ニュース
【インディ500 2018】フルコースコーション7回の荒れたレース、最後の最後に逆転してペンスキーの12号車 ウィル・パワー選手が初優勝
2018年5月28日 08:00
- 2018年5月27日(現地時間) 決勝開催
北米最高峰のモータースポーツ・シリーズとなる「インディカー・シリーズ」第6戦「第102回インディアナポリス500マイル・レース」(102ND RUNNING OF THE INDIANAPOLIS 500、通称インディ500)が、米国インディアナ州の州都インディアナポリス市のインディアナポリス・モーター・スピードウェイで5月15日~27日の12日間にわたって開催された。
最終日の5月27日には決勝レースが行なわれ、12号車 ウィル・パワー選手(チーム・ペンスキー、ダラーラ/シボレー/ファイアストン)がインディ500を初制覇した。2位は20号車 エド・カーペンター選手(エド・カーペンター・レーシング、ダラーラ/シボレー/ファイアストン)、3位は9号車 スコット・ディクソン選手(チップ・ガナッシ・レーシング、ダラーラ/ホンダ/ファイアストン)。
2017年のインディ500を制覇した30号車 佐藤琢磨選手(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング、ダラーラ/ホンダ/ファイアストン)は46周でリタイア、このレースが引退レースとなっていた13号車ダニカ・パトリック選手(エド・カーペンター・レーシング、ダラーラ/シボレー/ファイアストン)も67周でリタイアとなった。
序盤は大きな混乱なくほぼ予選の順位どおりに
第102回インディアナポリス500マイル・レースも、日曜日の朝から各種のイベントで始まっていった。11時からは、グリッドウォークが開始され、各車がグリッド上に整列。その後セレモニーが行なわれた。
30号車 佐藤琢磨選手(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング、ダラーラ/ホンダ/ファイアストン)は、16番グリッドにマシンを並べていると、本田技研工業株式会社 代表取締役社長 八郷隆弘氏、本田技研工業株式会社 モータースポーツ部長 山本雅司氏などホンダの首脳陣が登場し、佐藤選手を激励した。
現地時間12時には、国歌の独唱が行なわれた。国歌の斉唱を行なったのはケリー・クラークソンさんで、高らかに米国国歌の「The Star-Spangled Banner(星条旗)」を歌い上げた。その国歌が終わると同時にサーキットに飛来したのは、ステルス爆撃機 B-2。それを合図にしてグリッドからはゲストが退出していった。その後、インディアナポリス・モーター・スピードウェイのCEO トニー・ジョージ氏による恒例となっている「Lady and gentlemen, start your engines」のスタートコールがあり、その合図と同時に各車のエンジンに火が入り、フォーメーションラップへと続々とスタートしていった。
12時23分にグリーンフラッグが振られ、レースはスタート。基本的には全車予選順位どおりに1コーナーへと入っていき、特に大きな混乱もなく静かにスタートした。序盤のレースを引っ張ったのは、ポールポジションの20号車 エド・カーペンター選手(エド・カーペンター・レーシング、ダラーラ/シボレー/ファイアストン)。カーペンター選手は、予選2位以降の22号車 シモン・パジェノー選手(チーム・ペンスキー、ダラーラ/シボレー/ファイアストン)、12号車 ウィル・パワー選手(チーム・ペンスキー、ダラーラ/シボレー/ファイアストン)といったペンスキー勢をリードして序盤のほとんどをトップで周回した(最終的にカーペンター選手が最多ラップリードを獲得した)。
序盤は各車とも淡々と走っている状況で、追い抜きもほとんどない状態。これは近年のインディ500のレースでよく見られる光景で、中盤から終盤にかけてスパートをかけるという展開が一般的だ。このため、今回のレースも30周ぐらいまで動きはみな淡々と走っていた。30周あたりからは、ルーティンのピットストップが始まり、上位勢も徐々にピットに入っていった。
この1回目のピットストップ後に、大きく順位を上げていたのが14号車 トニー・カナーン選手(A.J.フォイト・エンタープライゼス、ダラーラ/シボレー/ファイアストン)。10位からスタートしたカナーン選手は、ほかに先駆けてピットストップを行なうと、チームの迅速な作業といち早くタイヤを交換したことによりタイムを上げることに成功して、上位陣が全員ピットストップを終えると、トップのカーペンター選手に次ぐ2位に上がっていたのだ。
佐藤琢磨選手、ダニカ・パトリック選手、セバスチャン・ブルデー選手、エリオ・カストロネベス選手など有力どころが相次いでクラッシュしてリタイア
そのまま2回目のピットストップになるのか思われたが、47周目には日本のファンにとっては目を覆いたい光景が現出した。佐藤琢磨選手がターン4のイン側にマシンをクラッシュさせた状態で止まっていたのだ。トップ集団の一番最後を走っていた佐藤選手だったが、周回遅れの33号車 ジェームス・デービソン選手(フォイト・バード・ホリンガー・ベラディ、ダラーラ/シボレー/ファイアストン)が、アウト側から予期せぬ動きでイン側に降りてきて行く手を塞ぎ、速度差がありすぎて何もすることができなかった佐藤選手はデービソン選手のマシンのリアに右フロントを突っ込むしかなく、イン側にマシンを停止することになった。これにより、佐藤選手はリタイアに終わってしまった。
だが、クラッシュの連鎖はこれで終わらなかった。レースが再開されたのは55周目。ところが3周後の58周目には、10号車 エド・ジョーンズ選手(チップ・ガナッシ・レーシング、ダラーラ/ホンダ/ファイアストン)がターン2で外側の壁にクラッシュ。さらにそのフルコースイエローが解除された後の68周目に、今回がレーシングドライバーからの引退レースとして参戦している13号車ダニカ・パトリック選手(エド・カーペンター・レーシング、ダラーラ/シボレー/ファイアストン)も同じターン2でクラッシュし、再びフルコースイエローになった。
そうした中で、依然としてトップはエド・カーペンター選手とトニー・カナーン選手が争っており、それにシモン・パジェノー選手、ウィル・パワー選手といったペンスキー勢が追いかける展開となってきた。ところが、91周目にアンダーグリーン(通常の走行状態のこと)でのピットストップを行なったカナーン選手だが、それからすぐにもう一度ピットインすることになり、予想外の周回遅れとなり、トップ争いから大きく後退することになってしまった。
クラッシュの連鎖はその後も止まらなかった。138周目には、予選ではホンダ勢トップの5位を獲得した18号車 セバスチャン・ブルデー選手(デイル・コイン・レーシング/バッサー-サリバン、ダラーラ/ホンダ/ファイアストン)がターン4でスナップと呼ばれるいきなり車がスピンする状態になり、そのまま外側の壁にクラッシュ、再びフルコースイエローとなる。
さらに、それが解除された直後の153周目に、今度は今シーズンはこのインディ500にだけ参戦する3号車 エリオ・カストロネベス選手(チーム・ペンスキー、ダラーラ/シボレー/ファイアストン)がターン4でスピンして、ピットエントリーの壁に激突してクラッシュして車を停めた。だが、いずれもドライバーは自力で降りてけがなどはなかったのは良いニュースだが、二人とも上位を走っていただけに、残念な結果に終わってしまった。
終盤は燃費を節約してフルコースイエローが出ることにかけたホンダ勢が上位に来るが、最後の最後で燃料が足りなくなり、ペンスキーのパワー選手が逆転優勝
このように、序盤はほとんどフルコースイエローは出ていなかったのだが、47周目に発生した佐藤琢磨選手とデービソン選手のクラッシュを皮切りに、ここまでで実に6回のフルコースイエローが出ており、それが多くのドライバーの作戦に影響を与えることになった。
特に153周目に発生したカストロネベス選手のクラッシュによるフルコースイエローは160周目まで続いており、200周のレースをゴールするまであと1回の給油で足りる周回に近づきつつあった。
ここでギャンブルに出たのが、シボレー勢よりも燃費がよいとされているホンダ勢。64号車 オリオール・セルビア選手(スクーデリア・コルサ with レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング、ダラーラ/ホンダ/ファイアストン)、25号車 ステファン・ウィルソン選手(アンドレッティ・オートスポート、ダラーラ/ホンダ/ファイアストン)、60号車 ジャック・ハーベイ(メイヤーシャークレーシング、ダラーラ/ホンダ/ファイアストン)の3台がフルコースイエローの間にピットストップを行ない、燃料補給とタイヤ交換を行なった。
それに続いたのが、ホンダ勢の中でも上位を走っていた9号車 スコット・ディクソン選手(チップ・ガナッシ・レーシング、ダラーラ/ホンダ/ファイアストン)。ディクソン選手はセルビア選手以下の3台よりは遅く、グリーンがでるギリギリにピットに入ることで、より燃料に余裕を持たせようという作戦に出た。これにより3選手よりは後ろになるが、燃料的には余裕ができ、よりゴールまで届く可能性が高くなる。ただ、どちらにせよ、フルコースイエローがもう1度出て、かつそれなりに長く出ていない限りは、ゴールできないので、ギャンブルということになる。
上位勢が170周前後に最後のピットストップを終えてみると、1位から4位をセルビア選手、ウィルソン選手、ハーベイ選手、ディクソン選手の4名のホンダドライバーが占めた。5位は通常どおりの給油作業を行なったウィル・パワー選手、6位がエド・カーペンター選手となっており、そうした通常のピットストップの選手とギャンブルに出た4台の争いとなった。
そしてチェッカーフラッグまで残り12周となった188周目に、周回遅れからラップバックしていたトニー・カナーン選手がターン4の内側にスピンしてクラッシュ。これにより再びフルコースイエローが出されることになった。このイエローまでに5位を走っていたパワー選手は、燃費走行に徹していたディクソン選手を抜いており、残り7周でレースが再開された時にはセルビア選手、ウィルソン選手、ハーベイ選手のトップ3と、ディクソン選手を抜いて4位に上がっていたパワー選手の戦いに絞られた。
残り7周でレースが再開されると最初に脱落したのは、トップを走っていたセルビア選手。セルビア選手は、2位を走っていたウィルソン選手、ハーベイ選手に抜かれ、パワー選手に抜かれてしまったのだ(後にセルビア選手はピットでスプラッシュ&ゴーを行ない、最終的に17位完走)。これでレースの焦点はトップを走るウィルソン選手とハーベイ選手が、パワー選手に抜かれないかに移っていった。
このまま最終周まで3台の争いになるのかと思われていた残り6周、トップを走っていたウィルソン選手とハーベイ選手が同時にピットに向かい、スプラッシュ&ゴーを行ない、トップ争いからは脱落することになり、満員のスタンドからは大きなため息が漏れる結果となった。
この結果トップにたったパワー選手は、安定した走行で残り数周をこなし、ファイナルラップを示すホワイトフラッグが振られると、そのままゴールへなだれ込んだ。
2014年のインディカー・シリーズのチャンピオンであるウィル・パワー選手は、インディ500初優勝。ポディウムでは伝統の牛乳を飲み干し、優勝を祝った。パワー選手はインディカー・シリーズに2008年から参戦しており、実に28勝という勝利を刻んできたが、これまでインディ500の勝利には縁がなかった(これまでの最上位は2015年の2位)。それだけに11回目の挑戦でついに初優勝をゲットしたこともあり、普段は優勝しても喜びをあまり表情に出さないパワー選手が珍しくエキサイトして喜んでいたのが印象的だった。
なお、2位はエド・カーペンター選手、3位はスコット・ディクソン選手、4位は27号車 アレクサンダー・ロッシ選手(アンドレッティ・オートスポート、ダラーラ/ホンダ/ファイアストン)、5位は28号車 ライアン・ハンター・レイ選手(アンドレッティ・オートスポート、ダラーラ/ホンダ/ファイアストン)となった。
順位 | カーナンバー | ドライバー | マシン | 予選順位 | 周回数 | タイム | ラップリード | 平均速度(mph、マイル/h) | ピットストップ回数 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 12 | ウィル・パワー | D/C/F | 3 | 200 | 02時間59分42秒6365 | 59 | 166.935 | 5 |
2 | 20 | エド・カーペンター | D/C/F | 1 | 200 | 02時間59分45秒7954 | 65 | 166.886 | 5 |
3 | 9 | スコット・ディクソン | D/H/F | 9 | 200 | 02時間59分47秒2293 | - | 166.864 | 5 |
4 | 27 | アレクサンダー・ロッシ | D/H/F | 32 | 200 | 02時間59分47秒8602 | 1 | 166.854 | 5 |
5 | 28 | ライアン・ハンター・レイ | D/H/F | 14 | 200 | 02時間59分49秒3552 | 1 | 166.831 | 5 |
6 | 22 | シモン・パジェノー | D/C/F | 2 | 200 | 02時間59分49秒8722 | 1 | 166.823 | 5 |
7 | 29 | カルロス・ムニョス | D/C/F | 21 | 200 | 02時間59分50秒4742 | 4 | 166.814 | 6 |
8 | 1 | ジョセフ・ニューガーデン | D/C/F | 4 | 200 | 02時間59分51秒3282 | 3 | 166.801 | 6 |
9 | 6 | ロバート・ウィッケンス | D/H/F | 18 | 200 | 02時間59分51秒9477 | 2 | 166.791 | 7 |
10 | 15 | グラハム・レイホール | D/H/F | 30 | 200 | 02時間59分53秒9733 | 12 | 166.76 | 6 |
11 | 66 | JR・ヒルデブランド | D/C/F | 27 | 200 | 02時間59分55秒3719 | - | 166.738 | 6 |
12 | 98 | マルコ・アンドレッティ | D/H/F | 12 | 200 | 02時間59分56秒7110 | - | 166.717 | 5 |
13 | 4 | マセアス・リースト | D/C/F | 11 | 200 | 02時間59分57秒4163 | - | 166.707 | 5 |
14 | 88 | ギャビー・チャベス | D/C/F | 22 | 200 | 02時間59分57秒7538 | - | 166.701 | 8 |
15 | 25 | ステファン・ウィルソン | D/H/F | 23 | 200 | 03時間00分16秒3112 | 3 | 166.415 | 7 |
16 | 60 | ジャック・ハーベイ | D/H/F | 31 | 200 | 03時間00分17秒4335 | - | 166.398 | 6 |
17 | 64 | オリオール・セルビア | D/H/F | 26 | 200 | 03時間00分20秒8690 | 16 | 166.345 | 6 |
18 | 23 | チャーリー・キンボール | D/C/F | 15 | 200 | 03時間00分24秒1511 | - | 166.295 | 7 |
19 | 19 | ザカリー・クラマン・デメロ | D/H/F | 13 | 199 | 02時間59分49秒2188 | 7 | 165.999 | 6 |
20 | 21 | スペンサー・ピゴット | D/C/F | 6 | 199 | 02時間59分59秒1900 | 3 | 165.846 | 8 |
21 | 17 | コナー・デイリー | D/H/F | 33 | 199 | 02時間59分59秒4427 | - | 165.842 | 9 |
22 | 59 | マックス・チルトン | D/C/F | 20 | 198 | 02時間59分45秒1374 | - | 165.227 | 10 |
23 | 26 | ザック・ビーチ | D/H/F | 25 | 198 | 02時間59分58秒8515 | - | 165.018 | 10 |
24 | 7 | ジェイ・ハワード | D/H/F | 28 | 193 | 03時間00分06秒7051 | - | 160.734 | 10 |
25 | 14 | トニー・カナーン | D/C/F | 10 | 187 | 02時間46分33秒3320 | 19 | 168.412 | 7 |
26 | 24 | セイジ・カラム | D/C/F | 24 | 154 | 02時間17分26秒1051 | - | 168.079 | 4 |
27 | 3 | エリオ・カストロネベス | D/C/F | 8 | 145 | 02時間05分39秒2220 | - | 173.095 | 4 |
28 | 18 | セバスチャン・ブルデー | D/H/F | 5 | 137 | 01時間54分11秒9678 | 4 | 179.948 | 4 |
29 | 32 | カイル・カイザー | D/C/F | 17 | 110 | 01時間41分09秒9208 | - | 163.099 | 5 |
30 | 13 | ダニカ・パトリック | D/C/F | 7 | 67 | 59分17秒4546 | - | 169.503 | 2 |
31 | 10 | エド・ジョーンズ | D/H/F | 29 | 57 | 47分48秒7882 | - | 178.821 | 2 |
32 | 30 | 佐藤琢磨 | D/H/F | 16 | 46 | 32分49秒6151 | - | 210.193 | 1 |
33 | 33 | ジェームス・デービソン | D/C/F | 19 | 45 | 32分45秒4848 | - | 206.056 | 1 |
※D=ダラーラ、C=シボレー、H=ホンダ、F=ファイアストン