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トヨタのAI開発会社 TRI-AD、「“トヨタ生産方式”のソフトウェア開発を実現する」とジェームス・カフナーCEO

自社開発プラットフォーム「Arene」を公開

2019年12月17日 開催

TRI-ADのオープニング記念会見で説明を行なうトヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント株式会社 CEO ジェームス・カフナー氏

 トヨタ自動車、デンソー、アイシン精機の3社による合弁企業となるTRI-AD(トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント)は12月17日、東京都中央区日本橋にある同社の新オフィスを報道関係者に対して公開した。

 TRI-ADは、トヨタなどに向けた自動運転のソフトウェアを開発する企業として、2018年3月にトヨタ、デンソー、アイシンの3社が出資して設立。7月から日本橋室町にある新オフィスに移転を開始して、同日から本格的に稼働を開始した。

 報道公開の中で、TRI-AD CEO ジェームス・カフナー氏がプレゼンテーションを実施。そのほかにもTRI-ADは、オフィスを紹介する中で同社が自動車のソフトウェアを開発するために利用している統合プラットフォーム「Arene」の存在を公開し、それを利用した自動運転シミュレーターなどを披露した。

TRI-AD オープニングキーノート(21分44秒)

将来の従業員増を見越した余裕ある作りのTRI-AD新オフィス

TRI-AD新オフィスがある20階のレイアウト模型。一番手前が「エキシビション」で、奥側が社食スペース

 TRI-ADの新オフィスは、東京都中央区日本橋の「日本橋室町三井タワー」というビルにあり、16階~20階がTRI-ADのオフィスとなっている。カフナーCEOによれば「現在の社員は契約社員を入れて600名前後だが、オフィス自体は1200人程度まで働くことを見越して作ってある」とのことで、かなり余裕を持った設計になっているという。

 今回公開されたのは20階にある会議室・社食ゾーンと18階のオフィスゾーンの2か所。20階の会議室ゾーンには、複数の会議室とエキシビション(展示会場の意味)が用意されており、エキシビションには7台のプロジェクターで構成される3×30m(縦×横)の大型スクリーンを設置。TRI-ADのビジョンなどの説明に活用される予定とのこと。また、このエキシビションでは18歳以下の若者を対象とした競技会形式の産学連携AI(人工知能)教育プロジェクト「U-18シンギュラリティバトルクエスト」の会場としても利用されるという。

エキシビションに向かう廊下は、日本橋にちなんで橋をイメージしたデザインとなっている
社員有志による太鼓のパフォーマンスでお出迎え
エキシビションで示された日本橋という場所にこだわったメッセージ
2020年1月に行なわれる「U-18シンギュラリティバトルクエスト」の会場にもなる予定

 社食には複数のレストランが用意されており、丼物、パンなどさまざまなメニューをラインアップ。支払いは電子マネーなどで行なえる。また、畳敷きの会議室も用意されており、その見た目はどちらかと言えば「茶室」という趣だ。

社食にはさまざまなレストランが用意され、支払いは電子マネーなどで行なえる

ソフトウェア開発でも「トヨタ生産方式」を実現していくとカフナーCEO

トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント株式会社 CEO ジェームス・カフナー氏

 こうして和洋折衷のようになっているTRI-ADのオフィスだが、カフナーCEOによれば「TRI-ADは次世代モビリティのためのテクノロジーを開発する会社だ。日本橋は400年にわたり、安全、快適で効率のいい移動手段を提供してきた場所であり、日本の中心でもある。その日本橋にオフィスを設けたのは、日本の、そして世界のモビリティの中心になりたいという思いがあってのことだ」と述べた。

TPS(トヨタ生産方式)によるソフトウェア開発

 その上で「われわれのミッションは世界一安全なクルマを実現するソフトウェアを開発することだ。現代の自動車ではソフトウェア開発の比重がどんどん上がっており、ハードウェアを開発することとは異なる、ソフトウェアに適した正しいプロセスや正しいやり方が必要だ。そのために、トヨタ生産方式によるソフトウェア開発を実現していく」と説明。トヨタのやり方と、カフナー氏がかつて在籍していたGoogleのようなシリコンバレーのソフトウェア開発の手法をミックスして、最先端で信頼性が高い自動車用ソフトウェアの開発を迅速に行なっていくと述べた。

カフナー氏の解説で使われたスライド
トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント株式会社 COO 虫上広志氏

 TRI-AD COO(最高執行責任者)虫上広志氏は「TRI-ADという会社は、シリコンバレー式のアジャイル開発と日本のもの作りに橋を架ける。それが企業文化だ。このため、生産性の高いソフトウェア開発を目指しており、8人で1つのスクラムというチームを作り、2週間を1つの期間として区切ってソフトウェアを開発している」と語り、TRI-ADの具体的なソフトウェア開発の手法を説明した。

虫上氏の解説で使われたスライド

TRI-ADが開発している自動運転車の特徴は「知性」「知覚」「信頼性」「インタラクティブ」「アップグレード」の5つ

トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント株式会社 CTO 鯉渕健氏

 TRI-AD CTO(最高技術責任者)鯉渕健氏は、TRI-ADの自動運転向けソフトウェアの開発状況について、乗用車と業務用車両(ロボットタクシーなど)に分けて説明した。

 まず、トヨタが2020年に発売を予定する車両のプロトタイプカーをテストする動画を紹介。首都高速道路で自動運転を有効にすると、本線に合流して車線を変更し、出口に向かうまでの走行を自動運転で行なう様子が動画内で確認できた。

TRI-ADによる自動運転開発の現状を紹介する動画

 鯉渕CTOは、TRI-ADがソフトウェア開発を担当している自動運転車両の特徴は5つあると説明。それは「知性」「知覚」「信頼性」「インタラクティブ」「アップグレード」の5つであり、そうした自動運転の実現を目指していると説明した。

インテリジェント(知性):高い演算性能に支えられたAI
パーセプティブ(知覚):最新のLiDERセンサーなどによる360度の状況把握
リライアブル(信頼性):電源、ブレーキ、アルゴリズムなども含めて冗長性を確保
インタラクティブ:トヨタが掲げる「モビリティ チームメイト コンセプト」に基づくHMIの実現
アップグレーダブル:OTAによりソフトウェアをインターネット経由でアップグレードする
TRI プラットフォーム 4

 また、業務用車両の開発に関しては、米国 ミシガン州 アナーバで実証実験している車両のビデオを公開し、「すでに『プラットフォーム 4」と呼ばれる最新システムを搭載しており、これは乗用車よりひと桁上の演算性能を持っていて、次世代のLiDERを含んでいる。屋根に乗せられているセンサーは信頼性のため水冷式になっている」と述べ、乗用車向けよりも進んだシステムを搭載し、本格的なMaaS社会の実現を目指して、2020年に東京 お台場でデモ走行できるように開発を進めていると明らかにした。

「Arene」でさまざまな自動運転ソフトウェアを開発

TRI-ADのオフィス内には周回路が用意され、そこをロボットやパーソナルモビリティが動いている

 そして18階にあるオフィスエリアでは、TRI-ADのソフトウェア開発の様子が公開された。虫上COOによれば「オフィスを1周するようにコースがあり、そこをパーソナルモビリティが走れるようにしている」とのことで、オフィス内としては珍しいロボットやパーソナルモビリティ向けのコースを用意。フロアを1周するコースで社員がパーソナルモビリティに乗って移動したり、ロボットが勝手に動きまわったりしていた。

 また、「デスクのレイアウトもハニカム構造になっており、簡単にチームで議論できるようにしている」と虫上COOが説明するように、フロア内は特徴的なレイアウトになっていた。

オフィスの内部。スターウォーズは自動運転とあまり関係なさそうだが……

 なお、オフィスエリアでは、TRI-ADが自動運転の開発に利用しているAreneという統合ソフトウェア開発プラットフォームの存在が紹介された。カフナーCEOによれば「他社のソフトウェアを買ってくるよりもはるかに低コスト」という自社開発したソフトウェア開発プラットフォームとなっており、その上でHMIの開発やシミュレーションなどができるようになっている。

Arene
AreneをHMI開発に利用するシステム

 公開されたのはHMIの開発を行なう様子や、シミュレーターを利用して実際に人間が走らせるデモンストレーション。デモの被験者はマイクロソフトのHoloLens 2を装着し、MR(複合現実)を使って実車に近い環境を用意して開発していることなどが紹介された。

デモの被験者はHoloLens 2を装着
自動運転のシミュレーションの様子

【お詫びと訂正】記事初出時、一部表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。