画画像を記録していく。さらに製品はPC用のソフトウェアがバンドルされており、それを利用して運行終了後に運転中の情報をオフィスで確認したりということが可能になる。

2つのユニットに分かれている
SDカードに記録して利用できる

 稲葉氏によれば、同等のドライバーステータスモニターは既に日野自動車、いすゞ自動車、三菱ふそうトラック・バスの3社にOEM供給されており、3社が販売しているバスやトラックなどで採用されているという。

カメラユニット
本体

 また、そうした製品の評価用として取得した顔画像をデータベース化しており、それらを利用してデンソーのパートナーであるFotoNationと協業して、ディープラーニングを利用した画像認識技術を今回の製品にも利用しており、競合他社の製品に比べて高い精度の顔認識を実現したとしている。

赤く囲ったところが開眼率を示している。目が開いている時には100%、閉じていると0%に近いことが確認できる
ディープラーニングを利用している

 記者会見中に行なわれたデモでは、顔の中の62点を特徴点として検出して、ディープラーニングを利用した認識により、目の開眼度、顔の向きなどを高精度で検出できる様子が紹介された。なお、カメラの解像度はVGAで30fps、昼夜どちらでも認識できるように赤外線カメラになっているため画像はモノクロで、透過率12.5%程度のサングラスなどでも目の動きを追えることをターゲットに開発されており、ある程度までの透過率のサングラスであれば認識が可能ということだった。

記者会見中に行なわれたデモ
サングラスをかけても確認できるが、透過率が低いモノに関しては難しい。製品としての開発ターゲットは12.5%ぐらいを目指しているという

 現時点では単体製品となっており、データはSDカードに記録できるだけになっている。しかし、将来の製品ではセルラー回線を利用してクラウドと連携する新型テレマティックス端末や、富士通製のクラウド型デジタルタコグラフで連携できるようにする計画もあるという。稲葉氏によれば、それらの製品は今夏の投入が計画されている。

セルラー回線を利用したり、デジタルタコグラフとの連携した製品が今夏に投入される

 さらに稲葉氏は「現在はドライバーを見るというシステムになっているが、将来的にはドライバーを診る、つまりはドライバーの感情の状態なども判別できるようにしていきたい」と述べ、将来的には「ドライバー異常状態対応システムガイドライン」に対応するドライバーの状態を分析できるシステムや、感情の動きなどもモニタリングできるような製品を投入していきたいと説明した。

将来はもっと詳しくドライバーの状態を診断できるようなシステムも計画されている