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日産 西川社長が事業構造改革「NEW NISSAN TRANSFORMATION」について解説

2022年までに全コアモデルを刷新し、20以上の新型車を投入

2019年5月14日 開催

日産自動車株式会社 代表取締役社長 CEO 西川廣人氏

 日産自動車は5月14日、神奈川県横浜市のグローバル本社で2018年度の通期決算説明会を開催。この中で2019年度からの活動としてすでに取り組みを開始している事業構造改革「NEW NISSAN TRANSFORMATION」について、日産自動車 代表取締役社長 CEO 西川廣人氏が解説した。

先進技術領域と不採算事業について「思い切った改革が必要」と西川社長

西川社長が事業構造改革「NEW NISSAN TRANSFORMATION」について解説

 同日に公表した通期業績予想を実現し、厳しい経営環境を立て直す手段となるNEW NISSAN TRANSFORMATIONの柱として、西川社長は「ガバナンス改革」「組織改革」「事業改革」の3つのテーマを紹介。ガバナンス改革では2018年12月に設置した「ガバナンス改善特別委員会」の提言を採り入れ、6月の株主総会を経て日産が指名委員会等設置会社に移行し、独立社外取締役を取締役会の議長に設定することなどを制定。ガバナンス改善特別委員会から提言された32項目を「コーポレートガバナンスガイドライン」に盛り込んでいくという。

 組織改革では5月16日付けで人事刷新を実施。新たにCOO(最高執行責任者)と副COO(副最高執行責任者)を任命して業務運営を強化を図り、グローバル事業でとくに影響の大きい日本、北米、中国といった地域を統括する役員を、日産の最高意思決定機関となる「エグゼクティブ・コミッティ」のメンバーに加えているという。

ガバナンス改革のロードマップ
西川社長のほか、新たに任命されたCOOや副COOなど12人のメンバーで最高意思決定機関「エグゼクティブ・コミッティ」を構成する

 事業改革では、以前に掲げていた中期経営計画「日産パワー88」などでは営業利益率について、米国、日本、中国の3市場で10%、欧州、その他の地域で5%を確保することで、継続的に8%の営業利益率を達成することを目指していた。この目標に向けて2016年度には営業利益率を6.9%まで高め、ここから米国の利益率を改善していけば目標達成に近づけると西川社長は考えていたが、北米市場の収益性が大きく悪化したことから2018年度では営業利益率が3.8%まで低下してしまっている。

 この理由について西川社長は、以前の中期経営計画の後半で販売台数の増加を目的にインセンティブ(販売奨励金)を多用したセールスを実施したあと、全体需要がピークアウトしたことで他社との競争がさらに激化したことから、多額のインセンティブを投じても販売が伸びず、それを補填しようとフリート販売に頼り、結果としてブランドと商品の価値を低下させる悪循環に陥ったと分析した。この状態は販売会社にも悪影響が大きく、この悪循環から脱するためには長い期間が必要だと覚悟していると語った。

 これに加え、日産パワー88では新興国向けの小型車に対する開発・生産を拡大するために大きな投資を行なったが、これが販売につながらず、余剰生産能力と不採算事業が日産にとって大きな負担になっているとの認識を示した。

西川社長は「日産パワー88」で目指した拡大政策が、北米市場での収益性悪化、新興国向けの小型車事業の不採算化が日産の大きな負担になっていると分析

 この改善に向けて西川社長は、今後の成長に向けて「CASE」と呼ばれる技術革新に対応していくことが今後のビジネスでマストの要素になると語って注力していくとした一方で、現状で負担になっている部分については「選択と集中が必要」で「思い切った改革が必要」との方向性を示した。今後の課題としては「米国事業のリカバリー」「事業及び投資効率の適正化」「新商品、新技術、『ニッサン インテリジェント モビリティ』を軸とした着実な成長」の3点に大きく分け、着実成長を目指していくとしている。

 米国事業については新型車の投入が遅れて“車齢”が伸びていることから、商品性ではなくインセンティブで販売を支えていると現状を認識。これは新車開発の投資を拡大政策に向けた新興国向けの小型車投資にふり向けていたことが原因となっており、2019年度以降は遅れていた新車投入がスタートして、“車齢”が改善されることに加えてニッサン インテリジェント モビリティの先進技術を採用したモデルがデビュー。商品性を高めることで小売り販売を伸ばしていく。ただし、戦略としては台数やシェアの面で無理な拡大は目指さず、フリート販売の割合を減らしながらゆるやかな回復で140万台規模をキープしていくとした。

事業改革の向けた3つの主な取り組み
滞っていた新型車投入が戻ってくることで、商品の魅力によって小売り販売を立て直す

 事業の適正化では、効率の低い投資について抜本的な対策を実施。グローバルで生産効率を10%高めていくほか、“外科的手術”とする余剰生産能力の10%縮小を行ない、すでに4800人の人員削減で480億円を初期費用として使用したが、これによって年間300億円のコスト低減を確保していると西川社長は紹介した。

 今後に向けても適正化を進め、日産でラインアップしている車種のうち、採算性の低いモデルについて「10%程度の効率化を図っていきたい」と西川社長はコメント。この選択は採算性だけでなく将来性や戦略性も考慮して行ない、日産ブランドが得意としていないモデルや地域などではアライアンスパートナーであるルノーや三菱自動車工業のモデルに置き換えていく考えを示した。具体的な内容については「合理化の内容と合わせて7月にはもう少し具体的に皆さんにご説明できると考えています」と西川社長は語っている。

2018年度からすでに生産の適正化、西欧市場からの「インフィニティ」ブランドの撤退などを進めている
小型車などの領域ではルノーや三菱自動車工業といったアライアンスパートナーのモデルにスイッチしてラインアップ効率を10%向上させる

「プロパイロット 2.0」搭載の新型「スカイライン」をまもなく発表

新型「スカイライン」に「プロパイロット 2.0」搭載すると語る西川社長

 これから注力していく「成長の源泉」となる商品展開では、2022年度までにラインアップのリニューアルを実施。ニッサン インテリジェント モビリティの先進技術を採用し、グローバルで20以上の新型車を投入していく計画としている。日産が得意領域としている電動化では、「リーフ」などの100%EV(電気自動車)や電動パワートレーン「e-POWER」の採用モデルを拡大し、日本と欧州では販売モデルの半分となる50%を電動モデル化。主要市場である中国でも30%まで拡大し、グローバルで30%を目標にするという。電動化の今後についてはラインアップ拡大に対応するため、フロントとリアに大容量モーターを備えるようなハイパフォーマンス技術の開発が攻勢のポイントになると西川社長は解説した。

 ニッサン インテリジェント モビリティのもう1つのコアとなる自動運転技術「プロパイロット」については、2018年度までに35万台の車両に搭載して販売を行なっているが、さらに技術の進化と搭載車の拡大を続け、2022年度には20車種に採用して20の市場に投入。販売台数100万台を目標として設定する。この実現に向けてさらなる進化を続けており、既報のとおり、ナビゲーションシステムと連動して高速道路の複数車線で運転支援を行ない、「レベル2からレベル3の間に位置する機能」に進化させた「プロパイロット 2.0」を、まもなく発表する新型「スカイライン」に搭載して発表すると西川社長は明らかにした。

 西川社長はニッサン インテリジェント モビリティの今後について、「デモンストレーションではなく、量産車としてお求めいただきやすい形でご提供する仕組みができあがっており、CASEの時代の『技術の日産』のDNAとしてお客さまに認めていただけるよう取り組んでいく」とアピール。ユーザーに価値を認めてもらい、値引きをして無理に買ってもらうようなスタイルから、積極的に選ばれるように販売の質を向上させていくとした。

2022年までにコアモデルをすべて刷新し、20以上の新型車を投入する計画
グローバルでの電動化率を、2018年の4%から2022年に30%まで高めていく
自動運転技術「プロパイロット」の搭載車も2022年に100万台規模にしていく

 これらの取り組みを行なうNEW NISSAN TRANSFORMATIONにより、2022年までの短期間に営業利益率を6%台まで向上させる計画としている。以前の中期経営計画で目指した8%を下まわるものの、新たな内容として電動化比率3割といった目標が盛り込まれ、CASE以降の市場変化に十分対応していける計画だと西川社長は評価する。

 また、西川社長はカルロス・ゴーン前会長が主導した日産パワー88の拡大路線から大幅に方向を修正し、今後はよりサステイナブルな成長路線を目指すという方向性を示している。

2022年度の営業利益率を6%台に設定

ルノーとも経営統合について「今はその議論をする時期ではない」と一致

 最後に西川社長は「想定外の出来事から抜け出し、将来に向けた再スタートを切ったところでございます。まだまだ課題山積ということで、この業績低迷からの脱却というところが最優先課題でございます。正直に言えば、昨年いきなり事件が起きましたので、その後のルノーとの関係なども含めて事業面に集中できなかった期間がございます。現場、あるいは従業員の皆さん、お客さま、お取引先の皆さまに不安を与えてしまい大変申し訳ないと思っております。結果として、直接的、間接的に事業結果にも現われてしまったところがあります。今日ご説明した問題の多くは、以前の体制から受け継いだ『負の遺産』という面が大変多くあります。事案発生以降の動揺の中で、本来すべき施策が遅れてしまったというわれわれの問題もありますが、この変革の時代に問題を一掃して、一刻も早く挽回を進めていきたいと思っております」とコメントし、不安を感じさせてしまった人々に対して改めて謝罪した。

 この上で西川社長は「一方で、NRP(日産リバイバルプラン)の前とは異なり、やるべきことは明確であること、財務体質は健全であるということから、今が底ということで、今後2年、長くても3年いただければ元の日産に戻しますので、ぜひそのお時間をいただきたいということでございます。そのためにも新しいガバナンス、アライアンスのあり方、ルノーとの関係の安定などが必須の条件です」と説明。

 ルノーとの関係について「この件ではスナールさんともトップ同士での信頼関係もありますので、その中で両社のあり方について率直な議論を交わしてまいりましたし、今でも続けております。当然ながら資本関係のあり方もテーマになっていますが、スナールさんの持っている意見と私の意見は違い、相違があることも十分に認識していますが、日産から見た場合、ルノーから見た場合での違いが当然あるのだろうと思います。さまざまな方向性についてオープンに議論していくことが将来に向けて重要なことだと思っております。ただし、スナールさんと一致しておりますのは、『今はその議論をする時期ではない』ということです。まず、日産として業績の回復・安定化に最大限の集中をすべきだし、ぜひそうしてくれということで、この点はスナールさんからフルサポートをいただいているとご報告しておきたいと思います」とコメントしている。

CASEの時代を生き抜いていくため、アライアンスパートナーに加え、さまざまなパートナーとの協力が必要になると西川社長はコメント
「技術の日産」のDNAは健在で、変革の時代を生き抜く力は十分に持っていると西川社長はアピール
日産自動車 2018年度決算発表記者会見(1時間13分11秒)