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アウディ、新型「A8」のデザインについて、独アウディ AG エクステリア デザイナーのアマール・ファヤ氏に聞く

A8の持つ高級感や、アウディの先進性を表現するデザインとは

アウディ AG エクステリア デザイナーのアマール・ファヤ氏に、新型「A8」のデザインについて聞いた

 アウディ ジャパンは9月5日、フルモデルチェンジして10月15日に発売するフラグシップセダン「A8」の発表会を開催した。この発表会でもプレゼンテーションを行なったアウディ AG エクステリア デザイナー アマール・ファヤ氏のインタビューをお届けする。

 新型A8の概要については「アウディ、量産車で世界初のレーザースキャナーを使う『zFAS』搭載の新型『A8』」「アウディ、レーザースキャナーなど最大23個のセンサー搭載で安全性を高めた新型『A7』『A8』発表会」に詳しいが、第4世代となる今回のA8は、量産車として世界初となるレーザースキャナーを車両のフロント部分に1基搭載し、このほかにもミリ波レーダー、カメラセンサー、超音波センサーなど最大23個のセンサーと「zFAS」を搭載して、レベル3の条件付き自動運転システムを可能にするべく開発が行なわれた。なお、レベル3自動運転となる「アウディ AI トラフィックジャムパイロット」は、国際的な技術認証や道路交通法の改正の関係で日本を含むいずれの市場でも導入はされていない。

量産車で世界で初めてレーザースキャナーを搭載して、レベル3の条件付き自動運転システムを可能にするべく開発された新型A8

 価格は、V型6気筒 3.0リッター直噴ターボエンジンを搭載する「A8 55 TFSI quattro」が1140万円、V型8気筒 4.0リッター直噴ターボエンジンを搭載する「A8 60 TFSI quattro」が1510万円、ロングモデルの「A8 L 60 TFSI quattro」が1640万円。


アウディ AG エクステリア デザイナーのアマール・ファヤ氏

――今回、初めて担当としてデザインしたのがA8ということですが、それまでは具体的にどういった仕事をされていましたか?

アマール・ファヤ氏:4年半くらい前にアウディに入社したのですが、その前の1年間も従業員ではない立場でアウディに関わっていました。入社してからはずっと今回のA8を担当しています。

――アウディのフラグシップとなるA8ですが、その担当を命じられたときはどのような気持ちになりましたか?

ファヤ氏:Great! 素晴らしかったのひと言です。トップの非常に重要なクルマなので嬉しかったですし、いろんな意味でリーダーだと思います。実は競争して勝ち取った役職でもありますので、初めてのプロジェクトだったのですが、素晴らしいプロジェクトに関われました。

――競争というのは具体的にどのようなものでしょうか?

ファヤ氏:オープンな競争なので、希望すれば誰でも競争に参加することができます。A8の競争に参加する人たちが選ばれて、全員がモデルを作ります。そこで最後まで残ればプロジェクトとしてそのクルマを仕上げるということになり、私は最後まで残れました。今回は私のものも含めて6個ありました。場合によってはそれより多いこともあれば少ないこともあって、モデルの数はまちまちです。

――選考の6個のモデルは、チームとして残ったということでしょうか?

ファヤ氏:そうですね。別々の6チームでした。(プロジェクトに参加した中では)年齢が非常に若かったので、どちらかというとサポート役として入りました。リーダーの方たちがいろんなデザインを開発しているのをなるべく学んで、そこから吸収しようとサポート的な役割で働いていました。

 今回は、スケッチをしてからモデルを作ったのですが、選考で残ったスケッチはそのままモデルにならない場合ももちろんあります。なにか問題があって、デザインが変わってモデルになってしまうものもありますし、元々モデルになれないものもあります。

 元々、A8は“こうしたい”という明確なビジョンがありましたので、それを学んでやり直すユニークなプロセスを辿りました。A8、A7、A6はプロローグ コンセプトカーが最初にあったわけではなく、作業の途中でできたのです。プロローグ コンセプトカーはまったく制限なく自由にできるのではなく、「このように作るぞ」という比較的現実に作られるものを想定したクルマでした。

プロローグ コンセプトカーを元にA8、A7、A6ができたという流れではなく、すでにA8、A7、A6というクルマがあり、そのプロセスの中でプロローグ コンセプトカーができてくるという同時進行というアプローチの仕方で、これまでのデザインプロセスとは異なる方法だったという

――デザインをするときは色もイメージして総合してデザインするのでしょうか?

ファヤ氏:もちろん色を考えながら、いろいろと遊びながらスケッチを作っていきます。スケッチをしていろんな色を試してみて、また新しいスケッチができたらまた新しい色に変えて遊んでみるというように、いろんな色を見ます。

――最初にデザインスケッチを描いたときには何色をイメージされたのでしょうか?

ファヤ氏:シルバーです。とても明るくて、ほとんど白っぽいと言えるようなシルバーでした。というのも、モデルを作る時にはシルバーを使うからです。表面的なデザインがどのように表われるのかを分析するには、シルバーが最も分かりやすいからです。逆に、モデルを例えば黒で作ってしまうと、詳細が全部消えてしまいます。ですので、モデルをシルバーで製作するため、シルバーでデザインをしたということでもあります。

――最初に作ったA8のモデルはどれぐらい生かされているのでしょうか?

ファヤ氏:例えばグリルですが、和田智さんのデザインに基づいて開発したのが新しいグリルで、もっと幅広にプロポーションを上げていこうとしました。そして、角度を入れました。こうなるとグリルがとても大きくなりますし、同時にヘッドライトのレンズ部分も大きくなります。斜めの部分があることによって、スペース的にとてもうまくはまりました。このコンセプトは最初に製作したモデルからありました。もちろん、いつも必ずこういった最初に考えたコンセプトが残るわけではありません。まったくなくなってしまうこともあります。ダイナミックで柔軟性を持ってやらなければなりませんので、ルールがあってはいけないのです。なので、どのぐらい(最初のデザインが)残るかはそのときによって違います。

インタビューに参加している記者のノートとペンを借りて、ファヤ氏がグリルのデザインをサラサラと描き上げて説明をする場面もあった

――スケッチのデザインで、1番大事なものは何でしょうか?

ファヤ氏:スケッチのフィーリング、感覚が非常に重要だと思っています。もちろんいろんなラインがあるのですが、それがどういうふうにどうなっているというよりは、感覚的なフィーリングがとても重要です。すごくフィーリングが詰まっていて、これはいい感覚だと思ったときは、これはより極めていかないといけないというメッセージがそこから返ってきているようなものだと思うので、デザイナーとしてはそういったメッセージを元にやるのが重要だと思います。

――そのフィーリングというのはクルマによっても違うと思うのですが、A8として大事なフィーリングはどういうものでしょうか?

ファヤ氏:洗練されているモデルということでもありますし、将来に向けて前進しているようなモデルであること、また、非常に品質もよく、ラグジュアリーで豪華な感じも必要だと思います。

――A8で先進性を最も強くデザインした部分はどこになりますか?

ファヤ氏:ライトが未来感を出すのに重要だと思い、すごくパワフルな、将来に向かう先進性を表わしました。また、ボディの表面ですが、かなり詳細な表現、例えばシャープなラインなども表現できるようになってきているので、表面の仕上げも未来感を表わしていると思います。

 1台のクルマを仕上げるのに、ライトもそうですし、ボディもそうですし、ホイールとか色とかも全部一体感があるかというのを、責任を持ってまとめ上げるのが私の役割です。

A8の先進性はライトなどで表現

――ボディラインで具体的に重要なポイントはどこでしょうか?

ファヤ氏:主となるラインの1つはウィンドウの下部にあるベルトラインです。あと、ショルダーラインも重要です。これらのラインで、かなりイメージが変わってしまいます。例えば角度を付けると前のめりになりますし、逆だとリラックス感も出ます。アウディとしては中立な形にバランスよくやろうと思っています。

 また、キャビンの位置も重要です。あとは真横から前後のバンパーを見たときの角度です。A8はフロントが直角に近くて、リアは斜めに角度がついています。そうなると動いている感じが強く出ます。前後ともにまっすぐで箱形だとまったく動いていない、止まっているような感じを受けます。形などでどういった印象が出てくるかというのをいろいろと見るのが私の仕事です。

真横から見るとベルトラインやショルダーラインは見えないが、フロントバンパーは直角で、リアバンパーは斜めに角度が付いていて、後ろから押されているような印象になっている
インタビュー中には実車が近くになかったので、ファヤ氏はカタログの表紙を使ってリアバンパーの角度について説明した。このカタログのスケッチはファヤ氏が描いたものだという

――ハイエンドモデルとしての高級感、プレミアム感はどのように演出されたのでしょうか?

ファヤ氏:アウディが持つブランドとしてのスポーティさや信頼性といったものは全部出そうと思いました。プレミアム感はいろいろな意味があると思うのですが、アウディに乗っているお客さまであれば、スポーティとか信頼性とかを全部持っているということがその人にとってのプレミアムになると思うのです。なので、洗練されているとか、先進的であるとか、スポーティとか、ラグジュアリーというのを全部まとめて1つのデザインに合わせたのがA8と言えると思います。

――トータルでセットということですね。

ファヤ氏:優先順位としてこれは1番重要だと決められなくて全部同等に重要なので、全部一緒にしてます。

――最後に、ご自身で気に入っているポイントはどちらでしょうか?

ファヤ氏:リアのデザインです。非常に洗練されたフィーリングで、ライトバンドがとてもいいと思います。リアの幅いっぱいにライトバンドがあるのはアウディとして初めてなのですが、それを量産できてとても誇りに思っています。デザインの中で1番強い部分だと思います。

ファヤ氏が最も気に入っているというリアのデザイン。オプションの「HDマトリクスLEDヘッドライト アウディレーザーライトパッケージ」を選択することで、光のアニメーション演出を行なうカミングホーム/リービングホーム機能を備えたLEDランプがリアの幅いっぱいに装着される