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トヨタ、オープンソース手法を活用して自動運転用の高精度マップ「AMP」作成へ

「各社が無償で利用可能」と、TRI-AD マンダリ・カレシー氏

2019年1月30日 発表

トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント株式会社 自動運転担当副社長 マンダリ・カレシー氏

 トヨタ自動車、デンソー、アイシンの3社によるジョイントベンチャーとして設立されたトヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(Toyota Research Institute-Advanced Development, Inc、以下TRI-AD)は1月30日、東京 日本橋にある同社本社内において自動運転ワークショップを開催し、同社がトヨタ向けに開発している自動運転技術などについて説明を行なった(関連記事:トヨタの自動運転ソフトウェア開発を担う「TRI-AD」がワークショップ)。

 TRI-AD 自動運転担当副社長 マンダリ・カレシー氏は「われわれはAMPと呼ばれるプラットフォームをグローバルに導入する。そこにはトヨタ自動車だけでなく、他の自動車メーカー、さらにはスマートフォンベンダーなども参加可能で、参加したベンダーが提供したプローブデータやセンサーデータを皆で共有し、高精度マップを作り上げていき、それを各社が無償で利用できるようにする」と述べ、今後はTRI-AD、そしてTRI-ADが開発したソフトウェアを生産車に搭載していくトヨタ自動車が、オープンソース的な手法を活用しながら高精度マップを作り上げていく意向であると説明した。

新しい地図作成のビジョンとなるAMP

参加企業がプローブデータを持ち寄って高精度マップをオープンに作る取り組み

 カレシー氏は「自動運転には高精度マップが必要になる。それがなければ自動車は目をつぶって運転しているようなものだ」と述べ、より安全な自動車を実現するには正確な高精度マップが必要になると説明した。

正確な地図がなければ自動車は走ることができない
自動運転車では高精度マップが重要になる
地図を作ることは難しくないがメンテナンスが大変

 そして「高精度マップをメンテナンスするのは非常に大変だ。道路の状況は日々変わっており、それを更新し続けていく必要があるが膨大な作業だ」と述べ、高精度マップは作るのも大変だが、それと同時に日々メンテナンスを続けていくことが必要で、それがサプライヤーや自動車メーカーにとって負担になると指摘した。

Automated Mapping Platform(AMP)
AMPの特徴
自動的に地図を生成していく
グローバルに地図を作成する

 そこでカレシー氏は「われわれは高精度マップの作成にAutomated Mapping Platform(AMP)という新しい仕組みを導入する。このAMPではHDマップの開発はオープンなソフトウェアプラットフォーム上で行なわれ、グルーバル規模の仕組みになり、自動車メーカーなどから提供されるセンサーデータを元に日々アップデートされていく」と述べ、従来のように地図ベンダーが地図データを提供していくという現行の仕組みではなく、自動車メーカーなどが自動運転車やADAS搭載車両などから得たセンサーからのプルーブデータ(カメラ、レーダー、LiDARなど)を持ち寄ってそれを元に高精度マップを作り、その成果をAMPに参加している自動車メーカーやサプライヤーなどが共有するという、一種のオープンソース的な手法で高精度マップを作っていくと説明した。

AMPのアーキテクチャ

 カレシー氏によれば「現在のやり方では10年間で1台あたり数百ドルのコストがかかる計算になるが、オープンな取り組みで行なっていけば、開発費と併せて削減することができる。また、現在の高精度マップは主に高速道路をカバーしているが、AMPでは住宅地などもカバーすることができる。また、自動車からアップデートされてくるプルーブデータを利用して日々アップデートすることが可能だ」と述べ、現在業界で一般的に行なわれている地図ベンダーによる自動運転向けの高精度マップの提供との違いを説明した。

 カレシー氏は「この取り組みはトヨタ自動車だけでなく、他の自動車メーカー、さらにはスマートフォン関連のベンダーも参加できる。どこかに偏って行なわれる仕組みではなく、中立に参加を希望するベンダーは参加できるようにする」と述べ、トヨタだけでなく競合の自動車メーカー、さらにはスマートフォンのメーカーなども含めて参加できるようにして、プルーブデータを増やしていくことで、高精度マップを充実させていくと狙いを説明した。

AMPと現在の地図ベンダーの地図は共存できる。今後はREMなどの他陣営との囲い込み競争が発生か

 質疑応答の中でカレシー氏は「このAMPの仕組みは、現在の地図ベンダーが行なっているビジネスモデルを否定するものではない。AMPと現行の高精度マップは並び立つことが可能で、例えば高速道路には現在の地図ベンダーの地図を利用し、住宅地はAMPの取り組みで作られた地図を使うということも可能だ」と述べ、AMPが決して現行の地図ベンダーのビジネスを否定するモノではなく、共存は可能だと強調した。

みんなのための高精度マップ

 現在、自動車業界ではレベル3以上の自動車による自律的な自動運転の実現に向けて、高精度マップの作成が課題になっている。日本では自動車メーカーや地図ベンダーなどが共同出資したダイナミックマップ基盤(DMP)による高速道路の高精度マップ作成が進んでおり、日本で発売されることになる高精度マップはDMPに基づいたモノになると考えられている。2020年代前半に登場する見通しのレベル3の自動運転車はまずは高速道路限定となることが想定されており、DMPが準備する高精度地図でカバーできるのだが、その先の住宅地での自動運転などを実現するには別の高精度マップをどうするかというのが、今後議論されていくことになる。今回のTRI-ADが説明したAMPは、その候補の1つということになるだろう。

 また、グローバルに見ると、同じような取り組みを行なっている他陣営もある。例えば、Intel傘下のMobileyeが提案するREM(Road Experience Management)はその1つで、ドイツのフォルクスワーゲン、BMW、日本の日産自動車などが参加することを明らかにしている。TRI-ADが提案したAMPはそれに対抗するモノとなっていく可能性が高く、今後他の自動車メーカーの参加の可能性も含めて、合従連衡が行なわれていくことになるのではないだろうか。